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TOD  作者: ナナシノススム
前半
90/273

前半 30

 様々な声が聞こえていたものの、翔は応える気力もなく、ただ目を閉じていた。

「翔、大丈夫かよ!?」

 そうして、一瞬だけ眠っていたかのような感覚を持ちつつ、翔は孝太の声で覚醒した。

「ああ、悪い。さすがに疲れた」

「あれだけのことがあって、『疲れた』が感想かよ?」

「あれだけのことがあったからだ」

 それから、少しずつ頭も働くようになり、翔は背もたれから背中を離すように身体を前にやった。

「孝太のおかげで助かった。ありがとう」

「俺は高校サッカー界で一番の司令塔だよ? これぐらいできねえと」

 孝太は特に真剣な口調でなく、いつもどおりの口調で、そんなことを言った。

 これまで、孝太が緋山春来に拘り、本当に自分が一番を名乗っていいのか悩んでいたことを、翔は知っている。そのため、孝太が日常会話のように自分のことを一番と言ったことに、多少の驚きがあった。

「随分と豪快な止め方をしたね。ラン、俺の言ったとおり、イージーだったじゃん」

 そんな和義の声が聞こえ、翔は車の周囲を確認した。そして、手を振りながら近付いてくる和義と、ダークのメンバーと思われる数人の姿を確認できた。

「ああ、確かにイージーだったな。疲れる程度で済んだ」

「そんじゃ、車とスマホは俺の方で調べるよ」

「ああ、任せた。和義もスマホを繋いでいるし、俺のスマホはここで切っておく」

 翔はスマホを切ると、そのままスマホを残した状態で車を降りた。

「和義、スマホをスピーカーにしてくれ」

「オッケー。はい、スピーカーにしたよ。俺は早速、車とスマホを調べるよ」

「ああ、俺のスマホはこれで、美優と冴木さんのスマホは……車の中に転がっているから探してくれ」

 あれだけ乱暴な運転をしたため、後部座席に置いただけのスマホは、どこかに消えていた。

「おいおい、俺に探させるなよ!」

「悪い、みんなと情報を確認し合いたいんだ。特にこっちの状況を伝えたいから、ここは頼んだ」

「……オッケー。そういうことなら、スマホを渡すよ」

 不意に和義がスマホを投げてきたため、戸惑いつつも翔はキャッチした。それから、渋々といった様子だったが、和義は車の中に入り、スマホを探し始めた。

 そんな和義の様子を横目で見つつ、翔は受け取ったスマホの通話が繋がったままであることを確認した。それから、少しだけどう話そうかと迷ったものの、そうして迷っている時間すら無駄だと判断すると、とにかく話すことにした。

「色んな人が通話に参加しているので、どういった口調で話すのがいいか迷いますが、どうにかここまで来られました。皆さん、本当にありがとうございました」

 翔は心から感謝の気持ちを伝えようと、その言葉を伝えた。ただ、そんな翔の言葉に対して、誰からも返事がなく、通話が切れてしまったのかと不安になった。

「いや、急にそんな真剣な感じに言われたら、どう返していいか困るよ! 孝太だって、そう思うよね!?」

「え、ああ……確かに困ったよ」

 千佳がいつもの調子で、翔は助けられたと感じた。ただ、そうしたことを伝えてしまうと、千佳の行動が無駄になると判断すると、軽く息をついた。

「本当に助かったんだ。だが、これで終わりじゃないから、話すべきことを話す」

 翔はそう言うと、頭を整理させるため、もう少しだけ間を空けてから、何を話すか決めた。

「今、自分が単独行動をしている理由は、こちらの位置が特定される理由を探るためです。このことは、既に知っていると思うので、それよりも美優と冴木さんの状況を話します。二人は冴木さんが新たに借りた車で移動しています。特に目的地はなく、襲撃を避けるために移動を繰り返している状態です」

「翔、その冴木って、ホントに信用できんのかよ? 車をこっちに持ってくるためとはいえ、さすがに二人きりにしたのはおかしくね?」

「大丈夫だ。冴木さんは信用できる」

「……翔がそう言うなら、そうなんだよな。わかった、信じるよ」

 孝太が疑問を持つのは当然と思いつつ、冴木を信用している理由について聞かれずに済み、翔は少しだけ安心した。

「とにかく、こちらの位置が特定された理由を調べるのが先決で、それは和義に頼みます」

「プレッシャーをかけてくるね。オッケー、任せてよ」

 こちらの声が聞こえたようで、和義はまだ見つかっていないスマホを探しつつ、そんなことを言った。

「それで、先ほど大勢から襲撃を受けましたが、そいつら全員をどうにかしたいです。闇サイトの利用者、監視カメラに映った車、全部排除できませんか?」

「私もそこまでやった方がいいと思ったよ! でも、これは光さんとか、鉄也さんにお願いしないと、どうしようもないことですよね?」

 また誰も返事ができないと察したのか、千佳はそんな風に光と鉄也の返事を促すような言葉を投げかけた。ちょっとしたことだが、千佳のこうした気配りのようなものを、これまで以上に翔は嬉しく感じた。

「鉄也、僕から話していいかな?」

「勝手にしろ」

「それじゃあ、さっき話したとおり、ダークのネットワークから闇サイトを利用していた人は、ほぼ把握できたから、一部は警察に頼みつつ、一網打尽にしようか。単純に道路交通法違反をしていることは、監視カメラの映像とかでも確認できるし、警察も動いてくれるはずだよ」

 今振り返ってみても、無謀なことをしたと自覚している。それは、想像以上に多くの者が襲撃してきたからだ。ただ、それは考え方を変えれば、どれだけ多くの敵がいるかを確認できたということでもある。

「一応、ライトの方は既に動いてるぞ。現在進行形でランを襲撃した連中を確保、あるいは監視してる」

「そうなんですか? 圭吾さん、ありがとうございます!」

「おい、勝手に話を進めるな! あくまで、俺が協力してもらってるんだからな!」

 鉄也が子供のように強がる発言をしたため、翔は笑いそうになるのを必死に堪えた。

「わかっている。鉄也のおかげで、ここまで来られた。ありがとう」

「わかればいい」

 これで鉄也が納得してくれたのだろうかと疑問を持ったが、翔は話を進めることにした。

「闇サイトの利用者などを排除することに、自分も協力したいです。それと、今把握できているオフェンスは四人だけで、あとの一人がわかっていない状況です。さっき、光さんの話を聞いて思いましたが、もしかしたら、今回の襲撃も含め、情報操作をしているオフェンスがいるのかもしれません」

「うん、僕もその可能性を考えているよ。実は、ダークがラン君を襲撃するよう誘導した人物と、今回ラン君が乗る車を襲撃するよう指示した人物は、同一人物のような気がするんだよね。これは、瞳が言ってくれた言葉だけど、ただ混乱すればいいといった意思を感じるというか、理由や目的が一切わからない行動をしている人物が確実にいるんだよね。これについては、この通話を聞いている全員が認識してほしいことだよ」

 翔自身、正体のわからない違和感が今もあるように感じている。それを全員に連携するのは、重要なことだ。そうすることで、翔の持つ違和感の正体が判明するかもしれない。そんなことを僅かながら翔は期待した。

「今、自分と美優は、冴木さんが用意したスマホを持っていて、何かあれば、美優や冴木さんから連絡が来るはずですが、今のところ何も連絡がないです。これは、少なくとも襲撃を受けていないということで、楽観的に捉えると、美優達の位置が特定されていないということだと思います。その間に、こちらから敵を攻撃したいんです」

「僕は引き続き、ラン君達の位置情報を発信した、正体不明の誰かを特定するよう努めるよ。まあ、これはどうやって位置情報が発信されていたか、和義君が調べてくれれば、それで簡単にわかるかもしれないけどね」

「光までプレッシャーをかけるなよ。俺がキーパーソンみたいじゃん。まあ、これから調べるけどさ」

 探すのに苦労したようだが、和義は美優と冴木のスマホを見つけたようで、翔のものを含めた三つのスマホを手に持っていた。

「それじゃあ……丁度いいね。浜中さんが来たから、これまでの状況を伝えたうえで、警察の方にも本格的に動いてもらおうか」

「えっと、案内されて来たけど、通話中かい?」

「今回の件に関係している、ほとんどの人が通話に参加しています。とりあえず、簡単に今の状況を話します」

 そうして、光はこれまでのことを簡潔に説明した。

「なるほど。そんな状況と思っていなかったんだけど……いや、だからこそ伝えるよ」

 まだあまり状況がわかっていない様子だったが、浜中は話を始めた。

「ダークのメンバーが現場にいたし、既に何かあったと知っている人もいると思うけど、篠田さんが勤める会社に何者かが侵入して、篠田さんと同僚一人が殺害されたと報告があったよ」

 浜中の唐突な言葉に、翔はどう反応していいかわからず、何も言えなかった。

「待ってください! 篠田さんが殺害されたって、どういうことですか!?」

 そして、一番早く反応したのは、孝太だった。孝太はこれまで、篠田から取材を受ける形で、たくさんかかわる機会があった。時には本音を伝えるほど、篠田に心を開いていたことは、周知の事実だ。そんな篠田が亡くなった……それも殺されたと知り、孝太は受け入れられないようだった。

「……誰に殺されたか、わかりますか?」

「現場を見た同僚から状況を聞いたうえで、私が感じたことを話すけど、遺体の状況などがセーギとよく似ていて、同一人物……悪魔なんて呼んでいる人もいるから、私もそう呼ぶけど、悪魔による犯行だと思うよ」

「篠田さんが勤める会社が襲撃されたと言いましたが、そんなところに美優がいるわけないなんて、誰でもわかります。悪魔は、篠田さんを標的にしたってことですよね?」

「そうしたことも今、確認中だよ。とにかく、それだけ命の危険があると、みんなには知ってほしい。それに、今後は警察の方も多少なりとも動くはずだよ。だから、もう警察に任せてくれないかい?」

 そんな提案を浜中がした瞬間、翔は胸に抑え込んでいた思いが溢れ、抑え切れなくなった。

「これまで警察は何をした!? 何もしなかっただろ!?」

 思わず大きな声が出てしまったことを自覚して、翔は気持ちを落ち着かせた。

「警察に任せるなんて選択肢はないです。自分にできることは、全部します」

「僕も翔と同じ考えです。警察を信用してないわけじゃないんですけど、僕達でもできることがあるなら、それをとにかくしたいんです」

「私も、孝太や翔と同じ考えです!」

 孝太や千佳の言葉を、翔は喜ぶべきだと感じながら、むしろ複雑な思いを持った。それは、孝太や千佳の考えと、自分の考えが少し違うことを、翔だけが自覚していたからだ。ただ、そうした考えの違いを、伝えようとは思えなかった。

「参ったね。わかったよ。ただ、私は今後も協力させてもらうよ。とりあえず、今警察が追っている事件の概要を光君に伝えるよ。そうだ、あとさっき、何台もの暴走車がいたって話があって……」

「ああ、それは僕達の方で色々やったことなので、知っています」

「君達がかかわっていたんだね……。あれだけ騒ぎになったし、その件も警察は必死に追っているよ。だから、警察を動かすために、この情報も使えるよ」

「わかりました、ありがとうございます。それじゃあ、改めて今後のことを話すよ。とりあえず、警察にも情報を流して動いてもらうけど、ちょっとしたチンピラなんかは僕達で対応するよ。まあ、僕はあくまで情報の整理に集中するから、みんなへの指示は圭吾と鉄也に任せるよ」

 そうして話がまとまりかけたところで、翔は言いたいことがあった。

「すいません、いくつか用意してほしい物がありまして、まず、スマホを用意してくれませんか? 連絡するだけで位置が特定される可能性もあるので、冴木さんに用意してもらったスマホは、冴木さん達に連絡するためだけに使いたいんです」

「それなら、俺が一つ貸すよ。これ、使っていいよ」

 和義はそう言うと、スマホを一つ取り出した。

「いいのか?」

「これ、予備で持ってるやつだし、大丈夫だよ。今、みんなに連絡先を送るし、データベースにも繋ぐから、すぐ使えるよ」

「ありがとう、助かる。あと、これは光さんに聞きたいんですが、ライトやダークで共有しているデータベースを見ることで、位置が特定される可能性はありますか?」

 翔の質問に対して、少し考えているのか、光はすぐ返事をしなかった。

「可能性の話だけすれば、あるかもしれないとしか言えないし、そういうことなら、閲覧だけできるような形で、公開するよ。それを見るだけなら、位置を特定されることはないから、すぐ用意するね」

「ありがとうございます」

「それ、私も教えてもらっていいかい? 警察の方には伝えないようにするし、あくまで君達の状況を常に確認させてほしいんだよ。その方が、警察の動きを誘導しやすいと思うし、まだ私のことを信用してもらえていないかもしれないけど、お願いできないかな?」

 浜中の提案に対して、誰が答えればいいのか、全員がわかっていないようで、少しの間、沈黙が続いた。そんな沈黙を破ったのは、やはり千佳だった。

「浜中さんのおかげで、ライトやダークの人達に協力をお願いすることができたと思います。だから、私は浜中さんを信用します。孝太も、同じ考えだよね?」

「うん、僕も浜中さんのおかげだと思ってます。警察という立場なので、ライトやダーク……それに翔も不満を持ってるかもしれねえけど、これまでも協力してもらってるし、少なくとも僕は信用します」

 千佳と孝太の言葉を受けて、翔は決断した。

「孝太達がそこまで言うなら、自分も賛成します」

「ライトを代表して、俺も賛成するぞ。あとは、鉄也がどうするかだけだ」

「おまえら、勝手に決めるな! 決定権を持ってるのは俺だからな!」

「じゃあ、鉄也はどうしたい? みんな、おまえが決めたことに従うぞ?」

 圭吾がそう言うと、電話越しでもわかるほどのため息が聞こえた。

「わかった。浜中もデータベースの情報を閲覧できるようにしていい」

「ありがとう」

 そうして、データベースの閲覧について、まとまったところで、翔はもう一つお願いがあった。

「あと……和義、ここはシェルターのようだと言っていたが、それは簡単に外へは出られないって意味か?」

「いや、ここは元々、やばい物を処理する場所だったみたいで、中に入るのは大変なんだけど、外に出る手段は結構あるよ。だからこそ、ここはシェルターのように使うのに適してるんだけどね」

「それなら良かった。だったら、自分は外に出ます。それで、移動手段を用意してくれませんか? レンタカーなどで構わないです」

「うん、わかったよ。だったら……」

「ランは、バイクも乗れるのか?」

 割り込むように圭吾からそんなことを聞かれ、翔は圭吾が何を言いたいのか、察した。

「はい、バイクも乗れます」

「だったら、バイクを用意するから、俺の店に来い。さっき連絡先は教えてもらったから、そこに店の場所を送る」

「わかりました。お願いします」

「圭吾さん、僕も一緒に行きます!」

「私も行きます!」

 さらに割り込むように、孝太と千佳がそんな風に言ってきたため、翔は軽く笑った。

「ああ、俺も孝太や千佳と話したかったんだ。だから、来てくれると嬉しい」

「わかった。二人も一緒に連れてくぞ」

「はい、お願いします」

 今、用意したい物については伝えることができ、翔は自然と一息ついた。

「それじゃあ、詳しいことは後でまた共有するね」

「はい、お願いします。それじゃあ、こちらは切ります」

 これだけ長い時間話したものの、まだ話し足りないように翔は感じた。ただ、ここで話しているだけでは何も進まないとも思い、これからまた行動しようと決心するように、通話を切った。

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