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第五話:王城の闇と、重なり合う悪意

 王城への道は、先ほどの戦場の熱気とは打って変わり、重苦しい静寂に包まれていた。


 セレスティーナは不安げな表情で俺を見上げ、フローラは沈思黙考している。


 そして、エミリアは、自身の告発がどれほどの波紋を呼ぶのか、その重みを噛み締めているようだった。


 王城の会議室は、白い大理石で作られ、豪華なシャンデリアが吊るされている。いつもは華々しい場所なのだろうが、今の会議室を支配しているのは厳かな雰囲気だった。


 円卓には、老年の宰相、屈強な将軍、そして数人の高位貴族たちがすでに着席していた。


 彼らは、俺、セレスティーナ、フローラ、そしてエミリアの姿を見て、それぞれの顔に戸惑いや警戒の色を浮かべた。特にエミリアを見たときの彼らの表情は、一様に硬い。


 セレスティーナが口火を切った。


「皆さま、ご紹介いたします。こちらの方が、異世界より召喚された偉大なる王子……いえ、英雄様です。そして、魔神王ヴァルファスの侵攻を防ぐため、ご協力をいただけることになりました」


「なんと……! それがしは、騎士団長バルド。英雄様……いえ、武勇溢れる『勇者様』とお見受けいたしますが、いささか若すぎでは……?」


 ゴツイ顔をして口ひげをたくわえた、いかにも軍人って感じの将軍が訝しげな視線を向ける。その反応は想定内だ。そこで、フローラがすかさず口を開いた。


「バルド将軍。勇者様の力は、このフローラが保証いたします。彼の力こそ、今、この国に必要なものです」


「聖女フローラ様……! あなたまでもが勇者と称えるのであれば……それがしにもはや反論の余地はありませぬ」


 聖女の言葉は重い。将軍は納得したという様子で頷いた。顔は大岩のようだが、その内は柔軟な武人なのかもしれない。


 次に、宰相が俺に視線を向けた。バルド将軍とは正反対のいかにも『わたしは悪事を働いておりますよ~』という、ヴィラン的な顔つきだ。エミリアの言った通り、こいつが『当たり』だろうな。


「英雄殿。聖女フローラ様がおっしゃる通り、貴殿のお力に期待しております。しかし、魔神王の脅威は目前に迫っております。まずは、その対策を……」


「その前に、お話させていただきたいことがございます、宰相殿」


 俺は宰相の言葉を遮り、懐からエミリアが持っていた羊皮紙を取り出した。


「この羊皮紙は、学園長と魔神王の間に交わされた契約書。そして、王国資金の横領やもろもろの不正に関する証拠です。エミリア嬢が、命がけで手に入れたものだ」


 会議室に、沈黙が落ちる。貴族たちの顔から血の気が引き、宰相の顔色は見る見るうちに青ざめていった。


「な、何を馬鹿なことを……! そのような証拠、作り物でしょう!」


 宰相は声を荒げたが、その視線は泳いでいた。俺は【神の恩寵:全知全能】で、宰相の心臓の鼓動が早まっているのを感じ取っていた。


「残念ながら、これは本物だ。そして、エミリア嬢を追放したのも、この不正を知っていたからでしょう?」


 俺がそう言い放つと、宰相は椅子からガタッと立ち上がり、エミリアを指差した。


「この女は、嘘つきです! 魔神王の策略にハマっているに違いありません! 英雄殿、貴方はこの女の言葉に惑わされている!」


「いや、惑わされているのは貴方たちの方だ、宰相殿」


 俺は冷ややかに言い放った。そして、部屋の隅に控えていた衛兵たちに視線を向けた。


「その学園長と、あなた、そしてここにいる一部の貴族たち……彼らが繋がっている。この契約書は、その決定的な証拠だ。そして、一番権力を持っているあなたが、このつながりの中心だ。反論できますか、宰相?」


 衛兵たちは戸惑っていたが、セレスティーナが厳かに命じた。


「英雄様のおっしゃる通りに。不正を働く者は、決して許しません。王女セレスティーナが命じます! 英雄様が名を呼んだすべての者を即刻拘束し、徹底的に調査しなさい!」


 王女の言葉に、衛兵たちはようやく動き出した。宰相は観念したように崩れ落ち、他の貴族たちも顔面蒼白で震え上がった。


 エミリアは、信じられないものを見るかのように俺を見つめていた。彼女は、まさか自分がこんな形で汚名を返上し、さらに王国の闇を暴くことになるとは思っていなかっただろう。


「あ、あなた様……」


「これで、あなたの汚名も返上だ、エミリア嬢。そして、この国の内側にある膿も、少しは出すことができただろう」


 俺はエミリアに優しく微笑んだ。これで、ハーレム要素とざまぁ要素が、見事に融合した形になった。彼女は、単なる悪役令嬢ではなく、この国の改革に必要な存在となったのだ。


 だが、この「全部盛り」の世界は、これで終わりではない。


「勇者様……」


 フローラが俺に近づいてきた。彼女の表情は真剣そのものだった。


「……先ほど、私が貴方に話した『召喚』の件ですが、実は…この国の聖女である私には、貴方を召喚した記憶がありません。貴方の存在は、私にとっても想定外なのです」


 フローラの言葉に、俺は眉をひそめた。俺は『召喚』された存在ではない? じゃあ、なぜこの世界に? まさか、今の日本はトラックに轢かれると自動的に異世界に行くようになってしまったのか?


「そして、魔神王ヴァルファスですが……彼の存在は、この世界に古くから伝わる『終焉の予言』に記されています。彼は、単なる魔王ではなく、世界の理そのものを破壊しようとしている存在なのです」


「終焉の予言……?」


「ええ。そして、その予言には、魔神王が世界を滅ぼす前に、必ず現れる『もう一つの災厄』についても記されています……それは、世界を裏側から腐敗させる『七つの大罪』を司る存在です」


 フローラはそう言うと、会議室の窓の外、夕焼けに染まる王都の空を指差した。その空には、微かにだが、七色の不吉な光が瞬いているのが見えた。


「学園長や宰相の不正も、その『七つの大罪』の兆候かもしれません。この世界は……この国は、外からの脅威だけでなく、内からも蝕まれているのです」


 なるほどな。魔神王の侵攻、国の上層部の腐敗、ざまぁ悪役令嬢の敵役ども、そして聖女も知らない勇者召喚。さらに「七つの大罪」ときたか。この世界は、本当に容赦なく「全部盛り」だ。だが、それこそが、俺のチート能力を輝かせる舞台。


 俺は静かに、しかし確かな目でフローラを見据えた。


「いいでしょう、フローラ様。その『七つの大罪』とやらも、俺が必ず滅してみせましょう。この世界を、俺たちの世界を守るために(正確には、すべてを解決して英雄かつハーレムライフを送るために)」


 俺の言葉に、フローラはわずかに表情を緩めた。セレスティーナは、俺に信頼しきったような眼差しを向けている。そして、エミリアは、新しい未来を見据えるかのように、力強く頷いていた。その後ろには、目をハートマークにしたセレスティーナがいる。


「全部盛り」の悪意が重なり合うこの世界で、次の試練は、一体何が来るのか。俺は必ず打ち破ってみせる! この世界とみんなのため、そしてハーレムライフのために!

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