セッ〇スしないと出られない部屋でセッ〇スしないと出られない部屋
由香は恥ずかしそうにボタンの掛け違えを直した手でドアノブを回したが、扉はビクともしなかった。
「……えっ、なんで?」
隆平は息絶えたようにベッドに突っ伏しており、豪快な寝息を立てている。
「ちょ、ちょっと!!」
慌てて隆平を叩き起こそうとする由香。隆平は半目を開けて何事かと目をこすった。
「扉が開かないのよ!! ちゃんとしたのに!!」
「えっ?」
隆平もドアノブを回す。しかし扉はウンともスンとも言わなかった。
「こ、これは……!!」
「三回もしたのに足りないっていうの!?」
「待てよ、聞いたことがあるぞ……」
隆平は眠い目を何とか見開いて、記憶の奥にある薄ぼんやりとした見聞を漁り込む。
辛うじて、会社の先輩のお婆ちゃんから聞いた話を思い出し、徐々にその記憶が鮮明化していった。
「セックスをしないと出られない部屋でセックスしないと出られない部屋だ……」
「は?」
由香が軽く隆平の頬を叩いた。寝ぼけたことを言うともう一度やるぞと言わんばかりの顔で隆平を見た。
「【セックスをしないと出られない部屋】は知ってるよな?」
「ココじゃないの?」
上着を脱ぎながら、由香が聞いた。もう一回どうですかのお伺いだ。
隆平は静かに首を振り、上着を由香の肩にかけた。やりませんのアピールだ。
「簡単に言うとだな、誰かが【セックスをしないと出られない部屋】でセックスをしない限り、この部屋の鍵は開かないんだ」
「ちょっと何言ってるのか分からない」
「だろ? 俺も話には聞いていたが、本当に存在していたのは初めて見る」
イマイチ理解が追い付かぬ顔で、由香がベッドへと腰掛けた。ベッドの下からはみ出していた隆平の靴下を引きずり出し、放り投げる。
「ねえ」
「なんだ?」
隆平が由香の隣に腰掛けた。今はやりませんが、もう少ししたら出来ますよのアピールだ。
「【セックスしないと出られない部屋でセックスしないと出られない部屋】があるなら【セックスしないと出られない部屋でセックスしないと出られない部屋でセックスしないと出られない部屋】とかもあるんじゃない?」
「……一理ある。そしてこの部屋がそうだとしたら、誰かが【セックスしないと出られない部屋でセックスしないと出られない部屋】でセックスする必要がある」
「けどさ! 【セックスしないと出られない部屋】で誰かがセックスしても【セックスしないと出られない部屋でセックスしないと出られない部屋】で誰かがセックスするとは限らないじゃん!?」
「確かに」
隆平がアゴに手を当て頷いた。そして由香の膝の上に手を置こうとして、払われた。それどころではないですよのアピールだ。
「でもさ! 私達のこの部屋が【セックスしないと出られない部屋でセックスしないと出られない部屋】だとしたら、私達入った瞬間からしちゃってるから【セックスしないと出られない部屋でセックスしないと出られない部屋でセックスしないと出られない部屋でセックスしないと出られない部屋】の人達は一生出られないかもしれないってこと!?」
「……かもしれない。入ってすぐに鍵が開いたら、普通は出るわな」
「なんてこと!! 私達のせいで知らない誰かが死んでしまうの!?」
「落ち着け由香。全ては想像の域に過ぎない」
隆平が取り乱す由香の肩を掴んだ。
既に隆平はチャージを終えている。後は開戦の合図を待つのみだ。
「けどさ、私達の部屋の鍵が開かないのはどうしてよ」
「……分からない。もしかしたら遠い順番か、ただ単に【セックスしないと出られない部屋】の人達がまだセックスをしていないのかもしれない」
考えることに嫌気がさした由香は、バタリとベッドに寝転がり、そして大きなため息をついた。
「つまり、この部屋は【セックスしたところで出られない部屋】なのね……」
「……分からない」
隆平が由香の隣に寝そべり、手を重ねようとした。しませんかのアピールだ。
由香はそんな隆平の頬を強く叩き、そして立ち上がりドアノブを目一杯回した。
「誰かー!! 助けてください!!」
「あ、はーい!」
ドアの向こう側から男の声で返事があった。
由香に安堵の表情が浮かんだ。
「管理人さんから、ドアの調子が悪いと言われて来たんですが、これ直すのに一日くらいは掛かっちゃいますね、大丈夫ですか?」
由香と隆平が顔を見合わせて笑った。それまでの緊張感は何処へやら。この部屋に来たときの様な、スッキリと明るい二人に戻ったようであった。
「大丈夫でーす♪」
二人は手をつなぎ、ベッドへと腰掛けた。
開戦の合図はどちらからともなく、自然な流れだった。
「あ、扉が直るまでセックスはしないで下さいね! 私、手が挟まっちゃうか感電するので」
「……」
由香は隆平の頬を思い切りビンタした。




