3-30 第一次カロン銀河連合エルドル星系沖宙戦 カロン銀河連合視点 前編
カロン銀河連合 国境防衛艦隊
エルドル星系外縁 第1指揮中枢艦「グラ=ヴァル」
暗い紫色の恒星光を背に、無数の艦影が広がっている。
それは艦隊というより――
銀河の一部がそのまま動いているかのような密度だった。
だがその中央、巨大な球殻状の指揮中枢艦の内部では、静寂が支配していた。
「敵艦隊、射撃開始!」
観測士の声は、わずかに震えていた。
戦術投影空間に、光が走る。
最初に放たれたのはドイツ艦隊の重粒子砲。
直線的で、重く、回避を許さない軌道。
「前衛第一防壁――消失」
「チッ!ドイツか!」
司令官の声が低く落ちる。
続いて――
点でしかなかったはずのアメリカ機動群が、一瞬で距離を詰める。
「敵高速群、第一陣形内に侵入!」
「迎撃隊を回せ!」
命令は即座に下される。
だが、次の瞬間。
スウェーデン艦隊の精密射撃が、指揮中枢艦をピンポイントで撃ち抜いた。
「第二指揮艦「ド=ヴェ、機能停止!」
「第三通信中継、消失!」
情報網が、削られていく。
まるで神経を一本ずつ切断されていくかのように。
そして――
観測士が、言葉を失った。
「……主砲級エネルギー反応、八……いや、八基同時……?」
スクリーンに映ったのは、一本の線ではない。
八つの光柱。
それは直線ではなく、空間を“裂いて”いた。
「――回避……間に合いません!」
直後。
戦術空間の中央部が、白に染まった。
数百の艦影が、同時に消滅する。
衝撃波が遅れて到達し、周囲の艦を連鎖的に引き裂いていく。
「前列戦隊、壊滅!」
「第七・第八戦隊、誘爆により崩壊!」
報告が乱れる。
だが――
司令官は、沈黙したままそれを見ていた。
やがて、低く言う。
「……これが、日本か」
一拍。
「ならば――」
司令官の目が細められる。
手を振り下ろす。
「全艦隊、第二陣形へ移行」
「損耗を無視して前進を継続」
「包囲を完成させろ」
「敵を……」
わずかな間。
「この宙域に固定する」
命令は、冷酷だった。
直後、後続の艦隊が前へと押し出される。
破壊された前列の残骸を踏み越えるように。
「敵第二波、突入!」
今度は、数ではカロンが上回る。
波が、波を押し、さらにその後ろから波が押し寄せる。
無限に続くかのような艦列。
その中で、ある若い観測士が呟いた。
「……数では、勝っているはずなのに……」
隣の老練な戦術士官が、静かに答える。
「数で勝てる戦いなら、彼らはここまで来ていない」
次の瞬間。
再び、光。
再び、爆発。
そして艦列は、なお前へ進む。
その戦いは――
彼らにとっては国境防衛戦であり、
日本側にとっては帰還を成立させるための壁突破戦だった。
そして両者の意思が、真空の中で正面から衝突し続ける。
それが、後に「エルドル星系会戦」と呼ばれることになる戦いの、
開幕からわずか数分の出来事だった。




