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第二話目 いざ実践・戦士の誇りを抱いて

稚拙な文章ですが、よろしくお願いします!

 多分これは幼少の頃の夢だろう。

 だって、エンジュがめちゃめちゃ可愛らしい笑顔で笑ってる。ここ最近、あいつの意地の悪い顔しか見てなかったな。こんなかわいらしい時もあったもんだ。

 けど、なんでこんな夢を見ているんだろう。


「アレク!早いよ、置いてかないで」

「遅いぞ、エンジュ!今日は行商人が来てるんだぞ。早くしないと何もなくなっちゃうぞ」


 そう言えばそうだった。この時、行商人が珍しく来てたんだ。俺らが住んでいた田舎にはめぼしいものなどなく、商人など来る機会が全くなかった。

 行商人が来るなんて、年に一度ぐらいのイベントだったんだ。


「ほら行くぞ!」

「うん」


 俺が戦士に憧れるようになったのは、この時だった。

 ほんとに子供らしい単純な理由だったはずだ。たしか・・


「きゃあああああああ」

「はは、お嬢ちゃんには刺激が強かったかな?でも安心してね、動き出したりはしないからね」

「すげええええええ、これおっちゃんが倒したのか!?」


 エンジュが、行商人の馬車に積み込まれていた熊の頭に悲鳴をあげていた。死んでなお、こちらに噛みついてきそうな迫力を持った剥製だった。

 当時まだ小さかった俺は、頭だけでも大きい熊の頭にすごく驚いたのを覚えている。


「これはね、僕が雇っている戦士が倒したものだよ。これを載せているとね、狼とか犬人とかから襲われにくくなるからね」

「せんし、、、、、、、、、、」


 行商人のおっちゃんの言葉を聞きながら、熊の頭に怯えて俺の服を掴んでいるエンジュを見る。たしかあの時の俺は戦士っていうのはすごく強くて、なんでもできて、敵から大切なものを守れる存在なんだろうって思ったんだ。


 当時でも俺の父さんは戦争で亡くなっていて、お母さんと二人で過ごしていた。

 別に寂しくはなかった。エンジュの家族が仲良くしてくれたし、エンジュがずっと俺と遊んでくれたから。


 時折、お母さんが悲しそうな顔をして泣いていたのを覚えてる。

 幼いながらも、『死』ていうのが悲しみの原因になっているんだって分かってた。

 だからお母さんがもう悲しまないように、俺を頼ってくれるエンジュを守れるように戦士になりたいって思ったんだ。


「エンジュ、大丈夫だぞ!俺がいるからな」

「うん、ありがとう。アレク」

「仲がいいね、君たちは。どれ、好きなものを一つ持っていきなさい?脅かしてしまったお詫びだよ」


 暖かい思い出が、俺の原点を思い出させてくれる。

 そうだ、俺は戦士にならなくちゃいけない。大切なものを守るために、ただもう大切な人の悲しむ顔を見たくないんだ。夢の中の光景に胸の中の決意を改めて確認していると、突然胸が熱を帯び始めた気がした。









 目を開けると、最初に目に入ったのは簡素な作りをした平天井であった。どうみても俺の部屋ではない。どうやら俺は救急所に運ばれたらしい。

 ここは訓練とかで怪我をした際に運ばれる場所である。

 ちなみに、戦士の適性を得た人は怪我が早く治りやすくなるらしい。寝てれば怪我が治っていることが多数で、あまり救急所が使われることはない。現に今も俺しかいない。


「ふうー、もう夜か。長く寝ていたんだな」


 窓の外に見える訓練場に目を向ける。もう誰もいなくなっている、今日の訓練は終わり、みんな食事をしているか眠っているかのどちらかだろう。

 訓練場の砂場に一際深い足跡が見える。おそらく、ハゲ教官の踏み込みだろう。


「マジで強かったな、あのハゲ。しかも酷いことを言っちまった、謝んないとな」


 俺は拳を握りしめる。確かに俺はどこか楽観してたんだろう。自分の望む通りに戦士になれたし、訓練にも今のところついていけている。このままいけば立派な戦士になることができるはずだって。

 それがこのザマだ。臆病者だと決めつけていた相手にボコボコにされ、一人救急所に寝かされている。


「はぁー凹むなー。なんかエンジュとお母さんに会いたくなっちまった」


 ハハっと、救急所に俺のから笑いが響く。一瞬体に力を入れてベットの上から立ち上がる。とりあえず救急所から出て、自分の部屋にでも戻ろうと歩いて行く。出口の扉まで歩くと、扉に一枚の紙が貼ってあるのに気づいた。



『見習い戦士 アレク;規則違反のペナルティとして家畜小屋の掃除を科す。明日の朝までに終えていることーーーーマッスルーーーー』



「くそはげめ、、、」


 ずっと眠っていて目も冴えているし、体を動かしたい気分であった。ちょうどいいと思いながら、救急所を出て倉庫から掃除道具を引っ張り出す。

 訓練所を通り過ぎて、広大な森に面しているところに家畜小屋はある。

 この広大な森は『ガベラの森』というところにつなっがており、厩舎にいる生き物たちの様子が警鐘代わりになっている。


『ガベラの森』の全容は知られておらず、西の豚人族や北の鬼人族などの領域とも繋がっているとされている。そのため森から敵が来た時に、家畜小屋にいる涙牛や騒音鶏が異常を知らせてくれるというわけだ。


「さてと、やりますか」


 水の入ったバケツにブラシを突っ込み、まずは涙牛のところから掃除をしていく。

 こいつらは不満があるとすぐ泣くから、涙牛って言われている。すぐ泣きそうになるが、満足感が高いとすごい量のミルクを出してくれる。

 睡眠を邪魔されると、涙案件なので慎重に糞などをこそぎ落としていく。


「ふう、やっと終わったな。次は騒音鶏のところか」


 こいつらも簡単だ。人間以外の生き物が近づくとバカ騒ぐ。なんで人間だけ心を許しているかはわからん。たぶん『手騎士(テイマー)』の適性が関わっていると思う。

 手騎士によって『手懐け(テイム)』られて、卵を産んでくれている。


「早く終わらして、すぐ寝てやるぜ」


 もう一踏ん張りだと腕まくりをしていると、家畜小屋の入り口で物音がした。全く気配に気がつかなかった。もしかしたら他種族の侵入かもしれない。俺は慌てて振り返る。


「誰だ!?」

「ごめんなさい、驚かせる気はなかったです。少し心配で見に来たの」

「なんだ、スミレか。声をかけてくれよな。犬人かと思ったぜ」

「やめてください」


 家畜小屋の入り口に隠れるように、申し訳なさそうな顔をしてスミレが立っていた。手に持っているプレートに今日の配給らしい食料がのっている。


「あなた夕食食べれていないです?ちょっとだけど持ってきました」

「いいのか!?バレたらお前も教官に怒られるぞ。今日の昼も迷惑かけたし」

「うふふ、いまさら教官にケンカを売ってたあなたがビビってるですの?」

「あのなぁ、お前の心配をしてんのに」

「心配しなくてもいいです、教官にケンカを売っても掃除で済むだけです」

「ははは。それもそうか、ありがとな」


 本当にありがたい、めっちゃ腹が減ってたんだ。てかほんとにいいやつだな。この恩は忘れねえ、もしこいつが家畜小屋の掃除をさせられたら抗議してやる。家畜の糞をハゲの頭に塗りたくってやる。


「俺さ、もっと強くなるよ。戦士として」

「突然なんですの?」

「気絶してる時に夢を見たんだ、俺が戦士を目指すことになった理由を。ちっぽけだけど大切な理由を」


 俺はじっとこちらを見つめて話を聞いてくれるスミレの目を見つめて、改めて自分の思いを誓う。

 この胸に感じる熱が冷めないように、ずっと努力を続けてきたであろう少女に俺も頑張るよ、と


「だからさ、もっと剣を教えてくれよ!いつかあのハゲにギャフンと言わせてやる」

「まだ懲りないですの?教官すごく強かったです、遠くから見てた私でも軌道見えませんでした」

「だから訓練するんだろうが!大丈夫、俺らならやれる」


 鼻息荒く宣言する俺に、若干引いたような目で見つめてくるスミレ。こいつは毎日努力してんのに、全然自信ねえなー。まあ、いいや。


 俺は明日からまた一歩ずつ強くなろうと、拳を握りしめる。強くなって、何もかも守ってやるんだ!


「なんでもいいけど、早く掃除終わらせるです?」

「忘れてたァァァァァ、うおおおおおおおおおお」






 ーー〇〇〇〇〇〇ーー


 決意を新たにした翌日、本日も元気に訓練だ。

 ちなみにハゲ教官には謝っておいた。臆病者だって決めつけていたこと、証がなくなったやつにも事情があるってことを知って申し訳なかった。

 ハゲ教官は澄まし顔で「俺にもそんな時があったから、気にするな」とか言ってきた。俺が悪かったけど、なぜかムカつく。ハゲてるからか?


「そうじゃない!斧もただ振り回せばいいわけじゃない、手の延長として扱うことをイメージするんだ。体重を乗せて、威力を乗せる。お前のは胴体と手の動きがバラバラだ」

「一度に何個も言うな!斧は今日が初めてなんだから仕方ないだろ!」


 他にも、剣以外も試してみることにした。決して昨日の公開処刑で斧の力強さに憧れたわけじゃない。今は色々な経験をするべきって考えただけだ。

 別に斧でリベンジしてやるとか考えてない。そのためにはハゲから学ぶこともやむなしだ。


「えーーー!アレク、戦士の証五つもあるの!?すごいなー、僕なんて一つしかないよー」

「そ、そうか?まあ俺は戦士だからな」

「なに言ってんのよ、誓約が増えてるだけじゃない。一つでも二つでも戦士なのは変わらないわ」

「・・・でも聞いたことない」


 まだ変化はある。同部屋の見習い戦士たちと話すようになった。今までは訓練で疲れていたし、ただ寝るだけだったが昨日の俺のバカっぷりに興味を持ってくれたらしい。


 のんびりした口調で俺を褒めてくれるのはモミジ。女みたいな名前で女みたいな線の細さだが、男らしい。


 そして、口調に気の強さが見え隠れするのがアイビー。小麦色によく焼けた肌に、筋肉質な四肢をもち、快活の印象を与える。戦闘が大好きで、訓練の時も生き生きしているのをよく見かける。


 最後に、あまり話しているのを聞かない無口な男がサンスである。俺が見上げるほどの巨体で、デカさだけで言えば教官に勝る。誰もが羨む戦士の素質を持っている。


 全員俺より早くこの戦士の祠にきており、見習い戦士歴で言えばだいぶ先輩である。

 そのため、訓練内容とかをよく知っている。今のところ走り込みと武器の素振りしかしていないが、それは新しい戦士の卵たちが送られてきたかららしい。

 数日間、走り込みと訓練を行った後、実践が増えてくるらしい。


「本当にガベラの森にいくのか?あそこ、はぐれの鬼人とか強い生物いっぱいいるだろ」

「ほんとにいくよー、僕も何回も行ってるしねー。初期訓練は大体三日ぐらいであとは実戦で鍛えられるんだ」

「はぐれの鬼人なんていないわよ、鬼人が森に来るには山を越えないといけないしね」

「・・できる」


 ワクワクしてくるな、いつまで見習いの戦士なのか考えていたけど案外早く訓練場も終わんのかもな。


「けどそんなに早く実践て、死ぬやついそうだけどな」

「大丈夫だよー、森の浅いところは弱いやつしかいないしねー。しかもいつまでも見習いたちを訓練させる余裕なんて人族にはないんじゃない?」

「なに、ビビってるの?教官に喧嘩売って馬鹿野郎が、いまさら怖いものなんてあるのかしら」

「バカが、俺はいつでも戦士だわ」


 俺たちが他にもいろいろ武器を素振りしながら駄弁っていると、教官の声が聞こえた。どうやら本当にガベラの森にいくらしい。


「整列だ!今からガベラの森で訓練を行う。同部屋のやつで小隊(パーティー)を組め」

「よかったー、前までアイビーとサンスの三人だったんだよ」

「ふん、余裕よ。四人のところよりたくさん訓練できるってことでしょ」

「おお、確かに。今回はアイビーだけ一人で行けよ、俺たちは三人でやるから。よかったな、たくさん訓練できるぞ」

「うっさいわよ、戦士バカが。あんたが一人で行きなさいよ、バカなんだから」


 他の人たちも同部屋の人と集まり、全員小隊を組めたらしい。その様子を見ていた教官が歩き出す。全員が遅れないように教官の後をついていく。

 昨日俺が掃除した家畜小屋を通り過ぎ、森に着く。よく見ると森の一角に踏みしめられてできた道ができている。教官は迷いもなく進んでいき、他の見習いも慣れたように進んでいく。

 しばらく歩いていると森が途切れたところが現れた。まるで、ここからは別の世界だと主張するように、綺麗に横の線ができている。途切れた森の隙間から光が差し込み、光のカーテンができているようであった。


「初めてのやつが増えたから、説明するがガベラの森ではモンスターが出現する。訓練を行う浅いところでは小型のモンスターしか出ないが、絶対そうとは限らない。命の危険が伴うと覚悟しろ」


 周りを見渡すと、俺みたいに初めてのやつが何人かいたのか緊張した顔をしている。ほんとに走って、基本的な型しかやってないからな。戦いとなると緊張するのもわかる。


「けど安心しろ、どの小隊にも経験者はいる。怪我をしたとしても、戦士の適性が痛みに強くしてくれる」


 教官は一息つき、意地の悪い顔を浮かべて続ける。


「何より、お前らは戦士だからな。大丈夫だ」


 教官の言葉に見習いの奴らもニヤニヤしている。

 まるで何かを企んでいるような顔で、俺たち初発組の顔を見てくる。

 なんだよ、気持ち悪い。


「そうよ、アレク。散々ビビってたけど、私たちは戦士よ」

「すぐ僕たちがにやにやしてる意味がわかるよー」

「・・できる」


 こいつらまで変ににやにやしてやがる。ほんとになんなんだ。突然戦えるわけになるわけでもないし、現に訓練してても前となにも変わりはしない。

 疑わしい気持ちしかなかったが、後でこの意味をすぐ知ることになる。


「訓練は簡単だ。一週間分の自分達の食糧をとってくること。もしとって来れなかったら、配給の量を減らす」

「はい!!!!!!!!」

「期限は陽が赤色になるまでだ!部屋番一はここから北の方角へ、番二は・・・・・・・・・」


 なるほど、絶対狩りをしなくてはいけないわけか。戦わない奴は食う価値なし。しかも俺たちの食事確保も兼ねていて、訓練と一石二鳥になるわけだな


「部屋番号六は北西の方角へ駆け足五分のところで、始めよ!!!」

「「はい!!!!」」「うす」「・・・はい」

 俺らの小隊が呼ばれたようだ。教官の声を合図にアイビー、モミジ、サンスがいきなり駆け出した。


「まじか!!」

「なにぼさっとしてるの!もう訓練は始まっているのよ」


 俺もすぐ脚に力を込めて、みんなのあとを追いかけていった。

 さあ、やってやるぜ。ここまできた道とは違う整備されていない森を駆け抜けながら、俺はこれからの戦いに思いを馳せた。







「モミジ!!!」

「わかった、僕は左から」


 まじでやべえ、さっきから戦いっぱなしだ。今俺たちが戦っているのは森林猫、森での狩に特化した猫で体表は緑色の斑点の毛皮に覆われている。

 柔軟性のある筋肉で力強さを感じると同時に木を利用した変則的な戦いも仕掛けてくる。

 さっきから動き回られて攻撃が当たらねえ!!!!イライラする!!


「はああああああ、ふっ!!!!」

「やあああああああああ!!!!」


 さっきからイライラしてるのは攻撃が当たらないだけじゃない。()()()()()()()()()()()

 俺の攻撃は全く当たらないし、森林猫に翻弄されてばかりなのに、こいつらはすぐ相手の攻撃に適応している。

 今もモミジとアイビーは二人で左右から挟撃を仕掛け、逃げるスペースを狭めながら近づいている。判断が早すぎる。


「ウルルルルルルルルルルルルウ」「シャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 森林猫は自分が不利な場所を押し付けられているのを嫌ったのか、強引にモミジの方へ攻撃を仕掛ける。モミジは正面からぶつかることはせず、その場で足を止めた。おいおい、足止めたらお前の体じゃ勢いのある相手を受け止めれないだろ!!避けねえと!


「モミジ!よけろ!!」

「大丈夫だよ、アレク」

「・・・・・・・・・」

「フギャッッッツ」


 いつのまにかモミジの後ろについていたサンスが前に出る。急に現れたサンスに森林猫は驚いた様子であったが、そのままサンスに噛み付くことに決めたらしい。

 正面から飛びかかりサンスを押し倒そうとしたが、サンスの構えた盾に吹き飛ばされる。


「こっちも見なさい、バカ猫」

「ガルァァァァァ」


 盾に吹き飛ばされ、変な姿勢で叩き落とされた森林猫のスキをアイビーは見逃さない。距離を詰め終わったアイビーから森林猫の背中に剣が深く突き立てられる。

 森林猫は激しい痛みから身を捩り、怒りに任せてアイビーを睨みつける。


「今度はこっちだよーー」「はい、終わりー」


 まだ人間たちの連携は終わらない。森林猫が盾に吹き飛ばれた時からモミジは動いていた。今はアイビーに気を取られ全く接近に気づいていない森林猫の首元に短剣を突き刺す。

 しばらく、体に力を入れてこちらを威嚇していた森林猫であったが、すぐに倒れ込み動くことはなかった。


「いぇーい!やったねー」

「まあ、なんてことないわよ。これくらい」

「・・・・・・・・・」


 また、なにもできなかった・・・。三人の対応の速さ、連携力に圧倒されて、ただ武器を構えているだけだった。訓練を始めてから数回戦ったが、見ることしかできねえ。なんでこいつらこんなに強いんだ、、

 なにもできない無力な自分にイライラしていると、喜びを分かち合っていた三人がこちらに近寄ってきた。


「やっぱりアレクはすごいねー、初めての戦闘のはずなのに全く恐れてないもん」

「ふん、まあ足が震えてないだけましね」

「・・・・・・・・」

「お世辞はよせよ、またなにもできなかったじゃねえか・・・・」

「いや、すごいよ!僕なんてずっと震えてたよー、最初の実践訓練は」

「あんた酷かったもんね、ずっとサンスの後ろに隠れてさ。サンスも困ってたじゃない」

「アイビーも初めての訓練で、足が少しプルプルしてたの知ってるよー」

「なに言ってんのよ!あたしのそれは武者震いよ!」

「あはは、そうだっけー」


 モミジが褒めてくれるが胸が晴れることはない。昨日の教官にぶっ飛ばされた時から、自分の未熟さしか感じられなくなっていた。もしかして、俺は戦いに向いてないのか、、、?


「俺、戦いに向いてねえのかもしれない、、、」


 俺が思わずそうこぼすと、三人が不思議そうにこちらを向いてきた。なんだよ、落ち込んで悪いかよ。


「大丈夫だよー、アレク。僕たちは戦士だよ?」

「慣れてないんだから、そんなもんでしょ?それに、多分もうそろそろよ」

「・・・・できる」

「もう、そろそろ・・・・?」


 アイビーが訳わからないことを言っていたので、聞き返すと


「もう時期わかることだし、言ってもいいけど先に森林猫の解体しない?」

「そうだねー、他のモンスターも寄ってきたら大変だしね」

「たしか、森林猫の肉は癖もなく美味しいのよね。持てるだけ持っていきましょ」

「森林猫は奥歯も希少部位だよー、なんか家畜達を大人しくさせる匂いがあるらしいー」


 せっかくの機会だからやってみたら、ほらっと俺に短剣を渡してくるモミジ。結局アイビーが言ってたことは分からずじまいだったが、解体に集中する。

 解体が上手いやつは獲れる肉の量や質が違ってくる。森林猫の力強さを思い出させるような筋繊維に苦戦しながら、解体を続ける。


「ふう、終わったぜ」

「お疲れー、アイク。これで訓練の目的は達成かな?」

「さっさと帰りましょ!流石に疲れたわ」

「・・・・・・・」


 訓練の目的も達成でき、特に怪我もなく終わったため弛緩した空気が流れ始める。三人は最初の集合場所へと歩き始めている。俺はなにも活躍できなかった悔しさから胸元を握りしめる。


「もうちょっと、訓練しないか!?」


 俺は我慢できなく声をかけてしまった。何回も戦闘があり、さらに戦っているのは三人だけ。疲れているのは三人だけなのに、図々しいお願いなのはわかっている。けど、俺は足を止めている暇なんてない。


「そんなに焦んないで、いいと思うけどねー」

「本当に訓練バカね、付き合わされるこっちの!!!!」

「ガハっっ」


 俺の図々しいお願いに三人が足を止め、こちらに振り返った時だった。

 突然、木の影からサンスを越すほどの豚の巨体が現れサンスを棍棒で吹き飛ばした。俺は目の前の光景に頭がついていかず固まっていたが、モミジとアイビーの二人は素早く散開して臨戦体制に入る。


「豚人族よ!!!!はぐれだわ!!なんでこんな人間側の浅い森に豚人族が出るわけ!?」

「サンスは木に叩きつけられて、気絶してるみたい!」

「ブモォォォォォォォォォォォォォォ」


 とてつもないほど大きな鳴き声が脳に響く。サンスを悠々と超えるほどの巨体で、腕や足は森林猫並みに太い。サンスを吹き飛ばしたことから、見掛け倒しじゃないことは明らかだ。手には雑に削りとらえた粗めの棍棒を持っている。

 聞いたことがある。豚人族の集落には掟があり、掟を守らなかった豚人はガベラの森に追放され一人で生きることを強いられると。一人で生きることになった豚人のことを、はぐれ豚人と呼ぶことを思い出した。

 そして同時に思い出す。こいつはあのハゲ教官より強い?


「アレク!構えなさい!気を抜いていたら死ぬわよ!」

「サンスが気絶するほどの力強さかー、どうする?」

「ブモォォォォォォォォォォォォォォ」


 どうやら豚人族はこちらの会話する時間をくれないようだ。大きな唸り声を上げながら、こちらにドタドタ走り込んでくる。サンスがやられた今、次に力強いのは俺だ。俺が前に出るしかない!!二人を庇うように、俺は前に走り出す。


「オラああああああああああああ」

「ちょっと!っち、行くわよモミジ」

「うん!」


 豚人は目の前に現れた俺に向かって、横なぎに棍棒を振ってきた。俺は、駆け出した前傾姿勢を保ったまま、棍棒を屈むようにすり抜ける。目の前には、棍棒を力のかぎり空ぶった豚人のでかい体。


「死ねええええええ、おらぁぁぁぁぁぁ」


 俺は足の踏ん張りの力も全力で剣を振り抜く。俺の剣は吸い込まれるように豚人の体に当たり、確かな手応えを感じさせる。俺の全力だぞ、効くだろ!


「えっっっ、、、まじかよ、」

「ブモォォォォォ、ブヒィ」「ブモォォォォォォォォ」


 俺の渾身の袈裟斬りも豚人の体には深く入らず、表面の脂肪を斬ったところで止まってしまった。訓練不足か、力不足か。

 いずれにせよ、今度は隙だらけなのは俺だ。力の限り振り抜いた剣は簡単に動きそうにない。

 豚人はうっとしそうに腕を払った。丸太のような腕が迫ってくるのが分かっていても、隙だらけの俺は避けることができなかった。


「グハッッッッ」「がっ、ハッ」


 はげに斧で飛ばされた時のような衝撃だ。俺の体は勢い良く宙に浮き、木に叩きつけられた。強制的に肺から空気が吐き出され、息が止まる。体が痛んでいるのかさえわからないが、意識は飛んでない。まだ戦える。


 痛みをこらえ、なんとか上体を起こすと俺の顔に大きな影が差した。見上げると、豚人が俺に向かってトドメを刺そうと棍棒を振り上げている。まだ、文字通りの命の危機に体を動かそうとするが痺れて動かない。まだ死ねない!


「胴ががら空きよ!くらいなさい!」

「アレク、大丈夫!?」


 振り下ろされる直前、豚人が危険を感じたように横に身を投げ出した。助かった。どうやら、後ろからアイビーとモミジが斬りかかったようだ。でかい体の割には素早い動きだ。どうやってこの危機を乗り越えればいいんだ。


「このままじゃ勝てないわ!だれか教官を呼んで来なくちゃ」

「そうだねー、アレクの攻撃もそんなに効いてないみたいだし。一番力の強いサンスも気絶してるし」


 たしかに、教官を呼べばなんとかなる可能性もあるだろう。この中で一番力のある俺の攻撃も効かなかった。

 技術があるアイビーの攻撃はもしかしたら通じるかもしれない。それでも、一撃で死ぬかもしれない攻撃を避けつづけこいつを倒せるのか?いろいろ心の中で思うことがあった。


 けどそれでも、全部わかっている。この中で一番戦えていないのは俺だってわかっている。


 それでも、


 ぜっっったいに嫌だ!!

 戦士が目の前にいる敵から逃げ出し、助けを呼ぶ?仲間が戦っているのを見捨てて?

 気絶した仲間を置いて?



 そんなん戦士じゃねえだろう、危機を目の前にして逃げてどうする。他人に助けを求めてどうする!

 今助かって、どうする。人から助けられて、どうする。

 自分が助ける存在になんだろ!!今もこれからも守る存在になんだろ!

 そのための戦士の証なんだろ!!!!!!!!!


 俺の思いが胸をこがす。今までにない危機に衝動が胸を焦がす、たかが豚人一匹なんだってんだ。どこまでも高まっていく戦士の鼓動、不甲斐ない自分に別れを告げるように勢い良く立ち上がる。


「俺は逃げねえ、豚一匹なんぞに俺の背中は見せねえ。俺の決意は絶対折れさせねえ!!!」


 戦士の証が俺の思いに応えて、熱くなった気がした。





読んでいただきありがとうございます!また次話もよかったら読んでください!

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