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第二十六話:世界樹の悲鳴

 国王陛下への告白、そして突然の伝令兵の報告。


 俺の「全部盛り」の異世界生活は、新たな局面を迎えた。王都を揺るがすほどの規模で隣国に現れたという新たな危機。


 それは、魔神王ヴァルファス討伐で終わりだと思っていた俺の甘い考えを、根底から覆すものだった。


 俺は、国王陛下に頭を下げた。


「陛下。この新たなる危機、私に討伐をお命じください」


 国王陛下は、安堵したように息を吐き、そして力強く頷いた。


「うむ! 勇者殿ならば、必ずやこの未曾有の危機をも乗り越えてくれるだろう! 頼んだぞ、勇者殿!」


 宰相とバルド将軍も、俺の決断を支持してくれた。


 そして、国王陛下は、俺が先ほど申し出た「三人を妻として娶りたい」という願いについても、深く考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「勇者殿の功績は、この国の法を越えるものと判断する。それに、これほどの危機に立ち向かおうとする勇者殿が望むのならば……セレスティーナ、エミリア嬢、聖女フローラ。この三人を、貴殿の妻として認めよう!」


 国王陛下の言葉に、三人が顔を輝かせた。セレスティーナは感激で瞳を潤ませ、エミリアは喜びを噛み締めるように静かに微笑み、フローラは慈愛に満ちた眼差しで俺を見つめた。


「ただし、このことは、すぐに国民に公表するわけにはいかぬ。まずは、この新たな危機を乗り越え、平和を完全に確立してから、改めて大々的に公表しよう。良いな?」


 国王陛下はそう告げ、俺は深く頷いた。


 これで、俺と彼女たちとの愛は、公にも認められることになる。この「全部盛り」の世界は、本当に俺に自己肯定感と生きる喜びを与えてくれる。




 翌朝、俺は王都軍の精鋭を率いて、隣国グラディオラス王国へ向かう準備を整えていた。セレスティーナ、エミリア、フローラも、当然のように俺の隣に立つ。


「王子様、今度はどのような敵が現れるのでしょうか……」


 セレスティーナが、少し不安げな表情で尋ねる。


「『世界樹の根が枯れ始めている』……その報せが、最も気になりますわ」


 エミリアが、冷静に分析する。


 フローラは、静かに祈るように目を閉じていた。


「世界の根源に関わるような危機……何かが、この世界の『理』を侵しているのかもしれません」


 俺は【無限の図書館】で、この『世界樹』について調べていた。


『世界樹とは、この世界の生命の源であり、魔法の根源でもある存在。その根が枯れるということは、世界の生命力そのものが危機に瀕していることを意味する。そして、その原因となるのは……』


 書物の記述は、そこで途切れていた。しかし、【無限の図書館】でも調べきれないのだ。


 これまでの「七つの大罪」の比ではない、世界にかかわる根源的な脅威であることは間違いない。


「今回の敵は、これまでの魔王たちとは違う。世界そのものを蝕むような存在だ。……どうか、死なないでくれ」


 俺の言葉に、三人は固唾を飲んだ。


 王都の広場では、バルド将軍が兵士たちに訓示を与えていた。俺の【軍勢強化:神域】を受けた兵士たちの士気は高く、彼らの瞳には、恐怖よりも使命感が宿っている。


「勇者様! 準備万端にございます!」


 将軍が、力強く報告する。


 俺は、王都の人々を見渡した。彼らは、俺たちに声援を送り、この新たな危機が去ることを祈っている。その希望に応えるのが、俺の役目だ。


「よし、全軍、出撃!」


 俺の号令と共に、王都軍はグラディオラス王国へと向けて行進を開始した。




 *****




 数日後、俺たちはグラディオラス王国との国境付近に到達した。しかし、そこで目にした光景は、俺たちの想像を遥かに超えるものだった。


 大地は深く裂け、そこから黒い瘴気が噴き出している。


 空は常に暗雲に覆われ、魔力によって歪んでいた。


 そして、かつてはこの世界の空を支えるほどの輝きに満ちていたであろう世界樹は、その雄大な姿が、まるで枯れ木のように変わり果てていた。葉は落ち、幹はひび割れ、完全に生命の輝きを失っている。


「こんな……! 命の支えといわれている樹が、どうしてこんなことに……?」


 セレスティーナが、あまりの惨状に息を呑んだ。


「こんなことが、こんなことが本当に……?」


 エミリアの顔にも、焦りの色が浮かんでいる。


 フローラは、その場に膝をつき、世界樹に向けて祈りを捧げた。その聖なる光が、枯れた大地に届くことはなかった。


「なんと哀れな姿に……」


 バルド将軍も、目の前の光景に絶句している。


 そして、大地が裂けた場所から、おびただしい数の魔物が溢れ出ていた。


 それらは、これまでの魔物とは明らかに異なる、異質な存在だった。肉体が歪み、混沌とした魔力を放つ、見るからに邪悪な存在。


【覇王の眼】が、その魔物たちの奥に、ひときわ強大な魔力を捉えた。それは、ヴァルファスとは異なる、しかし、同等か、あるいはそれ以上の深淵なる存在感。


「あれが……新たな敵か……」


 俺は、目の前の惨状と、迫りくる魔物の群れを見つめた。世界樹の悲鳴が、俺の心に直接響いてくるかのようだった。


 この世界は幸せと同等か、それ以上に俺に試練を与え続ける。しかし、俺はもう一人ではない。愛する妻たちと、信頼できる仲間たちがいる。そして、俺には、さらなるチート能力がある。


 俺は、剣を抜き放った。


「みんな……行くぞ!」


 俺の言葉に、セレスティーナ、エミリア、フローラは力強く頷いた。そして、俺たちは、目の前の魔物の群れへと、飛び込んでいった。


(つづく)

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