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TOD  作者: ナナシノススム
前半
64/273

前半 04

 冴木達は交代で休憩しながら、一晩中セレスティアルカンパニーの近くで待機していた。

 今は冴木と可唯が起きていて、一方、篠田と信弘は眠っている。これは、一人だけ起きている状態にするより、常に二人は起きている状態にした方がいいと冴木が判断したためだ。また、組み合わせも冴木と可唯、篠田と信弘という形にした。こうした理由は、冴木が可唯を警戒してのことだ。

 これまで可唯を見てきて、自由というより、むしろ自分勝手だと冴木は感じた。それだけでなく、一つ一つの行動に目的や理由があるのかすらわからない状態だ。そのため、可唯のことは自分が監視しようと考え、可唯が起きている時は自分も起きるようにした。

 また、もう一つ別の懸念事項があり、昨夜セレスティアルカンパニーの近くで待機するようにしてから少しして、冴木達を監視する者が数人いることは既に気付いていた。可唯によると、光がこちらを警戒して、セレスティアルカンパニーの社員を使って監視しているのだろうとのことで、それ自体は冴木もそうだろうと感じているところだ。

 しかし、こうして監視されているということは、警戒されているという意味でもあり、翔達がここに来ることがないのではないかと不安にさせた。むしろ、翔がセレスティアルカンパニーと協力して何かしようとしているなら、冴木達の行動は、それを邪魔するものになる。

 美優が翔と一緒に離れてしまったことに焦り、これまで冴木は冷静に考えることができないでいた。ただ、少しでも休むことができ、それによって冷静になるにつれ、自分の行動に疑問を持ち始めていた。

「あちらさんも、一晩中大変やな」

 可唯は相変わらず、どこかゲームを楽しんでいるかのような雰囲気だ。思えば、ここで待機するのを決めたのは可唯の提案を受けてのものだ。冷静になった今、冴木は可唯の提案が妥当なものだったか、改めて考える必要があると感じた。

「監視をされているということは、警戒されているということだ。ここに翔と美優は来ないんじゃないか?」

「せやろな。ここには来ないやろ」

「ふざけるな。だったら、ここにいても……」

「せやけど、ここで待機するのが一番やで。誰の案なのか、おもろいことをやるみたいやしな」

 可唯はスマホを操作しながら、そんなことを言った。

「ダークって知っとるか? わいらライトの壊滅を目指すグループで、ランの高校を襲撃したのもこいつらなんやけど、そのダークを仲間にするつもりみたいやな」

「どういうことだ?」

「ダークのリーダーをやっとる鉄也とか、その補佐の和義はハッキングもできるさかい、TODをどこが運営しとるか特定するのに、協力してもらうつもりなんやろ。せやけど、ダークは秘密主義で、普段どこに集まっとるかもわからんねん。せやから、少ない数で何とかするつもりみたいやな」

 可唯が何を話しているのか、冴木は理解するのが難しかった。

「結局、何が言いたいんだ?」

「これから、ランの友達を囮にして、ダークと会うつもりみたいやね。ほんで、近くで待機しとる少数のライトでダークをどうにかするつもりなんやろ。せやけど、大勢を相手にできるのは、わいとランぐらいや。せやから、ダークと接触するとこで、きっとランが来るはずや。わいらはその時を待てばええねん」

 可唯の説明を聞いても、冴木は上手く理解できなかった。ただ、それはしょうがないことだと割り切ることにした。

 これまで、可唯はわざと理解しづらい表現を使っている。それは単純に関西弁だからというだけでなく、それこそクイズを出すかのように、わざと理解しづらい表現を使っているのだろうと冴木は感じていた。

 可唯がそうしている理由はわからないが、常に周りを混乱させようとしているような、そんな意図すらあるのかもしれない。冴木はそんな風に考え、可唯の言葉を深く受け取らず、表面的なものだけ受け取ったうえで、どうすればいいかを決める方針を取ることにした。

「普通に考えて、俺達がいたら、翔は来ないんじゃないか?」

「そないなことしたら、友達を見捨てることになるやろ? ランは友達を見捨てへんで」

「さっき、君はダークを相手にできるのは、翔か君だと言ったな。だったら、君に助けを求めてくるんじゃないか?」

「せやろな。まあ、わいがそれを無視すれば、向こうはランに頼るしかなくなるってことや」

「その判断は正しいのか?」

 冴木がそう言うと、可唯はわざとらしく首を傾げた。

「わいらの目的は、ランと美優ちゃんを見つけ出して、合流することやろ?」

「そうだが……」

 少しずつだが、自分達のしていることが間違っているという思いが強くなっていき、冴木は言葉に詰まった。その時、可唯はセレスティアルカンパニーの方へ目をやると、笑みを浮かべた。

「ライトのリーダーと、セレスティアルカンパニーの副社長……贅沢な交渉相手やな」

 冴木もそちらに視線をやると、二人の男性が近付いてきた。一人は、何か新聞かテレビで見たことのある宮川光で、そちらで見たとおり、車椅子を使用していた。そして、もう一人は、可唯の言うとおり、ライトのリーダーなのだろうと判断した。

 すると、可唯が車を出たため、冴木も続いて車を出た。

「二人とも、お疲れのようやな」

 自分に対してもそうだが、可唯は目上の人を尊敬するような態度が一切見られない。そのことを気にしつつ、冴木は二人に頭を下げた。

「俺は冴木だ。知っているようだが、ディフェンスとして今回のTODに参加している」

「知っているかもしれないけど、僕は宮川光です。セレスティアルカンパニーの副社長をやっています」

「俺はライトのリーダーをしている今井圭吾だ」

「こちらの状況は、翔から報告を受けているな? 翔と美優は無事なのか?」

 冴木はまず、二人の安全を確認したかった。これまでの話から、翔が光と圭吾に連絡していることはわかっている。そのうえで、とにかく二人の安全をまず確認した。

「お互い、これまでの状況を報告し合う必要はないみたいですね。翔君と美優ちゃんは無事だから安心してください」

「それなら良かった。だが、何故翔が俺達から離れたのか、そこには疑問しかない。そんなに俺達は信用されていないのか?」

「本人から理由を聞いて、僕も感じたことだけど、色々と偶然が重なり過ぎているのを知って、何か嫌なものを感じたそうです。翔君の言った表現だと、妙な違和感があり、それがそのまま嫌な予感になったとのことです。それが何なのかわかるまで、距離を取ろうと思ったみたいです」

「俺が確保した潜伏先は、政治家なども利用するほど、セキュリティが充実した場所だ。それに何か緊急事態があれば、こちらに通知が来るはずだが、それも今のところ来ていない。そこを離れて、二人で行動した方がいいと判断したことには、どうしても納得できないんだ」

 可唯と違い、光となら真面に話ができると感じて、冴木は本音を伝えた。その時、そんな冴木と光の会話を遮るように、可唯が笑った。

「可唯、何だ?」

「通知はシステムが機能してへんと届かんで?」

 それだけだと、可唯が何を言っているのか、冴木にはわからなかった。ただ、光は何か察した様子だった。

「冴木さん、潜伏先には誰か残していますか?」

「ああ、一人だけ残してきたが……」

「今すぐ連絡してください。それと可能なら、その場所のシステムがどうなっているか確認してください」

 そんなことを言われる理由がわからないまま、冴木はセーギに連絡を取ろうとした。そして、電話をかけてもセーギが出ないこと。スマホなどでアクセスできるはずのシステムに一切アクセスできないこと。そうしたことを確認して、今の状況を理解した。

「可唯、おまえはわかっていたのか?」

「あそこのセキュリティが完璧やないことは最初から知っとったで。システムが落ちとるのは、今知ったとこや」

 何かセーギの身に起こっている。そのことを理解して、冴木は多少の混乱がありつつ、気持ちを落ち着かせた。

「二人がここに来たのは、何か話があるんだろ? まず、それを話してほしい」

 そして、まず光達の目的を聞いたうえで、今後の行動を判断しようと考えた。

「じゃあ、ここは圭吾から言ってもらおうかな。というのも、圭吾が可唯君と話したいと言って、ここに来たわけだからね」

「わかった。単刀直入に言うぞ。これからダークと接触する。可唯に協力してもらいたい」

「圭吾、少し言葉を選んで……って、今更だよね」

 光の呆れた様子を見つつ、冴木は圭吾という人物に対して、嘘が苦手な正直者といった印象を持った。

「わいは協力せんで? せやから、ランを呼んで協力をお願いするしかあらへんで?」

 先ほど言っていたとおり、可唯は協力しないという姿勢を貫くつもりのようだ。しかし、冴木はそれでいいのかと改めて疑問を持った。

「翔君と合流したいなら、今は協力して、信用を得るべきじゃないかしら?」

 そんな声が聞こえて振り返ると、いつの間に起きたのか、篠田がいた。

「ダークと接触しようとしている翔君の友人って、孝太君達でしょ? 取材対象に何かあったら困るし、私は協力するわ。でも、私は無力だから、可唯君の協力が是非必要よ」

「わいが何もせんでいれば、勝手にランは来るで?」

「それはどうかしら? 自分達が行くことで、そこにオフェンスが来る可能性だってあるのに、無茶な行動に出るとは思えないわ。だったら、今回の件に協力して、私達のことを信用してもらったうえで、今後のことを考えるべきよ」

 これまで、冴木は篠田のこうした誘導に近い言葉に振り回されてきた。それは可唯に対しても有効なようだ。というのも、可唯自身をどうにかしようという目的ではなく、ここにいる全員を味方にしながら誘導していく話し方をしているため、それが自然と可唯すら納得させようとしていたからだ。

 実際、可唯はそうした篠田に対して思うところがあったのか、わざとらしく笑った。

「そこまで論破されたら、しゃあないな。ええで。わいは圭吾達に協力したるわ」

「私も一緒に協力するわ。それで、冴木は潜伏先に戻って、セーギの無事を確認してきて」

「は?」

 意外な提案に、冴木は戸惑ってしまった。

「何かセーギの身にあったかもしれないし、状況を確認するのは必要なことよ」

「……篠田、いつから話を聞いていたんだ?」

「私は記者よ? 最初から全部聞いていたわ」

 もしかしたら、篠田は寝たふりをしていただけなのかもしれない。そうとしか思えなかったが、冴木は触れないでおいた。

 そこで、今起きたばかりに見える信弘が車から出てきた。

「あの……何がどうなっているんですか?」

「丁度いいわ。冴木は信弘君と一緒に潜伏先へ行って、状況を確認してきて。その間にこれまでのことを信弘君に説明すればいいでしょ」

 多少、強引に思いつつ、これまで自分達の行動に疑問を持っていた冴木にとって、篠田の提案は嬉しいものだった。

 冴木と信弘で潜伏先に戻り、状況を確認すること。TODそのものをどうにかするため、篠田と可唯でライトやセレスティアルカンパニーと協力して、ダークと接触すること。どちらも、自分達のするべきことだとはっきり思えた。そのうえで、冴木は一つ伝えたいことがあった。

「翔と美優に、俺達のことを信用してほしいと伝えてくれ。今も、二人が無事でいるか、本当に心配なんだ。何か危険を感じているなら、それも共有してほしい。そうしたことを全部伝えてくれ」

「はい、わかりました」

 光は冴木の思いを受け取ってくれたようで、笑顔で頷いた。

「それじゃあ、ここからは別行動ね。冴木と信弘君は今すぐ潜伏先へ戻って、何かわかったら連絡して」

「ああ、わかった」

「もしかしたら、何か危険なことが起こっているかもしれないから、本当に気を付けて」

 心配した様子の篠田に対して、冴木は真剣な表情で頷いた。

「わかった。それじゃあ、行ってくる」

「あの、何がどうなっているのか……」

「信弘、移動しながら話すから、車に乗れ」

 そうして、冴木は信弘と一緒に車に乗ると、車を走らせた。

 こんな状況で、何が正しいかなどはわからない。しかし、少なくともこれまでしていたことよりも正しいことをしているはずだと信じながら、冴木は運転に集中した。

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