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第二十一話:真なる脅威と、全部盛り世界の逆転策

 セレスティーナ、エミリア、フローラとの涙の告白を経て、俺の心は完全に満たされた。アスモデウスが残した疑念は、彼女たちの揺るぎない愛によって打ち消された。俺は、この世界で、このかけがえのない彼女たちと共に生きる。その決意を胸に、いよいよ最終決戦へと向かう準備を始めた。


 執務室に戻り、俺は再び【無限の図書館】を広げた。七つの大罪は全て討伐済み。残るはただ一人、この世界の真の脅威である魔神王ヴァルファスのみだ。


 ヴァルファスの項目に意識を集中すると、これまで見てきたどの情報よりも、恐ろしく、そして絶望的な記述が浮かび上がった。


「魔神王ヴァルファスは、古よりこの世界に君臨する絶対的な存在。彼が持つ力は、我々が討伐した『七つの大罪』のそれとは比べ物にならない。なぜならば、七つの大罪は、ヴァルファス自身の力のカケラに過ぎないからだ。」


 その言葉に、俺は息を呑んだ。これまで、俺がチート能力を駆使して次々と倒してきた魔王たちが、ヴァルファスの力のほんの一部だったというのか。ならば、奴の真の力は、どれほどのものになるのか?


「ヴァルファスは、七つの大罪の能力を全て持ち合わせている。奴の心臓には、怠惰の魔力で兵士の士気を奪い、強欲で王国の財を枯渇させ、嫉妬で人間関係を破壊し、憤怒で民を暴動に駆り立て、傲慢で権力者を支配し、暴食であらゆる生命力を吸い尽くす。そして、色欲で人々の精神を深く蝕む……その上、これら全てを完全に制御し、無限に増幅させることができる。」


 俺は、書物を読み進めるうちに、全身から冷や汗が噴き出すのを感じた。


 俺のチート能力は確かに強力だ。一つ一つの「大罪」に対しては、その特性に合わせた新たな能力を覚醒させ、対応してきた。


 だが、ヴァルファスは、その全ての能力を同時に、しかも遥かに高い精度と出力で行使できるというのだ。


「【神の恩寵:全知全能】をもってしても、奴の真の力を予測することは困難……【覇王の眼】をもってしても、奴の核となる弱点を見抜くことはできない……【無尽蔵の創造】をもってしても、奴の存在そのものを消滅させることは不可能に近い……」


【無限の図書館】が、次々と俺のチート能力の限界を示していく。全身から力が抜け、ソファに深く沈み込んだ。


(全部盛り……全部盛りだと思っていたこの俺の力が……それでも、ヴァルファスには勝てないかもしれない、というのか……?)


 これまで、何があっても「チートだから何とかなる」と楽観的に考えてきた俺の心が、初めて絶望に支配されそうになった。俺の自己肯定感が、根底から揺らぐ。


 その時、ふと、俺の頭にある考えが浮かんだ。


(待てよ……この世界は、何でもかんでも「全部盛り」だ。俺のチート能力もそうだ。そして、ヴァルファスも、七つの大罪全ての力を持ち合わせている「全部盛り」の存在……)


 ならば、その「全部盛り」を逆手に取れないか?


 俺は再び【無限の図書館】に意識を集中させた。ヴァルファスの力の源、その特性、そして彼の存在がこの世界にもたらす「理」について、さらに深く情報を引き出す。


 そして、一つの可能性にたどり着いた。


 ヴァルファスが七つの大罪全ての力を持ち合わせているということは……裏を返せば、七つの大罪がそれぞれ持っていた『弱点』が、彼の内に統合されているということだ。


 読み返せば、『やつの心臓に』それぞれの能力は、ヴァルファスの心臓に集約いることになる。


 それぞれの「大罪」は、固有の感情や能力に特化していた。それがヴァルファスの内に全て収まっているということは、彼の力は膨大だが、『統合されている』がゆえにかえって特定の弱点を生み出す可能性がある。


 俺は、これまで討伐してきた「大罪」たちの情報を脳内で再構築した。怠惰、強欲、嫉妬、憤怒、傲慢、暴食、色欲。それぞれが持っていた特性。そして、俺がそれらに対抗するために覚醒させたチート能力。


【絶対零度:凍結】(怠惰)

【無尽蔵の創造】(強欲、暴食)

【心の浄化:無垢】(嫉妬)

【理性の回復:鎮静】(憤怒)

【絶対支配:服従】(傲慢)

【真実の瞳:破邪】(色欲)

【軍勢強化:神域】(汎用)


 これらの能力は、それぞれが特定の「大罪」の特性を打ち消す、あるいは利用する形で覚醒してきた。


「なるほど……ヴァルファスが七つの大罪全ての弱点ド萎えているなら、俺の覚醒したチート能力もまた、それぞれの『大罪』に対応する形で特化している。つまり、俺のチート能力は、ヴァルファスの持つ『七つの大罪の力』の弱点となる攻撃を繰り出すことできるということになる。


 俺は、興奮で大きく息を吐いた。


(全部盛りの魔神王には、全部盛りの俺のチート能力で対抗する! しかも、それぞれを個別で叩くように……!)


 これは、ヴァルファスの強大な力を分散させ、彼の得意な「統合」された力を逆に利用する戦略だ。各々の能力をバラバラに攻撃し、彼の内なるバランスを崩す。そして、その隙を突いて、本体に致命的な一撃を与える。


 これは、俺一人では不可能だ。膨大な情報処理、そして精密な能力の使い分け。そして、何よりも、強力なヴァルファスの攻撃から身を守りながら、この複雑な戦略を実行するには、彼女たちや軍隊の協力が不可欠だ。


 俺は、深く深呼吸をした。恐怖はまだ残っている。しかし、絶望ではない。この「全部盛り」の世界の理を逆手に取り、最大の敵に挑む。


「ヴァルファス……貴様は、その『全部盛り』の力がゆえに、自ら弱点を作り出したぞ」


 俺は、静かに立ち上がった。この戦いは、俺がこの世界で得た全ての力、そして、彼女たちとの絆が試される、最後の試練となるだろう。

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