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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死を待つだけの存在

作者: mmm

 すきま風が身体を芯から凍えさせる。

私はこのような冷たい風ではなく、寒い風が嫌いだ。内側は何時でも温もりで溢れていて欲しいと常に願っている。

 時計の針がカチカチと無機質なリズムで某拘置所の居室中に響き渡った。

 就寝まで2時間半。



『異令和8年の大雪 積雪害の被害多数

建物の崩壊に注意』

『狂犬病に類似した感染症、虫からの感染のみのため、狂虫病とも』


 拘置所で死刑を待つ者が可能な娯楽はラジオや読書、新聞だ。

今後一生見ることが無くとも、外は気になるものだ。

 窓を覗けば外は幾らでも見られる。

 社会情勢は新聞を閲読すれば幾らでも知れる。

 しかし、その情報にバイタリティーは殆んど含まれない。

 世論はそれの要約であり、中身がない。

 私はその中身を今後一生知ることは無い。


 その事実は心にポッカリと穴を空ける。

 その穴には大きな違和感、歪さが感じられる。先天盲は生まれた時から視覚世界を知らない。だからそこに歪は生まれない。

 逆に、後天盲は視覚世界を失う。

 そこには大きな歪が生まれる。


 私は受刑者であり、受刑者が悪者だとするのなら、生まれつきの悪はいないと思う。その上で、受刑者は皆、後天悪なのだ。

 誰もが当たり前の生活と言うものを失い、大きな歪を感じている。


 そして死刑囚は、そんな当たり前に戻ることの無い受刑者だ。

 鬱が精神的逃げ道の失った状態であるならば、死が逃げ道であると考えぬ死刑囚は皆鬱患者と言うことになる。



 ……いや、もう一つだけある。

 それは"救い"だ

 言い換えるなら"大いなる力"だ


 理由は分からない。自分が関与しているのかも分からないそんな力。

 革命が頻繁に起きていた時代なら、己が派閥仲間に救いを求めていただろう。

 またはカルト教祖なら、信者が助けに来ると言う希望を捨てないのかもしれない。


 しかし、私は単なる一般人であり、怨みのある者こそ多数あれ、存続を望むものはいない。

 仮にいたとしても、今の社会システムは個人団体が革命を起こすのは無謀だ。


 現代の死刑囚は、死を受け入れぬ限り、定義上の鬱となる。


 どこかの誰かが、転生論を追求していたが、私は受け入れる事は出来なかった。

 転生など無く、死ねば無となると信じてしまっている。


 ならば私は、大いなる力を待つしかない。

敢えて別の言い方をするのなら、

 運命力ー理想実現不干渉力ーを持つしかない。

 私はただ信じるしかない。

この力の出現を



カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ


「ッ!?」


 時計の音が急激に加速したように感じた。

 俺は鼓動の高鳴りを感じて時計に素早く目を向ける。


………………………………


 消灯まで、残り2時間15分。

 私は新聞を読み、外の世界をオカズに妄想に耽っていただけだった。

 たった15分、仮に大いなる力が加速に関する力であっても、規模が小さすぎる。

 しけった窓に力強く残る手跡は、さっきと殆んど変わりがない。

 雫が2、3粒垂れた程度だ。

 1日丸々飛んだわけでも無さそうだ。


 心臓は無機的なリズムに戻る。

 きっと私は狂ったのだ。

 字面だけ変わる繰り返しの日々に、時間感覚が狂ってしまったのだ。


 そう言えば、似たような事が過去にも何度もあった。

 中身のない日々で起きた、ちっちゃな内側の革命は、三日には俺の内から消え去っている事だろう。



 目を閉じると無機的な模様が蠢く。

 彼らは意思なく形を変えていく。

 そりゃそうだ。瞼からの圧力によって目が痙攣しているだけなのだから。



 光の世界には影もある。光と影は結び目を作り、私の首に絡み付く。

 天使がお喋りをしたがっている。

 面倒臭いが返事してやろう。


「ボクは後天罪人さ」


 天使達は疑問の表情を浮かべている。

 残念!君達じゃ分からないさ。

 表象的論理しか汲み取れない君達にはね。

 例え言葉の意味が分かっても、中身が分からない。


 あーあ、先天罪人は今頃なにやってるんだろう。笑ってるのかな。泣いてるのかな。

 もしかしたら、ボクと違う舞台にいるだけで、ボクと同じ気持ちを持っているのかもね。

 今となっては同情しか生まれない。

 ボクは現実を受け入れたんだ



世界が少し下にズレた。


光の世界は闇の世界となる。









 ……しかし、無機的な模様は繋がり、またつながり、そしてさらに結合した。


 目の裏側には意思を持った有機的な模様が蠢く。

心臓は有機的に鼓動を速める。




 俺は目を見開いた。

 俺を殺すための縄がない。

 もしや過去に?


「遺言は何かありますか」

「遺言…俺はタイムリーパーだ。実験体として活用できるだろうから殺さないでくれ」

「……以上でよろしいですか」

「ああ、いいよ……」


天使様は狂人の言うことは聞かない。最初から分かってたさ。


「それでは、死刑を執行します」


鉄の階段を登ってきた執行人は大きな斧を振り上げた。



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