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カッコイイあの魔法使いが前世のおとうとにそっくりなんですが?!

初めてエルを見た瞬間、リリは思わず声を上げてしまいそうになった。




(こんなところにいたのね)




 リリの通う魔法学校の生徒の中でも、とても目立つエル。 


 綺麗な長い金色の髪。海のように青い瞳。長身ですらっと長い手足。


 同い年の17歳とは思えないほど大人っぽく、そして綺麗で、とにかくカッコイイ人。


 学校の中でもトップクラスの魔力を持ち、普通の魔法使いには扱えない難解呪文も軽々使える。


 


 そんなエルを初めてこの目で見た瞬間、リリは思い出してしまったのだ。


 エルが前世のリリのおとうとだということを。






*****






(嘘みたいに見た目が昔のまんま)




 そんな事実に、驚き固まっているリリの隣で、友人のマナが笑顔で話しかける。




「やっぱりエルくんが今年も優勝したねー、やっぱり凄い」


 


 エルのファンだというマナは、毎年1回行われる魔法大会で今年もエルが絶対に優勝すると、ずいぶん前から騒いでいた。マナが小さい体でぴょんぴょん跳ねたり、腕を回したりしながら、熱くそう語る姿がとても可愛らしくて、リリも笑顔で聞いていたが、まさかそのエルが自分のおとうとだったなんて。




(しかも、名前まで一緒なんて! 見た目も一緒で、名前も一緒って、ここまでくれば絶対間違いなくおとうとだ!)




 リリは感動のあまり目に涙をうかべてしまった。




「あれ? リリ、どうしたの」




 様子がおかしいリリに気がつき、マナが顔を覗きこんでくる。


 リリは少しだけ目をおさえると、何でもないと顔を横に振る。




「何かが目に入っちゃったみたい。イテテ」


「大丈夫?」


「うん。もうとれたみたい」




 次の瞬間、周りからワッと声が上がった。


 試合を終えたエルがリリ達がいる観客席の方へ歩いてくる。


 周りにいる女の子達が色めき立つ。


 エルは思いのほかすたすたとあっという間に歩き去ってしまったが、こちらに歩いてくるエルを見て、リリは背中がゾクゾクとしびれる感覚がした。




(間違いない、エルだ……!)


 




 *****






 リリは魔法学校に通うごくごく普通の17歳の女の子。魔力も普通、見た目も普通、家柄も普通。どこにでもいそうな普通の魔法使い見習いである。


 髪は明るい茶色で、瞳の色も一緒。髪は腰のあたりまで伸ばしている。三つ編みにするのがお気に入り。




 そんなリリは昔から不思議な感覚があった。


 なぜかとっても、『カッコイイ男の人』が気になってしまうのである。




 いやいや、そんなのよくある話ではないだろうか。年頃の女の子がカッコイイ男の子に対して憧れをいだくことにどんな不思議さがある?


 でもリリのカッコイイ男の人が気になる感覚は、ほかの女の子と少しだけ違うようだった。




(恋愛感情というよりは、落ち着く感覚というか、癒されるというか……)




 リリは自分が持つ不思議な感覚に内心頭をかしげていた。


 キャーキャー言いたい感覚とはちょっと違う。でも、カッコイイ人は好き。これはいったいどんな感覚なのだろうかと。


 それが、エルを目にした瞬間、答えがわかったのである。




 これ、家族に対する愛情みたいな感じだったんだ! と。


 どうやらリリはカッコイイ男の人に対して親近感のようなものをもっていたらしい。




 友人のマナは同じくカッコイイ人が好きである。「エルくんめちゃくちゃカッコイイから、絶対見た方がいいよ!」と、猛烈に誘われ、マナがそこまで言うのなら是非行かなければ! と、リリは学校に入学して初めて、年に1回学校主催で行われる魔法大会を見に行くことにした。




 リリのクラスは魔法学校の中では下のクラスで、ほどほどの魔力をもった生徒しかいない。そのため、リリがいるクラスのような下のクラスの生徒は魔法大会へは出場しない。出場するのは、エルがいるような上のクラスの生徒達だ。


 下のクラスと上のクラスは、学校内でも校舎が違っている。下のクラスの生徒と上のクラスの生徒が会う機会は魔法大会と入学式と卒業式くらいしかない。


  


 リリも入学当初から大会を見に行きたいと思っていたのだが、この時期は魔法大会を見に街に観光客が集まるため、リリは魔法学校の近くで家族が経営しているお店の手伝いに毎年駆り出されてしまうのだ。そのため今年まで1度も大会を見たことがなかった。




(お父さん、お母さん、今年は無理言ってごめんなさい。でも、来てよかった!)




 リリは沢山のお客様の接客でワタワタしているであろう家族にあやまりつつも、エルに会えた奇跡に感謝するのであった。




 とはいうものの、エルが前世のおとうとだとわかっても、魔法大会のあとリリの日常は何も変わらなかった。




 本当だったら、会いに行って「優勝おめでとう! がんばったね! さすが私のおとうとだよ~!」みたいに褒めちぎりたいところだが、下のクラスの生徒と上のクラスの生徒が会える確率はほぼない。


 おまけに、エルがリリを前世の家族と認識できるかは謎である。


 いきなり「おとうとよー!」と言って会いに行っても、エル的には「なにこの人、コワッ!」である。




「せっかく思い出せたのに……。せつないですね」




 リリは人気のない校舎裏のベンチに腰かけながらため息をついた。


 お昼休み、リリは毎日このベンチで1人で休憩している。




「でもまさか、エルの顔を見た瞬間、前世の記憶がよみがえるとはびっくりです」




 不思議なこともあるんですねぇ、とリリはぼんやり空を見上げる。


 


 エルを見た瞬間思い出されたのは、前世と思われる自分と、おとうとのエルのこと。歳は今と同じくらい。やはり魔法使いだったようで、魔法を習っていた。


 今と違うのは学校に通っていたわけではなく、魔法使いの師匠に弟子入りしていたことだ。




「師匠も……、とてつもなくカッコイイ人でしたね。麗しいというか美形というか、でも男らしいというか、大人の男性って感じで」




 びっくりしたのは思い出した前世のリリの周りにいた男の人がみんなカッコイイ人ばかりだったことだ。これはカッコイイ男の人に親近感がわくはずだと、リリは1人納得するのであった。




「師匠もどこかにいるのでしょうか、会いたいな」




 実のところ、前世の事はおとうとのことと師匠のことくらいしか思い出せないでいた。それでも、突然前世の記憶を思い出すなんてリリにとってはあまりにもびっくりな出来事だったので、一部の記憶だとしても、ある意味キャパオーバー気味であった。




「たまに、前世の記憶があるって人の話を聞いたことあったけど、みんなこんな感じなのでしょうか」 




 リリは空を見上げながら目を閉じる。


 校舎裏には沢山の木があり、木の葉が揺れる音や鳥のさえずりが聞こえてくる。




(とりあえず、考えても答えが出ないことは考えない)




 心地よい風を感じつつ、深呼吸をして気持ちを切り替える。よしっ、と小さく言うと、リリは持参したお弁当を開けた。中には大好きなオムライスが入っている。とろとろなタマゴを多めにスプーンにのせ一口食べる。




「ふふ、今日も美味しく作れました。幸せっ」




 自分の作ったオムライスの味に満足し、笑顔になるリリ。もう一口食べようとしたところで、頭に何かがあたった。




「いたっ」




 突然の事にびっくりして、何が起きたんだと周りをきょろきょろ見渡すとベンチの上にある見慣れない指輪が目に入る。




「指輪? 私のじゃない。……これがあたったの?」




 空を見上げてみる。落ちてきたのかしら? と首をかしげていると、目の前の木々の隙間から人がひょっこりあわられた。


 


(え!)




 どんどん近づいてくるその人を見て、リリの心は張り裂けそうなほどドキドキしてしまった。長い金色の髪をなびかせながら優雅に歩いてくる、長身で、ともてもカッコイイ人。




(な、なんで、エルがここに!)




 ベンチに座っているリリの目の前にまで歩いてくるエル。




「お食事中に失礼。この辺りに指輪が落ちてきませんでしかた?」




 いきなりエルに話しかけられ、内心パニックになるリリ。でもどうにかして気を取り直し、さきほど見つけた指輪を手にとった。




「あの、こちらでは……」




 リリがそう言ってエルに指輪を見せると、エルは嬉しそうに微笑んだ。




「ああ、これです。ありがとうございます」




(ふあぁ、エルが目の前にいます。しかも笑ってます)




 リリは内心ひゃ~っという感じだったが、なんとか顔に出さないように、ほどほどに微笑んだ。




「持ち主が見つかってよかったです。いきなり頭に落ちてきたのでびっくりしました」




 リリがそう言ってエルに指輪をわたすと、笑顔だったエルの顔つきが変わった。




「頭に? もしかして頭にあたってしまいましたか」


「あ、いえ。びっくりはしましたけど、そんなに痛くもなかったですし」


「それは……。本当に申し訳ありませんでした」




 エルがそう言って頭を下げたのでリリはびっくりしてしまった。




「い、いえ。大丈夫なので! 本当に大丈夫なんです」


「お食事中に、本当に申し訳ありませんでした」


「いえいえ! そんな、頭を上げてください」




 リリが先ほど以上にパニックになってそう言うと、エルがゆっくりと頭を上げた。




「本当に申し訳ない。浮遊の呪文で指輪を浮かせて……その、遊んでいたら、突然猫がじゃれついてきて」


「猫さんが?」


「はい。ちょろちょろ動いていて面白かったのでしょう。俺も突然猫がきたのでびっくりしてしまって、思わず力加減をあやまって、遠くへ飛ばしてしまったようで」




 申し訳ありませんでした。と、エルはもう一度頭を下げた。




「そうでしたか。でも大丈夫ですよ、怪我もないですし、気にしないでください」




 エルは頭を上げると、申し訳なさそうな表情でありがとうございますとつぶやいた。




「それより! 魔法大会優勝おめでとうございます! とてもかっこよかったです!」




 リリはなんとかこの空気を変えるべく、せっかくエルが目の前にいるのだしと、大会のお祝いをエルに伝えた。


 エルは突然の言葉に少しぽかんとしたあと、優しく微笑んだ。




「ありがとうございます」


「本当、さすが私のおとうとって感じでした!」


「……おとうと?」




(え……)




 リリは今自分が言ってしまった言葉を思い出し、全身が凍り付いた。




(どうしよう……、おとうとって言ってしまいました!)




「あの、おとうとって」


「いや、あの、その……、えーと、あの」




 どうしよう、フォローしなきゃとあわあわするリリだったが、パニックになりすぎて何を言っていいか思いつかない。とりあえず何か言おうと口をひらく。




「え、えと。私の前世のおとうとにエルくんがそっくりでして、その。エルっておとうとがいて、師匠もいて」




(って、私前世とか言ってしまったです! どうしよう!)




 リリはもうパニックになりすぎて、なんだかよくわからなくなってしまった。


 落ち着こうとしてもここまでくるともう落ち着くどころではない。


 そんなパニックのリリの肩にエルがそっと手をそえる。


 


「君は……」


「わっ、ごめんなさい。変な事ばかり言って」


「君は……、もしかして」


「はっはい、ごめんなさい!」




 エルはリリの顔を見つめると表情を変える。




「リリ……。君はまさかリリなの?」


「はい! 私はリリです!」


「えっ! リリ!」


「えっ! ぎゃぁ!」




 エルが突然リリを抱きしめた。リリは予想外の事にパニックは頂点へ。




「リリ、まさかこんなところであえるなんて……」




 リリはなんでエルが自分の事を知っているのか不思議に思った。そしてなんで抱きしめられているのだろうか。


 しばらくして、我に返ったリリは抱きしめているエルの胸を両手で押し返した。




「あ、あの! なんで私の事を知っているのですが? どこかでお会いしましたか?」


「どこかって、今リリが言ったでしょう? 前世で俺がおとうとだったって」


「え、ええ、はい、言いましたけど」


「だから君はリリでしょ?」




 満面の笑みでエルにそう言われても意味が分からないリリ。




「なんでそうなるんです?」


「だって前世で君はリリだっただろ」




(え、前世でリリ?)




 リリはまだパニックな頭で今言われた言葉を考えてみた。前世でリリ。前世でリリってことは。




「もしかして私、前世でもリリって名前だったのでしょうか?」


「え、リリは今もリリって名前なの?」


「はい、そうです」


「それは凄いね」


「エルも、今もエルですよね?」


「うん、俺も今もエルだよ」




 んーー。とリリは考え込んでしまった。




(なんだかややこしいことになっていますね。二人とも前世と今で名前が一緒だなんて。でも、そういえば)




「そういえば、前世のおとうとも私の事リリって呼んでいたかも」


「うん!それ俺だよリリ」


「ほ、本当に?」


「本当だよ! まさかリリに会える日がくるなんて! 最高だよ!」




 そう言ってまたリリをぎゅうぎゅう抱きしめるエル。




「ちょっ、エル、くるしぃ」


「リリだー! 凄い!」




 その後、お昼休み終了の鐘が鳴るまで、ぎゅっと抱きしめ続けられるリリだった。






*****






「あの、授業はいいのでしょうか?」


「いいよ。授業よりリリに会えたことの方が重要」




 鐘の音が鳴って、とりあえず自由の身になったリリだったが、結局そのままエルとリリはベンチに座ったままだった。


 しかもリリはエルの膝の上に座らせられていた。




「エル? なんでお膝に」


「昔もこうしていたよね、懐かしいな」




 どうしてこうなったのだろう。リリは頭を抱えたくなった。




(でも、せっかくだし)




 リリはこの時間を使って、エルにいろいろ質問してみることにした。




「エルは、その。前世のことどれくらい覚えていますか?」


「どうだろう、……俺はさっき思い出したばかりだし。リリは?」


「私?」


「うん。リリはいつどうやって思い出したのかな?」


「私は……」




 リリは魔法大会でエルを初めて見て思い出したことや、ほかには師匠の事を覚えていると話した。




「師匠か……。確かにいましたね師匠」


「すごくカッコイイ人でしたね」




 師匠を思い出して微笑んでいると、エルに顔を覗きこまれる。




「師匠と俺、どっちがカッコイイ?」


「え?」




 エルは眉間にシワをよせながらリリに質問する。




「それは……」


「それは?」




 エルの勢いにびっくりするも、やわらかく微笑んでリリは答えた。




「やっぱりエルですね。可愛いおとうとですし」


「……可愛いはよけいかな。でも、嬉しい」




 ありがとうとエルがつぶやくと、リリの頬にキスをした。




「え、ちょっとエル! 何をして」


「キスですけど?」


「き、きすって。まだ初対面なのに」


「何を言っているの。俺たちずっと昔から家族じゃないか」




 エルはそう言うと、今度はリリのおでこにキスをした。




「エルっ!」


「はは、顔が真っ赤。可愛い」




(も~、エルに遊ばれてる!)




 リリは真っ赤な顔を手で隠した。




「リリは修行中の頃の事しか思い出してないのか」




 エルがそう言うと、膝の上からリリを下ろし、お互いにベンチに座り直した。


 そうすることでリリも少しは気持ちが落ち着いた。




「エルは修行後も覚えているのですか?」


「そうだね、俺はどっちかというと大人になってからの記憶の方が濃いかな。でも、子供の頃の記憶もあるよ」


「すごい。私は今の私たちと同い年くらいの頃のことしか思い出せなくて」


「ねぇ、リリ?」




 エルはリリの両手をつかむと、優しく微笑む。




「前世も俺たちは同い年なんだよ」


「え、そうだったのですか?」


「そうなんです」




 エルはそう言い、リリの手を放すと立ち上がる。




「なんで同い年か。そこをもう少し考えてみて」


「なんで同い年か?」




 エルはリリを見て微笑むと、先ほどやってきた方向へ歩きだしてしまった。




「え、ちょっと、エル」


「明日もお昼にここへ来るよ。答えあわせはまた明日」




 そう言って、エルは木々の中へ消えていってしまった。




「……エル、同い年」




 リリは言われたことを考えてみた。なぜ2人が前世でも同い年なのか。




「え、まさか双子?」






*****






(ここでリリに会えるなんて、俺たちは魂のつながりが強いのか)




 エルは顔がにやけてしまうのをどう止めたらよいのかわからなかった。


 愛しい愛しいリリにまた会えるなんて。




「見つけたからには、絶対に離してあげられないな」




 リリは今の歳くらいのことしか覚えていないと言っていたが、エルはその後の事もしっかり覚えている。




(リリはおとうとって言ってたけど、俺たちは実の姉弟じゃない。俺がリリの弟弟子ってだけ)




 エルは前世の修行時代を思い出してやはりニヤニヤ笑ってしまった。




「師匠に、娘さんをくださいって言った時は本当にヒヤヒヤしたな」




 エルはそのやりとりを思い出し苦笑いしてしまう。




(師匠の事、カッコイイ人って言ってたけど、師匠はリリの実の父親だもんな。それは思い出してないんだな。それにしても……)




 エルは先ほどリリと出会った方へ目をやる。まさか同じ魔法学校にリリがいるなんて。




「また会えて嬉しいよリリ。また一緒に暮らしたいね、俺の愛しい奥さん」




 エルはこれからの愛しい人との生活に思いをはせて、また笑顔になってしまうのであった。



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