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TOD  作者: ナナシノススム
前半
89/273

前半 29

 少しの間、翔は目的地に近付くことなく、和義の準備を待ちながら、適当に車を走らせていた。

 闇サイトの情報を光や和義が操作してくれたため、先ほどのように大勢から追われるような状況にはなっていない。ただ、時々追跡してくる車が現れることがあり、今のところは振り切れているものの、この車で移動すること自体が危険になりつつあるようだった。

 また、車体そのものに対するダメージや、ガソリンの残量などを考えると、確実に限界は近かった。

 そんな時、和義から連絡があり、翔はすぐに出た。

「ラン、こっちはいつでも動けるよ。ランの方はどうかな?」

「こっちも大丈夫だ。むしろ、急いでほしいぐらいだ」

「オッケー。それじゃあ、光と鉄也も通話に繋ぐよ」

 その言葉で、和義は光と一緒にいないのかと疑問を持ったが、今は聞かないでおいた。

「光だよ。大丈夫かな?」

「鉄也だ。和義と光から話は聞いた。ラン、随分と無茶を……」

「翔、大丈夫!? 美優と別行動してるって聞いたけど、美優も大丈夫なの!?」

「千佳、後にしろって!」

「だって、心配なんだもん!」

 孝太と千佳の声が聞こえ、翔は思わず笑ってしまった。

「孝太と千佳は、鉄也と一緒にいるのか?」

「まあ……翔が無事で良かった。でも、現在進行形で危険なんだよな?」

「ああ、だからそっちに向かうところだ。大丈夫、どうにかする」

 そう言いつつも、相変わらず無謀なことをしている自覚はある。ただ、翔はこれが自分のするべきことだと、強い意志を持っていた。

「話は後にしてもらっていいかな? 俺から説明するけど、これからランをダークが管理してる場所の一つに案内するよ。ここはライトや警察なんかから追われた時、逃げ込むために用意した、ある意味シェルターみたいな場所だよ。ここにランが入った後、出入り口を閉じれば、それで終わりってイージーなミッションだね」

 和義の言っていること自体はとても簡単だったが、実際にやるとなれば、そう簡単にはいかないだろう。それでも、翔の考えは変わらなかった。

「ただ、俺がいる場所からは、セレスティアルカンパニーのシステムを直接利用したり、監視カメラを盗聴したり、そうしたことはできないんだよね。そこで、光と鉄也の出番だよ」

「僕は引き続き、闇サイトの情報を操作して、相手をかく乱するよ。そうそう、闇サイトの利用者、一部を除いて、ほぼ把握できたよ。詳細は後で伝えるけど、単なるチンピラから暴力団、それに暴力団と繋がりのある運送業者なんかがいて、恐らく大型トラックは運送業者の人間が乗っているんだろうね」

「それ、光だけで調べたんじゃないからね」

「当然、和義君のおかげだよ。それで、もうどこの誰か特定できたし、ラン君が動くタイミングで、彼らをダークのネットワークから弾いて、少なくとも投稿はできないようにするよ。そうすれば、情報交換ができなくなって、大分動きを鈍らせられるはずだよ」

 闇サイトにより、彼らは情報を共有し、時には連携するようにして襲撃してくることもあった。それを防げるというのは、心強かった。

「ただ、一つ懸念があって、ターゲットを殺したら賞金が入るって投稿とか、ラン君達が乗る車の位置を知らせる投稿とか、どこの誰が投稿したか、結局わからなかったんだよね」

「つまり、車の位置情報などを、また共有される可能性があるってことですか?」

「どうにか僕の方で操作するけど、実際のところ、ラン君がこっちに来るって予想もされているし、なかなか大変かもね」

 光の伝えた懸念は、翔も深刻なものだと感じた。

「俺も話していいか?」

 鉄也は話すタイミングを待っていたようで、少し苛立っているような口調だった。

「ああ、悪かった。鉄也の話も聞かせてくれ」

「俺達は監視カメラを盗聴しながら、ランを目的地まで案内する。ただ、和義と光からもらった情報を基に、各カメラの映像を確認してるが、相当な数の車が張ってる。諦めて車を捨てた方がいいんじゃねえか?」

「その意見には、僕も賛成なんだけど、そうなると車やスマホを調べるのは厳しくなるよ。というのも、車とスマホの破壊、及び確保で1000万円が手に入る。そんなバカな投稿が、さっきあったんだよ」

「すいません、もう一度いいですか?」

 さすがに理解が追いつかなかったため、翔は反射的に聞き返した。

「僕も驚いたよ。今、美優ちゃんを殺すことより、ラン君が所持している車とスマホの破壊と確保が、最優先になっているんだよ」

「1000万って、TODの賞金を超えているじゃないですか。それを投稿した奴は、何が目的なんですか?」

「それはまだわからないし、後で考えよう。とにかく、状況は良くないみたいだね」

 これまでも厳しい状況だと感じていたが、想像以上に状況は悪いようだ。そのことを理解すると、翔は思わずため息が出てしまった。

「とまあ、ネガティブなことを言ったけど、この世に不可能なことなんてないんだよ。僕だけでなく、鉄也と和義君が協力するし、どうにかするよ」

「俺は協力するんじゃねえ。協力してもらうんだからな。それはランも同じだ。俺達に協力するなら、意地でも来い」

「最初から俺も言ってるじゃん。俺達にとっては、イージーだって」

 翔は頭の整理が追いつかず、少しだけ黙った。そうして出した結論は、ただ自分のするべきことをすればいい。それだけだった。

「それじゃあ、和義の指示通り、これから向かう」

「そう来なくっちゃね。それじゃあ、俺の方からスマホにナビを送るよ」

「ああ、助かる」

「でも、妨害してくる車がいたら、鉄也の指示で回避してね。回避した後のルートは、俺が再構築して、リアルタイムで送るよ」

「わかった。それじゃあ、まずは直接向かってみる」

 翔は和義から送られたナビに従う形で、目的地の方へ車を向かわせた。

「ラン君、早速動きがあったよ。車かスマホか……その両方なのかわからないけど、位置情報が闇サイトの方に投稿されたよ」

「わかりました。どうにかできますか?」

「さっき言ったとおり、ダークのネットワークを利用している人は、投稿とかできなくなっているから、情報の交換を遅らせることはできそうだよ。ただ、この投稿を見た人なんかから、色んな襲撃があると考えていいだろうね。こっちは偽の情報を投稿して、向こうを混乱させてみるよ」

「わかりました。和義、このまま目的地を目指していいのか?」

「それは俺から指示を出す。ラン、次の交差点で左折しろ。対向車線から、例の大型トラックが来てる」

「わかった。そいつは避けたいな」

 次の交差点に差し掛かったところで、翔は対向車線から大型トラックが来ていることを目視でも確認しつつ、鉄也の指示どおり、ハンドルを左に切った。それからバックミラーに目をやると、大型トラックは他の車にぶつかりながら、強引に追いかけてきた。

「ルートを修正するなら、次を右折だね」

「いや、待て。そっちは最低でも三台の車が張ってる。右折するなら、もう一つ先だ」

「わかった」

 翔は交差点を一つ通過すると、次の交差点で右折した。その直後、突然対向車線からこちらに向かってくる車がいたため、翔は咄嗟にハンドルを左に切った。そして、金属の擦れる音が響きつつ、どうにか横を通過することができた。

「くそ! そいつも敵か!? ラン、大丈夫か!?」

「大丈夫だから、とにかく指示をくれ!」

「ああ、そいつが敵となると……前方、反対車線の路肩に停止してる二台も怪しい。だが、それを避けるとなると……抜けられるルートがねえ」

 監視カメラにより、鉄也は周囲の状況がよくわかっているはずだ。そのため、鉄也が言うことは、恐らく正しい情報だ。ただ、それは翔の考えている以上に深刻な状況であることを表していた。

「ラン、やはり無謀だ。どうにかUターンして、そこから離れ……」

「翔、反対車線の路肩を走れ!」

 不意に孝太の声が聞こえると、翔は反射的にハンドルを右に切り、二車線ある反対車線を横切るようにして、路肩に入った。そんな翔の行動に反応するように、反対車線の路肩に止まっていた車は、真っ直ぐ翔の方へ向かってきた。

「翔、車の間を抜けて、一気に元の車線の路肩まで戻れ! 歩行者もいねえし、大丈夫だ!」

「わかった、やってみる」

 孝太に従い、翔はちょっとしたスペースを見つけると、ハンドルを左に切った。それに反応して、向こうもこちらに向けて曲がってきたが、道幅が広かったため、無事にすれ違うことができた。

「もう一台いるから、こっちは大型トラックを止めるのに利用しよう。翔、右車線に入った後、少しブレーキをして、大型トラックを引き付けて」

「他の車も追跡してきているが、大丈夫か?」

「問題ねえよ」

 孝太の指示どおり、翔は右車線に入った後、後方から追ってきている大型トラックを引き付けた。

「よし、アクセルを踏んで、この先、左にあるスーパーの駐車場に入れ!」

 反対車線に止まっていた車が、こちらに向かってくるのを確認しつつ、その車が来る前に翔は駐車場に車を入れた。その直後、正面衝突する形で車がぶつかると、大型トラックはバランスを崩し、翔が入った駐車場の入り口で、フェンスに乗り上げるようにして止まった。

「これで大型トラックが消えて楽になった。翔、その駐車場は別の出入り口があるから、そっちから出られるよ」

「こっちもルートを再構築したよ。当初のルートは完全に張られてるし、別の方法で来てもらうよ。でも、ちょっと無茶なルートがあるんだよね」

「ここまで来たら、いくらでも無茶をする。案内してくれ」

「オッケー。じゃあ、こっちもちょっと準備するよ」

 駐車場を出たところで、和義から新たなルートが送られ、翔は横目で確認した。

「翔、前方から何台か向かってきてる。この後すぐ、左に細い道があるから、そこに入れ」

「ああ、わかった」

 車一台が入れる程度にしか道幅がなく、無事入れるか心配だったが、翔はブレーキをしつつハンドルを切ると、軽く壁に擦りながら、指示された道に入った。それからバックミラーに目をやると、追跡してきた車と、前方から向かってきていた車が衝突するのが確認できた。

「ブレーキ! すぐバックして、元の道に戻れ!」

 強めの口調で言われたため、翔は急ブレーキをした後、すぐバックにギアを入れ、アクセルを踏んだ。その直後、前から車が入ってくると、ドンドンと迫ってきた。

「翔、急げ!」

「わかっている!」

 アクセルを踏み込み、どうにか細い道を抜け出した直後、道を塞ごうとしていた車と、正面から来ていた車が衝突した。翔はハンドルを切ると、ギアを戻し、和義から指示されたルートに戻った。

「ラン、もう少しだよ。ただ、ちょっと無茶なとこを通ってもらうから、覚悟してね」

「具体的に、どこを通らせるつもりだ?」

「結構大きい階段を下りてもらうつもりだよ」

 一瞬、和義の冗談と思いたかったが、ルートを確認すると、和義の言うとおりだった。

「そこ、歩行者専用の道だけど、ダークのメンバーを使って、みんな退いてもらったよ。きっと、ある程度のスピードを出して、そのまま飛べばいけるって。そこさえ通れば、こっちまですぐだから、最後の難関だと思ってよ」

「わかった。いくらでも無茶をすると言ったからな」

 それから、翔は孝太の指示を聞きながら走り続け、問題の階段が間近に迫ってきた。

「そこから歩道に入って、階段はすぐだよ」

「ああ、あれだな」

 そうは言ったものの、階段を下った先は何も見えず、それこそ道が切れているようにしか見えなかった。そんなところに突っ込むのかと、今更抵抗があったが、もう後戻りはできなかった。

 そして、翔は一息つくと、アクセルを強く踏んだ。

 その直後、車は飛び出すようにして宙に浮いた。翔は、スローモーションになったかのような感覚を持ちつつ、着地点に目をやった。そして、車は特にバランスを崩すことなく、地面に迫っていった。

 次の瞬間、激しい衝撃が走り、翔は歯を食いしばった。それでも、どうにか無事に着地できたことを確認すると、アクセルを踏んだ。

「翔、大丈夫かよ!?」

「ああ、後ろの連中よりかは大丈夫だ」

 翔は和義の指示したとおり、スピードを出したため、階段に触れることなく、飛び越える形になった。一方、追跡してきた者達は抵抗があったのか、ブレーキを踏むなど減速したようだ。結果、バックミラーを見ると、階段に引っ掛かるようにして、ひっくり返った車が何台も映っていた。

「ラン、別のルートで迫ってきてる車もいるから、急がねえとまずい!」

「ああ、わかった」

 鉄也の声を聞きつつ、金属を擦り合わせたような嫌な音を翔は感じていた。恐らく、さっきの衝撃でタイヤや車軸が、さらなるダメージを受けたのだろうと分析しつつ、そんなことを考えてもしょうがないため、無視することにした。

「ラン、廃墟になったデパートがあるから、駐車場に入ったら地下に向かって。それから具体的な場所は、さっき送ったのを確認してよ」

「わかった」

 ハンドルを切っても、すぐ車が曲がり始めないなど、はっきりとした影響を感じつつ、翔は駐車場に入ると、地下の方へ向かった。そして、和義から送ってもらったナビに従いながら進むと、元々関係者のみが出入りしていたであろう、見るからに頑丈そうなゲートが開いていることを確認した。

「まだ後ろから来てるね。ランが入ったら、すぐにゲートを閉じるよ。一気に抜けて」

 和義の声を聞きつつ、翔はアクセルを踏み込んだ。そして、ゲートを抜けるかどうかというタイミングでゲートが閉じ始め、軽く車の横を擦りつつ、無事に抜けた。

 その直後、後ろから追ってきていた車はブレーキが間に合わなかったようで、ほとんど閉まったゲートに衝突した。それから完全にゲートが閉まったのを確認すると、翔は一息ついた。

「これでゴールか?」

「うん、その辺に止めて。すぐ俺が行くよ」

「わかった」

 翔はブレーキを踏んだが、同時に車はスピンすると、壁にぶつかるようにして止まった。

 そして、翔は急に大きな疲れを感じると、顔を上に向かせるようにして、背もたれに身体を預けた。

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