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TOD  作者: ナナシノススム
前半
72/273

前半 12

 孝太と千佳は和義達についていく形で、廃墟が並ぶ人気のない場所を移動しながら、これまでの経緯を話していた。

「なるほど、その美優ってのがターゲットに選ばれて、今はランが守ってるってことか。それじゃあ、ランを呼び出すために孝太達を人質にするって作戦は、最初から破綻してんじゃん」

「翔を呼び出すってどういうことだよ?」

「ランってよりは、堂崎家の人間っていった方がいいかな」

 和義がそんな言い方をしたところで、孝太は先ほど和義が少しだけ言った言葉を思い出した。

「翔を襲った理由、翔の家が金持ちだってことだけじゃねえとか言ってたよな? 何が理由なんだよ?」

「ランの父親、堂崎団司は不当な方法で金を稼いでるって、匿名のリークがあったんだよ」

「そんなことで翔を襲ったのか?」

「それだけじゃないよ。堂崎団司について実際に調べたら、広い家に住んでるし、大富豪の一人ってことはすぐわかったよ。でも、どうやってそこまでの金を手に入れたのか、いくら調べても出てこないんだよ」

「それ、どういうことよ?」

 千佳も気になったようで、孝太よりも先に質問した。

「企業の重役だとか、個人経営で儲けてるとか、デイトレーダーみたいに株をやってるとか、そういったことをやってれば、何かしらか記録に残るんだよ。でも、堂崎団司にはそうした記録がない。それなのに、現在進行形で多くの金が堂崎団司の所に集まってるって情報は出てくるんだよ。こんなの、怪しいじゃん?」

 最近まで、ほとんど翔とは話もしてこなかったため、こうした話は孝太達の知らないことだ。そのため、そんな話があるという事実に、孝太は驚いてしまったし、千佳も同じように驚いている様子だった。

「それに、堂崎団司は家に閉じこもってて、こちらからは一切手が出せないとなったら、その息子を狙うのがセオリーじゃん? でも、まさかそれがランで、軽く返り討ちにあうとは思ってなかったよ」

「話はわかった。それでも、翔を襲ったことはやっぱり許せねえ。親が何をしてるかわかんねえけど、翔は普段から家が厳しいなんて言ってたし、色々と悩んでたんだと思う。もしかしたら、翔も被害者の一人だったんじゃねえかと、今話を聞いて思った」

「私もそう思う! 何より、翔を襲ったことも、私達の高校まで襲ったことも、私は許さないから!」

 孝太達の言葉を受け、和義は笑った。

「二人はブレないね。俺はいいと思うよ」

 こうして話していると、孝太は和義に対して悪い印象をあまり持たなかった。そのうえで、一つ疑問が生まれた。

「和義は、何でダークに入ってるんだ?」

「そんなの、鉄也を尊敬してるからだよ」

 あまりにも答えが早くて、孝太は少しだけ戸惑った。ただ、それだけ早く回答できるほど、和義が強く鉄也を尊敬していることはよく伝わった。

「てか、ライトとダークの詳しい話とか、二人は知ってんの?」

「詳しい話?」

「もう少しかかるし、軽く話してやるよ」

 そうして、孝太と千佳は、元々ライトから始まったことや、途中でダークと分裂してしまった後、現在に至っているというところまで、簡単に話を聞いた。

「ライトを始めたのは光と圭吾で、そこに初めて加わったのが鉄也だったんだけど、鉄也の案でインターネットを利用したメンバー募集を出したんだよ。それを見て、四人目のメンバーとしてライトに入ったのが俺なんだよね」

「それは、どういった理由で入ったんだ?」

「俺、兄貴がいるんだけど、昔からパソコンを使ってて、俺もよく一緒に触らせてもらってたんだよ。それから兄貴はセレスティアルカンパニーに入って、結構評価され始めたんだけど、ある日ちょっとした力試しで、セレスティアルカンパニーにハッキングを仕掛けてみたんだよね」

 日常会話のような口調で意外過ぎることを言われ、孝太は何の反応もできなかった。

「それで、一時的にシステムをダウンさせたんだけど、俺がやったってバレちゃって、兄貴も親も大激怒。しょうがないから家を飛び出して、ネットカフェで今後のことを考えてた時、ライトのメンバー募集を見つけたんだよ。それから、鉄也が一緒に暮らそうって言ってくれて、今に至るって感じかな」

「何か、話が壮大過ぎるんだけど……」

 いつものことながら、孝太と違い、千佳は思ったことをそのまま口にした。それに対して、和義は笑った。

「俺のやってることは単純だよ。ただ、俺を評価してほしい。兄貴なんかより、俺の方が優れてるって言ってほしい。そう思ってることも、ダークにいる理由かな」

 そこまで言ったところで、和義は照れくさそうに笑った。

「こんなことまで話すつもりなかったんだよ。孝太も千佳も聞き上手じゃん」

「いや、僕達はただ聞いてただけなんだけど……」

「それが嬉しいんだよ。なんて無駄話をしてるうちに、到着したよ」

 どこか和義の様子を気にしつつ、どこに着いたのかと確認すると、そこは工場のような所だった。ただ、既に稼働していないようで、ここも廃墟なのだろうと感じた。

「いつも、ここに集まってるのか?」

「いや、何かしらかの方法で特定されるかもしれないから、集まる場所は定期的に変えてるよ。だから、孝太達の目的だった、普段ダークが集まる場所を特定するってのは、最初から不可能だったってことだよ」

 和義にそう言われ、孝太は改めて、ここに光や圭吾達が来ることはないだろうと理解した。ただ、それは自分達の力でダークを味方にしたいと強く思う理由になった。

「もう一度言うけど、俺は孝太と千佳の味方をしたいけど、鉄也がどう判断するかはわからないよ。ここで二人が逃げるというなら、俺は直前で逃げられたと鉄也に報告するだけで済ませるから……」

「僕はダークに協力してほしいと、今も強く思ってる。だから、このまま進む」

「私も同じだよ」

 孝太達がそう言うと、和義は真剣な表情で頷いた。

「俺がどうこう言うだけ無駄って感じだね。それじゃあ、行こうか」

 改めて緊張しつつ、孝太達は和義についていった。ここの建物は、出入り口のシャッターが破られていて、自由に出入りできる状態だった。恐る恐るそこを抜けると、中には一クラスぐらいの人数――約四十人ほどの人がいて、一瞬圧倒された。

「よく来た。歓迎してやる」

 そう言いながら前に出てきたのは、鉄也だった。

「ライトと組んで、俺達を潰すつもりだったんだろ? ライトだけでなく、光も味方にしたようだが、それも無駄だ。向こうは、ようやく発信器を確保したとこで、ここにすぐ来ることはねえ。これから、おまえ達を人質にして、ランには一人でここに来てもらう」

「鉄也、悪いけど状況が変わったみたい。まずは、これを見てよ」

 和義はそう言うと、鉄也にスマホを投げ渡した。

「TODって、くだらないゲームの情報だよ。孝太、さっきの話、鉄也とみんなにしてよ」

「ああ、えっと……僕の幼馴染の美優が今回のターゲットに選ばれて、翔……おまえらがランって呼んでる翔が、一緒に行動して美優を守ってるとこなんだ」

 孝太はどうにか鉄也を含めたダーク全員を説得できないかと、これまでの経緯だけでなく、ダークに対する自分の考えなどをたどたどしいながらも伝えていった。

「オフェンスが勝っても、ディフェンスが勝っても、TODの賞金は500万……どちらも五人いるから、合計2500万の賞金を毎月用意できるなんて、相当な富裕層だ。どう考えてもダークの敵じゃねえかよ。だから、このTODを潰すのに、協力してほしい」

「そんなわけで、二人を人質に取っても、ランは来ないというか来れないよ」

「だったら、何でこいつらを連れてきた!?」

 鉄也はわかりやすいほど激怒した様子で叫んだ。その迫力に、思わず孝太と千佳は圧倒されてしまった。

「TODの情報を伝えるのと、孝太達の希望を伝えるためだよ」

 ただ、和義は特に口調を変えることなく、そう伝えた。それを受けて、孝太は深く息を吸った。

「今、TODをどうにか潰せないかと、ライトやセレスティアルカンパニーに協力してもらってるんだ! ライトとダークが分裂した経緯も簡単に聞いてるし、嫌かもしれねえけど……共通の敵を潰すため、一緒に協力してほしいんです!」

「私からもお願いします!」

 千佳がそう言って頭を下げたため、孝太も合わせるように深く頭を下げた。

 それから少しだけ時間が過ぎた。その間、誰も何も話さず、思いのほか静かだった。

「TODは、ダークとしても見過ごせねえ」

 その言葉は嬉しいものだったものの、鉄也の口調から、いい結果にならないことは予想できた。

「だが、俺達だけでやる。ライトや光と協力することはねえ。ランが来ねえなら、おまえ達も必要ねえから、勝手にどっか行け」

 何かしらか危害を加えられるかもしれないという心配があったものの、それは完全になくなり、一先ず安心した。ただ、孝太はどうしても納得できなかった。

「やっぱ、鉄也はそう言うと思ったよ。孝太と千佳がくれた情報は、ダークでも役立てるよ。だから、ここは諦めて……」

「確か『ケンカ』とか言ったよな? 僕と『ケンカ』して、それで僕が勝ったら協力してほしい」

 そう伝えた瞬間、一番早く反応したのは千佳だった。

「待って! 孝太、明らかにケンカ弱いでしょ!?」

「自覚はあるけど、はっきり言うなよ。それでも、僕はここで何もできねえまま帰るなんて、そんな選択はできねえよ」

「……うん、そうだよね! 私もそう思うよ!」

 千佳も賛同してくれて、孝太はより強い気持ちを持った。

「おまえがケンカに負けたら、どうするんだ? 対等な条件を提示できねえなら、相手をすることはねえ」

 鉄也からそんなことを言われたものの、孝太は何も考えていなかったため、返すことができなかった。そんな孝太を助けるように、千佳は大きく息を吸った。

「孝太が負けたら、私を好きにしていいから!」

 ただ、千佳の提案したことは、孝太の想定していたものから遥かに外れていた。

「何言ってんだよ!?」

「だって、それぐらい言わないと受けてくれないでしょ?」

「千佳の言うように、僕は弱いから、勝てる見込みなんて……」

「大丈夫! 孝太は弱いけど、どうにかできるって信じてるから!」

 千佳の矛盾だらけの言葉。ただ、千佳はいつだってそうだ。そして、こんなポジティブなことを言われると、孝太は千佳の言うとおり、どうにかできると思えた。

「圭吾や光の助けを期待してるなら、無駄だ。この付近は監視してる。近くを探索する者がいれば、すぐに逃げる準備もしてあるからな」

「そんなの関係ねえよ。他の誰でもなく、僕の力でどうにかしてやる」

 そう言うと、鉄也は少しだけ迷っているような様子を見せた後、真っ直ぐ孝太を見た。

「グローブを持ってこい。こいつの相手は……」

「俺がやるよ。孝太を連れて来たのは俺だし、責任を取るよ」

 和義はそう言うと、孝太の前に立った。

「わかった。二人ともグローブを着けろ」

 鉄也からグローブを投げられ、孝太はキャッチに失敗しつつもすぐに拾うと、両手にグローブを着けた。

 そうして着け終えた時には、既に和義がグローブを着け終え、ウォーミングアップをするようにステップを踏んでいた。それを見て、孝太も体を動かし、緊張で硬くなっている体を解した。

 そんな時間を少しだけ挟んだところで、孝太と和義はお互いに向かい合った。

「当然、手加減はないからね。わざと負けるなんてことはしないよ」

 先ほど和義と話して、わかり合える部分があると感じたものの、それとは別の話だと理解した。そのうえで、ふと孝太は翔が言っていたことを思い出した。

「うん、僕も……ハンデなしでいかせてもらう」

 そう言うと、孝太は見様見真似でファイティングポーズを取った。

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