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1.恋人のキス

シリーズの2作目です。

前作を読まなくてもストーリーが分るようになっています。(前作の最終話がこのお話の1,2話と重複してます)

 太陽神ファルカシュは、天を駆ける白馬が引く馬車に乗り、空を渡って地上を見回っていた。


「何度も言っているけどもねイリエス、ここではなく隣にちゃんと座る場所があるのだが」


「それは知っているけど、小さい時からここが私の定位置でしょ、何で今更変えないといけないの?」


 イリエスはファルカシュの膝の上で、馬車の手綱を握る彼の腕の中にいた。振り返って触れるほどに近くにある彼の顔を不機嫌に見上げてきた。


「君はもう幼子ではないし、体が大きくなったから膝にいると前が見えにくいし、それにだね……年頃の娘が男の腕の中にいてもいいの?」


「私が年頃の娘に見えるの? わあびっくり」

 笑ってイリエスは頭を(あご)の下にスリスリとさせる。銀の髪のサラサラした感触をもっと味わいたくて頬を彼女の頭に寄せた。


「年頃の娘にはなったが、君が暴れん坊であることは変わらないな」


「暴れん坊って呼ばないで、せめてお転婆とか活発とかにして」

「いいや、君は暴れん坊で、さらに考え無しの向こう見ず。1人で草原をよちよち歩く幼い君を見つけた時の私の気持ちが分かるかい?」


「ふふふ、でもこの天を駆けるこの馬車にすぐ乗せてくれたでしょう?」

「そうだ、放っておいたら君はどこへ行ってしまうかわからない」


「だからいつも、あなたの膝の上で良い子にしている」


「何だって!? 君が良い子にしていることなんてないだろう? 初めて君がこの天を駆けている馬車から飛び降りた時、どれだけ驚いたか。私の絶叫が世界の隅々まで響き渡ってしまったんだぞ。あの瞬間に生まれた子が雷の神になってしまった。あいつが生まれたお陰で、時々空は光るし鳴るし(とどろ)くし、天が騒々しくなった」


「ハオーとは仲良しよ、時々海で遊ぶの」

 片腕でイリエスを胸に引き寄せる。


「あの雷の少年もずいぶん大きくなっただろう? まさか君の地上の家に呼んだりしていないだろうな、君は1人暮らしなんだから、男は絶対に入れてはいけない」


 イリエスは顔を真上にあげて、子供っぽい顔で答えた。

「父様が寄越したケルがいるから、私の家には誰も入れない。それに昼はあなたが天上から見ているし、夜は父様の所へ行くし、自分の家で寝る時はケルが一緒だし、誰も私に近づけない。ちょっと不満だわ」


「ケル……あの頭が3つある凶暴な犬のことか。あれは良い番犬だ。それにしても聞き捨てならないことを言ったね、何が不満なのイリエス?」


「私は年頃の娘だとあなたが言ったのよファルカシュ。私は娘らしくしてみたいことが色々あるの」


 無邪気に遊んでばかりいるお転婆からの意外な言葉に、今までにない甘い香りを感じた。

 見上げてくるオレンジ色の瞳が好奇心に輝いている。


「天上で馬車を止め、イリエスを横抱きにして顔を向き合わせた。

「何をしたいのかな? 言ってごらん」


 イリエスは返事をする替わりに、可愛らしい仕草で首を伸ばすと、小さな唇を私の唇にチョンっと当てた。

「キスとか」


 触れるだけの小さなキスをイリエスにそっと返した。

「幼子の時から毎日のように君は私にしていると思うけれど」


「こういう父様にもするようなキスじゃなくて」


「ああ気分が悪いな。君はあいつにもキスしているのか?」

 

「するよ、ほっぺたにチュッてしてあげる」

 不機嫌な顔は隠せずに「唇には?」と聞くと、彼女が「しないよ」と答えたので、少し気分が良くなった。


「それで、どんなキスをしてみたいの? してごらん」

 目を閉じて顔を近づけると、彼女の息遣いがゆっくりと近づく。清涼な神気が彼女から広がって包まれるようだ。


 唇に柔らかな感触が押し付けれらる。彼女は口をとがらせて、小鳥がついばむようにチュッと可愛く触れるキスをくり返す。そのうち、小さな口がたどたどしくも一生懸命動いて、私の唇を食んでは中に入ろうと健気にがんばる。意地悪くそれを中に入れてやらずに口を結んでいたが、耐えきれずに笑ってしまった。


 目をあけると真っ赤になって怒った顔の彼女がいた。

「大嫌い、ファルカシュともうキスしない!」


 大嫌いともう一度言おうと彼女が口を開けた時、己の唇でそれを塞いだ。すぐに舌を絡ませて好きなだけ味わう。彼女が逃げようとしても、髪に手を深く差し込んで頭を抱え、何もかも逃がしはしなかった。


 ぼんやりとしたまま胸にしがみつく彼女を片腕で胸に抱いたまま。馬車をまた動かして地上の見回りを再開した。

 幼子のように長い事胸にくっついて離れないイリエスがようやく口をきいた。


「こんなキスを母様にもしたの?」


 落胆のため息が出てしまった。

「あのねイリエス。君の望み通りに初めてのキスをしたというのに……こんなに素敵な心地でいる時にどうしてそんな嫌な気持ちにさせるのかな?」


「したの、しないの?」

「そりゃしたさ、ネリは私の許嫁で、妻にもなった……」


「それで初夜をするまえに、父様に母様を盗まれた」

 

 顎で彼女のつむじをグリグリと押すと「痛いよう」と悲鳴をあげた。

「気分が悪いな。世界中に知られたことをわざわざ言うな」


「どうして大事な花嫁を盗られたりするの? ものすごい馬鹿者だよね」


「しょうがないだろ、君の父親はこの世の中で1番強い戦士なんだ。本気で来られたら誰も勝てない。でも……奴は私がいない隙をみて忍び込んだからな。私がその場にいればけして盗られたりしなかった」


「父様は最低な男であなたは馬鹿者で……母様はどちらを選んでも残念ね」


「ああどんどん気分が悪くなる。でもさ、考えてごらん。その最低男がネリを盗まなければ、君は存在しなかったんだよ」


「それなら今は父様に感謝してるの?」

「するわけないだろ!」と大きな声を出した。


「私は愛する妻を奪われたんだぞ。体だけではなく心までも……永遠に許す訳がない」


「ファルカシュは母様のことが今でも好きなの?」


「ああ好きだ」


 しばしの間を空けて「私は?」と母親と同じオレンジ色の瞳を丸くして聞いてきた。

「大好きだ」


 即答すると小さなピンクの唇がキスしてくる。抱きしめながらその口に割って入ると、小さな舌は逃げようとする。小魚を追うように捕らえると思う存分貪った。魅惑的な神気をまき散らして、私を包み酔わせてくる。極上の薫りで私を誘惑していることに本人は全く自覚がない。


 必死にしがみ付く小さな手が震えている。キスを少しずつ優しくしてやると、甘えるような声を漏らした。少女の彼女からは聞いたことがない喘ぎに、震えるような喜びを覚えゾクゾクとした。


「したいキスができたかな?」

 吐息と共にささやくと、イリエスは小さく「うん」と答え、その声はやはりまだ少女のようだった。

 《神々も恋をする ~叶わぬ恋と永久の愛~》のシリーズ2作目です。

もしも、興味をもって頂けたら、1作目のリンクが下にありますのでのぞいてみてください。


『罪ある愛に許しはあるのか? ~記憶を無くした5年間、私は夫とは違う男に愛されていた~』

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