第七話 現れた男は一つの未来
稚拙な文章ですが、よろしくお願いします!
座学や基礎体力訓練、見習い同士の模擬戦、また豚人との不意の会合から加えられた教官との模擬戦などを行なっていると二日ほど過ぎた。
俺はその間、『受け流し』と『突き刺し』の習熟度を上げたり、二つの繋ぎを練習したりしていた。
それなりに形になった俺のスタイルは、模擬戦に付き合っていたアイビーから苛立ちの言葉と共にお認めの言葉をいただいた。
アイビー曰く、「亀みたいな戦法」だそうだ。誰が亀だ。戦士じゃぼけ。
今日はようやく『ガベラの森』での実地訓練が行われる。俺は教官に連れられ、森へ向かう見習いたちを見送る。アイビーとモミジがスミレと共に手を振りながら、歩いている。俺は苦笑しながら、手を振りかえす。遠足気分か。
まあ、元々見習いの中では強いのにスミレまで加わったら、少しぬるいかもな。あいつらの姿が遠くなり、見えなくなったので俺も行くとしますか。
「すいません、待たせました。今日はよろしくお願いします」
「いえいえ、仲間との見送りは大事ですから。いくらでも待ちますよ」
今日、俺を『水の都』に連れて行ってくれる商会の会頭さんに挨拶をする。この商会「水の運び手」はたびたび水の都から俺たちの飲料水、食料を運んできてくれる。頭が上がらない存在である。
この商会があるおかげで、俺たちは訓練に集中できている。「水の運び手」は水の都を拠点に、各地へ水や油などの行商を行っている。商会自体もとても大きく、働いている人は百人を超えているらしい。
「準備はできてますよ、ついてきてください」
「すいません、ありがとうございます」
どうやら、俺が呑気に手を振っている間に行く準備が整っていたらしい。仕事が早い。
会頭に荷車が待機しているところまで案内してもらう。俺の荷物はほぼない、支給された円盾に片手剣、革鎧を装着してあとは数日間の保存食と服を鞄にしまっているだけだ。貴重品もないし、いらない物は部屋に置いとけばいい。
訓練場の片隅に荷車が止まっていた。会頭は待機していた護衛らしき人たちに指示を出している。
鉄の鎧を纏い、背が高く短い赤髪をかきあげた男性。緑色のローブを着て、中の革の鎧がちらついている女の人は竹弓を装備している。
大手の商会だけあって護衛が強そうだ、武神の適性を持っているのだろうか。
「どうぞ、こちらから乗ってください」
「うわー、すげええ大きい」
「うちの商会のものでもなかなか大きい方ですよ。最大ではないですが」
荷車は大きな突撃猪が丸ごと三頭乗りそうなぐらい大きい。布製の屋根まであって、高貴な人が乗ってそうな人が荷車になっている。
やはり遠くの都市まで伝手がある商会だ、荷車も立派である。しかもこれより大きな馬車も所有しているらしい。注目すべきことはまだあった。
「ブルルルルルルル」
強そうなのは護衛だけではなかったらしい、輓獣も強そうだ。この大きな馬車を引く獣も並では務まらない。見た目は牛っぽい。
全長は猪ぐらいだが、横の厚みが全く違う。丸太を何本も重ねた厚みをしており、隆起した筋肉が力強さを際立たせている。顔の横から出ている牙は、人を串刺しにできそうなぐらい鋭い
「普通の牛と暴沼牛の交配種らしいぜ。ぬかるんだ道も難なく歩ける。凶暴なツラしてるが人懐っこいもんだ」
「まあ、『手騎士』の会頭が手懐けているだけなんだけどね」
「それもそうだ、護衛なんていらねえよな。こいつがいれば」
さっきの護衛の人たちだ。男の人ははっきり響く低い声で、女の人は森のせせらぎを連想するほど澄んだ声をしている。
「俺はセージ、よろしくな!」
「私はタリアよ、こんにちは少年」
「アレクっす!よろしくお願いします!」
「ゆるくでいいぜ、アレク」
よかった、優しそうな人たちだ。まだ言葉遣い苦手なんだよな。それでも最近は慣れてきたけど。
「乗れよ!旅はあっという間だぞ」
「セージはせっかちなのよ、許してね」
「はい!」
会頭の出発の声とともに、荷車が動き出した。俺の水の都への旅が始まった。
『水の都』までは戦士の祠から約三日の距離にある。人族領にある都市の中で、西方で一番の大きさを誇る。人口は約三万人ほどいて、近くには衛星都市がたくさんある。俺が適性の儀を実施したところも衛星都市の一つだ。
『水の都』がここまで発達しているのは単純だ。人間は水があるところでしか生きていけない。そのため水がたくさんある都には、必然と人が集まるものである。『水の都』にいる商人は潤沢にある水資源を他の都へ持っていき、利益を得ている。
ここらは湿潤な気候だが、水の都がその名をたらしめる理由は他にある。まあ、それはのちのちに語るとしよう。
さらに、西は豚人との戦いが激化している地方である。そのため武器や傷薬、その他関係品の需要がとても高い。商機を嗅ぎつけた鍛冶師や薬師が集まってきて、更なる発展を遂げている。
要するに、だ。水の都は豊富な資源をがあって、たくさんの人材がある商業都市ってことだ。まあ、俺も全部ハゲ教官に聞いた受け売りで実際に行ったことはないんだけどな。
「楽しみだなー、水の都」
「アレクは行ったことないのか?」
「そうっすねー、行ったことないっす。まず自分の街から出たとこ無いんで」
他の街に行こうにも、金もなかったし用事もなかった。道中は盗賊やモンスターも出る。母と二人で『水の都』に行こうとしたこともあったが、護衛も雇えないし断念した。
いつか母さんも連れてきてやりたいな。
「そうか!すごいところだぞ!俺も初めて見た時はしばらく動けなかったからな!」
「へえー、楽しみです!」
セージさんが俺に積極的に話してくれる。俺はセージさんと一緒に車両の中に座らせてもらっている。水や食料を戦士の祠に運び終わった後なので、ちょーど空いているらしい。
ちなみに会頭は輓獣の上にまたがって、道がずれないように操獣している。タリアさんは屋根の上で見張りをしている。
「座らしてもらっていいんですか?なんか申し訳ないんですけど、連れて行ってもらってるのに」
「いいんだよいいんだよ、会頭は体動かすのが好きだし、タリアに見張りをやらしとけば」
「聞こえてるわよ!セージ!もう少ししたら、交代だからね!」
「はいはい」
屋根の上から、タリアさんの声が響く。タリアさんは感覚が鋭く、目も良いため見張りを任されることが多いようだ。
気を抜いている様子から、セージさんもすごく信頼しているのがわかる。
「アレクは俺と仲良くなるのが仕事だ!たくさん話そうぜ!」
「そんなんでよければ、いくらでも話しますよ」
「そーよ!私たちは少年に興味津々よ!」
「アレク、戦士の証が特別なんだってな!」
「ただ剣が五本あるだけですけどね。別に身体能力も普通ですし、特に変わったことも起きないです」
俺は自分の胸元をぐいと引っ張って、戦士の証をセージさんに見せる。今は役目を待っているかのように、赤銅色になっている。
「おお、本当に五つも戦士の証があるな!ちなみに俺も戦士なんだぜ!」
そういってセージさんは首元を見せてくる。ほんとだ、一本の剣が刻まれている。セージさんの鮮やかな赤髪でわからなった。
「じゃあ、セージさんも戦士の祠で訓練してたんですね」
「十年以上前だけどな!俺もマッスル教官にはお世話になったよ」
「え、セージさん何歳なんですか?」
「今年で二十八だな!」
十三年前からあのハゲは教官してんのか?じゃあ、あいつは一体何歳なんだ。四十ぐらいだと思っていたがもっと年寄りの可能性も出てきた。やっぱり化け物だ、やばい霊の類かもしれない。
俺がとんでもない秘密を暴いてしまったかもしれないと上の空になっていると、セージさんが俺に静かに近寄ってきて耳打ちしてくる。
「ちなみにタリアは二十歳だ。お前のこと少年って呼んでるけど、そんなに歳は離れていないぞ。お姉さんぶりたい年頃なんだ」
「そうなんですね」
「聞こえてるわよ!」
屋根がドンドンと叩かれる。やっぱり感覚が鋭いんだ、小さな声で話してたのにタリアさんには筒抜けだったらしい。
「セージさんは卒業した後はどうしたんですか?」
「俺か?俺はずっと東の海岸沿いに行ったよ。魚人たちとの戦地だな。塩の生産を担っている重要な都市の防衛についていたぜ」
「そうなんですね」
「まあ、豚人と違って社会性もなく、単発でくる襲撃を守るだけだけどな」
それでも何年も生きている戦士っていうのはそれだけで強いことがわかる。
「何年かそこで守備隊をしていたら、会頭にスカウトをしてもらってな。今は水の運び手の護衛をやらせてもらっているわけだ」
「セージは東の砦で有名な戦士だったんですよ。当時、猛威を振っていた河豚の魚人を撃退したんですよ。体を覆う毒の棘が危険すぎて、後手に回っていたのをセージが殲滅したんです」
会頭が輓獣に跨りながら、こちらに振り返って話しかけてくる。自分の護衛の腕前を誇らしく思っているのか、とても優しげに微笑んでいる。
俺はセージさんの武勇伝、一人の戦士が証明した強さに興奮する。
「すげえええええええ、なんすかそれ!!?」
「やめてくださいよ、会頭。あれは俺だけの力じゃ無いですって。しかも多分俺の『戦士の試練』に巻き込んじゃって申し訳なかったですから」
「私は『戦士の試練』は迷信だと思いますがね。こんな危険な世の中です、誰もがいつ死ぬかわかりません」
やっぱりすごい、セージさんは名の知れた戦士だったんだ。出会った時から感じていた強者のオーラに納得がいく。やっぱり戦士サイコーだ!!『水の運び手』についてきて良かった!
それから俺はセージさんの武勇伝を詳しく聞いたり、タリアさんとの出会いを聞いたり楽しい時間は瞬く間に時間はすぎていった。
西の祠を旅立って最初の夜、初めて街の外で寝る。街道から少し離れたところに焚き火を焚き、野宿の準備をしている。会頭は、一日中走ってくれた輓獣に水や食べ物をあたえ労っている。
タリアさんは危険がないか偵察に出かけている。セージさんは会頭が泊まるテントを設営している。
手伝うことがないか考えていると、ちょうどタリアさんが偵察から帰ってきた。
「こちら側の林には怪しいものはなかったわ、今度は反対側の林を見てくるわ」
「了解。アレク、ちょうどいい。タリアについて行って手伝ってやってくれ」
「うす!タリアさんよろしくお願いします」
「そんな堅く真面目に頑張んなくてもいいわ。私がいるから楽にね」
タリアさんが俺の緊張をほぐすようにフォローしてくれる。偵察とか全く経験がないが、足を引っ張らないだろうか。実地訓練でも夜は危険度が桁違いに増えるので、いつも夕暮れまでには訓練所に帰るようになっている。
「あまり足音を立てないでね、私が気配に気づきにくくなっちゃうから。できるだけでいいわよ」
「はい、頑張ります」
タリアさんが慣れたようにスイスイと竹林を進んでいく。全く光源がなく、十M先の光景も見えないほど暗いがタリアさんの足取りは軽やかだ。それでいて全く足音がしない。俺はタリアさんの姿を見失わないように必死だ。
「そうだ、少年」
「なんですか?」
タリアさんが振り返ることなく、話しかけてくる。話しても大丈夫なんだろうか、音とか聞き逃したりしないのだろうか。
まあ、タリアさんから話しかけてきたんだし。俺が心配するレベルじゃないだろう。
「ここらの竹は大丈夫だけどね、水の都付近の竹は勝手に採っちゃダメだからね。傷もつけちゃダメよ。まあそんなこと言わなくても採らないだろうけど」
「はあ、わかりました。けど、なんで竹を傷つけちゃいけないんですか?」
「それはね、竹も貴重な資源だからよ」
そうなんだ、竹は色々なものに使われたりする。タリアさんが使っている弓にも竹が使われているし、容器としても使われたりする。撥水も高く街の飯屋に箸として使っているところもある。
でも、そんなに貴重なものなのだろうか。こんなにたくさん生えているのに。
「なんだか、納得いっていない顔ね。水の都付近の竹は特別なの」
「特別?」
「そうよ、水の都で生産される油は竹からほぼ取れるのよ」
「油が?けど普通の竹からも油取れますよね?」
「雀の涙ほどね。水の都の竹は異常なの。まあ竹だけじゃないんだけどね」
どういうことなんだろう、普通の竹でも火で炙ると油が噴き出してくる。その油で竹を磨いたりすると、竹がとても鮮やかな色になったりするのだ。
「着いたらわかると思うけど、水の都は植物の生態が異常なの。その異常な生態が水の都の経済を支えているわ」
「ふむ」
「まあ、水の都付近の植物は全て誰かの持ち物だって覚えといて。無闇に採ったり、傷つけてしまうと逮捕されちゃうわ」
「わかりました、気をつけます」
それからもタリアさんは周囲をキョロキョロ見渡しながら、俺に話しかけてくれる。多分、俺が緊張しないように話しかけてくれているのだろう。少し小雨が降ってくる。小雨が葉に当たる音が林に木霊し始める。
しばらく会話続けていたが、急にタリアさんが立ち止まる。何か険しい顔をしている。
「止まって、静かに」
俺は言われた通りに黙って腰を下げる。何が起きてもいいように、腰の盾に手をかける。雨の音で聞きにくいが、異変を聞き逃さないように俺も耳を澄ませる。すると、俺の後ろの竹林からガサガサ音が鳴り始める。
「下がって!私の後ろに」
「はい!」
タリアさんが弓を構え、俺の前に立つ。俺も後ろに下がりながら、盾を腰の留め具から外し左手で構えた。右手を片手剣にそえ待機する。ドンドン音が近づいてくる。なんだ。
「チュウ」
単なるネズミだった。俺たちは顔を見合わせて、ため息を吐き合う。緊張して損した。俺は念の為構えておいた盾をもう一度腰の留め具に掛け直す。タリアさんも弓矢を弓筒に戻している。
「怪しい建物も人もいないわね。そろそろ戻りましょ、少年」
「はい、なんだか気疲れしました」
ネズミの出現で張り詰めた空気が緩み、集中力が切れてしまった時だった。突然、前を歩いていたタリアさんが俺を押し倒してくる。なんだ!!?
「うっ」
「お!なんだ、避けられちまった」
「まあ、別に結末は変わらんだろ」
顔に何かの水滴がついた気がした。なんだ、と顔を拭い見てみると血だった。慌ててタリアさんの方を見ると右腕を押さえて、竹林の影から突然現れた二人を睨みつけている。
「盗賊ね。しかも戦闘適性持ちだわ」
「せいか〜い。俺は剣士の適性を持っている。お嬢ちゃんは弓士かな?近距離の弓士なんて格好の獲物だぜ」
「私は戦士だ」
竹林の隙間から漏れ出した月の光が、盗賊たちの姿を映し出す。
一人は脂っこい髪に無精髭が目立つずんぐりとした体型の剣士。血がついた長剣を持っており、俺たちに不意打ちをしてきたのはコイツだろう。今もニヤニヤと嗜虐的な笑みを浮かべている。
もう一人も長剣を持っているが、戦士らしい。少し頬がこけていて、顔には生気が宿っていない。どちらも三十を過ぎていそうだ。適性を告げてきたのは、こちらの戦意を削ぐ目的か。
「明らかに見習いの小僧と弓士のお嬢ちゃんが、こんなところにいたら襲ってくださいって言ってるようなもんだぜ〜」
「残念だが、命はもらっていく」
タリアさんは右腕を斬られた。ただでさえ、竹が無造作に生えていて射線が通りにくい立地なのに傷をつけられている。そして見るからに戦闘経験が豊富で、近接戦闘適性の盗賊たち。圧倒的にピンチだ。
「油断した・・・・!雨で気配に気づけなかった」
「助けを呼んでも無駄だぜ〜。雨で音がかき消されちゃうからなあ」
「ちっ、こんなところにも盗賊がいるとはね」
「南方で賞金首狩りが増えてんだよ、そんで新たな拠点を探してたら、平和ボケした奴らがたくさんいるココを見つけたわけだあ」
「最近来たのね、それは見回りも見逃すはずだわ」
剣士適性の盗賊は饒舌だ、聞きもしていないことをベラベラ喋ってくる。どうやら賞金首らしい。話しながらも立ち姿には隙がなく、タリアさんの不意をつけることから強いことがわかる。
このままずっと話してほしいが、時間がいくら経過しても、雨足が強くなる一方で状況は悪くなるばかりだ。男もそれをわかっているのだろう、だから呑気におしゃべりをしている。
昼のセージさんの様子を見ていても、かなりタリアさんを信頼していて異変を感じるのはもっと後だろう。助けも期待できない。どうしたら・・・・・・。
「少年、流石に私一人で二人を仕留めるのは無理だわ」
「はい」
「おお、なんだなんだ内緒話か?オレも混ぜてくれよお」
タリアさんがオレに耳打ちをしてくる。怪我してる右腕に変わり、左手で短剣を抜き放つ。
「私が盗賊の男をやる。あなたは合図を出したら走りなさい。おそらく逃さないために戦士の盗賊が追ってくるはずだわ。戦って、時間を稼ぐことだけを考えて。必ず助けに行くわ」
「でも、タリアさん・・。利き手怪我してます。オレが剣士と戦いますよ!」
「いや、おそらく剣士の方が圧倒的に慣れているわ。戦士の方はどこか動きがぎこちない。もしかしたら盗賊になって日が浅いのかも。それでも生きている戦士ってだけで未知数だわ。だから、気をつけて」
タリアさんの提案はどう考えても、タリアさんが危険すぎる。いつも弓を右手で引いている様子から利き手は右だろう。今は右手を斬りつけられ万全の状態じゃないのに、加え相手は剣士。しかも相当慣れている。どう考えても危険だ。
「少年、これが最善よ!」
「でも・・・」
「いいから行って!」
渋るオレにタリアさんが発破をかける。タリアさんの声に導かれるようにオレはタリアさんを置いて駆け出す。
「おっ、逃げる気かあ?オレはこのお嬢ちゃんをやる。お前はあのガキを殺せ」
「わかった」
「はあああああああああああああああ」
「気が早いぜ!お嬢ちゃん!」
予想通りだ。剣士の盗賊はタリアさんを痛ぶる気だろう。今までの会話を見ても剣士の男が主導権を握っていた。後ろを見ると、戦士の盗賊がオレを追いかけてきている。タリアさんが器用に左手で短剣を逆手に持ち、剣士の男と切り結んでいる。
「少年!生きて!」
「よそ見すんなあ、お嬢ちゃん!寂しくなっちゃうぜ〜」
タリさんの声を背にオレは走り続ける。オレは自分のできることを遂行する!ぬかるんだ地面を一歩一歩駆け抜けて、少しでも距離を取る。
━━〇〇〇〇━━
ここらでいいか。オレはタリアさんたちと距離を十分取れたと思い、足を止める。
「もう逃げないのか?見習いの少年よ」
「逃げてねえ。お前と一対一で戦うためだ」
オレの言葉にバカにするような表情を浮かべる。頭にタリアさんの『生きて』という言葉が過ぎる。ごめんなさいタリアさん、オレは守られるだけじゃない。
オレの方がタリアさんを助けるんだ。早めにコイツを倒して、タリアさんのところへ行く!
「勇ましいことだな、見習いの少年。若いな。ところで少年はなんの見習いなんだ?」
「お前もおしゃべりかよ、盗賊はみんなおしゃべりなのか?」
「まあ、そういうな。盗賊をしているとまともな奴と話すことが少なくなる。少し付き合ってくれよ。どーせ、君は時間稼ぎを任されているだろう?」
(バレている・・・・・。完全に二手に分かれた理由が時間稼ぎってことをわかっている)
「・・・・・戦士だ。」
「戦士か・・・・。私と同じだな」
「お前と一緒にすんな!お前は盗賊だろうが!戦士は盗賊なんかに力を使わない!」
「本当に若いな、見習いの少年。まるで昔の私を見ているようだよ」
盗賊の男は何かを思い出すように、遠い目をする。力の宿っていない目が見るのは、どんな思い出だろう。俺には関係ない!これ以上話に付き合ってやる義理もない。
俺は盾と片手剣を構え、盗賊の男へ向かって距離を詰める。距離を詰めてきた俺に気づいた盗賊はようやく剣を構えた。
(遅い!もう間合に入ってる)
俺は盾を前にするように半身のまま、男に体当たりを仕掛ける。『盾の強打』!!!訓練を経てうまく盾に力を乗せれるようになった俺の技術は、犬人を気絶させることができる。
(入る!!!)
「肉体の全盛を迎えていない、見習いの攻撃は軽い」
確実に入ると思った俺の盾は、逆に半歩距離を詰めてきた戦士の盗賊が装着している麟の肩当てに当たる。半歩分の距離を失った俺の攻撃だが、それなりの力はあるはずだった。
だが、押し返されたのは俺の方だった。思わぬ衝撃に俺は思わず腰が浮き、後ずさる。
「私の肩当ては鉄の剣さえも弾く大蛇の鱗を数層重ねている。見習いの未熟な『盾の強打ぐらい受け止められる」
「今度はこっちが攻撃するぞ?しっかり受け止めろよ?」
よく見ると、戦士の盗賊が装備している右の肩当てと籠手だけ上質な素材が使われている。そして、明らかに舐められている。
盗賊の男はこちらに宣言した後に、腰だめに構えられた長剣は力を解放するように振るわれる。俺はあらかじめ宣言されていたため盾を構えるのが間に合った。
「ぐっっっっっ」
強い衝撃に思わず食いしばった歯の隙間から声が漏れる。はぐれ豚人ぐらいの強さはある!盾だけでは受けともきれず、盗賊の長剣は俺の胸当てに当たる。その際、左鎖骨あたりの服が少し切られる。
(わかっていたけど、強い!!俺より戦いの経験があって、力も技術もある)
俺は痺れる左腕を動かしながら、冷静に考えを巡らせる。格上相手に勝ち筋を探していると、盗賊はこちらにまた話しかけてくる。ちょうどいい、手の痺れを取らなくては。
「見習いの少年よ、ある男の話を聞いてくれるか?」
「・・・・・・・・・」
俺は無言を貫くが、戦士の盗賊は気にした風もなく話し続ける。
「ある男は、東の戦士の祠に見習いとして入り半年間訓練することになった。卒業後は見習いの息が合った六人でパーティを組んだ。そして戦場には行かず、狩猟者として活動したんだ」
狩猟者は依頼を受けて、モンスターの素材や採取が難しい素材をとって納品する職業だ。戦場で働かない戦闘適性の人たちがなるもので、都市から援助を受けれない分、自由に活動することができる。
一見、魅力的に聞こえるが怪我の多いこの世界、援助の受けれない狩猟者は長く活動できないとされる。
「楽しかったよ。東から西へ、北から南へ、自由に旅して金がなくても仲間と大騒ぎして。恋もした。あの時は本当に楽しかった。転機は突然だった。ある時、森を探索している時だった。成体と幼体の豚人がいたんだ。おそらく、母子だったのだろう。私たちはその日何も成果がなく気が立ってたんだ。狩ることにしたよ。子供を庇う母豚人を狩るのは簡単だった」
俺は黙って聞いている。手の痺れも取れてきた。いつでも戦える!俺は左手でしっかり円盾を握り、片手剣の握りにも手をかける。
「俺たちは喜んだ。母豚人が上豚人の牙を首飾りとして着けていたんだ。上豚人の牙は超希少素材だ。煎じて飲むと増強剤にもなり、研ぐと鋭い牙剣にもなる。俺たちは思わぬ臨時収入に喜んだ。鼻歌まじりに都市に帰ろうとしたんだ」
そこで戦士の盗賊は言葉を止めた。顔を伏せ、何かを堪えるように震えいている。なんだ?チャンスか?盗賊の男が顔を上げた。恐怖と後悔でぐちゃぐちゃになった顔が現れた。
俺は攻撃しようとしたが思わず動きを止める。
「もうすぐで森を抜けるところで突然現れたんだ、上豚人が。戦いすらになかった。片方の牙がない上豚人の怒りは凄まじかった。そして、仲間を傷つけた奴らを決して許さない。私の仲間の一人が捕まり、地面に叩きつけられた。即死だよ。私たちは散り散りに逃げた。それでも一人一人上豚人に捕まっていく。私は恋人の手を引き、必死に逃げ続けた。その時、恋人が足元の窪みに気づかず足を捻ってしまった。もう、上豚人はすぐそこまできてた」
俺はもう何も言えなかった。攻撃することも忘れて、男の話に聞き入っていた。一人の戦士の物語を、今ここにいる男の結末を。
「恋人は目の前で握り殺されたよ、まるで愛するものを殺された恨みであるかのように。その時、俺の心が折れた音がした。仲間も恋人も全員殺され、私はもう武器さえ握れなかった。そこからは全く覚えていない。どうやって生き残ったのか、気づけば近くの都市について宿でずっと震えていた。もう外にも出たくなかったが、お金だけがどんどん消えていき、宿を追い出され、路上で転がっていたところを今の剣士の仲間に拾われた」
その話を聞いて、俺は心に火がついたような気がした。
「ふざけんじゃねえ!仲間が死んだからって、盗賊してんじゃねえ!自分が盗賊してる理由を仲間のせいにすんな!」
「見習い少年、年老いた狩猟者の働き手なんてどこにもないんだ。戦場に行き、戦えなくなったものは働き場を紹介してもらえる。けど私は戦場へは行かなかった。だから、どこにも働く場所なんてなかったんだ」
「だからって、盗賊をやっていい理由なんてないだろうが!!!!」
確かに商会の護衛や街の治安維持などは、セージさんみたいにスカウトされた優秀な戦闘職がつくことが多い。パーティのいない狩猟者なんてお呼びじゃないだろう。一人では今までみたいに探索もできない。でも、それでもだ!!!
「うちの教官は仲間が死んでも、お前みたいに仲間のせいしないで、次の戦士を育ててんだ!お前みたいに勝手に絶望して、言い訳をして、盗賊をしてるような奴が被害者ヅラすんな!!!」
「なんだと!?仲間も死んだこともない見習いが!私の何がわかる!?」
「うちの教官は、仲間のことを思い出して毎晩泣いてんだ!それでも毎日、俺たちのために前向いて教えてくれてんだ!!」
教官の部屋には剣や弓、盾などが置いてあったりする。教官の武器は斧でそれらを使ったことなどないのに。毎晩、それらの武器を一人磨いて泣いている姿を俺は知っている。
俺の戦士の証が俺の思いに呼応して、赤く光り輝き始める。
「うちの教官は仲間の死を抱えながら、前向いて生きてんだ!俺たちを育ててんだ!勝手に諦めて盗賊なんかやっているお前みたいな雑魚とは違う!!うちの教官は戦士なんだ!!」
「言わせておけば、見習い風情の若造が・・・・・」
「たしかに、同情する。仲間が死んだのも悲しい出来事だと思う。どれだけ悲しいか俺にはわからないが、俺は仲間が死んでも絶対盗賊にはならない!力を奪うためには使わない!」
「もう黙れ。もういい、話した私がバカだった」
「お前みたいに、同情してもらうために襲った相手に話しかける中途半端なやつには絶対ならないぞ!!」
「だまれええええええええええええええ、殺してやる!」
盗賊の男は激怒している、口から泡を飛ばし勢いよく剣を振りかぶる。そして怒りのまま俺との距離を詰め振り下ろしてくる。俺は水平に構えた片手剣で受け止めて、斬り結ぶ。もう手は万全だ。目も暗闇に慣れてきた。
「何もかも気に入らない!自分を戦士だと思っているその目も、その光る戦士の証も!全部ぐちゃぐちゃにしてやる!」
「俺もお前を嫌いだ。戦士の力を盗賊のために使いやがって」
俺たちは示し合わせたように、お互いの剣を弾き距離を取る。そして、もう一度お互いの命を取るため、ぶつかりあった
読んでいただきありがとうございます!また次話もよかったら読んでください!