第十四話:傲慢の魔王と、王城の陰謀
三人の温かい言葉に包まれ、俺は新たな決意を胸に目覚めた。
不安はもうない。この世界で、愛する彼女たちと共に生きる。
そのために、残りの「大罪」を討伐し、魔神王ヴァルファスを打ち倒す。
次に狙うは「傲慢」の魔王、ルシファーだ。
【無限の図書館】の情報によると、彼は精神支配能力を持ち、特に権力や地位を求める者に取り憑き、その傲慢な心を増幅させる。最近、王城内で、大臣たちの間で激しい権力闘争が勃発しているという報告が上がっていた。その背景には、ルシファーの存在があるのだろう。
「ルシファーは、人間の高慢な心を食らい、その者を絶対的な存在であると錯覚させる。そして、最終的には周囲を巻き込み、破滅へと導く……」
執務室で資料に目を通していると、もうすでに当然となっているフローラが淹れてくれた紅茶を飲みながら、俺はそう呟いた。セレスティーナは不安げな表情で俺の隣に座り、エミリアは険しい顔で王城の見取り図を広げている。
「最近、財務大臣と軍務大臣の対立が特に激しいと聞きます。些細なことで口論になり、互いを貶め合っているようなのです……」
セレスティーナが心配そうに話す。王女として、王城の安定は彼女にとって最も重要なことだ。
「ええ。彼らは元々意見の相違がありましたが、最近は常軌を逸しています。まるで、どちらかが滅びるまで争いを止めないかのように……」
エミリアが眉をひそめた。彼女は前回の件で、王城の内部事情にも精通するようになった。
「ルシファーが破滅を求めるのなら、権力の中枢を狙うのは必定でしょう。大臣たちの対立を利用し、王国の混乱を狙っているのかと」
フローラが冷静に分析する。聖女の直感も、俺の【無限の図書館】の情報を裏付けていた。
「よし、決まりだ。今から王城に行くぞ。大臣たちの会議が開かれる時間だ」
俺の言葉に、三人は顔を見合わせた。
「王城に、ですか!? またもや危険な場所に……」
セレスティーナが目を丸くする。
「ああ。奴は、そこで最も強大な傲慢の心を糧にしているはずだ。何しろ奴は傲慢の魔人。自分を倒すやつなどいないと確信しているだろう。だからこそ、直接乗り込むのが一番だ」
俺はそう言って、三人を連れて屋敷を出た。
王城の会議室は、異常なまでの緊張感に包まれていた。財務大臣と軍務大臣が、互いに顔を真っ赤にして罵り合っている。
他の大臣たちも、それぞれの派閥に分かれ、冷たい視線を交わしていた。
「この愚か者めが! 貴様のような無能な大臣が、この国の財政を破綻させるつもりか!」
財務大臣が、軍務大臣の胸ぐらを掴んだ。
「黙れ、老いぼれ! 貴様こそ、軍事費を削減し、この国の防衛を弱体化させる気か!」
軍務大臣も負けじと応戦する。その場は、もはや会議ではなく、醜い罵り合いの場と化していた。
【覇王の眼】が、財務大臣の頭上に渦巻く禍々しい魔力を捉えた。ルシファーは、彼に取り憑いているようだ。
「おやおや、またしても愚かな人間どもが……私の、この崇高なる傲慢を理解できぬとは!」
財務大臣の口から、歪んだ声が響いた。それは、紛れもなくルシファーの声だった。
……というかこの魔人たちは毎回似たような口上から始めるな。テンプレートがインストールされているのか?
「貴様らのような凡庸な存在が、この私に逆らうなど、万死に値する!」
ルシファーは――いや、ルシファーの力に心を支配された軍務大臣はそう叫び、会議室のテーブルを粉砕した。その場にいた大臣たちは、恐怖に震え上がった。
「みんな落ち着いて! この混乱は、魔王の謀略なのです! ……この傲慢の魔王め! これ以上、大臣たちを惑わすな!」
セレスティーナが憤りの声を上げた。
「無駄だ。貴様たちの言葉など、この私には届かぬ。貴様も所詮、私にひざまずくべき存在なのだ!」
ルシファーはセレスティーナに嘲笑の視線を向けた。その視線には、絶対的な優位性を示すかのような傲慢さが宿っていた。
「本当にただの傲慢のカタマリだったな、ルシファー」
俺は静かにそう言い放ち、財務大臣に向かって一歩踏み出した。そして、心の中で唱える。
「【絶対支配:服従】」
俺の掌から、無形の魔力が放たれた。それは、ルシファーが操る傲慢の感情を強制的に鎮め、その者の精神を一時的に支配する。財務大臣の目が、一瞬にして虚ろになった。
「な、なんだと……!? この、この力は…!? 私の傲慢が…消えるだと…!?」
ルシファーは信じられないといった様子で叫んだ。やつの傲慢が、俺の力によって強制的にねじ伏せられていく。
負け口上も似たようなものが多いな。コピーアンドペーストのしすぎじゃないか?
「貴様は、凡庸な存在として、ただ消え去れ」
俺は追撃するように、財務大臣からルシファーを引き剥がした。
引き剥がされたルシファーは、巨大な漆黒の天使のような姿を現したが、すぐに俺の【無尽蔵の創造】の力によって、まるで影のように消滅した。
新たなチート能力、【絶対支配:服従】が、俺の脳裏に刻まれる。これは、対象の精神を一時的に支配し、特定の感情を抑え込むことに特化した能力だ。
ルシファーが消滅すると、財務大臣は椅子に崩れ落ち、虚ろな目から光が戻った。他の大臣たちも、正気に戻ったかのように互いを見合わせ、自分たちの醜い争いを恥じているようだった。
セレスティーナは、安堵したように胸を撫で下ろした。
「王子様……またもや、ありがとうございます……! これで、王城の混乱も収まります!」
エミリアは、冷静に大臣たちの様子を見つめていたが、やがて静かに俺に頭を下げた。
「これで、王国の根幹を揺るがす危機が、また一つ去りました。あなた様は、本当に…」
フローラは、俺の新たなチート能力に、驚きと畏敬の念が入り混じった眼差しを向けていた。
「勇者様……貴方の力は、もはや神の領域ですね…」
俺は肩をすくめた。まあ、チートだからな。……これもテンプレ気味だな。次は別の言葉を使おう。
「これで、『七つの大罪』も残り少なくなってきたな。次は……『暴食』か。それとも……」
俺はそう言って、落ち着きを取り戻した、王城の窓から広がる景色を見下ろした。残る「大罪」はあとわずか。そして、最大の敵、魔神王ヴァルファスとの最終決戦も、いよいよ近づいてきている。
俺の「全部盛り」の異世界は、止まることなく、さらなるクライマックスへと突き進んでいく。




