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TOD  作者: ナナシノススム
前半
69/273

前半 09

 翔は引き続き孝太達の動きを追いつつ、集まってきた情報を整理していた。

 特に調べているのは、美優に見ない方がいいと伝えた、TODの被害者――ターゲットに選ばれたと思われる人物の情報で、どういった経緯で亡くなったのかを詳しく調べていった。そこには、廃墟の屋上で銃殺されたなど、悪魔によるものと思われるものもあれば、通り魔のような者にナイフで刺された人もいて、様々だった。

 そうして調べていると、翔は改めてターゲットに選ばれた高校生が死に過ぎていると感じた。それはまるで、オフェンスがターゲットの位置を把握していたかのようにしか思えず、何かしらかそんな手段があるのではないかという疑念を大きくさせた。

「あの……翔?」

 不意に美優が気を使うように声をかけてきて、翔は目を向けた。

「どうした?」

「えっと……ごめん、トイレに行きたいんだけど……」

 美優は体をモジモジとさせていて、顔も真っ赤になっていた。

「気付かなくて悪かった。というか、そんな我慢なんてしないでくれ」

「でも、トイレに行くのも危険かもしれないんだよね? だから……」

「大丈夫だ。仮にそれでオフェンスが来ても、俺がどうにかする。とにかく、少しだけ待ってくれ」

 翔は少しでも急いだ方がいいだろうと、カーナビを操作した。これまでは、特に目的地などもなかったため、この車のカーナビを使うのは初めてだ。そのため、多少戸惑いつつ、目的地はすぐに決まった。

「近くに道の駅がある。そこに行こう」

 コンビニやスーパーと違い、道の駅なら外にトイレが置いてあることが多く、わざわざ建物の中に入る必要がない。そう判断すると、翔は車を走らせた。

 そして、数分ほどで目的の道の駅に着き、翔はなるべくトイレに近い位置で車を止めた。

「ごめん、限界だから行ってくるね!」

 美優は慌てた様子で車を飛び出した。それを見送りつつ、翔も車を降りると、周りに不審な人物はいないかと意識を集中させた。

 平日にもかかわらず、止まっている車は多く、人も多い。この状況が良いことなのか、悪いことなのか、判断に難しいところだと翔は感じた。

 人が多くいるところなら、人目を気にしてターゲットを殺害する者などいないだろう。一瞬そう感じたが、それは楽観的過ぎるとすぐに考えを改めた。実際、悪魔は昼間の街で、周りに他の車がいるにもかかわらず、発砲してきた。そう考えると、人が多いからといって安心はできなかった。

 その時、スマホの通知があり、翔は内容を確認した。それは、冴木から来たメッセージで、潜伏先が襲撃されたこと、セーギが殺されたこと、身の安全を優先してもらうため信弘に引いてもらったこと、それらが簡潔に書かれていた。

 メッセージを読んだ瞬間、翔は意識的に潜伏先が襲撃されたという事実にだけ注目した。それは、セーギが殺されたことや、信弘が引いたことを考えると、感情的になり、冷静な判断ができないとわかっているからだ。

 そうして、翔は目を閉じると、自らの感情を殺した。そして、潜伏先が特定されたのは何故なのか。それだけを考えた。

「翔、お待たせ!」

 そんな声が聞こえて目を開けると、笑顔の美優がいた。ただ、美優は翔の顔を見ると、どこか心配しているような表情になった。

「翔、何かあった?」

「ああ、冴木さんから連絡があって……」

 どう伝えようか迷っていると、美優の背後から近付いてくる者がいることに気付いた。次の瞬間、翔は美優とすれ違うようにその者に近付くと、ポケットから警棒を取り出し、勢いよく振った。

 警棒が伸びたことを確認することもなく、翔は切り返すようにまた警棒を振った。同時に、金属音が響き、ナイフが近くの壁に勢いよくぶつかった。

「関係ない奴は全員離れろ!」

 翔がそう叫ぶと、混乱した様子で周りにいた人の多くが離れていった。その中で、動かずにいる数人に翔は意識を向けた。

「くそ! こいつをどうにかしろ!」

 ナイフを弾き飛ばされた者がそんなことを言うと、近くにいた他の二人がナイフを出して近付いてきた。翔は息を吸いつつ、冷静にどう対処しようかと頭を働かせた。

 相手のナイフよりも、こちらの警棒の方が少しだけ射程範囲が広い。そう判断すると、翔は相手を威圧するように警棒を振った。そんな翔の行動に相手は驚いた様子で、二人とも動きを止めた。それを確認すると、翔は近付きつつ蹴りを繰り出し、ナイフを弾き飛ばした。そのままさらに接近すると、ターンをするように回りながら警棒を振り、相手の後ろ膝に当てた。

 それから、翔は動きを止めることなく、もう一人にも駆け寄ると、思い切り警棒を振り、ナイフを持った相手の右腕に当てた。同時に嫌な音が響いた。

「ああ、腕がー!?」

 男の腕がおかしな方向に曲がった様子を確認しつつ、翔はすぐ次の行動に移った。

「美優、走れ!」

「あ、うん!」

 翔は美優の手を引くと、そのまま引っ張るように車に向かった。しかし、車に近付こうとしたところで、真っ直ぐ向かってくる車に気付き、咄嗟に美優を抱きかかえるようにした後、思い切り地面を蹴った。

 そして、自分と美優の方に向かっていた車はすぐ横を取り過ぎると、壁に衝突して止まった。

「美優、大丈夫か?」

「うん、大丈夫!」

 そんな声を聞きつつ、先ほどナイフを弾き飛ばしただけで済ませた人物と、車から降りてきた人物の計三人が迫ってきていることを確認した。翔は集中力を高めるように深呼吸をすると、まず一番近い人物まで一気に近付き、ナイフを持った手を狙って警棒を振った。

 それが当たったことを確認しつつ、翔はすぐ後ろの人物に近付いた。ただ、この人物は翔の行動に戸惑っているのか、防御するようにナイフを引いて構えていたため、咄嗟に体勢を低くしつつ、すねに向けて警棒を振った。

 その結果、一人はナイフを握ることすらできなくなり、一人は立ち上がることすらできない状態になった。

 そんな状況を目の前にして、戦意を喪失したのか、残ったもう一人は泣きそうな表情で、一切攻撃してくる意思を感じなかった。しかし、翔は念のため、その者に近付くと、脇腹付近を狙って警棒を振った。

 そうして、相手が動けなくなったのを確認すると、翔は警棒の先を地面に叩きつけ、短くした。

「急いでここを離れよう。車に乗れ」

「あ、うん、わかった」

 美優は少し戸惑った様子だったが、翔の言うとおり、すぐ車に乗った。それから翔も車に乗ろうとしたが、同時に嫌なものを感じたため、車の屋根に手を乗せつつ地面を蹴ると、勢いよく腕を曲げて体を浮かせた。

 次の瞬間、一台の車が突進するように衝突してきて、翔は衝撃で吹っ飛ばされた。直前で体を浮かせていなければ、車に挟まれる形になっていたため、無事では済まなかっただろう。そんなことを感じつつ、翔はすぐに起き上がると、車に乗った。

「翔、大丈夫!?」

「大丈夫だ。とにかく、ここを切り抜けよう」

 翔はエンジンをかけると、周りの車にぶつけつつ強引にバックした後、車を急発進させた。

 そうして、道の駅から出たところで、翔はバックミラーに目をやった。そこには、追跡してきた二台の車が映っていた。

「オフェンスが来たってこと?」

 美優は怯えた様子でそんなことを言った。ただ、翔は違うと既に気付いていた。

「オフェンスは五人だけだ。だから、あいつらは恐らくオフェンスじゃない」

「え、どういうこと?」

「説明は後だ。とにかく光さんに連絡する」

 翔はそう言うと、車を運転しながら、光に連絡を取った。

「ラン君、どうしたのかな?」

 光がすぐ出てくれたものの、自分の方が何をどう伝えようか、整理し切れていない状態だったため、翔は少しだけ何から話そうか考えてしまった。

「えっと、孝太達の件で忙しいのに、すいません。先ほど、襲撃されて、今は二台の車に追跡されているところです。それで……冴木さんとも通話を繋ぎながら話してもいいですか?」

 美優の言葉からディフェンスを信用するべきだと感じたことと、先ほど冴木から来たメッセージも受けて、翔は冴木とも話すべきだと判断した。

「うん、こっちは構わないよ」

「それじゃあ、光さんの方から繋げてくれませんか? こちらは少々忙しいので……」

 この道路は二車線で、一台の車が左後方から迫ってきた。標的の車の後方に横から車をぶつけることで、スピンを起こすほど制御不能にする方法があると知っているため、翔は意識を集中させると、相手が車をぶつけようとしてきたタイミングで急ブレーキをした。それにより、相手の車はこちらの前方近くに衝突しただけでなく、少しだけバランスを崩しながら前に出てきた。

 その隙を見逃すことなく、翔はアクセルを踏み込むと、思い切り車をぶつけた。結果、元々バランスを崩していたこともあり、その車がスピンをし始めたため、その横を翔は無理やり通過した。

 それからバックミラーで後方を確認すると、スピンした車に巻き込まれる形で、もう一台の車が衝突し、そのまま二台の車が止まった。

 その直後、翔は急ブレーキをかけると、勢いよくバックさせ、止まった二台に思い切り車体後部をぶつけた。それから車を降りると、警棒を取り出し、二台のフロントガラスを叩いた。それにより、視界を遮るようにヒビが入ったことを確認した後、急いで車に戻った。

 バックミラーを見ると、二台の車は道を塞ぐように止まっていた。もし、他の車が追ってきたとしても、こうなればこちらの追跡は難しいだろう。そう判断すると、翔は息をついた。

「ラン君、冴木さんとの通話、繋げられるけど、大丈夫かな?」

「はい、丁度片付いたので……少し待ってください」

 それだけ言うと、翔は助手席に座る美優に目を向けた。

 美優は不安げな表情だった。しかし、それは自分の命に危険があるからでなく、翔を心配しているからだと感じた。

「美優?」

「上手く言えないけど……やっぱり、私は翔のしていること、間違っていると思う」

 美優からそんな言葉を強く言われ、少しだけ戸惑った。しかし、自分のするべきことをとにかくすればいいと判断すると、また翔は感情を殺した。

「光さん、冴木さんと通話を繋いでください」

 そして、冷静にただそれだけを光に伝えた。

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