前半 11
光は険しい表情で状況を確認しつつ、自分の取るべき行動をすぐに判断した。
「圭吾、今すぐライト全員に孝太君達の行方を捜すよう、指示を出してほしい」
「何があったんだ?」
「説明は他の人に指示しながらするよ。一番近いのは……丁度いいね」
孝太達に持たせた発信器に一番近い人を調べると、可唯と篠田がいたため、光はすぐに連絡した。
「何や?」
「可唯君、今すぐ発信器のところまで行って、状況を確認してほしい」
「ダークとの接触はどうすんねん?」
「恐らく、もう孝太君達は発信器を持っていないよ。二つの発信器の位置があまりにも近過ぎるからね。こちらの思惑にダークが気付いて、何か対抗してきたかもしれない。孝太君達の安全を第一に考えて、とにかく状況を確認してくれないかな。僕達もすぐ向かうよ」
「そういうことかいな。ええで」
「私も一緒に行けばいいわね?」
「はい、篠田さんも可唯と一緒に行ってください」
「わかったわ」
それだけお願いすると、光は通話を切った。
「圭吾、僕達も移動しよう」
「ああ、状況は理解できた。急ぐぞ」
そうして、圭吾と一緒に移動しつつ、光は瞳に連絡した。
「光、どうしたの?」
「今すぐ孝太君達を捜してほしい。もう発信器は当てにならなくて、スマホの位置情報や、付近の監視カメラ映像から行方を追ってほしい」
「わかった、みんなにお願いしておくよ」
「あと、冴木さんの用意した潜伏先が襲撃されて、そこに残っていたセーギと名乗る人が殺されたそうだ。その調査を浜中さんにお願いしてほしい。詳しい場所などは冴木さんに確認してくれ」
「わかった。すぐに連絡するよ」
「あと、システムが停止していたそうで、EBを使用された可能性があるから、こっちからも誰か調査できる人を一緒に行かせてほしい。誰を行かせるかは瞳に任せるよ。といっても、一人に決まりそうだけどね」
この件については、瞳に任せておけば大丈夫だと強い確信を持ったうえで、光は一任した。
「うん、私に任せて。光は孝太君達の方に集中して」
「うん、ありがとう。そうさせてもらうよ」
詳しく話さなくても、こちらの状況をある程度理解してくれたようで、改めて瞳と一緒になれて良かったと光は感じた。
「光、詳しい状況を知りたい。今、何が起こってるんだ?」
移動しながら圭吾が質問してきたものの、現状は不明な点も多いため、少しだけどう説明しようか迷った。それでも、光はある程度の推測を伝えることにした。
「こちらがダークと接触しようとしていることを、向こうが察知したんだと思うよ。今、孝太君と千佳ちゃんに持たせた発信器の位置があまりにも近くて、恐らく一人の人物が二つの発信器を持っている状態なんだろうね」
「それじゃあ、発信器を追っても意味がないんじゃないか?」
「そこに孝太君達がいないとしても、状況は確認できるでしょ? 僕達の目的はそっちで、孝太君達を捜すのは、ライトと、うちの社員に任せるよ」
「そういうことか。ただ、今のところ孝太達の行方について、何の知らせもないぞ」
「それは良くないね。時間が経てば経つほど、捜す範囲が広くなるし、厳しい状況になる。これはすぐに気付けなかった僕のミスだよ」
「ラン達の対応があったんだ。しょうがない」
圭吾がそう言ってくれたものの、光はこうならないために何かできたのではないかと感じていた。それは、翔達の対応をしている時、他の人に孝太達の動きを追ってもらうだけでも十分だった。
瞳や圭吾から注意されたことだが、光は時々根詰めて迷走してしまうことがある。その原因は、何でも一人でしようとしてしまうからだと、自覚し始めていたにもかかわらず、結局また同じことをしてしまった。そうしたことを強く反省した。
「そろそろ着くね」
先ほどから、発信器は動いていない。それは、可唯達が追いついたからだろう。そんなことを思いながら移動していると、可唯と篠田の姿が見えてきた。そして、近くで倒れている男の姿を確認したところで、光はまた一つ反省した。
「可唯君に、手を出すなと伝えるべきだったね」
状況を確認したいにもかかわらず、話を聞けなかったらどうしようかと思いつつ、光と圭吾は可唯達に近付いた。
「発信器、二つともこいつが持っとったで」
可唯は見せびらかすように二つの発信器をこちらに示した。
「可唯、状況を確認したいんだ。倒したらダメだろ」
「気絶してへんし、話は聞けるやろ」
可唯の言うとおり、幸い意識はあるようで、光は色々と言いたい気持ちを抑えつつ、状況を確認しようと頭を切り替えた。
「孝太君達はどこにいるのかな?」
「そんなの、わからない!」
わずかな時間しかなかったが、可唯に相当痛めつけられたようで、男は怯えた様子だった。こんな状態で話が聞けるのかと心配しつつ、光は質問を続けた。
「ダークはどこに集まっているのかな?」
「だから、何もわからない! それを持って移動すれば、ダークに入れると聞いて、そうしただけだ!」
「こいつ……ダークのメンバーじゃないぞ?」
圭吾の言葉で、光は良くない状況だと理解した。
「ダークの参加希望者みたいだね。一緒に孝太君と千佳ちゃんがいたはずだけど、どういった状況でこうなったか教えてくれないかな?」
「ああ、あの高校生二人は、リーダーに会いに行った。何か、お願いがあるとか言って……」
「ちょっと待って。こうなったうえで、あえて二人は行ったってことかな?」
「元々、二人を人質にするつもりだったとか、そんなことを副リーダーだって人が言ってた。ただ、その人は二人を逃がすつもりだったみたいで……」
「落ち着いて、何があったか順に話してほしい」
光がお願いすると、男はたどたどしいながらも、何があったか話してくれた。そして、孝太と千佳が二人だけでダークと接触することを決めたと知り、光はため息をついた。
「これも僕のミスだね。二人なら、こうするかもしれないと思っていた。だったら、やっぱり最初から止めるべきだったよ」
「みんな、勝手やな」
「可唯、おまえが言うな」
「それより、どうするのよ? このままだと、孝太君達が危ないんじゃない?」
篠田の言うとおりで、光は頭を悩ませた。
「圭吾、ライトのメンバーから情報はないかな?」
「孝太達を捜してもらってるが、今のところないぞ」
「こっちも調べてもらっているけど、スマホの位置情報なども見つからないみたいで、ちょっとまずいね。でも、まさか向こうは和義君が来るとはね。完全に油断したよ」
「その、和義君って、どんな人なのかしら?」
記者をしているからか、篠田から知りたいという強い意志のようなものを感じた。それを受け、光は簡単に話すことにした。
「一言でいえば、厄介なハッカーです。和義君の兄が元々うち、セレスティアルカンパニーに勤めていて、優秀な技術者なんです。ただ、それを嫉妬しているみたいで、ライトのメンバーを集めようとネットで募集した際、真っ先に応募してきたのが和義君です。思えば、ライトに入った四人目のメンバーでしたね」
「昔から鉄也を尊敬してて、ライトとダークが分裂した時、鉄也についてく形でダークに入った後、副リーダーのような扱いになってる」
「これまでダークとの接触が難しかったのは、和義君によるところも大きいです。まあ、一番厄介なのは、指示を出している鉄也で間違いないですけどね」
「簡単にまとめると、孝太君達は相当危険な状況ってことかしら?」
篠田の質問に答えられないほど、光は困っていた。
「状況を整理させて。今、孝太君達の行方はどうやって捜しているのかしら?」
「セレスティアルカンパニーの方は、付近の監視カメラ映像を追ってもらっています。あと、圭吾達ライトのメンバーには付近の捜索をしてもらっているところです」
「だったら、反対にあなた達が把握できない場所を抜けていると考えて、そこを調べるべきじゃないかしら?」
篠田の意見はもっともなもので、光は慌てて情報を再度整理した。
「近くに廃墟がたくさんある、いわゆるゴーストタウンがあります。そこを抜けていると思います」
「だったら、そこを中心に調べるぞ。ライトにも指示を出しておく」
「待って。露骨に動いたら、それこそ孝太君達を連れ去って逃げてしまうんじゃないかしら? 孝太君達の安全を考えるなら、慎重に動くべきよ」
これからどうするべきか。光は改めて頭を働かせた。そして、今ここにいる圭吾、篠田、可唯を順に見ていった。
「答えは出とるんやないの?」
こんな状況にもかかわらず、楽しそうに笑っている可唯の言葉を受け、光は決心した。
「廃墟の探索は、この四人で動こう。情報を操作して、向こうがこちらに気付かないようにしよう。相手が和義君だから、情報の操作は僕に任せてほしい」
「この辺の廃墟については、可唯が詳しいな? よく廃墟付近で、おまえを見かけたと聞いてるぞ」
「ランと手合わせするのに使ってただけやで。せやけど、詳しくはあるやろな」
「私も前にゴーストタウンについて取材したことがあるの。潜伏するとしたら、いくつか候補があるわ」
今、ここにこの四人がいるのは、偶然も重なっている。ただ、この四人で良かったと光は思えた。
「それじゃあ、僕達で孝太君達を見つけ出すよ」
光がそう言うと、他の三人は強く頷いた。