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TOD  作者: ナナシノススム
前半
80/273

前半 20

 翔は冴木から代わりの車を確保できたという連絡を受けた後、人気が少ないだけでなく、不意に襲撃を受けても対処しやすい場所をお互いに確認して、どこで合流するかを決めた。

 そうして、翔は監視カメラを避けるように裏道を利用しながら合流場所に向かっていた。

「俺達の状況を知って、連絡するのを避けてくれたようだが、ダークとの接触はどうにか上手くいったようだ」

 スマホに流れるメッセージを確認しながら、翔は美優を安心させるためにそう伝えた。

「孝太と千佳も大丈夫だったの?」

「ああ、孝太が無茶をしたみたいだが、二人とも無事だ」

「それなら良かった……」

 美優は本当に心から安心したように息をついた。

「こっちはもうすぐ目的地だ。冴木さんに連絡しよう」

 翔は路肩に車を止めると、冴木に連絡した。

「冴木さん、こっちはもうすぐ到着する」

「悪い、こっちはもう少しかかりそうだ」

「それなら、近くで待機していた方がいいか?」

「いや、今いるのは裏道だろ? 囲まれるような状況になる危険があるから、先に行ってくれ」

「わかった。それじゃあ、先に行って待っている」

 そう言いながら、翔は車を発進させた。

「翔、何度も言うが、無茶はするな。危険を感じたらすぐに逃げろ……と言っても、無駄なんだろうな」

「安心しろ。誰が相手でも俺が倒す」

「まったく……美優、難しいかもしれないが、翔が暴走しそうになったら、どうにか抑えてくれ」

「あ、はい、わかりました」

 冴木からそんな風に言われるのは納得いかなかったが、翔は特に何も言わなかった。

「それじゃあ、後でな。何度も言うが、無茶をするなよ」

「ああ、わかっている」

 そうして、連絡を切ると、数分ほど走らせたところで翔達は目的地に到着した。

 そこは自然公園の駐車場で、ここを選んだ理由は、景観を損なわないことを目的としていることから、監視カメラなどが少ないためだ。また、平日の今日なら利用者が少なく、たとえ利用者がいたとしても、駐車場に残ることはあまりないため、自然と人目につく危険も少なくなる。そうした理由で、翔と冴木は合流場所として、ここを選択した。

 車が密集した所を避けつつ、他の車から完全に離れた所も逆に目立つと考え、翔は適当に空いたスペースに車を止めた。

「ここで冴木さんを待とう」

「翔、運転お疲れ様」

「……今後も何があるかわからない。少し外でストレッチをしてくる」

「ずっと座っていたし、身体がカチカチだね。私も出るよ」

 翔と美優は車から出ると、思い思いにストレッチをした。美優の言うとおり、身体が固まっていて、それを入念に解しておいた。そして、翔は軽くステップを踏んだり、素振りをするようにパンチを繰り出したりして、身体の状態を確認した。

「冴木さんから連絡すると言っていたが、後どれぐらいかかるか聞くか。向こうはすぐわかると思うが、俺達がどの辺りにいるかも伝えておこう」

「うん、そうだね」

 翔はスマホを取り出すと、冴木に連絡しようとした。ただ、その瞬間、何か嫌なものを感じたため、手を止めると、そちらに視線を向けた。

 そこには、和服を着た、それこそ侍のような恰好をした男が立っていた。

「美優、車に戻れ!」

「え?」

 翔はスマホを仕舞うと、警棒を取り出し、勢いよく振って伸ばした。

 その間も、和服を着た男はゆっくりこちらに向かってきていた。それに対して、翔は威圧するように警棒を男に向けた。

「おまえ、オフェンスだな?」

 それは単なる勘に近いものだったが、男から感じ取った雰囲気などから、翔はほとんど確信を持ってそう言った。

「いかにも、拙者は桐生きりゅうまことでござる。水野美優殿、この刀でそなたを斬らせてもらう」

 桐生と名乗った男は、腰に付けた刀を鞘から抜いた。それは、模造刀などでなく、本物の刀だろうと翔は判断した。

「俺が相手になる。美優、車に戻って鍵をかけろ」

「嫌だ! 私は……」

「言うことを聞け!」

 刀を持った者を相手にするなど、当然初めての経験だ。しかも、警棒で相手するなど、無謀でしかない。しかし、翔は軽く警棒を振ると、桐生と対峙した。

「そなたを斬る理由はないでござる」

「俺はおまえを止める理由がある。美優を斬らせるわけにはいかない」

「わかったでござる。そなたから斬らせてもらう」

 桐生は翔と一定の距離を取ったところで足を止めると、刀を両手で持って構えた。それに対し、翔は深呼吸をすると、警棒を握り直した。

 次の瞬間、桐生は踏み込むと同時に刀を縦に振ってきた。翔は警棒でそれを防ごうとしたが、思った以上に衝撃が強く、右手だけでなく左手でも支えるようにしながら、右へ受け流すように弾いた。

 ここで刀を構える前に反撃しようと思ったが、桐生は即座に構え直すと、横に刀を振ってきた。咄嗟に、遠心力の関係で離れるよりも近付いた方がいいと判断すると、翔は地面を蹴り、一気に桐生に迫りながら、刀の根本付近を警棒で受けた。そのまま蹴りでも与えようとしたが、桐生は後ろに下がりながら半円を描くような軌道で刀を振ると、今度は反対方向から横に刀を振ってきた。何とか翔は反応して、警棒で防御できたものの、あまりにも衝撃が強く、後ろへよろめいてしまった。

 次の瞬間、自らの首元に向けて刀を振られ、翔は上体を反らした。すると、風を感じるほど、顔のすぐ近くを刀が通り過ぎていった。

 そのまま、翔は尻もちをつくように倒れると、地面を転がりながら桐生と距離を取った。わかっていたことだが、刀を持った者を相手にするのは想像以上に厳しかった。せめて、使い慣れていなければ、いくらでも隙があっただろうが、桐生は完全に刀を使いこなしていて、一瞬でも油断すれば、すぐに致命傷を受けかねない状況だ。

 それでも、絶対に倒すと強い気持ちを持っていた。それが、翔にとっての復讐だからだ。そのことを改めて自覚すると、翔は深呼吸した。

 そして、翔は周囲を確認すると、何か状況を変える手段はないかと頭を働かせた。しかし、そんな翔を待つことなく、桐生はまた一気に距離を詰めてきた。

 桐生から逃げるように、翔は車が止まっている方まで下がり、車と車の間に立った。こうすれば、刀を横に振ることができなくなり、少しでも桐生の攻撃を制限できると思ったためだ。

 しかし、桐生は刀を突くように攻撃してきて、警棒で軌道を逸らしたものの、刀が翔の左腕を掠めた。その瞬間、翔は痛いというより熱いと感じつつ、どうにか刀を押さえられないかと、警棒で刀を車に押し付けたが、桐生は引き抜くようにして即座に刀を自由にすると、高い位置に構えた。

 そのまま刀を振り下ろされると判断すると、翔は先ほどと同じように桐生と距離を詰めた。そして、振り下ろされた刀の根本付近を警棒で押さえつつ、桐生に膝蹴りを与えた。しかし、無理な体勢での蹴りになってしまい、単に当てただけになってしまった。

 直後、冴木が刀を振り上げるように攻撃してきて、翔は何とか地面を蹴ると距離を取り、間一髪のところで攻撃をかわした。それから、狭い所で戦っても桐生の攻撃は制限できないと判断すると、そのまま下がろうとしたが、すぐに桐生が迫ってきたため、翔は警棒を振って威嚇しつつ、車の天井に乗った。

 その行動は想定外だったようで、一瞬だけ驚いた様子で桐生が動きを止めた。しかし、それでこちらが攻撃できるほどの隙が生まれたわけではなかったため、翔は車から車へ飛び移るようにして距離を取ると、周りに車がない、広いスペースに向かった。そんな翔を追いかけるように、桐生は車と車の間を小走りで移動してきた。

 途中、桐生は追いついてくると、翔の足元を狙って刀を振った。翔はジャンプするようにしてそれをかわすと、車から地面に飛び降りた。それから衝撃を吸収するように地面を転がると、桐生の方を向きつつ、立ち上がった。

 桐生はすぐ目の前まで迫ってきていて、刀を振り上げた。それを確認すると、翔は単に横へかわすのではなく、距離を取るように斜め後方へ下がった。

 とにかく回避に集中して、桐生の動きをある程度把握してから、反撃の手段を考える。翔はそう決めると、けん制するように警棒を前に出しながら、引き続き斜め後ろへ進むように下がっていった。これは、単純に真っ直ぐ下がるだけだと、いつか追い込まれてしまうため、桐生の周りを移動することで、常に広いスペースを確保する狙いがあった。

 そこで、桐生は突然刀を鞘に納めた。しかし、戦闘をやめた様子が一切なく、翔は警戒した。

 次の瞬間、桐生は踏み込むと同時に刀を鞘から抜き、その勢いのまま刀を振った。それは、いわゆる抜刀術や居合術と呼ばれるものだが、翔は完全に不意をつかれる形になり、どうにか警棒で防御できたものの、そのまま体勢を崩して倒れてしまった。

 その隙を見逃すわけもなく、桐生は両手で刀を持つと、真っ直ぐ振り下ろしてきた。翔は警棒の先を左手で支えるようにして、それを防いだが、そのまま桐生が体重をかけてくると、少しずつ押され始めた。

 必死に翔は両腕に力を込めたが、押し返すことはできなかった。また、こちらは仰向けの状態で、蹴りを繰り出そうにも力が入りそうになかった。そうして、気付けば、すぐ目の前まで刀が迫ってきていた。

「胴!」

 突然、そんな美優の声が聞こえたかと思うと、桐生は顔を歪ませ、わずかに刀が軽くなった。同時に翔は両腕に力を込めると、刀を弾いた。

 そして、翔はうつ伏せになると、両脚を曲げつつ、地面を軽く蹴って下半身を浮かせた。その直後、勢いよく両脚を伸ばすように蹴りを繰り出し、桐生を吹っ飛ばした。

「翔、大丈夫!?」

 そこには、竹刀を持った美優が立っていた。

「美優、危険だから下がっていろ!」

「守られているだけなんて嫌だ! 私も戦う!」

 思えば、ダークに襲撃された時も、美優は同じことを言っていた。そして、美優の決心したような強い目を見れば、何を言っても聞かないだろうとすぐわかった。

 今更ながら、翔は桐生と戦うことを選択せず、美優と一緒に逃げれば良かったと後悔した。しかし、今から逃げるのは車からも離れているため、厳しいだろう。何より、すぐに立ち上がった桐生が逃がしてくれるとは、到底思えなかった。

 そうした状況を整理した結果、翔に選択できるのは一つしかなかった。そのことを理解すると、翔はため息をついた。

「わかった。美優、どうにかしてあいつを倒したい。協力してくれ」

「うん、わかった」

 桐生は、美優の行動が意外だったようで、様子を見ながらゆっくりと近付いてきた。

 そんな桐生を相手に、翔と美優はそれぞれ構えた。

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