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TOD  作者: ナナシノススム
前半
82/273

前半 22

 光は和義を連れてセレスティアルカンパニーに戻ると、改めて状況を整理しつつ、今後の準備に取り掛かっていた。

「和義君、ダークのネットワークを使わせてもらえて、本当に助かるよ」

「こっちもセレスティアルカンパニーのシステムに触れて嬉しいよ。まあ、前にハッキングしたことあるから、そんなに感動ないけど」

 ダークのネットワークに直接触るのは光だけで、他の社員には整理した情報を後で連携することにした。その理由は、和義などが単純に拒否しただけでなく、特殊なシステムが使われていることから扱いが難しく、光ぐらいしか真面に扱えそうになかったためだ。

「それにしても、ダークのネットワークを利用して、闇サイトにアクセスする人、結構いるんだね」

 その中には、美優達を襲撃しようとしている者もいて、今はこの情報の整理を急いでいるところだ。

「元々このネットワークは、悪さをしようとしてる奴らをトラップにかけるためのものだからね。この前は大企業のお偉いさんが裏金を動かそうとするのに利用してくれて、それを掠め取っておいたよ」

「一応、犯罪には反対って方針は変わらないよ。まあ、今は僕達が協力している立場だから、止めないけどね」

「光はそういうとこがずるいよね」

「とにかく、今はこの情報を整理するのが先決だよ。そうすれば、ライトとダークに色々と動いてもらえるからね」

「それじゃあ、俺はとにかく目に付く情報を拾っとくから、整理は光に任せるよ。整理し切れないほど、大量の情報を集めてやるよ」

「和義君がどれだけ情報を集めようと、全部整理するよ。あまり遅いと僕の手が空いちゃうから、相当急いでもらうよ?」

 光は和義とそんなやり取りをしながら、昔のことを思い出していた。

 ライトを拡大させていこうと考えた時、インターネットを利用するのは効果的だった。その際、光と和義の二人が中心になって、情報の発信や整理を行った。というのも、圭吾はパソコンなどが苦手で役に立たず、鉄也は身体を動かしたいと協力してくれなかったからだ。

 そうして和義と行動していると、お互いの知識や技術を比べることが多くあり、それを通して、光と和義はお互いに自らを高め合うような関係になっていった。その経験は、光がセレスティアルカンパニーの副社長をやるうえでも、いかされていた。

「でも、こうして見てると、こいつらはチンピラばっかで大したことないし、俺達が何もしなくても、ランがどうにかしてくれるんじゃん?」

「和義君の言うとおり、さっき実際に襲撃を受けても、ラン君が全員倒しちゃったみたいだよ。ただ、ヤクザや殺し屋みたいなのが動くかもしれないし、この闇サイトはどうにかしないと。ああ、でも、そういう危険なのは警察とかにも動いてもらって、みんなには無茶をさせないようにしたいね」

「警察に頼るとか、ホント光も変わったね。社会の言いなりじゃん」

「頼るんじゃないよ。動いてもらうんだよ」

 そんな話をしていると、ドアをノックする音が聞こえた後、瞳が入ってきた。

「光、二人とも連れてきたよ」

「うん、ありがとう」

 瞳に続くようにして入ってきたのは、林和仁と浜中だった。

「和義君、久しぶりだね。元気にしてたかな?」

 和仁は久しぶりに会った弟の和義に対して、どこか他人行儀な雰囲気だった。

 光は和義と和仁の間にある、わだかまりのようなものも理解している。そうしたものが、これをきっかけに少しでも改善してほしいと願っていた。

「見てのとおり元気だよ」

 ただ、和義はぶっきらぼうな返事をするだけだった。

「えっと、和義君が協力してくれるなんて嬉しいよ。和義君は昔から……」

「勘違いしないでよ。俺達ダークが協力してもらってるんだよ。それに、俺は俺の実力を示せれば、それでいいからね」

 和義のハッキング技術は、光も認めたくなるほど優れたものだ。それは、セレスティアルカンパニーの技術者として優れている和仁の実力を、とっくに追い越しているようにも感じる。しかし、そのことを和義は自覚していないようで、兄に対するコンプレックスを今でも持っているようだ。

「ああ、私は刑事をやっている浜中剛だよ。よろしくね」

 空気に耐えられなかったようで、浜中は割り込むようにして自己紹介をした。

「警察なんて何の役にも立たないじゃん。何でここにいんの?」

「和義君と言ったね。君の言うとおり、警察は役立たずだよ。まったく情けない話だけど、TODの存在を知りながら、これまでろくな捜査もしてこなかった。だから、警察として協力できることはほとんどないけど、私個人として少しでも協力できればと思っている。だから、改めて言うよ。よろしくね」

 浜中の言葉に、和義はどう反応すればいいか困っているような、複雑な表情を見せた。

「この間違った社会を変えたいという考えは、ダークだけでなく僕達も同じだよ。ただ、僕や浜中さんは社会と対立するのではなく、社会の中で変えていくことを選択したんだよ。残念ながら、まだほとんど変えられていないけどね」

「私はそこまで強い気持ちがあるわけじゃないよ。ただ、警察の体制を変えたいと強く願っていた日下さん……先輩の意思を少しでも実現したいとは思っているよ。だから、協力させてもらえないかい?」

「……わかったよ。そこまで言うなら、俺達が勝手に警察を利用するからね」

「ああ、それで構わないよ。私達、警察をいくらでも利用してほしい」

 浜中が何も否定してこないことで、和義はどこか拍子抜けしてしまったのか、それ以上何か文句を言うことはなかった。

「浜中さん、早速で申し訳ないんですけど、今は闇サイトの利用者を調べて、整理しているところです。中にはヤクザや殺し屋のような者もいると思うので、それを警察に逮捕してもらえませんか?」

「何か犯罪歴などがあるなら、その情報を提供してもらえないかい? ただ、それですぐに警察が動くかどうか……」

「こちらで情報操作して、複数の通報があったかのように偽装します。そうすれば、さすがに動いてくれるんじゃないですか?」

「光さん、それはさすがにまずいんじゃないですか?」

 それまで黙っていたが、和仁は限界だったようで、口を挟んできた。それに対して、光は笑った。

「大丈夫、絶対に犯罪行為はしませんよ。和義君がどうするかは知らないけどね」

「だから、光はずるいっての。まあ、俺は鉄也と違って、そういうとこも嫌いじゃないし、それでいいんじゃん?」

 和義とそんな話をしていると、和仁がため息をついた。

「まったく、敵わないですね……」

「私も同感だよ。ただ、警察はそうでもしないと動かないということが、そもそも間違いなんだろうね」

 浜中は悲しげな表情で、それは警察の実情を表しているようだった。そんなことを感じつつ、光は単に協力してもらうだけでなく、浜中の思いを少しでも実現したいと思った。

「浜中さん、刑事だからこそ知ることができる情報も多くあるはずです。何でもいいので、何かTODと関連した情報があったら教えてください」

「そう言われても、すぐにこれと言えそうな情報はないよ。事件なんて毎日のように起こっているしね」

「それなら、警察は今どんな事件を追っていますか? さっき話したとおり、闇サイトの利用者や、TODにかかわっている人を警察に逮捕してもらう時、今追っている事件と関係があるかのように情報を流せば、動いてもらいやすいと思うんです」

「光さん、だから……」

「いや、そこまでやっていいと私も思うよ」

 和仁は反対しているようだったが、浜中の言葉を聞くと、諦めたように息をついた。

「ああ、言い忘れていたけど、私は今日、休暇を取っているから、ここにいないことにしてもらえるかい?」

 不意にそんなことを言われ、光は思わず笑ってしまった。

「はい、いいですよ。というより、こうして協力してもらっていること自体、ここだけのことにするつもりです」

「ありがとう、そうしてもらえると助かるよ。それじゃあ話すけど、警察は今、ある殺人事件を追っているよ」

「殺人事件ですか?」

「この事件が妙で、いわゆる連続殺人事件……いや、大量殺人事件も含まれているかな」

「大量殺人と連続殺人は、似て非なるものですよね? 含まれているってどういうことですか?」

 複数の人を殺害したという点では同じなものの、大量殺人と連続殺人では意味が異なる。

 大量殺人は、一度に複数の人を殺害した際に用いられる言葉だ。具体的には、何かしらかの施設を襲撃したり、通り魔のように街中で突然人を襲ったり、そうして複数の人が殺害される事件が起きた際、大量殺人という言葉が用いられる。

 一方の連続殺人は、犯人が複数回に分けて人の殺害を繰り返した際に用いられる言葉だ。こちらはフィクション作品などで描かれることが多く、現実に起こった事件も、切り裂きジャックによる犯行など、どこかフィクションのように感じられる事件が広く知られている。その理由は、複数の殺人事件があったとして、それが同一犯によるものか判明しないことが多いからだ。

 こうした知識を持っていたため、光は浜中の発言に違和感を覚えた。

「説明が難しいんだけど、まず連続殺人事件の方を話すよ。こちらは四件発生しているんだけど、被害者は全員、身体中に切り傷があって、さらには誰かと争ったような形跡があったんだよ。そして、現場には二本のナイフが残されていた。そんな異常な事件で、警察の中にはナイフを用いた決闘をしていたんじゃないかなんて意見もあるぐらいだよ」

「同一犯によるものだという根拠は何かあるんですか?」

「犯人のものと思われる血痕が残されているケースが何件かあったんだけど、DNA鑑定の結果、同一人物のものだと確認されたよ。それで、手口も似ているし、四件全部が同一犯によるものだろうという見解になったんだよ」

 詳細を聞かないと判断できなかったが、たとえ同一犯でなかったとしても、四件の事件は何か関連がありそうだと光も感じた。

「それで、ここからが問題なんだけど、先月、十人が何者かに殺された、いわゆる大量殺人事件が発生していたんだ。それはナイフによる刺殺だけでなく、銃で撃たれた人や、何か鈍器で殴られた人もいて、事件そのものは関連がなさそうだったんだけどね。その現場に残されていた、被害者のものではない血痕も、同一人物のものだと判明したんだよ」

「確かに妙な事件ですね。詳細を教えてくれませんか?」

「光、こっちの情報の整理はどうすんの?」

 和義の言葉で、光は本来の目的を思い出した。

「ごめん、そうだったね。ただ、その事件はマスコミ報道などされていませんよね?」

「うん、模倣犯なんかが出そうだからと報道規制しているよ」

「だったら、さっき話したとおり、闇サイトの利用者などを逮捕してもらう時に使えそうですね。現場近くでその人を見たとか、そんな情報をリークすれば、警察も動きやすくなりますよね?」

「そういうことなら、確かに使えるじゃん。手が空いた時に俺も見とくよ」

 ふと、光は和仁の反応が気になって目をやった。すると、もはや反対してもしょうがないと思っているのか、和仁はため息をつくだけだった。

「そういうことなら、後で詳細を送るよ」

「よろしくお願いします。瞳、和仁さん、そういうわけで僕と和義君は手が離せないから、これまでセレスティアルカンパニーで行っていたことは、二人が中心になって進めてほしい。といっても、僕がここを離れている間と、そんな変わらないかな」

「わかった、任せておいて。和仁さん、よろしくお願いします」

「はい、わかりました」

「でも、ラン君達の状況などは知りたいから、優先して教えてもらえるかな。連絡があれば、僕も通話に参加するよ」

「言われなくても、そうするつもりだよ」

「うん、いつもありがとう」

 いつも瞳は自分のしたいことなどを理解してくれて、本当に助かっている。光は、そのことを改めて感謝した。

「それじゃあ、私は署に寄って、さっき話した事件の情報をまとめてくるよ」

「今日、休暇じゃないんですか?」

「ちょっと寄り道するだけだから、大丈夫だよ」

「すいません、ありがとうございます。それじゃあ、よろしくお願いします」

 今後それぞれ何をするかが決まったところで、光は軽く一息ついた。

「光の手が空かないように、この間にたくさんの情報を集めておいたよ。過労で死ぬほど集めたから、覚悟しといてね」

「まだまだ足りないよ。この程度じゃ、すぐ終わっちゃうよ?」

 副社長として他の者に指示を出すだけでなく、自らも動いて、自身の知識や技術を磨いてきたつもりだ。それが今の和義に通用するか、光は全力で挑む気持ちで、キーボードを叩き始めた。

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