9
美術室には可動式の壁が設置され、そこに美術部員が描いた絵が展示されていた。
水野さんは端から順に一つ一つ絵を見て行く。
そして部屋の真ん中あたりに来た時、一つの絵の前で彼女の足がピタリと止まった。
「……………。
え、え?え~~~?」
僕の絵を見るなり固まってしまった水野さんだが、直後、驚いた声をあげた。
「これ……これって………!」
僕を振り返りながら、絵を指差して訊いてくる。
「水野さんだよ」
僕は照れながらも答えた。
「~~~~~!」
水野さんは真っ赤になって絵を凝視している。
淡いピンク色の点描を背景にピアノを弾く髪の長い女の子が描かれている。
絵の下には2-4 小崎亮平の文字。
僕はあははと笑った。
「…………笑い事じゃないよ~!
うぅ…。恥ずかしぃ……」
水野さんの顔は湯気がでそうなほど真っ赤だった。
「………怒った?」
恐る恐る訊ねる。
「………………怒ってない……けど…。
もう。これじゃあ、バレバレだよ……」
恨みがましく口をへの字にして僕を見上げる水野さんは、それでも拗ねているという感じだった。
「……ごめんね?」
「うぅぅぅ……。
………まぁ…いいか………」
水野さんは無理やり自分を納得させて、もう一度僕の絵を見つめた。
「きれい……」
絵の中の自分をみてぽつりと声をもらす。
「水野さんだよ?」
僕は照れくさくてちょっと茶化してみた。
「…そうじゃなくて、この絵がきれいっていったの……!」
真っ赤になって声を荒げる彼女。
ははは……
僕は笑ってお礼を言った。
「わかってる。
……ありがとう」
水野さんに誉められて素直に嬉しかった。
だけど、目の前の絵には僕の想いがはっきりと現れているのでちょっと恥ずかしい。
大好きな水野さんへの想い。
彼女は僕を見ながらちょっと黙り込んでから言った。
「……こんなにきれいに描いてくれて、ありがとう」
恥ずかしそうにそう言うと、水野さんは見とれるような笑顔で柔らかく微笑んだ。
僕の胸がドキンと脈打つ。
「……………うん。
どういたしまして…」
僕は目をそらして明後日の方向を見る。
今度は僕が赤くなる番だった。