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TOD  作者: ナナシノススム
前半
79/273

前半 19

 光は和義による通信妨害を解除してもらうと、すぐ瞳に連絡を取り、これまであったことを確認していた。

「瞳、これまで色々と対応してくれて、ありがとう。これから詳しく相談するけど、こっちの方はどうにかなったところだよ」

「それなら良かった。みんなが整理してくれた情報を連携するから、確認して」

「うん、わかったよ」

 それから、光は連絡できなかった間にあったことや、わかったことを確認した。特に、途中で連絡を切った翔と美優については、詳しく状況を確認した。そうして、情報をある程度整理したところで、無事を心配しているだろう、孝太達に報告することにした。

「さっき、ラン君達の車の位置や、美優ちゃんを殺すことで金が手に入るなんて情報が、サイトを通じて不特定多数に発信されて、実際にチンピラみたいな奴の襲撃を受けたんだよ」

「それ、大丈夫だったんですか?」

「ラン君が全員倒して、切り抜けたみたいだよ。ただ、今も何かしらかの方法で車の位置を特定されているかもしれないから、この後、冴木さん……ディフェンスの冴木さんと言えばわかるかな? その冴木さんと合流して車を乗り換えるみたいだね。とにかく、二人は今も無事だから安心して」

「それなら良かったー!」

 光の報告に、孝太と千佳は安心したように笑った。一方、大助だけは複雑な表情で、何かあるのだろうかと気になった。

「今、美優さんがどこにいるかはわからないんですか?」

「うん、どういった方法で位置が特定されたのかわからないから、念のため冴木さんと合流するまでは、他の人と連絡しないようにするみたいだね。僕もそうした方がいいと思うし、いい判断だよ」

「そうですか……」

「大助、そんなに心配しなくて大丈夫だから! 翔は孝太と違ってメチャクチャ強いし、安心していいよ!」

「さりげなく、僕を落とすんじゃねえよ!」

 そんな孝太達のやり取りを見ていると、光は緊迫した状況なのを忘れて、自然と笑顔になった。

「そうだ、孝太君。さっき診てはもらったけど、何か身体に異変があったら、すぐに言ってね」

「大丈夫です。大したことないですから」

 和義を相手に「ケンカ」をして、孝太は多少の怪我などもしていたため、医師を目指すライトのメンバーに簡単な診察をしてもらった。結果は特に頭部へのダメージなどもないとのことだったが、コンクリートの上で何度も倒れたといった話も聞いていたため、本当に大丈夫なのかと光は少し心配だった。

「それより、圭吾さん達は大丈夫ですか?」

「ああ、あれからすぐに目を覚ましたし、今も診てもらっているけど、大丈夫そうだよ。むしろ、大丈夫だから今も言い争いをしていて、参るぐらいだよ」

 圭吾と鉄也は、とりあえず安静にしてもらおうと横になってもらっているが、目を覚ました後、鉄也から自分の方が勝っていたなんて話をして、それに圭吾もそんなことないと反論した結果、ずっと言い争いをしている。

「まったく、子供のケンカじゃないんだから……」

「でも、僕は圭吾さんと鉄也さんのケンカを見てて、何だか胸が熱くなりました」

「圭吾と鉄也は仲良しだからね。そのことをお互い自覚していないし、今後もすることはないと思うけど、僕が壊してしまった二人の関係が、これでいい方向に行ってくれることを願うよ」

 そう言った後、光もけじめをつけようと、心に決めた。

「ごめん、ちょっと圭吾と鉄也に話してくるよ」

「はい、わかりました」

 一言だけ断りを入れてから、光は言い争いをしている圭吾と鉄也に近付いた。そして、大きく息を吸った。

「圭吾、鉄也……二人とも本当にごめん!」

 光は大きな声でそう叫ぶと、頭を下げた。すると、圭吾と鉄也は驚いた様子で、言い争いをやめた。

「僕は、自分なら何でもできると驕って、そのせいで圭吾と鉄也……それに他のみんなも振り回してしまった。今更だと思うけど、ごめんなさい。改めてだけど、セレスティアルカンパニーとして、できることは何でも協力する。僕には、二人の力が必要なんだ。だから、助けてほしい」

 それだけ伝えると、光はまた頭を下げた。それに対して、圭吾と鉄也は呆れた様子で息をついた。

「光に振り回されるのはもう慣れたぞ。だから、これまでと何も変わることはない」

「さっき言ったとおり、俺達に協力してもらうって話だからな。勘違いするなよ? それと、俺は圭吾が嫌いだが、光はもっと嫌いだ。それは変わらねえ。ただ……昔の偉そうな光よりはマシになったみたいだな」

 改めての謝罪をさせてもらったものの、圭吾も鉄也も、これまでどおりといった雰囲気だった。それを受け、光は拍子抜けしつつ、やはり最初から自分が二人の間に入ったことが誤りだったと感じた。

「別に、みんな仲良しってことでいいじゃん」

 不意に和義がそんなことを言ってきて、鉄也は怒りの目を向けた。

「仲良しなんかじゃねえ!」

「ああ、鉄也、安静にって言われてるじゃん?」

「おまえが俺を怒らせたんだろ!」

 ただ、光は和義から背中を押してもらったように感じて、もう一言だけ伝えることにした。

「圭吾、鉄也、今度三人で飲みに行きたい。いや、良かったら……」

「俺はパス。鉄也と圭吾のケンカに付き合いたくないもん」

「和義!」

 鉄也が叫ぶと、和義は逃げるようにして離れていった。それを見て、光は笑いつつ、話の続きをした。

「それじゃあ、三人で飲みに行こう」

「おまえらと飲みに行く理由なんてねえ」

「そう言わないで、付き合ってほしい。ずっと、そうしたいと思っていたんだよ」

 光がそこまで言うと、鉄也は渋々といった感じで、ため息をついた。

「……時間があったらな」

 それは、遠回しな断り文句のようだったが、鉄也が言うと、承諾の言葉として受け取るべきだと感じた。

「ありがとう。楽しみにしているよ」

「ああ、俺も楽しみにしてるぞ」

 合わせるように圭吾もそう言うと、鉄也は少しだけ笑った。

「光、これまでの情報など、俺達はそこまで把握してねえ。だから、何をするべきか指示を出してくれ」

「……僕が出していいのかな?」

「勘違いするな。あくまで、俺達は協力をしてもらうんだからな」

 相変わらず素直じゃない鉄也の言葉に、光は軽く笑った後、頷いた。

「わかったよ。あくまで協力するのは僕達だ。それじゃあ、言われたとおり、今後の話をさせてもらうよ」

「それじゃあ、みんなに聞いてもらおう。おい、これから何をするべきか、光から話してもらう! 全員、よく聞け!」

「ライトのメンバーも聞いておけ!」

 鉄也と圭吾の言葉で、そこにいた全員が光に注目してきた。その瞬間、光は自分がライトのリーダーだった時のことを思い出した。

 当時は、大勢の人を集めるぐらい簡単だと、特に深く考えることはなかった。ただ、今は自分だけではできないことがあると知ったため、この瞬間に強い感謝の気持ちを持った。

「これまでの情報は、データベースにまとめて、ライトのメンバーに共有してある。このデータベースをダークのメンバーにも利用してもらって、一人一人が持っている情報を共有してほしい。僕はこれからセレスティアルカンパニーに戻って、みんなから送ってもらった情報を全部確認するようにする。些細なことでもいいから、とにかく情報を共有してほしい」

 それから、光は鉄也に視線を送った。

「ダークがセレスティアルカンパニーとは違うネットワークを構築して、それを利用していることは知っているよ。可能なら、そのネットワークも使わせてほしい」

「だったら……和義が適任だろうな。和義、おまえの技術を使って、セレスティアルカンパニーのネットワークも存分に利用してこい」

「オッケー」

「和義君が来てくれるなら、心強いよ。ただし、セレスティアルカンパニーのシステムは、ハッキングさせないからね」

「いいよ。でも、セキュリティが甘かったら、ハッキングするからね」

 鉄也や和義をはじめ、ダークのメンバーは、これを機にライトやセレスティアルカンパニーを攻める手段を考えている様子だ。それを、光は一つの挑戦として、全力で受けるつもりだった。

「他の人は、いわゆる自警団のようなことをしてもらいたい。というのも、ターゲットである美優ちゃんを殺した場合、金が手に入るなんて情報が不特定多数に発信されて、実際にチンピラのような連中が襲撃してきたそうだよ。これを未然に防ぐため、闇サイトの利用者や、ちょっとした犯罪で金を稼いでいるような連中を一網打尽にしたい。これには、みんなの情報が重要になってくる。ああ、大切なことだけど、罪のない人に危害を加えることは絶対にないよう、本当に注意してほしい」

 光は最後の部分を強調するように言った。それに対して、鉄也は軽く息をついた。

「安心しろ。元々、俺達は汚い方法で金を稼いでる奴しか狙わねえ」

「そんなことないだろ。カツアゲや万引きをして、それに俺達ライトのメンバーを闇討ちしてるじゃないか」

「それは全部俺達じゃねえ。カツアゲや万引きは、ダークを名乗ってるだけの雑魚の仕業だ。そんな奴がいても俺達には何の問題もねえし、むしろ俺達の狙いが紛れて行動しやすいから放っておいただけだ」

「だったら、ライトのメンバーを闇討ちしたのは何だ?」

「だから、それも俺達じゃねえと何度も言っただろ。ライトに恨みを持った誰かがやったんだろ」

「そんな話、信用できるか!」

 お互いの主張が真っ向から対立していて、光はどう止めようかと考えてしまった。

「あの、すいません! その話、本当だと思います!」

 そんな状況を変えるように声を上げたのは、意外にも孝太だった。

「さっき和義と話しましたけど、ダークは富裕層を標的にしてるはずです」

「そうだとしても、下っ端の誰かが……」

「それはねえ。ダークのメンバーは、ここにいるだけで全員だ。勝手な行動を起こすような奴が、この中にいるわけねえ」

「鉄也、それは言わなくて良かったんじゃない? ダークが小規模だってバレちゃったじゃん」

 様々な意見が交錯していたが、光は整理すると、結論を出した。

「圭吾、ここは鉄也達を信用しよう。確かに、鉄也の指示で軽犯罪のようなことをダークが行うって、ちょっと考えづらいしね」

「じゃあ、軽犯罪はともかく、ライトのメンバーは誰に闇討ちされたんだ? いつも、こっちが『ケンカ』で不利になるようなタイミングで闇討ちを受けて、正直なところ、ダークの仕業としか思えなかったぞ?」

「だから、俺は知らねえ。それに圭吾とは正々堂々決着をつけてえんだ。そんな卑怯な真似するわけねえだろ」

「確かに、おかしいとは思ったが……」

 まだ腑に落ちない部分はあるようだが、圭吾も鉄也の話を信じ始めているようだった。その様子を見つつ、光には確認したいことがあった。

「鉄也、ラン君を襲撃した経緯について教えてほしい」

「何でそんなことを聞く必要がある?」

「ターゲットの美優ちゃんは、ラン君の同級生なんだ。それで、ラン君は今、美優ちゃんを守るため一緒に行動している。もし、ダークの襲撃によってラン君が怪我を負うなどしていた場合、そうしたことができなかった可能性がある。つまり、ラン君が美優ちゃんを守れないように妨害するため、ダークに襲撃させた可能性があるんだよ」

「それは、俺達が誰かに利用されたってことか!?」

 鉄也は否定するように、大きな声で叫んだ。ただ、何か思うところがあるのか、すぐに複雑な表情を見せた。

「それは俺から話すよ。ダークゴーを利用した匿名の投稿で、堂崎団司が不当な方法で金を稼いでるって情報が来たんだよ。でも、これだけだと当然信用できないし、色々と調べてみたら、堂崎団司がどうやって金を稼いでるのか一切の情報なしって結果が出ちゃったんだよ。こんなのおかしいし、それで息子の翔を狙ったんだけど、それがまさかのランだったってわけ」

「これは僕の推測だけど、その情報をダークに流した人物は、あらかじめ美優ちゃんがターゲットに選ばれることを知っていたんじゃないかな? だから、障害になりそうなラン君の妨害を狙った。実際、ラン君がいなかったら、美優ちゃんは今頃どうなっていたかわからないという状況も多いし、その情報を流したのが誰なのか、特定したいね」

「普通、ダークゴーへの投稿は、すぐに誰か特定できるんだよ。実際、孝太達はすぐ特定できたしね。でも、この投稿はいくら調べても、どこの誰なのかわからなかったよ」

「だったら、僕達の方でも調べさせてもらうよ」

 改めて、翔がダークに襲撃されたことが無関係に思えず、光は調査を続けることを決めた。

「少しいいかしら?」

 そこで、不意に篠田が手を上げながら質問してきた。

「堂崎団司の情報だけど、私の方で何かわかるかもしれないわ。元々、翔君に取材しようと思って、同僚に調べさせていたの。そうしたら、何か面白いネタが見つかったって、さっき同僚からメールが来ていたわ。だから、私はこれから社に戻って、それを確認してくるわ」

「わかりました。篠田さん、お願いします」

「そもそも、私と可唯君はディフェンスで、悪魔の標的になっているし、みんなとは別行動の方がいいと思うの。可唯君はライトの一人だから納得いかないかもしれないけどね」

「せやな。ほな、わいはこれから勝手に行動するで」

「可唯はいつでも勝手だろ」

 圭吾が小声でツッコミしたのを耳に入れつつ、篠田の言うことは比較的聞いている可唯に、多少の驚きを持った。ただ、その件については特に触れることなく、光はここにいる全員に話すべきことを伝えることにした。

「大切なことを伝えるよ。今回の件は、本当に危険なもので、とにかく自分の命を第一に考えてほしい。そして、こうしたことにかかわりたくないという気持ちが少しでもあるなら、今すぐこの件から離れてほしい」

 光は強い口調で、このことを全員に伝えた。

「そういうことなら、俺からも一つある。ここは圭吾や光にも知られたし、すぐに離れて、別の場所に移動する。だから、光が今言ったことを承知した奴だけ一緒に来い」

「俺も同じ考えだぞ。ライトのメンバーも、自分の判断を大切にしてくれ」

 鉄也と圭吾がそんな言葉をフォローするように伝え、そこにいた人達はそれぞれ決断を出した。

「僕は、ここで離れます。でも、何か情報があれば協力します」

「俺はついていく。怖くなんかねえ!」

「俺だって、こんな楽しそうなこと、乗らねえわけねえよ!」

 見ていると、勢いに任せて、このまま協力する姿勢を見せる人が多かった。そんな中、光は孝太達に目がいった。

「孝太君、千佳さん、僕は……」

「大助が僕達を助けてくれたこと、ホントに感謝してる。どれだけ勇気を振り絞ってくれたのか……だから、ホントにありがとう」

「大助、ホントにありがと! 後は私達に任せて!」

「……はい、わかりました。それじゃあ、僕はここで離れます」

 光としては、今回の件で無茶をした孝太と千佳にも離れてほしいと思っていたものの、そんなやり取りを見ていると、何も言えなかった。

 そして、光はこの場をまとめようと、大きく息を吸った。

「それじゃあ、協力してくれる人は、鉄也の指示に従って移動してほしい。篠田さんと可唯君は、ディフェンスとしてできることをしてください。ここで離れる選択をした人も、何か不審なことや、気付いたことがあったら、すぐに知らせてほしい。ここにいる全員の力で、TODを潰したい。だから……協力してください」

 光はそう言うと、頭を下げた。

 自分なら何でもできる。そんな風に驕っていた光は、もうどこにもいなかった。

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