前半 08
孝太と千佳は、ダークのメンバーと待ち合わせした場所に向かっていた。
「孝太、緊張してない?」
「緊張はしてるよ。でも、きっと大丈夫だよ」
「うん、そうだよね! 私もそう思ってる!」
元々、一人でダークと接触するつもりだったものの、もし今ここで一人きりだったとしたら、大きな不安しか持てなかっただろう。そう思えるからこそ、千佳が一緒にいてくれて良かったと、孝太は強く感じた。
そうして、孝太達は待ち合わせ場所に着いたものの、そこには誰もいなかった。
「遅刻しちゃったかな?」
「いや、まだ待ち合わせした時間じゃねえよ。ダークは慎重だって話だし、少し遅れて来るんじゃねえか?」
「それじゃあ、急いだ意味ないじゃん」
「千佳が急いでるようには見えなかったけどな」
「それ、どういう意味?」
「今、言ったとおりで、他に何の意味もねえよ」
「孝太の意地悪! 嫌いになるよ!?」
「別に千佳が僕を嫌いになっても、僕は千佳を嫌いにならねえから、別に……」
何となく、いつもの調子で話していたものの、最後の言葉を伝えた瞬間、孝太は話し過ぎたと感じた。
「いや、今のはそういう意味じゃねえんだよ。その……」
「私も、孝太を嫌いになるわけないよ!」
千佳が真っ直ぐ自分の方を見てきて、孝太は照れくさくなってしまい、視線をそらした。それから紛らわすように周囲を確認すると、丁度自分達に近付いてくる、数人の人物に気付いた。同時に、この時点で当初の予定から外れてしまったと、孝太は感じた。
「どうも、こんにちは」
待ち合わせ場所に来た一人に、孝太は見覚えがあった。それは、昨日ダークが城灰高校を襲撃してきた際、翔が一対一で相手をした一人だ。
「二人とも、昨日ランと一緒にいたもんね。俺達のことを探るために来たってことでしょ?」
そんなことを言われたものの、孝太と千佳は何の返事もできなかった。
「自己紹介を忘れてたね。俺は和義だよ。ダークでは鉄也の補佐なんかをやってるから、副リーダーってことになってるみたいだね。改めてよろしく」
ここには下っ端が来るだろうという話だったが、ダークの副リーダーとされている和義が来た。それは、光達も想定していないことだ。
「孝太、今日は予定があったの忘れてたね! ごめんなさい、そんなわけで今度に……」
千佳が誤魔化すようにそう言ったものの、既に周りを囲まれていて、逃げられない状況になっていた。
「無理やり逃げるとかはやめてね。二人に危害を加えてでも、連れてこいって指示を受けてるからさ」
その時、千佳がスタンガンを取り出したが、同時に和義が蹴りを与え、弾き飛ばされてしまった。
「危ないから、それはこっちで預かっておくよ」
和義が目配せをすると、ダークの一人がスタンガンを拾った。その様子を千佳は悔しそうな表情で見ていた。
「おまえらは、何が目的だ?」
「それはこっちの台詞だよ。二人ともライトに入っただけでなく、ダークにも参加希望を出してきて、何が目的なのかな?」
向こうがどこまで把握しているかわからないものの、こうなった以上、孝太は変な誤魔化しをせず、こちらの目的を素直に伝えることにした。
「ダークに協力してほしいことがある。リーダーに会わせてくれ」
「ストレートでいいじゃん。でも、それで俺達が協力すると思ってんの?」
「ダークの目的は、富裕層への反撃だと知った。今、TODと呼ばれるゲームが行われてて、それに僕達の同級生が巻き込まれてる。このTODをどうにかしたくて、みんなに協力してもらってるとこだ」
「TOD?」
「ダークゴーで調べれば、いくつか情報が出てくる。賞金を用意できてるみてえだし、このTODを運営してるのは、どう考えても富裕層で、ダークにとっても敵のはずなんだ。だから、一緒にどうにかしてほしい」
孝太がそこまで言うと、和義はスマホを操作し、TODついて調べている様子だった。
そうして少し時間が経った後、和義は複雑な表情になった。
「なるほどね」
「今、ライトやセレスティアルカンパニーがTODをどうにかしようとしてるけど、ダークの力も必要なんだ。一緒に協力してくれねえか?」
そう伝えると、和義はわざとらしく笑った。
「俺達ダークがライトに協力するわけないじゃん。TODをどうにかするにしても、こっちだけで何とかするよ」
「何でだ!? 一緒にやった方が絶対にいいだろ!?」
「ダークとライトは敵同士。協力なんてしないよ」
和義がそう言い切ったが、孝太は納得できなかった。
「でも……」
「今日の目的は、そんなことだったの? てっきり、俺達ダークをハメようとしてると思って、反対におまえらを人質にでもしようかと思ってたよ」
「え?」
「まあ、情報提供してくれた礼に、俺の独断で二人のことは見逃してやるよ。鉄也に怒られそうだけどね」
和義の言葉から、自分達が相当危険な状況だったのだろうと孝太は感じた。ただ、どうにか話はまとまり、このままダークとの接触を諦めて離れるという選択ができるようになった。光からも、想定外のことが起こったら、すぐにダークとの接触を諦めるように言われているため、それを守るなら、ここで諦めるべきだ。
しかし、孝太は少しだけ考えると、別の選択をすることにした。
「ダークがTODにかかわってる可能性も考えて、ダークに協力してもらえねえなら、ダークを監視したいと圭吾さんや光さんが言ってた。でも、僕はダークがTODにかかわってねえと思ってる」
「当たり前だよ。俺達がこんなものにかかわるわけないじゃん」
「だからこそ、協力してほしいんだ。元々、僕達を人質にするつもりだったと言ったな? そこに行けば、リーダーの鉄也に会えるのか?」
「ちょっと、孝太!? 何を言ってるの!?」
千佳が驚いた様子で、そんな声を上げた。
「千佳はここに残れ。僕だけで行ってくる。それで、ダークに協力してもらえねえか、直接お願いしてくる」
「孝太のパパが言ってたでしょ? 信用できる人と一緒にいろって! それに、危険なことには深入りしないって約束したじゃん!」
千佳がそう言うのも無理なかった。それを受けて、孝太は自分のダークに対する考えを伝えることにした。
「ダークゴーの情報を見ただけだけど、僕はダークも信用できる……いや、信用してえと思えたんだ」
「どういうこと?」
「さっき言ったとおり、ダークの目的……まあ、一番はライトの壊滅みたいだけど、富裕層への反撃というのをあげてるんだ。実際、一部の政治家や企業の重役なんかが違法なことをしてるのに、何の罰も受けねえってこと、結構あるだろ? ダークは、そういった奴らへの反撃として、ハッキングしたり、裏金を掠め取ったりしてるんだ」
「何それ? ダークヒーローみたいで、かっこいい!」
「ただ、万引きといった軽犯罪をする奴がいるのは感心しねえし、何より翔を狙ったことは絶対に許さねえからな」
「確かに、それは許せない!」
千佳がわかりやすくこちらの意見に合わせてきたため、孝太は少しだけ笑った。
「それに、昨日学校を襲撃してきた時とか、人に危害を加えるのに武器は使ってなかった。それもダークのポリシーみてえなもんなんだろ?」
「まあ、そんなとこかな。武器なんて使わなくても十分だしね」
「そうしたこともあって、僕は協力をお願いしてえと思うんだ。さっき言ったとおり、僕一人で行くから……」
「そんなの、私が許さないから! 私も一緒に行く!」
「いや、それは……」
どうにか止めようと考えたものの、千佳の真剣な表情を見て、それは無理だろうとすぐにわかった。そのため、孝太は強く頷いた。
「わかった。和義……さんを付けるべきか? 僕達を鉄也……さんのところに連れてってほしい」
「別に呼び捨てでいいよ。てか、自己紹介してないけど、孝太と千佳でいいの?」
「ああ、僕は孝太で、彼女は千佳だ」
「改めてよろしく。鉄也がどう言うかわかんないけど、俺は二人のこと、気に入ったよ。特に孝太はダークの目的を理解してくれてるようだしね」
「ただ、さっきも言ったとおり、翔を狙ったことは許さねえからな。翔の家が金持ちだから、ダークとしては許せなかったんだろうけど、翔は僕の親友だ。だから、絶対に許さねえ」
「それだけが理由じゃないよ。情報のリークがあって……なんて話をする暇はなかったよ。そろそろ動かないと、圭吾達が不審に思うかもしれないからね」
翔を襲撃した理由について、和義は何か含みがあるような言い方をした。そのことが孝太の中でどうしても引っかかった。
「どういうことだ?」
「話をする暇はないって言ったじゃん。それじゃあ、二人とも、まず発信器を渡してもらおうか?」
自然な口調でそんなことを言われ、孝太は戸惑った。
「そんな反応しないでよ。発信器を持った状態で、俺達が集まってるとこに行くって作戦、なかなかだと思うけど、こちらからも予想しやすいからね。二人に多少の協力はするけど、さすがに圭吾達や光にこっちの情報は伝えないよ」
こちらの作戦が完全に読まれていて、孝太は改めてどうするか迷った。発信器がないとなれば、孝太と千佳の二人だけでダークと接触することになる。それは、あまりにも無謀な気がした。
「孝太はどうしたいの?」
不意に千佳からそんな言葉をかけられ、孝太はそちらに目をやった。
千佳は真剣な表情で、それを見ていたら、孝太は特に理由のない自信を少しずつ持ち始めた。それは、千佳のポジティブな性格が、自分にまで移ったかのようだった。
そうして、孝太は決心した。
「やっぱり、ダークに協力してもらいたい」
「私もそう思ってるよ! だから、お願いしに行こうよ!」
「ああ、そうしよう」
孝太と千佳はお互いに強く頷くと、ポケットから発信器を取り出し、それを和義に渡した。
「サンキュー。といっても、相手は光だから油断ならないんだよね。上手く掻い潜れるといいけど、やるだけやってみるか」
光なら、こちらの異常に気付き、何かしらか対処してくれる。そんな期待があったものの、和義が何か対策をしている様子で、孝太はまた少し不安になった。
そのため、そうした不安を消そうと、孝太は首を振った。そして、誰かに頼るのではなく、自分の力でダークの協力を得ようと強く心に決めた。