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第九話 いざ水の都へ 幸運を呼ぶ再会

稚拙な文章ですが、よろしくお願いします!

 そこからイベントが起きることはなく、歩き続け夜を超え、さらに歩く。ただひたすらに穏やかな旅を続けることができた。一つ思ったことは野生動物の群れが多い。

 視界一面に緑色の平原が広がり、遠くのところで馬や牛が草を食んでいる。空には野鳥の群れが飛び回り、元気に鳴き声をあげている。動物たちも水の都の水を飲みにきているのだろうか。


「ここら辺は都市が多いからな。モンスターとかもあんまりいない。そのおかげで野生動物たちの暮らしやすい土壌が整っている」


 セージさんが俺の視線に気付いたのか、説明してくれる。たしかに、各都市の交通の安全を確保するためにモンスターはあらかじめ討伐するよな。


「私たちもたまに流れてきたモンスターや他種族を討伐しているのよ、業務の一環でね」


 タリアさんがそれに捕捉するように付け加える。セージさんたちも参加してたら、それは商人たちや旅人も安全だろう。

 その恩恵を野生動物たちは受けているわけか。平和に暮らしている野生動物たちを見ながら談笑を続け、さらに歩き続ける。


 そしてさらに景観が変化する。また竹の林が目立つようになってきた。普通の竹より少し茶色ががっており、稈が俺の胴ほど太く、相当丈夫そうだ。


「油孟竹が見え始めたら、そろそろ水の都に着くぜ」

「そうですね、あと三時間といったところでしょうか」



 セージさんの言葉に会頭が輓獣の轡を引っ張りながら答える。あっという間だった。俺の初めての旅はあと数時間で終わってしまうのか。まあ、帰りもあるんだけどな。『水の都』どんなところだろうなー。


「少年、覚えている?私が言ったこと」

「ん?なんかありましたっけ?」

「油孟竹のことよ、水の都の重要な資源になっているって言ったじゃない。盗賊に出会う前に」

「ああ、確か勝手に採っちゃいけない竹でしたっけ?」

「そう、それよ」


 やっと思い出したかと言わんばかりに鼻息を荒げるタリアさん。すっかり忘れてた。そっかー、この竹達がねえ。一見ふつつの竹に見えるけど。


「そうですね、ここらの竹は『蒼牛商会』の所有物になっています。私たちの油孟竹はもう少し南にあります」

「たけのこも採っちゃダメだぞー、アレク」

「しませんよ、そんなこと」

「なんだ、すげえうまいのに」


 食べたことあるんだ、セージさん。てか、やっぱり『水の運び手』も油孟竹の土地を所有しているんだ。さすが、水の都の有力商会。


「ここらの油孟竹は全てどこかしらの所有物になっています。勝手に伐採をすると、罪に問われることになります。私たちの土地でやってしまった場合は全然いいんですけど、他の商会のところまでは庇えません」

「会頭までやめてくださいよ、やりませんよ」

「念のためですよ、一応水の都のルールを説明しないと」


 ニコニコした人の良い顔で会頭はこちらを見てくる。なんか毒気が抜けるなー。そんなに俺はやりそうだろうか。まあガキの頃に道端に落ちてるものは、全部家に持ち帰ったりもしたが。

 俺が自分へのイメージに悶々としていると、隣で歩くセージさんが声をかけてきた。


「そういえば、セージ。お前の護衛を俺たち『水の運び手』が引き受けた理由は、俺がマッスル教官に頼まれたからだけではないんだ」

「え、そうなんですか?」

「はい、まあマッスル教官の頼みなので断るわけないですけどね」

「そうなのよ。私たちに任務の打診が来たときに、拠点ですごい騒ぐ新人の子がいたのよ。もう絶対受けるべきだって煩くてたまらなかったわ」

「はは、まあそう言うなよ。必死で護衛を引き受けるように言ってきて可愛かったぜ」

「すごい真面目な子で、初めて強くお願いしてきましたからね」

「新人?真面目な子?俺の知り合い?」

「あなたも知ってる子よ?」

「俺が知ってる?」


 自慢じゃないが、俺の交友関係はとても狭い。お母さんとエンジュ、モミジにアイビー、サンス。あとは街の教会にいた教父と女祭司だけ。他に仲良い奴なんて思い浮かばない。誰だ?


「おお噂をすればだ」

「ちょうど着きましたね。アレク君、あれが水の都ですよ」

「ふうー、今日はベットでゆっくり眠りたいわ」


 いつの間にかもう着いたらしい。前を向いたら、五Mほどの城壁に囲まれた都市が見えてきた。おお、あれが『水の都』か。

 ここからでも、都市の広さがわかるぐらい城壁が横に伸びている。


「ーーーーーーーーーーーー!!!」

「ん?なんだ?」


 都市の前門付近でぴょんぴょん飛び跳ねて、声を張り上げている人がいる。何か言っている。なんだなんだと不思議に思いながら、歩みを進め城壁がはっきり見えてくる距離になった。


「会頭!セージさん!タリアさん!お帰りなさいーーーー」

「はは、相変わらず元気ですね」

「可愛い新人ね」

「帰ったぞー!」



 まさか、この声は・・・・・・



「バカアレク!!!!!!心配したじゃない、何の連絡もよこさないで!!」


 懐かしい姿が見える。飛び跳ねるごとにトレードマークのポニーテールが揺れる。明るい茶色の髪色に、生意気な口調。小さい頃から一緒にいた、人生で一番付き合いが長い幼馴染。

 でもどこか懐かしい感情が胸を揺らす。これまで密度の濃い時間を過ごしていたかもしれない。


 水の都で俺を出迎えたのは、エンジュであった。


「もう、話したいことがたくさんあるわ!」


 水の都についた俺たちを出迎えたのは、腰に手を当て、プンプンと怒っているエンジュであった。すごい懐かしい気持ちが湧き上がってくる。思わず俺はエンジュを抱きしめる。


「ななななななな、いきなり何してんのよ!!!!」

「ぶへぇら!!」

「あ、少年!」


 しまった。どこか大切なものが戻ってきた気がして、思わず抱きしめてしまった。

 突然の俺の行動に頬を赤らめたエンジュが、思いっきりビンタをかましてくる。

 俺の体は錐揉みしながら、宙を舞い、顔面から倒れ込む。タリアさんの焦る声を聞きながら、俺の意識は暗転した。



 なんか毎回気絶してないか?俺













 目を開けた俺が最初に見たのは、エンジュの少し心配そうな怒っているような顔だった。


「アレクが悪いのよ、いきなり抱きついてきて。驚いて本気でビンタしちゃったじゃない」


 そうか、俺はまた気絶してたのか。懐かしいエンジュの姿に感情が昂って思わず抱きしめたんだった。上体を起こし、キョロキョロと周りも見渡す。

 だいたい縦横四Mぐらいの大きさの部屋で、壁際には机が置いてあり、数冊の本と筆記用具と蝋燭が置いてある。あとは俺が寝ているベット置いてあるだけだ。


「ここは私の部屋よ、『水の運び手』の商館の一室を借りてるの」

「へえ、エンジュはここで働いているのか」

「誰のせいだと思っているのよ。あなたが教会から突然運び出されていくから、教父様に行き先を聞いて追いかけてきたのよ」

「え、まじかよ!?」


 どんだけ行動力あるんだよ、こいつは。俺らが住んでいた都市からここまで馬車で数日はかかるはずだ。

 話を聞く限り、単身で来たんだろう。すごく大変だったはずだ。エンジュにそんな迷惑をかけていたとは。


「俺はほっといても、しぶとく生きているてわかるだろ」

「うっさいわね。あんたは昔から危なかしくて、目が離せないのよ」

「それでも、ここまで追いかけてこなくても良いだろ」


 こいつが本気で俺を心配してたのが感じられて、照れ隠しに憎まれ口を叩いてしまう。エンジュは少し気を悪くしたように、右眉を釣り上げる。


「別にあんたのためだけじゃないわ。あのあと、あたしも適正の儀を受けて人神様の適性をもらったの」

「おお、よかったな。エンジュも期待通りじゃねえか」

「そうね、私の希望通りだったわ。両親も喜んでたわ」

「まあそうだろうな。で、何の適性だったんだ?」

「『商人』よ」


 なるほど、だから『水の運び手』で働けているのか。商人の適性を得た若者は商会の丁稚として経験を積み、いずれ独立をしたりする。

 適性の恩恵で計算が早くなったり、物の目利きができるようになったりするらしい。

 いずれにせよ経験を積んでいかないと、習熟しないらしいが。


「私の仕事も探さなくちゃいけないし、西の戦士の祠にもあなたの様子を見にいかなくちゃいけないし。それで水の都にきたのよ」

「なるほどな、大変だったわよ。都会すぎて、何もかもが新しくて途方に暮れてたわ。その時に声をかけてくれたのが会頭ってわけ」

「お前に何も起きなくて良かった。危険なんだぞ、都市の外は」

「わかってるわよ、けど仕方ないでしょ?あなたのおばさんは心配すらしてなかったけど」


 そうか、やっぱりお母さんは心配してなかったか。俺が戦士になるって言っても応援してくれてたしな。普通、息子が危険な職業になると心配するもんだが。

 それよりエンジュも会頭にお世話になっていたのか。また一つ恩が増えてしまった。このままじゃ一生頭が上がんなくなる。


「エンジュもありがとうな、素直に嬉しいよ」

「何よ、急に。別に大したことないわ」


 祠での訓練やここに来るまでの出来事、俺は思ったより弱っていたらしい。エンジュの優しさに今度は素直に感謝の言葉が出てきた。本当にかけがえのない存在だ。

 エンジュはいきなりの感謝の言葉に腕を組み、ツンと横を向く。しかし、何かを思い出したようにハッとする。


「そういえば、アレクが起きたら連れてくるように会頭が言ってたんだった」

「じゃあ、いくか」

「うん、動ける?」


 余裕だ。エンジュのビンタで不甲斐なく気絶してしまったが、こちとら三ヶ月過酷な訓練を受けている。体は丈夫だ。

 エンジュの後に続いて、部屋から出る。部屋を出ると、赤い絨毯が敷かれている長い廊下に出た。両側の壁には木製の窓が取り付けてあり、窓に貼り付けてある布から光が透過し廊下を照らしている。

 窓の外を覗くと、どうやらここは3階らしい。


「アレク、こっちよ付いてきて」


 エンジュはキョロキョロ周りを確認する俺を急かすように声をかける。長い廊下を歩き続けていると、突き当たりに下りの階段があった。

 2階に降りると、3階と同じ構造になっていた。長い廊下に両脇に複数の部屋があり、部屋の中から声が聞こえてくる。


「三階は丁稚の住み込み部屋で、二階は商談部屋になっているわ。商談中の部屋もあるから、勝手に入っちゃダメよ」

「おー、了解」


 声をひそめながら廊下を歩く。今度は廊下の中央にでかい下りの階段があった。そこを下ると、開放的な空間が広がっていた。

 目の前には受付の窓口があり、丁稚の三人が来客対応をしている。受付の後ろを通り、エントランスに出ると護衛らしきプレートアーマーの男性と話し込む上質な服の男性や、忙しそうに駆け回る丁稚の姿が見える。何といか活気があるな。

 それらの光景を横目に、迷いのない歩くエンジュに遅れないように付いていく。どこに向かってんだ。入り口から見て右側、エントランスの一角にとびきりデカい扉があった。

 そこを開いて中に入っていく。俺も続いて入ると、何やら話し込んでいる会頭とセージさんがいた。


「会頭、アレクが起きたので連れてきました」

「すいません、迷惑をおかけしました」

「おお、アレク君起きましたか。体調は大丈夫ですか?」

「はい、バッチリです」


 実際少し眠れたおかげで、旅の疲れも取れた気がする。会頭は少し疲れが滲んだ顔で申し訳なさそうに、頭を下げる。


「水の都を案内しようと思って呼んだのですが、急遽大きな商談が入ったため時間がなくなってしまいました。」

「なんでも、東で大規模な戦争があるらしく大量の食料が必要なんだとよ」


 会頭もセージさんも休まなくても平気なんだろうか?やっぱり大手の商会は頼られることも多く、休む暇もないらしい。


「代わりと言っては何ですが、エンジュに案内してもらってください。積もる話もあるでしょうから」

「水の都のことなら何でも知っているし、頼りになるぜ!」


 申し訳なさそうに会頭が提案してくる。しかし、会頭とセージさんからこんなに頼りにされているなんて、エンジュは本当に頑張ったのだろう。

 三ヶ月ほどしか水の都で生活していないはずなのに、すごいことだ。


「私たちはこれで失礼しますね。後は頼みますよ、エンジュ」

「はい!」

「またご飯でも食べような!アレク」


 バタバタと部屋から出ていく会頭とセージさん。豪華なでかい部屋にポツンと取り残される俺とエンジュ。本当に大変そうだなー気を遣わせて申し訳なくなってくる。


「私たちも行きましょ!」

「そうだな、案内頼んだ」

「任せなさい」


 俺たちも早速街の散策に行くことにした。エンジュに続き部屋を出て、広いエントランスから出口に向かう。出口から外へ出ると、まだ高いところにいた太陽の日差しが俺の顔に刺さる。

 眩しさに目を細める。見えてきた光景は、都市とは思えないほど緑色があった。


「なんだこれ・・。これが『水の都』?」

「そういえばアレクは街に入る時に気絶してたわね。改めて、アレク。ようこそ、水の都へ!」


 まず俺の目についたのは、全長二十Mほどの大きな樹だった。数えきれないほど生えており、街の至る所で見える。木の実や樹液らしきものを採っている人がいる。

 鼻いっぱいに吸った空気に、少し甘い匂いが混じっている。驚きで固まる俺に、エンジュが得意げに解説してくる。


「あれはね、椰子(ヤシ)よ!水の都にはね、たくさんの椰子の木が生えているの。ココヤシ、棗椰子、油椰子とか種類はたくさんで数もたくさんよ」

「椰子・・・・・・?」

「本当は乾燥したところで育つ植物らしいんだけど、水の都にも生えているの」


 そういえば、いつかタリアさんが言っていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。このことだったのか。


 いつまでも召喚の入り口から動かない俺の手を引いて、エンジュが続ける。すぐそこの大通りまで引っ張られる。大通りには、多くの人が行き交っている。馬に馬車を引かせている商人、どこからきたであろう旅人、緑の薬剤がついた薬師など様々だ。すごい活気があり、都会に来たんだという実感が湧き始めた。


「椰子は水の都を象徴する植物よ。例えば、ココヤシ。果実から大量に出る水は甘くて美味しいの!それに飲み終わった果実は家畜の餌になるしね。乾燥させたら保存食にもなるしね」

「なるほど」

「見て!どの家にもあるでしょ。水の都に住んでいる人はココヤシから飲み水を得ているのよ」


 エンジュに指さされ、大通りに面している家を見る。確かに、敷地にココヤシの木が生えている。真っ直ぐ力強く生えているため、大通りに幹が突っ込んでくることもない。


「棗椰子からは甘味になる果実、樹液からお酒が採れたりするわ!」

「すげえ」


 なぜここが『水の都』と呼ばれるかを分かった気がする。椰子の実から採れる飲み水、甘い新鮮な果実、お酒など水に関わるものがたくさん生産される。

 また、飲み終わった果実は家畜の餌になり、さらに家畜からミルクが取れる。全てが水につながる。



「もっと驚くものがあるわ。あれを見て、アレク!」

「なんだよ、ってえええええ」


 商館を出てから驚きの連続で、これ以上驚くことはないと思った。それでもエンジュが俺の裾を強く引くので、なんだなんだと目を向ける。どこまでも続く大通りの終点らしき場所。



 そこに、ただでさえデカかった椰子の木を何倍にもした木があった。ずっと遠くにあるはずなのに、近くあるように見える。なんだあれ、百Mはあるんじゃねえのか・・・・・?人生で見てきたもので一番でかい。デカすぎる。



「あれが水の都の神木。水の神様が宿ると考えられている『ユグドラシル』よ!」

「ユグドラシル・・」

「水の都は六つの大通りがあるんだけど、全てユグドラシルまで続いているわ!まあ正確には管理している神殿なんだけど」


 ユグドラシルともう一度口の中で言葉を転がす。立ち止まって俺を人々が邪魔そうに避けていく。他の人が見えないくらい俺の目にはユグドラシルしか見えていない。神木が持つ神性、力強さに俺はどこまでも惹かれていく。


「私も初めてきた時、同じ反応したわ。今じゃ見慣れちゃったけどね」

「おおおおお、すげえええええええ」

「まだ散策も序盤よ!このまま進めば市場があるの、早く行きましょ!」

「うおおおおお、行こうぜええええ」


 俺はぶち上がるテンションのまま、エンジュを引っ張る。新しいことだらけで楽しくなってきた、来れてよかったぜ『水の都』!!

読んでいただきありがとうございます!また次話もよかったら読んでください!

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