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TOD  作者: ナナシノススム
前半
61/273

前半 01

  世の中、許せない人はいると思うけど、誰かを恨んだり、復讐したり、そんなことだけはしないでよ



7月11日(水)


 翔は目を開けると、すぐに体を起こした。

 昨夜は、途中休憩を挟みながら深夜まで移動した後、利用している者がほとんどいないパーキングに車を止めた。それから美優に監視をお願いすると、翔は仮眠を取った。ただ、後部座席を倒してベッドのように使うのは、あまり寝心地が良くなかったようで、体の節々に痛みを感じた。

 ふと、助手席に座る美優に目をやると、監視をお願いしたのに、普通に眠っていた。そのことをしょうがないと思いつつ、翔は今が7時であることを確認した後、外に出るとストレッチを始めた。

 それから、ある程度いつもどおりに体が動かせることを確認すると、何か眠っていた間に危険なことが起こっていないかと、車の周りを調べた。もしかしたら、爆発物を仕掛けられているかもしれない。そんなことも心配しつつ、車を入念に調べたが、幸い危険な物は見つからなかった。

 その時、美優が慌てた様子で車から出てきた。

「ごめん! 私も寝ちゃったみたい!」

 椅子に座って寝たせいで、妙な形の寝癖がついた美優を見て、思わず翔は笑ってしまった。

「こんな状況で疲れていただろうし、気にするな。今、確認してみたが、特に危険なこともなかったようだ。だから、安心しろ」

「それなら良かった……。私のせいで翔まで危険にさせたら、それこそ耐えられないから、本当に良かったよ」

 その言葉に、翔は胸が熱くなるような、そんな感覚を持った。

「別に、俺は危険が来ても自分で何とかする」

「そうかもしれないけど……翔は私のことを守ってくれているけど、私も翔を守りたいんだよ?」

「……どういう意味だ?」

 美優は少しだけ間を空けると、笑顔を見せた。

「翔は怒るかもしれないけど……私は命を懸けて翔を守りたいの」

 美優の言葉を、翔は理解できなかった。ただ、否定することもできなかった。

「また、変なことを言っていると思うけど……私がそう思っていることを、翔には知っていてほしい」

「……わかった」

 色々と思うところがあったが、翔はそれしか言えなかった。

「とりあえず、また移動しよう。朝食はまたコンビニで調達しようと思う。それでいいか?」

「うん、わかった。私もそれでいいよ」

「それじゃあ……その前に光さん達から来た報告を確認させてくれ」

 翔はそう言うと、スマホを操作し、光や圭吾から来た報告を確認した。

「ダークへの参加希望は、孝太と千佳の二人が昨夜送ったそうだ。孝太だけでいいのに、千佳も送ったみたいだな。それで、今日の昼前――11時にダークと接触することになったらしい」

「あれ? 孝太達、学校はどうするの?」

「昨日、あんなことがあったし、今日は学校が休みらしい」

「あ、確かにそうなるよね……」

 どこか日常と離れてしまったと美優が感じているように見えて、翔は心配になった。

「大丈夫だ。無事に全部終われば、美優は前と同じように過ごせる。だから、心配するな」

 そんな言葉を伝えると、美優は複雑な表情を見せた。

「ううん、多分……そうはならないって覚悟しているよ。きっと、私は翔と同じような感じになるんだと思う」

 その言葉を受け、翔は何も返せなかった。TODで大切な人を失った自分は、美優の言うとおり、前と同じようには過ごしていない。そのことを理解したうえで、美優に伝えるべきことは何かを考えた。

「美優だけでなく、美優にとって大切な人も全員死なせない。そうすれば、きっと前と同じ生活に戻れるはずだ」

「……翔、ありがとう。でも、違うの。TODのことを知ったから、私は今までどおりにしたくないの。翔のことも、もっと知りたい。翔が話したくないなら、無理に聞かないけど……私はこれまで知らな過ぎたと気付いたの。それは、翔のことだけでなく、色々なことについて、もっと知るべきだったと思ったの。だから、前と同じようにってことは絶対にないよ」

「そうか……」

 これまで、翔は他の人がしない経験をした結果、他の人と大きく違ってしまったと自覚していた。だから、他の人とかかわることを避けていた。しかし、今、美優は自分と同じ方向へ変わろうとしている。それを知り、このまま自分と同じように美優が変わることを受け入れるべきか、反対に止めるべきなのか、答えを見つけられなかった。

「翔、一人で悩まないで。私も一緒に悩みたいよ」

 そんな言葉を言われ、翔は思考を止めた。

「私は翔のことが大好きだよ。翔が間違った方向へ行くとしても、私は一緒に行くよ。だから、私を間違った方向へ行かせたくないなら、翔が正しいと思う方向へ進んでよ。翔がTODを恨んでいることも、それに復讐したいこともわかるよ。でも、そんなことするべきじゃないと私は思うの」

 そんなことを過去に言われた気がする。それは、今はもういない、自分にとって大切な人が言ってくれたことだ。

「本当に美優は、あいつと同じことを言うんだな」

「……昨日も翔はそう言ったけど、その人が、翔にとって大切な人なんだね。それに……その人は翔に復讐してほしいなんて、思っていなかったってことだよね?」

「それは……」

 翔の中で、その質問の答えは出ていたが、答えられなかった。それは、今の自分の行動を否定することになると感じたからだ。

「ごめん、聞き過ぎちゃったね。私は翔が話してくれるのを待つよ。だから、今は何も言わなくていいよ」

 美優がそう言ったが、翔は話すべきことがたくさんあると改めて自覚した。しかし、美優の言葉に甘えて、今はまだ話さないことにした。

「それより……急にこんな話をしちゃって、寝ぼけていたせいだと思うの! ううん、これぐらいしないとって思ったことは本当なんだけど……」

 急に美優が不安げな表情になり、翔は笑った。

「ありがとう。少しずつでも話せればと思う」

 ただ、今はそれしか言えなかった。そんな翔に対して、美優は笑顔を向けた。

「うん、私はいつまでも待っているから!」

 美優の言葉を受け、翔は複雑な思いを持っていることに気付いた。こんな状況にも関わらず、自分は美優と一緒にいて楽しいと思っている。しかし、そんな思いを持っていては美優を守れないと考え直すと、頭を切り替えた。

「……とりあえず、急ぎの報告はないようだから、とにかく移動しよう。料金を払ってくるから、車に乗って待っていてくれ」

「うん、わかった」

 翔は精算機で料金の支払いをすると、足早に車へ戻った。ただ、美優が自分の寝癖に気付いたのか、慌てた様子で直していたため、途中から少しだけ足を緩めつつ、運転席に座った。

 それからエンジンをかけると、翔は車を走らせ、パーキングを出た。

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