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第一話:トラック転生と、全部盛りの俺と全部盛りの異世界

 視界を埋め尽くす白い光と、爆音。次の瞬間、俺の体は宙を舞っていた。


 ああ、これが巷で噂の「トラック転生」ってやつか。意識が遠のく中、確信した。俺は、ついにあの夢の異世界へ行くんだ。


 チート能力で無双し、大魔王をやっつけて、女の子を囲ってハーレム三昧が待っているあの異世界へ!


 目を覚ますと、俺は青々とした草原に寝転がっていた。時は夕刻、見上げる空にはふたつの月が浮かび、星の並びも日本とはまるで違う。なるほど、ファンタジー感満載だ。


 体には見慣れない豪華な衣装が、手には水晶玉のようなものが握られている。そして、脳裏に響く声。

「【神の恩寵:全知全能】、【覇王の眼】、【魅了の声色】……」


 そのあともどんどん出てくるチート、チート、チート。いやいや、チート能力盛りすぎだろ。これだけあれば、ハーレムも思いのままだし、魔王なんてデコピンで倒せるんじゃないか。俺は、悠々自適な異世界ライフを想像して笑いが止まらなかった。


 しかし、俺の気持ち悪かっただろう笑い声は長くは続かなかった。空を、飛行する黒い城が覆い、禍々しいオーラを放つ巨大な影が姿を現す。


「ふはははは! ついにこの時が来たか! 愚かなる人間どもよ、我が魔神王ヴァルファスの力、思い知るがいい!」


 ……魔神王? まじか。もう出てくるのかよ。チート能力は確かに手に入れたが、まさかこんな早々にラスボス級が目の前に現れるとは。


 俺が呆然としていると、草原の向こうから、キラキラとした光を纏った一団が駆け寄ってきた。


 騎士団のようだが、その先頭を走る少女は、ライトノベルや漫画で俺が見たことのあるテンプレ通りの「お姫様」だ。金色の髪にエメラルドの瞳。銀の鎧を輝かせながら、凛々しい声で俺に声をかけてくる。


「そこのあなた、大丈夫ですか!? おけがはありませんか? まさか、魔神王の出現に巻き込まれて……」


 俺は咄嗟に「大丈夫です」と答えたが、俺の声はなぜかあらゆる女性の心臓を鷲掴みにするような「魅了の声色」になっていたらしい。お姫様は頬を赤らめ、瞳を潤ませながら俺を見つめている。


「まあ……なんて素晴らしいお声……! そのお声を私に恵んでいただけるなんて……! 私の名前はセレスティーナ。あなたはまさに、私が夢見ていた王子様! ……私、王子様のお力になるためなら、身も心も捧げます!」


 いやいや、ちょっと待て。いくらなんでも早すぎだろ、ハーレム展開。さっそくひとりめ候補だ。しかも、こんな魔神王がのさばってる状況で、魅了って。


 その時、さらに別の方向から、怒声が響いた。


「この役立たずの令嬢め! よくもまあ、パーティーで醜態を晒してくれたな! 貴様のような悪辣な女は、この屋敷から追放だ! 魔神王の手下にでも食われてしまえ!」


 見れば、いかにも高慢そうで、腹が出た貴族風の男が、ボロボロになったドレスを着た女性を蹴り飛ばしていた。なるほど、最近日本で大流行りの「悪役令嬢追放イベント」も同時発生か。紫色の立て巻きツインテールに、バチバチのまつげ。こちらもお姫様に勝るとも劣らない美女だ。


「くっ……覚えておきなさい! エミリア・フォン・リリーベル……この屈辱、いつか必ず晴らしてやりますわ!」


 (ざまぁする側の)悪役令嬢エミリアは血の滲むような声で叫ぶが、貴族どもはニヤニヤと笑いながら屋敷の門を閉めた。


 というかなんだんだ、俺が転生して数分もたっていないのに、すでに魔神王とお姫様と悪役令嬢が同居しているこの空間は? そもそもなんで草原に屋敷があるのさえわからないんだが。


「大丈夫ですか?」


 俺はエミリアに声をかける。彼女はこちらに気づいたかと思うと、俺の前にひざまずいた。


「……! ああ、あなた様、そのようなすてきなお声でわたくしを慰めてくれますのね……! あなた様……どうか、わたくしに力を貸してくださいませ! この屈辱を晴らすためなら、わたくしはあなた様に身も心も捧げます!」


 いや、ついさっきお姫様からも身と心を捧げられたんだが……。まあ、エミリアも超美女だから問題はないか。図らずしもハーレム候補ふたりめができた。


 しかし、なんで俺なんだよ。ざまぁする悪役令嬢が、まさか転生したての、一声かけただけの俺に助けを求めてくるとは思わなかった。


 俺は頭を抱えた。魔神王の出現、会った瞬間からハーレムひとりめ最有力候補のお姫様、そして追放された悪役令嬢。


 どれか一つならまだしも、全てが同時に、しかも初っ端から盛りに盛られて襲いかかってきている。


 なんてこった、これじゃまるで全部盛り海鮮丼ならぬ「全部盛りの異世界」じゃないか……!


 俺はチート能力で勇者様と褒められて、悠々自適なハーレムライフを送るはずだったんだ。それで十分だったんだ。それがどうだ? この混沌とした状況で、俺は一体どうすればいいんだ!?


「……ふざけんな、全部盛り世界!」


 俺は心の中で天に向かって叫んだ。


 しかし、俺の叫びなど気にも留めず、魔神王は高笑いを響かせ、お姫様セレスティーナは俺に熱い視線を送り、そして悪役令嬢エミリアは涙目で助けを求めている。


 俺の「全部盛り」の異世界生活は、どうやら想像を絶する波乱の幕開けとなったようだ。



始まりました、脳みそを1ミリも使わなくていい娯楽物語!

ぜひ高評価、★やリアクションで応援お願いします!

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