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TOD  作者: ナナシノススム
前半
86/273

前半 26

 翔は駆け足で自然公園の駐車場まで戻ったが、さすがに桐生の遺体が発見されたようで、入り口などには既に警察が張っていた。

 それを確認して、ここまで車で送ってもらうべきだったかと考えつつ、翔は入り口から離れると、フェンスを飛び越えるようにして駐車場に入った。駐車場の中には、複数の刑事らしき者がいたが、広い駐車場のため、こちらに気付く様子はなかった。そのことを確認しつつ、翔は身を低くしながら車に向かった。

 幸い、刑事に見つかることなく車に乗ると、翔は後部座席に美優と冴木が使っていたスマホを置いた。それから運転席に座ると、一息ついてからエンジンをかけた。

 その直後、刑事達が気付いたようで、こちらの静止を指示するような動作をしながら前に出てきた。しかし、翔にはここで待機するなどという選択肢はなかった。

「目立つ分には問題ない」

 自分に言い聞かせるように、そう呟いた後、翔は一気に車をバックさせた。それからブレーキを踏むと同時にハンドルを切ると、車を半回転させた。それからアクセルを踏み込むと、フェンスを突き破るようにして道路に出た。

 それから少しして、後ろからパトカーがサイレンを鳴らしながら追いかけてきた。ただ、特に翔はそちらに意識を向けることなく、右手でハンドルを操作しながら、左手でスマホを操作した。そうして、光と通話を繋げた。

「ラン君、連絡を待っていたよ。そっちは大丈夫かな?」

「はい、何とか大丈夫です。光さんは和義と一緒に闇サイトの利用者を整理しているところですよね? そこに和義もいるんですか?」

「うん、俺もいるよ」

 割り込むようにして和義が声を上げたのを受け、翔は和義が信用できるかどうかを少しだけ考えた後、仮に信用できなかったとしても、一人でいる今なら関係ないという結論を出した。

「こちらの状況を簡単に説明します。さっき、冴木さんと合流した後、自分だけ別行動を取ることにしました。今、元々使っていた車で移動中です」

「……ラン君には驚かされてばかりだね。どういうことかな?」

「これまで、何度もこちらの位置が特定された理由を調べてほしいんです。この車の位置が特定されただけでなく、スマホなどからも位置が特定されている可能性があります。だから、美優と冴木さんが使っていたスマホも、今自分が持っています。それと、実はさっきオフェンスの一人が襲撃してきました。そいつは自害したんですけど、冴木さんとの合流場所で、待ち伏せしているかのようでした」

 考える余裕がなくて後回しにしていたが、桐生が現れたタイミングは、あまりにも不自然だった。それは、単にこちらの位置を特定するだけでなく、通話を盗聴するなど、別の手段も使わないと不可能なことに思えた。

「だから、位置が特定される可能性があるものをなるべく排除しようと、美優と冴木さんは車もスマホも変えて移動しています。その間に、位置が特定された理由を最優先で調べたいんです」

「確かに、ラン君の言うとおり、調べる必要があると思うけど……今、何をしているのかな? 自然公園の駐車場で車を発見とか、パトカーが追っているとか、闇サイトに情報が投稿されたよ?」

「目立つ分には問題ないと思って、無理やり移動しました。どこかで振り切ります」

 バックミラーに目をやると、パトカーだけでなく、普通の乗用車なども追ってきていた。覆面パトカーであればサイレンを鳴らすはずで、闇サイトの利用者だろうと翔は判断した。

「そちらの状況は、ある程度確認しています。ただ、篠田さんと可唯は単独行動をしているとのことですが、ライトやダークなどとも別行動ということですか?」

「悪魔などがディフェンスを標的にするからという理由で、二人は別行動だよ。ああ、言わなくてもわかると思うけど、先に言っておくと、可唯君は何をしているかわからないよ」

「可唯について、わからないことはわかっています。篠田さんはどうしているんですか?」

「ああ、えっと……」

 光の歯切れが悪く、翔は何か問題でもあったのだろうかと感じた。

「どうせバレるし、話そうよ。篠田って人は、ラン……というか、堂崎家について調べるため、会社に戻るとか言ってたよ」

「……どういうことだ?」

 予想していなかったことを言われ、翔は上手く頭が回らなかった。

「ダークがラン君を襲撃した理由だけど、堂崎団司が何か不当な方法で金を稼いでいるといった、匿名の投稿があったみたいだよ」

「それだけじゃないよ。実際に調べてみたら、堂崎団司がどうやって金を稼いでるのか、一切わかんなかったんだよ。真面に仕事をしてるとかなら、こんなことありえないから、不当に金を稼いでるって話、ホントじゃないかと思ってね」

「堂崎団司については……というより、ラン君のことも調べてみたけど、これまでほとんど情報が出てこないんだよね。そのことについて、ラン君から話せることはないかな?」

 光の質問に、翔はどう答えようかと迷いつつ、どこまで話すかを頭の中で整理した。

「まず、団司がどんな方法で金を稼いでいるか、俺は何も知らない」

「おいおい、父親の話なのに、それはないんじゃん?」

「あいつは父親なんかじゃない」

「俺も兄貴や親とは仲良くないけど、それでも家族は家族だって」

「いや、ラン君は、そういう意味で言っているんじゃないみたいだね」

 光は色々と察したような口調で、そんな風に言った。

「どういう経緯で、ラン君は堂崎家にいるのかな?」

「話せません」

 思わず、翔は拒否するような態度で即答していた。ただ、さすがにそれだけでは良くないと考え直すと、付け加えることにした。

「自分が話すことで、どんな危険があるかわからないんです。それは、自分だけでなく、話を聞いた人にまで危険が及ぶかもしれません」

「そんな言葉で脅かすなよ。どうせ、ランも親に手を貸してるとか……」

「和義君、この件は深追いしない方が良さそうだよ。だから、ここで話を終わりにしよう」

「……何だよそれ? まあ、別に光がそう言うなら、それでいいよ」

 光の言葉を受けて、和義は案外簡単に詮索を諦めてくれた。そのことに、翔は安心すると、軽く息をついた。

「ただ、さっき和義君が話したとおり、篠田さんがラン君や堂崎家のことを調べているよ。これは、元々ラン君に取材するつもりで調べていたみたいだけど、何か同僚からわかったことがあると連絡があったようで、それで篠田さんは会社に戻ったんだよ」

「……そういうことですか」

「あまり調べない方がいいなら、篠田さんに言っておこうか?」

 そんな風に提案されて、翔はどう返すのがいいか、少しだけ考えた。

「篠田さんが止まるとは思えませんけど、一言だけ伝えてもいいかもしれません。すいません、こちらは忙しいので、通話に篠田さんを追加してくれませんか?」

 前方に、待ち伏せするように止まっている車がいたため、翔はタイミングを計ると、一気にハンドルを右に切り、反対車線に入った。それにより、前方に止まっていた車は慌てた様子で反対車線に車を動かし、後方から追ってきた車はパトカーを除いて反対車線に入ってきた。

 翔は一瞬だけブレーキを踏んで減速させると、後方から来た車との距離を縮めた。それから、すぐにまたアクセルを踏むと、ハンドルを左に切って、本来の車線に戻りつつ、前方に止まっていた車をかわした。

 そんな翔の行動に混乱したようで、バックミラーで後方を確認すると、衝突事故が発生していた。

「篠田さんに連絡してみたけど、出ない……というより、スマホが機能していないみたいだね。何もないといいけど、こんな状況だし、心配だね」

「篠田さんは、会社に戻ると言っていたんですよね? それなら、会社と会社の周辺で何か起こっていないか、調べられませんか?」

「そうだね。和義君、頼んでいいかな?」

「オッケー。鉄也達を通して、みんなに調べてもらうよ」

 改めて、ライトとダーク、それにセレスティアルカンパニーの協力を得られたことによる利点を感じて、翔は色々と思うところがあった。それは、TODを潰すという、自分の目的に少しだけでも近付けているような感覚で、本来は心から喜ぶべきなのかもしれない。しかし、すぐにそんな考えを頭から消した。

「どんな危険があるかわからない。慎重に行動するよう、言ってくれ」

「大丈夫だよ。僕もラン君と同じ考えだから。それぞれ、身の安全を最優先にするよう、伝えているよ」

 光がそこまで言ってくれて、翔は少しだけ安心した。

 その時、交差点に差し掛かったところで、翔は右から迫ってきた大型トラックの存在に気付いた。

 車の後方をぶつけられ、スピンしつつも、翔はハンドルとブレーキを操作すると、予定とは違う、右折をする形で車を走らせた。

「ラン君、すごい音がしたけど、大丈夫かな?」

 こちらはスピーカーにしているため、車の衝突音なども全部通話に入る。それを聞いた光が心配するのも無理はないと、翔は感じた。

「ラン君、さすがに目立ち過ぎだよ。周囲を張られているよ?」

「そちらを目指していましたけど、迂回してもいいので、どう移動すればいいか、指示してもらえないですか?」

 光の指摘どおり、このまま包囲されてしまうとまずいため、翔は協力を仰いだ。

「こっちも鉄也に連絡できたし、協力するよ。何か、大型トラックみたいなのも追ってきてるみたいだし、それを利用して道を塞いでもらえばいいんじゃん?」

「僕も同感だね。ラン君、大型トラックは追ってきているかな?」

「少し距離が離れていますけど……丁度いいかもしれませんね」

 翔は、左側にあった細い道を通過しつつ、後方を確認し、特に大型トラックとの位置関係を頭の中で計算した。そして、あるタイミングでハンドルを切りつつブレーキを踏むと、そのまま勢いよくUターンした。

 追ってきていた車が何台かぶつかろうとしてきたが、翔はそれをよけつつ反対車線を走り、大型トラックがすぐ近くまで迫ってきたタイミングで、先ほど見つけた細い道に入った。すると、大型トラックはその道に入れないまま入り口のところで塀にぶつかり、そのまま道を塞ぐ形になった。

「さっき話したとおり、自分は目的地とは逆方向を目指します。闇サイトの方の情報操作をお願いしていいですか?」

「うん、僕と和義君で偽の目撃情報を広めておくよ。和義君、ラン君は、このルートを通っていることにするよ」

「オッケー。それじゃあ、先回りしてる車を全部こっちに集めるよ」

 情報操作は完全に光達に任せる形で、翔は運転に集中した。こうした裏道は一方通行が多く、それに従えば、自然と行く方向が予測されやすくなる。そう判断すると、時には一方通行を逆走しながら、目的地から離れていった。

 そうして、裏道から大通りに出たところで、翔は一息ついた。

「おかげで振り切れたようです。助かりました。ありがとうございます」

「俺達なら、こんなのイージー過ぎるよ」

「和義君がいてくれて、大分助かっているよ。ただ、ラン君がこっちに来るのは、少し難しそうだね。というのも、セレスティアルカンパニーを目指しているんじゃないかって推測が闇サイトの方であって、近辺を張っている車が結構いるみたいだよ。だから、ラン君がこっちに来るんじゃなくて、僕達がそっちに行った方がいいかもしれないよ?」

「いえ、光さん達は他にやることもあるので、どうにか自分が向かいます」

 そう言いつつも、それが無謀なことのようにも翔は感じていた。冴木の用意してくれた、この車は防弾仕様で丈夫なため、これまでかなりの無茶をしてきても、走らなくなるといった問題は発生していない。しかし、影響がないわけでなく、タイヤか車軸にダメージがあるのか、時々車体がガタつくような挙動があり、限界が近いことを示していた。そんな状況で、無事に辿り着けるかというと、厳しいとしか思えなかった。

 その時、翔のスマホに和義からメッセージが届いた。何かと思いつつ確認すると、それは地図のようだった。

「今、鉄也達がダークの本拠地にいるから、こっちの方に来てくれれば、どうにかできるよ」

「これは何だ?」

「建設途中で中止になった地下鉄とか地下街があるんだけど、そこをダークの方でほとんど占拠してるんだよ。こっちの方まで来てくれれば、周辺の監視カメラとかも盗聴してるし、何とかなるんじゃん?」

 和義の言い方が軽いため、少し心配になったが、送られてきた情報を確認すると、翔はどうにかできるかもしれないと思えてきた。

「闇サイトの利用者をまとめるのは、もう終わりそうだし、和義君にはラン君のサポートをお願いしていいかな?」

「オッケー。鉄也に頼んで、準備するよ。とりあえず、車とスマホをこっちまで届けてもらえばいいだけだし、余裕だよ」

 何故そこまでの自信が持てるのかわからなかったが、妙に自信ありげな和義の言葉を受けつつ、翔は自分のするべきことを考えた。ただ、考えたところで答えは何も変わらなかった。

「俺は、最初に話したとおり、何故こちらの位置が特定されたのかがわかればいい。だから、無茶してでも和義の案に乗らせてもらう。和義、頼んだ」

 協力してくれる人がいなければ、何もできなかっただろう。実際、これまで何もできなかったわけだ。だからこそ、できることが明確にある今の状況は、自分の望んでいたことだ。

 そのことを自覚しつつ、翔は改めて気を引き締めようと、深呼吸をした。

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