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TOD  作者: ナナシノススム
前半
65/273

前半 05

 美優と翔はコンビニで朝食を買うと、少しだけ移動した後、それを車内で食べていた。その間も、翔はスマホを使い、他の人の状況を調べている様子だった。

「光さん達と冴木さん達が直接話したみたいだ。それで、ダークと接触するのに、可唯と篠田さんが協力してくれるらしい。とりあえず、可唯がいれば、大勢を相手にしてもどうにかできる。そのことはもう知っているだろ? だから、孝太達の方は一先ず安心だろう」

「それなら良かった」

 ダークと接触する件について、孝太と千佳のことを心配していたものの、翔の言葉で美優は少しだけ安心した。

「それと、冴木さんと信弘は一旦潜伏先に戻るそうだ。詳細はわからないが、セーギと連絡が取れないようで、状況を確認しに行くのが目的みたいだ」

「大丈夫なのかな?」

「今言ったとおり、詳細はわからない。だから、何かわかれば、また教える」

「うん、わかった」

「それと、光さんがこれまでTODの被害にあった人の情報をまとめてくれたが、これは見ない方がいい。美優を不安にさせるだけだと思う」

 険しい表情の翔を見て、美優は何も言えなかった。そして、翔の言うとおり、その情報は見ないでおこうと思った。

「あと、当たり前のことだが、冴木さん達が俺達と合流したいと言っているそうだ。ただ、今も違和感の正体がわかっていないから、どう判断するべきか迷っている」

「それは翔に任せるよ。とにかく、私は翔と一緒にいられれば、それでいいからね」

 美優が真剣な様子でそう伝えると、翔は少しだけ笑ってくれた。

「それじゃあ、今後どうするかも考えておこう。今のところ何もないが、今後どうなるかはわからない。一応、スマホの位置情報を誤認させているとのことだが、それだけで十分とは思えない。もしかしたら、監視カメラの映像などから、こちらの位置を特定してくる恐れもある」

「そうなの?」

「怖がらせるようで悪い。ただ、監視カメラの映像を管理しているところがTODの運営とかかわっていた場合、十分あり得る話だ。これまでは夜で、こちらの顔などを確認しづらい状況だったのかもしれないが、これからの時間帯はどうなるかわからない。だから、コンビニなどに行った後は、なるべくすぐ離れるようにしよう」

 思えば、先ほどコンビニに行った時、買い物をすぐ終わらせただけでなく、すぐに駐車場から離れ、今は人通りの少ない道に車を止めているところだ。そうした翔の行動には、理由があったと知り、美優はどこか感心してしまった。

「本当は昨夜の時点でやるべきことだったが、頭が働いていなくて悪かった。あと、念のためメイクをして変装するのも……いや、それは逆に目立つからやめるか」

「え、どういうこと?」

 不意に翔から意外なことを言われ、美優は思わず聞き返した。

「ライトで活動する時、堂崎家の人だと知られたくなくて、変装していたんだ。結局、ダークに襲撃されたから意味がなかったが、その時はヴィジュアル系をイメージしたメイクをしていた。ただ、そんなことをしたら、さっき言ったとおり逆に目立つからやめておこう」

「翔のヴィジュアル系メイク、見てみたいかも!」

「いや、今はそういう話をしていないからな?」

「え……あ、そうだよね。何か、心の声が出ていたよ」

「今日も美優はいつもどおりって感じだな」

「あ、うん……」

 今更ながら、美優は自分の思いを翔に伝え過ぎていることを改めて自覚した。そして、こうした思いを伝えることで、翔がどう考えているのか、不意に心配になった。

「……こういうの、やめた方がいいかな?」

「やめろって言って、やめられるのか?」

「……努力はできるよ」

 そんな風に答えると、翔は笑った。

「別に俺は構わない」

「本当? 嫌な気分になったり、うざいとか思ったりしない?」

「そんなこと思わないから安心しろというか、そんな心配があるようには微塵も見えないな」

「いや、これは……寝起きだし」

「それもいつもどおりだろ。といっても、美優と話すようになってから数日だけだから、いつもどおりって言うのは何か違うかもしれないが……いや、やっぱりいつもどおりって感じるな」

 それは、翔のいつもどおりに自分がいると言ってくれているようで、美優は感動しそうなほど嬉しかった。

「翔、ありがとう」

「何がだ?」

「えっと、何だろ? とにかくありがとう」

「相変わらず、変なことを言うんだな」

「そんなこと言わないでよ……って、本当だ。私もいつもどおりだと思うかも」

 自分がTODのターゲットで、今も命の危険があること。それは、翔も同じように命の危険があること。それを理解しているはずなのに、何故か翔と一緒にいると、美優はそうしたことを考えることもなく、今の時間にただ幸せを感じていた。

「話を戻そう。これまで大勢のターゲットが亡くなっている……殺されているという話だが、普通に考えれば、この時点でおかしいんだ」

「どういうこと?」

「今、俺達がしているように、何か移動手段を使って、遠くに逃げてしまえば、5日ぐらいは逃げ切れるはずなんだ。だが、これまではそうなっていない。何かしらか、オフェンスはターゲットの情報を知る手段があって、単に逃げるという対策が取れなくなっているんじゃないかと思うんだ」

 翔の言うとおりと思いつつ、美優は何でそうなっているのか、まったく見当がつかなかった。

「さっき言ったとおり、スマホの位置情報を誤認させるだけで足りるのかわからない。監視カメラも警戒する必要があると思う。ただ、これは車で移動している時なら安心かもしれない。この車はスモークガラスを使っているから、監視カメラに顔が映ることはほとんどないはずだ。昨夜から、特にオフェンスの襲撃がないことも考えると、案外このまま移動するだけでいいのかもしれない」

「それじゃあ、さっきみたいにコンビニとかで買い物する時は警戒した方がいいってこと?」

「ああ、それで……いや、それだとおかしいな」

「え?」

「昨日、悪魔は明らかにこの車を攻撃してきた。篠田さんの車は無視していたから、この車に美優が乗っていると知っていたんだ。何で、悪魔は美優がこの車に乗っていることを知れたんだ?」

 翔は自問自答するようにそう言った。美優はほとんどついていけない状況だったものの、どうにか翔と一緒に考えたいと頭を働かせた。

「何か、透視能力みたいなものを持っているのかな?」

「それを持っていたとして、あの時、悪魔は待ち伏せしていたようにも感じた。そういった疑問があるのも、違和感というか、嫌な予感になっているのかもしれない」

 そこで、翔は美優の方に目をやると、少しだけ困ったような表情で笑った。

「悪い、一気に色々と話し過ぎたな。少し寝て頭が働くようになったからか、俺は考え過ぎなのかもしれないな」

「翔、やっぱり光さん達や冴木さん達と合流しない? そうした翔の疑問に、私は何も言えなくて……でも、みんなで考えれば、何かわかると思うの」

 美優の言葉に、翔は黙ったまま、何か考えている様子だった。

「翔が他の人を信用していないこともわかっているよ。でも、それはターゲットの私が危険になる可能性があるって意味で信用していないのかな?」

「……TODは色々とルールに穴があるように感じるんだ」

「え?」

「例えば、知り合い同士の二人が協力して、オフェンスとディフェンスでそれぞれTODに参加したとする。この場合、この二人は何もしなくても、必ずどちらかが賞金を手に入れることができる。参加して負けたからといって、何の損もないからな」

「確かにそうだね……」

「あと、オフェンスの勝利条件がターゲットの殺害でなく、ターゲットの死亡になっているのも良くない。極端な話、ここで俺が美優を殺しても、オフェンスの勝利になってしまうんだ」

「私は翔になら殺されてもいいかも」

「本気で言っているとしたら、さすがに怒るからな」

 翔に睨まれて、美優は慌てたように両手を振った。

「あ、冗談だよ! 冗談冗談! 冗談だってばー!」

「本当に美優はわかりやすいな……。とにかく、そんな状況だから、オフェンスだけでなく、オフェンスの知り合いにも警戒する必要があるんだ。ただ、どこの誰がオフェンスの知り合いかなんてわからない。だから、俺はなるべく警戒したい」

 もっともな意見を翔から言われ、美優はそのとおりだと感じた。そのうえで、美優の中で思うところがあった。

「さっき翔が言ったとおりなら、ディフェンスの人達は信用できるんじゃないかな? だって、もしも知り合いがオフェンスで参加しているなら、わざわざ危険を冒して私のところまで来ないでしょ? だから、少なくともディフェンスの人達は信用できないかな?」

「……確かに、今回は5人とも比較的すぐに来てくれた。オフェンスと繋がっていて、情報を流すなんてことをやる可能性もあるにはあるが、他のオフェンスに殺されるリスクを考えたら、何もしないで傍観した方が絶対にいいだろう。そういう点で、ディフェンスからオフェンスに情報が流れることはなさそうだ」

「人を信用していない言い方だけど、それでもいいよ。別に、私は翔と一緒にいられれば、それでいいんだけど……翔が一人で全部を抱え込んで、壊れてしまいそうなのが怖いの。私がそう思っていることは、知っていてほしいかな」

 初めから変わらないこととして、守られている立場であるものの、美優は自分のために翔が壊れてしまうことを避けたかった。そんな危うさを翔は持っている。そう確信しているからこそ、これだけは譲れなかった。

「……わかった。ただ、今はダークと接触するためにみんな動いている。それが落ち着いたところで、考えたいと思う」

「うん、ありがとう」

 翔から返ってきたのは、答えを保留する返事だったものの、何かしらか進展があると信じて、美優は強く頷いた。

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