3-12 偵察
今回少し雑に作ってしまったかもしれない…
「必ず帰れよ!」
その声が、エンジン音にかき消される。
一機目のRAが、カタパルトに弾かれるようにして闇へ飛び出した。
重低音が腹の底を叩き、発射場全体が一瞬だけ揺れる。
続けざまに二機、三機。
光の尾を引きながら、夜空へと吸い込まれていく。
誰も歓声を上げない。
成功を祝う余裕など、どこにもなかった。
「第二波、準備急げ!」
「追加の弾薬まだか!まだ足りねえぞ!」
「秋山、最終チェック入るぞ!」
管制塔の声と現場の怒号が、混じり合って発射場を満たす。
整備員たちは汗と油にまみれながら、無言で走り続ける。
秋山機のコクピット内。
パイロットは深く息を吸い、強制的に鼓動を落ち着かせていた。
視界に展開されるホログラム。
航路は、すでに赤く塗り潰されている。
「注意。予定侵入空域、戦闘状態確認」
「魔法干渉率、基準値超過」
「了解」
短く答える声は、驚くほど静かだった。
管制塔からの最終指示が飛ぶ。
「あなた方の任務は偵察と救助支援。交戦は一般市民に対する攻撃が認められた場合のみ許可します」
「了解」
「帰還を第一に考え行動してください」
一瞬、通信が途切れそうになる。
「……努力します」
それ以上の言葉は、必要なかった。
「秋山、射出位置へ!」
カタパルトがせり上がり、機体が固定される。
警告灯が赤から黄色、そして緑へ。
「カウントダウン開始」
「五」
整備主任が、無言で拳を握る。
「四」
通信士が目を伏せる。
「三」
誰かが、小さく祈る。
「二」
「一」
《射出》
衝撃が全身を貫いた。
視界が一瞬白く弾け、次の瞬間には夜空だった。
秋山機は急上昇し、先行機の後を追う。
眼下に広がるのは、遠ざかる日本の灯り。
その向こうにあるのは、地獄だ。
編隊が高度を上げるにつれ、通信に雑音が混じり始める。
『こちら第一波予想以上だ!
ものすごい火花が飛び散ってもはや逃げ場がない!
広場などのスペースがあるところに住民が避難し始めているが…
火の粉が多すぎて誰かに引火する可能性が高い場所が多い』
「了解、第一波。こちら管制塔。火災拡大の主因は何だ、魔法由来か?」
『了解したただし民間人に対して攻撃している部隊のみだ。
そいつらはテロリストとして武装組織の人として扱え』
「混在しています!
通常火災に加えて、魔法反応による誘発燃焼が確認されました!
交戦許可ください!」
別回線が割り込む。
『IUD中継班より。現地魔力濃度、想定の一・五倍。結界残滓が乱反射している。民間シェルターの一部が機能不全だ』
「最悪の組み合わせだな……」
管制塔のオペレーターが、必死にスクリーンを操作する。
「第二波、進路を三度修正。市街地中心部は避けろ。救助ポイントは外縁部に限定する!」
『こちら秋山。了解。ただし——』
通信に一瞬ノイズが走る。
『……外縁部にも、取り残された反応が多すぎる。赤が消えない』
「承知している。だが深入りはするな。帰還が最優先だ!」
別のパイロットの声が重なる。
『こちら三番機。道路が溶けてる、着地不可! 人が……人が逃げ場を失ってる!』
『IUDより警告。新たな干渉波来る。三十秒後、局所的な爆燃現象の可能性あり』
「全機注意!空救助は中止、上昇しろ!」
『無理だ、まだロープが——』
爆音。通信が一瞬途切れる。
「三番機! 応答しろ!」
『……こちら三番機。生きてる。だが、間に合わなかった……』
言葉の続きを、誰も促せなかった。
秋山は歯を食いしばる。
『管制、こちら秋山。可能な限り、上から誘導する。せめて次は——』
「感情を抑えろ。判断を誤るな」
『分かってます。でも——』
『IUDより。全編隊に通達。この状況、我々も危惧している。予測モデルが崩れ始めている』
「……聞いたな、全機。想定外だ」
「了解」
短く、しかし強い声が重なる。
夜空の向こうで、赤い光がまた一つ、弾けた。




