第三十一話:新たな日常と、広がる世界の可能性
「無」の存在を打ち破り、世界樹の危機を救ってから数週間。
王都は、再び平穏を取り戻していた。俺の活躍は、グラディオラス王国にも伝わり、両国の関係はかつてないほど強固なものとなった。
そして、国王陛下の正式な発表により、俺とセレスティーナ、エミリア、フローラの三人が夫婦となったことは、国民の間でも広く受け入れられた。
俺たちの屋敷は、これまで以上に賑やかになった。
朝は、セレスティーナの元気な声で目覚め、エミリアが淹れてくれる香りの良いお茶を飲み、フローラの優しい笑顔に癒される。
夜は、それぞれの愛しい妻たちと、時に甘く、時に激しい逢瀬を重ねる。
日本で「ろくでなし」だった俺が、こんなにも満たされた日々を送れるとは、夢にも思わなかった。
「あなた様、今朝の紅茶はいかがですか?」
エミリアが、完璧なタイミングで紅茶を差し出してくれた。その所作の一つ一つが美しく、まるで舞踊のようだ。
「ああ、いつも完璧だよ、ありがとう、エミリア」
俺がそう言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「王子様、このあと私と庭園の散歩をいたしませんか? あたらしい花が咲いたんです!」
セレスティーナが、無邪気に俺の腕に抱きついてくる。その瞳は、朝露のようにキラキラと輝いている。
「勇者様のお心が安らぎますよう……」
フローラが、俺の隣に座り、そっと俺の手に触れた。その聖なる温もりが、俺の心を穏やかにしてくれる。
俺は、彼女たちの愛おしい表情を順に見渡し、幸福感に浸った。
(これで、本当に全てが手に入ったんだな……)
しかし、俺の心の中には、ある疑問が芽生えていた。
(この「全部盛り」の世界は、俺に試練を与え続ける。だが、同時に、無限の可能性も秘めている。魔王や「無」の存在を打ち倒した今、俺のチート能力は、この世界で他に何ができるんだろう?)
俺は【無限の図書館】を広げた。世界を救った今、俺の能力は、さらなる進化を遂げているはずだ。
【神の恩寵:全知全能】は、この世界の過去、現在、そして未来にわたるあらゆる事象を網羅し始めていた。政治、経済、文化、地理、科学、歴史……ありとあらゆる情報が、俺の脳内に流れ込んでくる。
【無尽蔵の創造】は、もはや物質だけでなく、概念や現象そのものを創造する領域に達していた。
【理の再構築:修正】は、世界の歪みを一時的に修正するだけでなく、その歪みを根本から変質させ、新たな「理」を創造することも可能になっていた。
(これだけの力があれば……この世界を……俺に生きる意味と、愛する人たちを与えてくれた世界を、さらに良くできるんじゃないか?)
例えば、不作に苦しむ土地があれば、【生命の創造:豊穣】で豊かな大地に変え、さらに【理の再構築:修正】で、その土地の気候そのものを永続的に最適なものに変えられる。疫病が流行れば、【心の浄化:無垢】や【理性の回復:鎮静】を応用して、病原そのものを消滅させ、人々の健康を根本から改善できる。
あるいは、国境紛争が絶えない場所があれば、【絶対支配:服従】で関係国の指導者たちを一時的に制御し、【神の恩寵:全知全能】で最適な解決策を見出し、永続的な平和条約を創造することもできるかもしれない。
俺の思考は、無限に広がっていった。これまでの俺は、ひたすら「敵を倒す」ことだけに力を注いできた。だが、魔神王も「無」の存在もいなくなった今、俺の力は、この世界を「より良い場所」へと導くために使えるのだ。
その時、コンコン、と扉がノックされた。バルド将軍だった。
「勇者殿! 陛下がお呼びでございます」
俺は、頭を切り替えた。新たな日常が始まったとはいえ、俺の役目はまだ終わっていない。この「全部盛り」の世界で、俺はこれから、何を成し遂げていくべきなのか。
俺は、愛する妻たちに優しく微笑みかけた。
「みんな、少し行ってくる」
セレスティーナ、エミリア、フローラは、それぞれのやり方で俺を見送った。




