第二十七話:世界を蝕む異変と『理』
戦いが始まった。
バルド将軍が、兵士たちに指示を飛ばす。兵士たちは俺の【軍勢強化:神域】の恩恵で勇敢に立ち向かうが、この異形の魔物たちは、これまでの「七つの大罪」の眷属とは比べ物にならないほどの生命力と、予測不能な攻撃を繰り出してきた。
俺は【覇王の眼】を凝らした。湧き出る異形の魔物たちの共通点、そしてその奥に潜む、ひときわ強大な魔力の源を探る。
すると、俺の脳内に直接、その情報が流れ込んできた。
「これは……世界の『理』を歪める存在……過去の魔神王とは、根源が異なるもの……」
ヴァルファスは、この世界の既存の『理』の中で、その力を増幅させていた。だが、目の前の存在は、世界の根源たる『理』そのものを破壊し、変質させているのだ。
(俺のこれまでのチート能力では、対処しきれない……!)
俺の脳裏に、新たなチート能力が次々と閃いた。
この「全部盛り」の世界は、俺の想像を超える危機をもたらす。ならば、俺もまた、その「全部盛り」を上回る力で応えるしかない。
「【理の再構築:修正】!」
俺がそう念じると、世界樹から噴き出す黒い瘴気と、大地を蝕む歪みが、僅かに収束し始めた。
この能力は、世界の『理』に介入し、その歪みを一時的に修正する力だ。
しかし、根本的な解決にはならない。
その時、異形の魔物たちが、まるで意思を持つかのように一斉にこちらに向かって殺到してきた。その数は無限としか思えないほどだ。
「させない!」
セレスティーナが、白銀の剣を構え、俺の前に躍り出た。彼女の剣技は、俺の【軍勢強化:神域】によって聖騎士の域に達している。次々と迫る魔物を切り裂き、その進撃を阻む。
エミリアが、素早く周囲の状況を把握し、バルド将軍に指示を出す。
「将軍! 左翼は魔物が優勢ですわ! 【炎の矢】で援護なさい!」
「承った! 魔物ども、いざ尋常にぃ……勝負っ!」
バルド将軍は、作戦参謀として戦列に加わっているエミリアの指示に従い、即座に兵士たちを動かす。将軍自身も、人の背丈ほどもある大槍をまるで子どもの枝遊びのように軽々と振り回し、魔物たちを粉砕していく。彼らの連携は完璧だった。
しかし、魔物の数は減るどころか、大地から次々と湧き出てくる。
「くそっ……キリがない!」
俺は、焦燥感に駆られた。このままでは、兵士たちが消耗していく。こちらは最強だが、あちらは無限。どちらに軍配が上がるかは、明白だ……!
(待てよ? この魔物たちは、世界の理が歪んだことで生まれた存在。ならば……)
俺の脳裏に、新たな能力が覚醒する。
「【存在の根源:分解】!」
俺がその能力を異形の魔物に向けて放つと、魔物の体が塵のように崩れ去り、完全に消滅した。
それは、単なる消滅ではなく、その存在を構成する根源そのものを分解する力だ。つまり、それは『存在』であるがゆえに消えてなくなる。肉体や精神ではない、相手が存在するという『理』を消し去るのだ。
これにより、再生も、新たな湧き出しも不可能になる。
しかし、膨大な数の魔物を全て分解するには、魔力が追いつかない。なにしろ、俺はひとりしかいないし、俺の術は俺にしか使えないのだから。
(もっと……もっと効率的な方法がいる……!)
その瞬間、世界樹から、さらに悲鳴のような波動が放たれた。瘴気が増幅し、大地がより深く裂けていく。その振動は、靴を突き抜け、俺たちの内臓を震わせるような、おぞましい揺れだった。
「勇者様! 世界樹の痛みが、悲しみが……私にも伝わってきます……! この樹は、苦しんでいるのです……!」
フローラが、苦悶の表情で俺を見上げる。
俺は、その世界樹の悲鳴に、呼応するように新たなチート能力を覚醒させる。
「【生命の導管:吸収】!」
俺の身体が、世界樹から放出される生命力を吸収し始めた。
(世界樹、すまない! 一時だけ、お前の力を貸してくれ!)
それは、枯れゆく世界樹と、その周辺の大地や森の生命力の一部を、俺が一時的に取り込むことで、俺の魔力として変換する能力だった。
これにより、俺の魔力は無尽蔵となり、【存在の根源:分解】を連発できるようになった。
俺は、次々と湧き出る異形の魔物たちを【存在の根源:分解】で消滅させていく。
空間が歪み、魔物が現れる度に、俺の能力がそれを消し去る。その光景は、まるで俺が世界の理を書き換えているかのようだった。
「すごい……王子様……!」
セレスティーナが、感嘆の声を上げた。
エミリアも、その光景に目を見開いていた。
「これほどの能力を……まだ隠しておられたとは……!」
フローラは、俺の姿を見て、静かに祈りを捧げた。その瞳には、深い信頼が宿っている。
(ありがとう、みんな。でもこれは俺一人の力じゃない! みんなの、将軍たちの、そして世界樹の力だ!)
俺は【覇王の眼】を再び凝らした。
世界樹の根が枯れる原因、そして大地が裂ける原因…その全てが、遥か地下深くにある、巨大な「何か」によって引き起こされていることを突き止めた。
「どうやら……この危機の本質は、魔物ではないようだな」
俺は、セレスティーナ、エミリア、フローラ、そしてバルド将軍にそう告げた。
「あの異変の根源は、この地下深くにある。俺が単独で潜入し、その根源を断つ。その間、君たちは、ここで湧き出す魔物たちを食い止めてくれ」
俺の言葉に、セレスティーナが不安げな顔をする。
「王子様……おひとりでなんて……」
「大丈夫だ。俺はまた、新しい力を身に着けた。けれど、背後を守ってもらわなければ俺は戦えない。頼む、俺を、守ってくれ。」
俺は、彼女たちの顔を順に見つめた。そこには、俺への信頼と、決意が宿っていた。
「勇者様…… 貴方を信じます」
フローラが、俺に力強い眼差しを向けた。
「おまかせください! 必ず、王子様の背中を守ります!」
セレスティーナが、剣を強く握りしめた。
エミリアは、静かに頷いた。
「ご武運を、あなた様」
俺は、深く裂けた大地へと飛び込んだ。
地下へと続くその裂け目は、底の見えない闇を湛えていた。この「全部盛り」の世界は、俺にまだまだ終わりを見せてくれない。
だが、俺はもう、孤独ではない。愛する者たちと、信頼できる仲間たちが、地上で俺の帰りを待っている。
俺は、更なる深淵へと足を踏み入れた。
(つづく)




