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TOD  作者: ナナシノススム
前半
84/273

前半 24

 孝太と千佳は、圭吾と一緒に鉄也の車に乗り、移動しているところだった。

 ただ、鉄也は地下の駐車場に入ったかと思ったらすぐ外に出たり、同じようなところをグルグルと回ったり、しばらくの間、移動し続けていた。

「鉄也、いつになったら着く? さっきから同じとこばかり走ってるぞ?」

「尾行や監視がないか確認してるんだ。他の奴らは別ルートで行くが、こっちは直接的なルートで行く。一応、簡単には入れないようになってるが、慎重になる必要はあるだろ」

「それは慎重じゃなくて、臆病じゃないか?」

「圭吾が大雑把過ぎるんだ。まあ、もうすぐ着くから待ってろ」

 そう言うと、鉄也はまた地下駐車場に入った。ただ、今度は外へ出ることなく、そのまま奥へ進むと、空いたスペースに車を止めた。

「ここから歩きだ。車を降りろ」

「ああ、わかった。孝太と千佳も降りるぞ」

「あ、はい」

 そこは市街地の中にある地下駐車場で、外ではそれなりに人通りもあった。そんな所にダークが集まっているのかと、孝太は疑問を持った。

 ただ、鉄也は出口の方ではなく、さらに奥へと進んでいった。そして、閉ざされたゲートの前で足を止めた。

「孝太、千佳、二人とも、スマホを出せ」

「何をするんですか?」

「いいから出せ」

 鉄也に言われるまま、孝太と千佳はスマホを出した。それから少しして、スマホに何かアプリが追加されたことを孝太は確認した。

「これは?」

「孝太に使ってもらうか。アプリを起動してみろ」

「はい、わかりました」

 孝太がアプリを起動すると、突然目の前のゲートが開き出した。

「このゲートは、そのアプリを起動すると開く。完全に開いてから十秒後、自動的に閉じるから、開けたらすぐに抜けてくれ」

 鉄也がそう言った後、足早にゲートを抜けたため、孝太達は若干慌てつつゲートを通過した。それから少しして、鉄也の言うとおり、ゲートが閉じた。

「このアプリは、俺と和義しか入れてねえものだ。今回は特別だからな」

「あの、圭吾さんはまだしも、僕や千佳が入れていいものなんですか?」

 実のところ、一緒の車に乗せてもらったこと自体、いいのかと疑問を持っていたため、孝太はそんな質問をした。それに対して、鉄也は軽く笑った。

「むしろ、一番教えたくねえのが圭吾だ。孝太と千佳は、ダークへの参加を希望してたな。ホントに希望するなら、俺は歓迎する」

「鉄也、何を勝手に決めてるんだ? 二人はライトのメンバーだぞ?」

「まだ入ったばかりだろ? それも、ダークのことを知らない状態で入っただけじゃねえか。特に孝太はダークの考え方をよく理解してるようだ。今、改めてどちらに入るか選択させれば、ダークを選ぶはずだ」

「そんなことないぞ。孝太も千佳も、ライトを選ぶだろ?」

 不意にそんなことを聞かれて、孝太は答えに困った。

 正直なところ、孝太はライトとダークのどちらを選択するかというより、何故二つに分かれているのだろうかという疑問を強く持っていた。その経緯について聞いたものの、単にすれ違いがあっただけとしか思えず、今すぐにでも一緒になればいいという結論しか出なかった。

 ただ、そんなことを言っても伝わる気がしなかったため、孝太はどう言うのが正解なのかと悩んでしまった。

「私はライトとダーク、どちらにも入りたいです! 孝太も、そう思うよね?」

 突然、千佳がそんな風に笑顔で言ってきて、孝太は笑った。千佳の言ったことは、自分の考えそのものだった。

「はい、僕もそう思います。ライトとダーク、どちらにも入りたいです」

 孝太達の答えに、圭吾は複雑な表情を見せた。一方、鉄也はどこか嬉しそうな表情だった。

「俺は孝太達がダークに入るなんて認めないぞ」

「圭吾は心が狭いな。俺は別に構わねえ。俺達ダークが信用できねえと思ったら、いくらでもライトにダークの情報を流していい。反対に、ライトが信用できねえと思ったら、俺達にライトの情報を流せ」

「よくも俺の前でそんなことが言えたな」

「条件は同じだから問題ねえだろ。じゃあ、孝太と千佳は、ダークにも入るってことでいいな?」

「そんなの許すわけないだろ!」

「じゃあ、ちゃんとした反論をしろ」

 圭吾と鉄也のやり取りが、仲のいい二人のやり取りにしか見えなかったため、孝太は勇気を振り絞るようにして、自分の思いを伝えることにした。

「僕は、今だけでなく、ずっとライトとダークが一緒になってほしいと思ってます! だから、ライトとダーク、両方に入りたいんです! 僕達が……僕達にできるかわかりませんけど……」

 何を言えばいいかと悩んだ時、これまでの自分の経験を言うことは、誰でもあることだ。孝太にとってのそれは、やはりサッカーだった。

「僕はずっとサッカーをやってるんです。サッカーの試合をする時は、お互いに敵同士なので、とにかく勝とうと対立します。でも、試合が終われば、ノーサイドです。僕はずっと緋山春来って選手に勝てなくて、いつも悔しい思いをしてました。でも、試合が終われば、緋山春来のことを心から尊敬してました」

 一方的でもライバルと思うことは、少なからず相手を尊敬しているからこそだ。孝太が緋山春来に対してそう感じたのと同じように、圭吾と鉄也はお互いに尊敬し合っている。そう思えたからこそ、孝太はこの話をしようと思った。

「ライトとダーク、どちらにも入る僕達が、二つに分かれてしまったグループを一つにするきっかけになればと、そう思ってます」

「うん、私も同じ気持ちです!」

 孝太達の言葉を受け、圭吾と鉄也はお互いに顔を見合わせたものの、何も言えないようだった。

「……それより、ここは何なんだ?」

 そして、圭吾の方から話題を変えるように、そんな質問をした。ただ、ここが何なのかというのは、孝太も持っていた疑問だ。そこは、一定の間隔で設置された照明と、それから線路が見えていて、普通に考えれば地下鉄の一つのようだった。

「ああ、ここは建設途中で中止になって、放置された地下鉄だ。詳しいことは移動しながら説明する」

 それから、孝太達は鉄也に案内される形で奥へと進んでいった。

「電車で移動する時、なるべく乗り換えは少ねえ方がいい。そんな願いを叶えるため、網の目のように線路は通ってる。ここもその一つとして建設されたが、何かしらかトラブルがあったのか、途中で中止になった。知られてねえだけで、地下にはこうした場所がたくさんある」

 そうして歩いていくと、照明なども多く設置された、それこそ地下街のような場所に出た。そこには、いくつかテントがあり、数人の中年男性がいた。

「おう、鉄也じゃないか。おや、三人は見ない顔だね。新しいメンバーかい?」

「この前もらった酒、美味しかったよ」

「今度は鉄也も一緒に、みんなで飲もう」

 鉄也は男性達からそんな声をかけられる度、簡単に返事をしていた。その様子から、鉄也が男性達から慕われているだろうことがよく伝わった。

「ここは雨風も防げるし、ホームレスなどが暮らしてる。場所によっては、地下にもう一つの街があるかのように発展してるとこもあるんだ」

 初めて聞く話なので多少驚きつつ、地下に街があるという話に、孝太は何だかワクワクするような気持ちになっていた。

「ここのホームレス達は、ダークと協力関係にあって、お互いに金や物資のやり取りをしてる。俺達不良と同じで、ホームレスも偏見を持たれることが多いが、これも社会の一部だ。それを知らずに社会を変えるなんて言うんじゃねえ」

「……鉄也の言うとおりだ。光にもここを見せたいぞ」

 孝太自身、街中でホームレスの人を見かけた時、どこか怖いなんて感情を持ち、距離を置くようにしてしまっている。そのことを、今改めて考え直す必要があるように孝太は感じた。というのも、先ほど鉄也と軽くやり取りしているところしか見ていないものの、ホームレスの人達は気さくな雰囲気で、機会があれば何か詳しい話をしたいと思えるほどだったからだ。

 それから、もう少し歩いたところで、大勢の話し声などが聞こえてきた。そうして見えてきたのは、簡易的なバリケードで周りを囲まれた、工事現場のような場所だった。

「その時によって、ダークは集まる場所を変えてるが、特に利用してるのがここだ。一番楽なルートが今通ってきたとこだが、様々なルートでここに来れる。ただ、地下は迷路のようになってるから、勝手に移動して迷わねえようにしろ」

 他の者達は別のルートで来たようで、既にほとんど集まっているのか、百人近くいるように見えた。

「みんな集まってるな。今後、ここを拠点にする。何か危険があった時、ここに逃げ込めば、いくらでも対処できるはずだ。それに、いざ襲撃を受けても、ここなら逃げ道はいくらでもある。光が言ってたが、自分の安全を第一に考えるという点でも、ここは有利に使えるはずだ」

 まだ来たばかりなものの、安全性という点では、鉄也の言うとおり、優秀な場所だと感じた。ここは死角が多く、敵を誘い込んで迎撃するといった使い方や、敵を足止めするといった使い方など、どちらでも有効に使えるはずだ。そうした戦略が自然と頭に浮かび、孝太は少しだけ興奮してしまった。

「それだけでなく、ここは攻めにも使える。都内の通信機器や監視カメラ、見てのとおり電気など、ある程度は自由に使える」

 ここには複数のモニターが置いてあり、画面には監視カメラの映像と思われるものが表示されていた。

「それを利用して、不審なことがあれば、すぐに対処する。この辺りは、普段から犯罪の対処をしてるライトに任せる。圭吾、それでいいな?」

「どうやってこんなことをしてる? まず、鉄也達の犯罪行為を止めるべきだと俺は思うぞ?」

「俺達に協力すると言っただろ? 早速約束を破るのか?」

「それとこれは話が別だ。鉄也達の犯罪に協力する気はないぞ」

「だったら、今ここで『ケンカ』をするか? まだ決着はついてねえからな。ここで決着をつけてやる」

「ああ、いいぞ」

 圭吾と鉄也は、対峙するように向かい合った。それを見て、孝太は慌てて間に入った。

「待ってください! 決着は今度にしてください!」

 孝太の言葉を受けて、圭吾と鉄也は落ち着きを取り戻したのか、お互いに息をついた。

「鉄也、どうやってこんなことをしてるのか、ちゃんと説明しろ」

「機械音痴の圭吾に説明してもわかんねえだろ……って挑発するのもやめるか。結論だけ言えば、これは犯罪行為じゃねえ」

「どういうことだ? 盗聴ってことは、何か悪さをして、情報を盗んでるってことだろ?」

「その程度の知識しかねえ奴に説明するなら……やり方さえわかれば、誰でも見ることのできる公開情報を集めてるだけだって言えば、理解できるか?」

 鉄也はそう言うと、そこにあったパソコンを操作した。

「人は外面だけ良ければいいと、通信機器だけでなく、電線まで地下に集中させた。しかも、セキュリティは一切なく、垂れ流しの状態になってるんだ。これらは、全部一般公開されてるのと同じ状態……言い方を変えれば、ゴミのように捨てられてる状態で、それを俺達は拾ってるだけだ。何の犯罪行為もしてねえ」

 その時、モニターに表示されたのは、銀行にあるATM、どこかの企業の会議室らしき場所、何か良くない薬を売買しようとしているビデオ通話の会話、いずれも見てはいけないとすぐ思える映像ばかりだった。

「こんな映像が垂れ流しになってるのが事実だ。それを有効に利用する行為は、ゴミをリサイクルするのと変わらねえだろ?」

 モニターには、学校と思われる場所の映像まで表示されていた。それを見て、孝太はプライバシーを守ることは不可能だろうと感じた。

「こんな状態になってることは、問題だと思ってる。今回の件が終わったら、光にでも頼んで改善してもらえ。だが、今はこれを利用させてもらう」

「……協力するという約束だからな。納得はいかないが、ここで手に入る情報を使うことは止めないことにするぞ」

「それならいい。話を戻すが、これからここで情報を収集する者と、不審者を捕まえる者で分ける。今、和義達の方では闇サイトの利用者を調べてもらってるから、その情報が入れば、それも併せて対応する。行動する時は常に複数人で、何か危険を感じれば、さっき言ったとおりここに誘い込め。そんなとこでどうだ?」

 説明は簡単だったが、これだけの設備もあるため、鉄也の言葉を、ただただ頼もしいと孝太は感じた。

「いいぞ、わかった」

 そして、圭吾も鉄也の提案を受け入れてくれて、孝太は安心した。

「それじゃあ、具体的に指示を出していく。圭吾、今のライトのメンバーについては俺もよく知らねえ。誰に何をさせるべきか、圭吾の判断に任せる」

「ああ、最初からそのつもりだぞ」

 それから、ここに残る者、外へ出る者、それぞれ指示が出されていたが、孝太と千佳は何をしていいかわからず、ただ眺めていた。

「ああ、いたいた。千佳と言ったな?」

 そこで、不意に千佳が声をかけられて、孝太も一緒に振り返った。

「これ、返し忘れてたよ。返しとく」

 それは、和義と会った時に没収されたスタンガンだった。

「ちょっと、忘れないでよー! 私も忘れてたけど」

「悪かったよ」

 そんなことを言われつつ、スタンガンを受け取ると、千佳は動作確認するように、何度かスイッチを入れた。

「だから、それ怖いからやめてくれよ」

「今のところ、脅しにしか使ってないけど、そろそろ出番が来るかな?」

 千佳が不審者を捕まえる気でいるようで、孝太は見ていて心配になった。

 その時、圭吾と鉄也がこちらにやってきた。

「孝太と千佳は、俺達と一緒に行動してくれ」

 それは、意外過ぎる言葉で、孝太は戸惑ってしまった。

「いいんですか?」

「二人は来たばかりで、わからないことも多いだろう。だから、色々と覚えてもらうのも兼ねて、俺達と一緒に行動してもらうぞ。まあ、ランは二人を危険に晒したくないようだからな。そういった意味でも、単独行動は避けてもらうぞ」

 その言い方は、孝太と千佳が足を引っ張る形になっていないかと不安にさせるものだった。そして、それは単なる不安でなく、事実だろうとも感じているところだ。

「……はい、何か力になれればと思います」

「私もです!」

 ただ、そんな自分達でも何かできることがあるはずだと信じて、孝太は強く頷いた。

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