3-4 会議は踊るし進みます 前編
いつの間にか三章に入っているという面白さについて話したい。
まだ大晦日だよね!?
会議室の混乱が一応落ち着き、各国代表が椅子に戻り始めた頃だった。
議長は汗だくの顔をハンカチで拭きながら、震える声で宣言した。
「こ、これより……正式に世界会議を開始します……」
まるで言うだけで体力を使い果たしたような声音だったが、
それでも場内にようやく秩序が戻り始めた。
鷹津外務副大臣は腕を組み、小さく息を吐く。
「やっと始まったな……」
外交官が苦笑まじりに返す。
「開始まで一時間半。最悪レベルですね……」
「まあ、こんなもんやろ」
副大臣は肩を竦めた。
議長は気を取り直し、議題一覧を読み上げる。
「議題一。『自然災害への国際協力体制の整備』……こちらを討議したいと思います」
その瞬間、場内の空気はピンと張り詰めた。
軍事だの外交だのは、国家のプライドが絡むが、自然災害はどの国も例外なく脅かされている。
「では、日本代表より、事前に提出されていた災害対策案について説明をお願いしたい」
議長が指名する。
ざわっ……と周囲がざわめく。
どうやら「日本案」が最初から議題の中心に据えられていたらしい。
鷹津はゆっくり立ち上がる。
「では……失礼して話させてもらいます」
スクリーンに資料が映る。
地震記録、山火事の衛星写真、津波のシュミレーション。
──この世界の多くの国は、これらへの対策が驚くほど遅れている。
というより、体系として存在していない。
鷹津が口を開いた。
「まず、うち日本が今回提出したのは“自然災害への国際的な相互支援ネットワーク”です。
地震、火山、台風、山火事……自然の脅威は国境に関係なく襲ってきます。
せやから、災害が起きたらすぐに救援要請できる仕組み、
そしてすぐ駆けつけられる体制をつくろう、という話です」
複数の国が頷いている。
軍事では対立する国家でも、自然災害は無視できない。
ブランズ連合国代表が手を挙げた。
「日本よ……なぜそこまで自然災害に詳しい?
地震の動きなど、我々の学術機関でも理解が及ばぬ部分を、あなた方は精緻に解析している」
鷹津は少しだけ表情を曇らせた。
「……経験が多いからや」
静まり返る場内。
「地震も津波も山火事も、痛いほど経験してきた。
せやから、ほかの国には同じ悲しみを味わってほしない。
それだけの話や」
その率直な言葉に、場内の空気が少し柔らかくなる。
鷹津は続ける。
「例えば地震。うちらの観測やと、このラ・ドモール大陸は“プレート境界帯”の可能性が高い。
つまり、大規模地震が起きてもおかしない地形や。
過去の文献にも、街ごと沈んだ記録があったやろ?」
代表団の間でざわめきが走る。
古い伝承は“神罰”などと片付けられてきたが、地震と捉えることもできる。
ドルート帝国の大使が信じ難い顔で言った。
「……では、日本の地震予測技術を……我々にも共有すると?」
「できる限りな。観測網も作るつもりや」
「か、観測網……?」
「せや、地震計や。うちにはそれ作れる企業おるからな」
どよめき。
異世界で地震計という概念は、ほぼ存在しない。
ブランズ連合国代表は腕を組み、深刻な顔をした。
「日本……もしそれが実現すれば、われわれの国土は多くの命を救えるだろう」
鷹津は頷く。
「もちろんタダとは言わん。ただ、災害対策に関しては国際協力の精神が大事や。
うちはむしろ“共同研究”の形にしたいと思ってる」
周囲が騒めく。
“支援”ではなく“共同”。
上下関係ではなく、横並びで学び合うという意味だ。
これは多くの国にとって、非常に受け入れやすい提案だった。
議長が次の資料を映す。
広大な森林が炎に包まれる映像。
「議題二。『山火事対策と国際支援体制』」
山火事……この世界では、魔物が暴れたり、乾燥した気候に雷が落ちたりして起きることが多い。
一度燃え広がれば、村ひとつが丸ごと消える規模だ。
アングロム王国の代表が立ち上がる。
「日本の代表に聞きたい。映像に映っているこの“空からの散水”……あれは何だ?」
映像にはヘリコプターが消火剤を撒く様子が映っていた。
「空中消火や」
「空を飛ぶ……鉄の箱か? あれは魔導機でもドラゴンでもない……」
「まあ、可変型RAや」
ざわめき再び。
鷹津は説明を続ける。
「山火事は初動が命や。地上部隊が行くよりも早いし、広範囲に散水できる。
だから航空戦力を使うんやけど……この世界は飛行戦力が限られとるやろ。
せやから現実的には、まずは“火災監視網”が重要やと考えとる」
スクリーンに、森へ設置された監視塔やドローン映像が映る。
「高所に観測点つくって、煙を確認したらすぐ連絡入れる。
その上で、地上の消防隊が動けるようにするだけでも被害は桁違いに減る。
別に最先端の技術はいらん。やれることからやればええんよ」
ブランズ連合国代表が頷く。
「つまり、技術というより“仕組み”の問題だと?」
「そういうこっちゃ。組織作りは金より意識が必要やからな」
場内が少しだけ笑いに包まれる。
緊張感はあるが、議論は確実に前へ進んでいた。
議長が次の資料へ切り替える。
海岸の都市が波に呑まれるCG映像。
「議題三。『沿岸部の災害対策』」
海に面した国々の代表が、顔色を変えた。
ドルート帝国大使が震える声で問う。
「日本……この映像の“巨大な波”は……現実に起きうるのか?」
「可能性は高いで。この大陸の地形やと、沖にプレート境界あるかもしれんし」
「ひ、一国が丸ごと沈むではないか……!」
「せやから“避難”が大事なんや」
スクリーンには避難ルート、堤防、警報ネットワークが映る。
「うちの国も、津波で多くの命を失ったことがある。せやから言う。津波は逃げるのが一番の対策や。
海沿いの街は避難ルートを作るべきや、まあ普通にうちの場合は津波から守るための波状ブロックや展開型城壁を全国にあるんやけどな」
場内は深く静まり返った。
戦争の威圧より、自然の脅威の方が恐ろしく思えるほどの空気だった。
◆ 日本の提案「国際災害対策機構」
議長が確認する。
「日本代表に提案があると聞きますが……?」
鷹津は深く息を吸った。
「“国際自然災害対策機構(IDRO)”を作りたいと思っとる」
どよめきは小さく、しかし重かった。
「内容はこうや。地震、山火事、洪水、津波、噴火など、自然災害の観測・分析・被害報告を一本化する機関。加盟国は観測情報を共有できる。災害時には加盟国同士で救援要請が可能。
という信託条約を結ぶ」
静寂。
数秒間の沈黙のあと、誰かが小さく拍手した。
次に、別の国が……
そして場内は自然と拍手に包まれる。
軍艦の砲門を向け合った国々でさえ、この提案には反対できなかった。
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