第六話目 戦士のお守り、続く異変
稚拙な文章ですが、よろしくお願いします!
「なんだったのー?教官に呼ばれてたよね?」
「どーせ、また指導でしょ」
「うるせ」
教官に呼び出された俺を待っていたのは、アイビーとモミジだった。食堂で配給をもらわずに律儀に俺を待っていてくれたらしい。
「飯食いながら話すわ、腹減っただろ?いこーぜ」
「そうだねー」
「今日は何かしらねー」
俺たちは今日の配給のメニューを考えながら食堂へ向かう。俺たち見習いは無料で食事を食え、さらに武器も支給される。人族全体が戦う者たちへの支援を全面的に行い、各地の訓練施設は成り立っている。
近くの街から隊商が食糧を運んでくれたり、鍛治師が数打ち品を提供してくれる。その代わり、見習いを卒業したものたちは、一部例外を除き、みんな戦場へ立つことになる。ちなみにサンスも一足先に卒業しており、今頃戦場に身を置いていることだろう。
俺たちも支援されてばかりではなく、自分達で食料を調達したり、モンスターの素材を街へ提供したりする。今日の火竜鉱石も街へ運ばれて鍛冶師に提供され有効活用される。このような互助関係によって、上手いこと社会が回っている。
食堂に着くと、女給の人たちの前に見習いたちが列をなして並んでいる様子が見受けられる。さっき座学が終わったばかりで混雑しており、女給の人が大急ぎでご飯をよそっている。
「ちっ、仕方ねーな。並ぶか」
「いい匂いだねー、今日はシチューかな?」
「すごくお腹が減ったわ、今日も訓練頑張ったし」
しばらく待つかと思ったが、すごい勢いで人が捌けていきすぐ俺たちの番になった。
「おっ、第六部屋の子たちだね。今日もたくさん素材が届いたよ、大活躍だったらしいね!」
「いや、どーもどーも。いつも美味しいご飯ありがとうございます」
恰幅のいい中年の女給さんが、明るく俺たちに話しかけてくる。もう三ヶ月通っているので顔馴染みだ。
「今日も課題達成おめでとう、たっぷりサービスしとくね」
「マジっすか!?めちゃ腹減ってたんで助かる!」
「ありがとうー」
「うわぁ、美味しそうなシチュー。豪華だわ」
ガベラの森の実地訓練では、毎回課題が出される。もし達成できなかったら、配給の量が減らされ訓練がしんどくなる。食べたかったら頑張るしかないということだ。
逆に課題が達成できた場合、多くの成果を持って帰ることができた場合、配給の量が多くなる。育ち盛りの俺たちには死活問題である。
今日の俺たち第六部屋のメンバーは、森林猫や突撃猪の討伐、犬人の洞窟の発見、火竜鉱石の提出など特別加点が多くあり配給が豪華になっている。
「サンスがいなくなって、どうなることかと思ったけど、なんとかやれているわね」
「たりめーだ。俺たちは豚人倒してんだぞ。今頃、浅部のモンスターなんかにやられっかよ」
「たしかに、あれから動き良くなったよねー」
豚人の討伐に成功した俺たちは大きく成長した。同期の見習い戦士たちの中でも、より強くなり実地訓練で成果を残すことが多い。大抵の同期たちは四人や五人で小隊を組んでいるにも関わらずだ。
俺たちはサトスが抜けた今、三人で連携をとっている。今日もゴロゴロ大きな芋入った森林猫のシチューを、口いっぱいに頬張れる。羨ましそうな同期の視線を感じながら、幸せを享受する。
「それで何だったのよ、呼び出された理由を教えなさい」
「そうだよー、ほんとにまた指導ー?」
「ちげえよ。なんか次の実地訓練、俺だけ一人でやらなくちゃいけないらしい」
「えええええええ!!また人数減るの?なんでよ!?」
「アレクも大丈夫なの?いくらなんでも一人は酷すぎるよー」
たしかに、いくら俺でもモンスターにタイマンしたいとは思わない。けど、事情があるんだよなー。俺は先ほどのハゲ教官との会話を思い出す。
「アレク、お前に言っておくことがある。次の実地訓練はお前だけ別行動だ。」
神妙な顔をしたハゲに呼び出された俺は、早々に無理難題をふっかけられた。ぶっ飛ばしてやろうか。
とはいえ、俺も見習い歴三ヶ月。怒りを抑え、丁寧な口調を心がける。粗雑な口調で何度も怒られた。
「教官どのは俺をどうしても殺したいらしい。以前、教官の頭に光苔を乗せたことをまだ怒っているのでしょうか?あれは事故だと納得してくださったではありませんか」
「違う、それはまだ許してないが、別件だ。お前は突然ここに連れてこられたのを覚えているか?」
「ん?まあ、はい」
すっかり忘れてたが、適正の儀をしたあと俺は母に会うこともできずここに連れてこられた。他の人たちは適正の儀が終わった後に、家族と別れを済ませ訓練に来ているのに。
やっぱりおかしい扱いなのか。
「お前は特例だ、一刻も早くここに連れてくる必要があった」
教官はそう言って、俺の胸を指す。違う、厳密に言えば胸にある戦士の証だ。五本の剣が心臓へと剣先を向け、環状に並ぶ戦士の証。俺の誇りだ。
「俺の戦士の証は一本の剣だった。普通、戦士になったものは一本の剣を証にもらう。ごく稀に三本の剣をもらう奴もいるが、四本以上は見たことがない。それが、お前は五本だ」
確かに、俺以外の証は一本だった。唯一スミレだけ、二本の剣が腕にあった気がする。
「さっきの座学でも言ったが、神様は俺たちの体に宿るとされている。俺たち戦士の場合は、わかっていると思うが戦神様だ」
「はい、わかっています」
「名を司るように戦神様は、戦いが大好きだ。感じたことはないか?死闘をしている時ほど、証が輝き出し力が湧いてくるの現象を」
「あ、あります。三ヶ月前はぐれの豚人の時に。死にかけていて気にしていませんでしたが、赤く光っていました」
「やはり、そうか・・・・・・」
教官は確信を抱いたように、頷き始める。真剣な顔をして俺を見つめる。なんとなく俺は背筋を伸ばした。
「戦士の証をもらったものは必ず戦いに巻き込まれるといわれている。それは本当だ、俺の経験上間違いない。俺は『戦士の試練』と呼んでいる。俺みたいに証を失ったものには、もう神様も見向きをしない」
なるほど、そんな背景もあるのか。戦士が不人気な理由に生存率が低いことが挙げられる。その原因はもしかして『戦士の試練』なのかもしれない。
戦士は逃げることがほぼ禁止されているのにも関わらず、試練が降りかかってくる。冗談じゃない、歩く災害だ。
んん?もしかして?
「そうだ、お前の証は今まで見たこともない『戦士の試練』を起こすんじゃないかって危惧された」
なるほど、俺は知らぬ間にとんでもない災害になっていたようだ。母に会うこともできず、エンジュと話すこともできず連れてこられたのも納得である。
俺も俺が原因で竜とかが街を襲ったら、罪悪感がすぎる。
「今まで、お前の証の様子を見ていた。結果、普通の証となんら変わらないことが分かった。街に行っても良いと思う」
「おお、ほんとですか?」
「だが、条件がある」
もう一生街を歩けない悲しい化け物になるかと思い、嬉しい知らせに喜びを露わにする。喜びに浸る俺に水を差すように、警告するハゲ。
「お前にはあるものを採ってきてもらう。戦士のお守りと言われるものだ。気休めにそれを身につけておけ、それでお前は自由だ」
「はぁ、わかりました」
何を採ってこなくちゃいけないのか分からないが、一人で行くぐらいだしそんな危険もないだろう。俺は喜んで返事をした。
「・・・・・・・・てな、感じだな!」
「なんというか、ツッコミどころがたくさんね」
「そうだねー、アレクって家族と話もできなかったんだねー。僕なんてお母さんとお父さんが三日間ぐらい離してくれなかったよ。怒った教会の人が家に来るまで、閉じ込められたなー」
遠い目をして話すモミジに同情する。自分の子供が戦神と武神の適性もらうと、死ぬ可能性が高いからな。心配だったんだろう。
「やっぱり、あんたの証って普通じゃないのね。戦士バカなだけあるわ」
戦士バカじゃないです、ただの戦士です。
「結局、なにを採ってこなくちゃいけないのー?」
「あー、なんだっけな?思い出した。巨大椰子の実だ、めちゃくちゃ硬い実らしい。砕けないから縁起がいいみたいな」
「椰子の実?」
「そんなことどうでもいいのよー!!!!!私たちはどうなんのよ!二人じゃまともなモンスター狩れないわよ!」
「なんだよ、突然うるさいな」
俺とモミジが話してたら、突然横から怒鳴り声が挟まれる。アイビーが眉を逆立てながら、こちらに顔を近付けてくる。
「あんたの椰子の実は、ここから少し離れたところにある水の都にあるわ!とってもとーーっても、のどかなところよ!!あんたが呑気に観光している間に、私たちは二人で戦いよ!どーすんのよ!」
「近い近い、いいじゃねえか。戦えんだから。まあ、心配すんな。小隊は再編成だ、ちゃんと人数は増えるぞ」
「ふん!ならいいのよ。全く焦って損したわ」
「えー僕は新しい人と連携できるか心配だなー」
心配しなくていいと思うぞ。俺は心の中で呟く。そして横目で今も幸せそうにシチューを頬張る黒髪の少女を見つめる。その少女の前にある皿には俺たち以上の食べ物が支給されている。
(なんてたって、同期最強のスミレが加わるからな)
俺は言葉を心の中にしまって、シチューを楽しむことに集中した。
俺の単独演習が決まった翌日、今日は実地訓練はない。
今日は昨日の実地訓練を顧みて、小隊ごとにトレーニングする日である。俺たちの小隊は特に反省点もなかったので、各自トレーニングすることにした。
俺はいつも通り訓練場を走り込み、基礎体力の向上に務めたあと武器の習熟に努め始める。まだまだ技術を磨かなくてはいけない。
「この程度では、戦士豚人の攻撃も受け流せんぞ!そらそらそら!」
「ぐっっっっっ、調子に乗りやがって。舐めんなああああああ」
現在俺はハゲに付き合ってもらって円盾で攻撃を受け流す練習をしている最中である。今までの訓練で俺の目指すべき戦士像がなんとなくだが見えてきた。
俺は戦士として肉体的に強くない。砂場での走り込みや素振りなどで戦う肉体を作れてはている、だが、身長はいまだに百七十M二届かないぐらいだ。
卒業したサンスの身長は、あの時でさえ百八十Mを越えていた。今はもっと屈強な肉体になっているだろう。
加えて、特別な柔軟性だってない。スミレのように柔らかい手首や体を使った剣術だって使えない。
アイビーのような高い瞬発力だってない。ないものだらけだ。
「だらあああああああああああああ」
「もっと軌道をよく見ろ!恐怖を抑えて軌道上に立て!じゃないと受け流せないぞ!」
「おっ、だっ、らあああああああああ」
「力の乗り切った攻撃は見極めて避けるんだ!力が乗り切る前の攻撃を狙うんだ!そんなんじゃすぐ腕が壊れて終わりだぞ」
俺の強みは痛みと恐怖への耐性。幼い頃から培ってきた戦士への憧れは、俺の心を奮い立たせる。目かっぴらいて、覚悟を決めて攻撃に飛び込むこと。それが俺の強みだと思う。
飛び込んだところでサンスほどの屈強性もなければ、受け止めれない。受け止めれないなら流せばいい。
だからこそ、受け流しの訓練である。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
無意識のうちに『戦士の雄叫び』が漏れ出る。腹から出した声が俺の体に喝を入れる。もっと、もっと、もっとだ!!!何もかも守れるように、最後まで立てるように、もう仲間に心配させないように。
覚悟さえあれば、何度でもいつまでもきつい訓練をできる。
「本当に気持ちは強いな、けど体がついてきてないぞ。これはどうだ!」
ハゲ教官は絶えずさまざまな角度から木斧を振るってくる。視線のフェイント、緩急、体に染み付いた動き、全てがハゲの攻撃を危険なものへと昇華させる。
なんとか木斧を弾き、一旦体勢を整える。ハゲは俺に休む暇を与えさえないとばかりに、距離を詰めてくる。木斧を左腰ために構えながら、視線を足下に向けてくる。
(足元はフェイント!!狙いは肩!)
これまで散々ボコボコにされた経験、相手の踏み込んだ足の位置、一瞬で相手の狙いを予想しながら逆に一歩前に出る。
「おっ!」
ハゲは驚いた声を上げながらも、下段に構えた木斧を俺の肩めがけ振り上げてくる。予想通りだ。
(攻撃の軌道には乗った。距離も詰めた分、力は乗り切ってない。あとは、受け流すだけ!!!)
俺は構えた盾を斧の軌道上に乗せ、下から掬い上げるように動かす。盾の角度は斜め五十度、真っ向から衝撃を受けてはいけない。衝撃。盾と木斧がぶつかる。
木斧は盾の表面を滑るようにぶつかっていき、本来の軌道を逸れていく。
「よ、しゃああああああああああ」
「やるな、ふっ」
ハゲの木斧は俺の頭上を超えるように振り上げられた。今、ハゲの胴体はガラ空きだ。
今こそ、恨みを晴らすときぃぃぃぃぃ!ぶっ殺す!!
しかし、反撃に移ろうとした俺の体は意思とは反対に後ろに流れている。
(しまった!!?流しきれなかったか!)
俺は衝撃のまま、尻餅をついてしまった。また失敗だ。
「最後のは惜しかったと思うぞ、少し危なかった」
「うるせー、失敗は失敗だ」
「また言葉が荒くなってるぞ、将来、戦場で上官への言葉遣いで苦労するぞ」
「戦えればいいんだよ戦えれば」
ハゲは肩をすくめて、俺に背を向け動き出す。
「おい!まだ終わってねえぞ」
「今日はもうやめておけ、何度も打ち据えた。いくら木とはいえダメージが蓄積しているはずだ。別の訓練をしておけ」
「ちっ、また次も頼むぞ」
「言葉」「なにとぞよろしくお願いいたします、上官どの」
手をひらひらとさせ、去っていくハゲ教官。仕方ない。『受け流し』の訓練はここまでにしておこう。攻撃の方面も課題がたくさんだ。休んでる暇はない。
「おい、スミレ〜。俺の訓練手伝ってくれよ!」
「またあなたですか?最近、あなた小ぶりの片手剣に変えたじゃないですか。全然違う武器ですよ」
「同じ剣じゃねえか。頼むよー」
「んじゃあ、振ってみるです」
俺は一人で訓練しているスミレに絡み、教えをねだる。ここ数ヶ月でちょくちょく話しかけ仲良くなったためか、結構素直に話してくれるようになった。
「うーーん、やっぱり片手でもつとどうしても威力は足りなくなるです。それなら、突きを練習するのはどうです?」
「はい、突きです。どの剣でも突きの威力は踏み込みに依存します。準備動作も短いですし、あなたの盾で防いだ後の反撃にも優秀です」
「まじか!?教えてくれよ、その突きを!」
「まあ、いいです。見ていてください。こう!です」
「こう!か?」
「違うです!こうしてこうして、こう!です」
「わかった!そうしてこうしてあーして、とう!だな」
「全然違うでーす!!!!どうしてこうしてろうして、ぽんです!!!」
「わかった!・・・・・・・・・・・・・・」
「何を見ていたんです!・・・・・・・」
「わかった!・・・・・・・・・・・・・・」
俺たちの訓練はその後も白熱していき、様子がおかしいと感じた教官に頭を叩かれるまで続いた。それでもスミレがつきっきりで見てくれたおかげで、なんとか形にはなったと思う。
テレテテテッテッッテー、俺は技術『突き刺し』を身につけた!!!
読んでいただきありがとうございます!また次話もよかったら読んでください!