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TOD  作者: ナナシノススム
ウォーミングアップ
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ウォーミングアップ 05

 世界中でインターネットが普及され始め、日本でも政府がIT革命という言葉を掲げた時、ある日本人が高精度のネットワークセキュリティを設立するべきだと考えた。

 彼は元々営業マンで、多くの人とかかわりを持っていた。それを利用し、パソコンに詳しい人材を集めると、彼は会社を設立した。会社の名前は、「セレスティアルカンパニー」だ。

 優秀な人材を雇ったことが功を奏し、セレスティアルカンパニーは大きく発展した。それに合わせ、日本は世界でもトップレベルのネットワークセキュリティを誇る国と世界から称賛されるほどになった。

 それは、コンピューターウイルスが各国で流行っている時、日本だけ何の被害も受けずに済んだこと。大きなサイバーテロが日本でだけ起こっていないこと。そうした実績も、ネットワークセキュリティが優れていることを表していた。

 高いネットワークセキュリティを持つことは、同時にあらゆる情報を持つことにもなる。その結果、日本は世界で最もIT技術に優れた国としても知られている。また、そうした技術を利用して、事件を未然に防ぐことも時には可能だ。

 例えば、テロのような犯罪が計画された時、その犯人達がセレスティアルカンパニーの管理するネットワークを利用していた場合は、それを特定し、計画を破綻させることが可能だ。それだけでなく、事件発生後、周辺の監視カメラ映像などを分析し、犯人を特定したこともあった。そうした形で、時には警察と連携しながら、治安の維持という点でも、セレスティアルカンパニーは大きな活躍をしている。

 また、ここの社長は若者の方が活躍できるだろうと考えると、なるべく大卒や高卒の新人を雇うように指示した。その判断は正しく、結果として、さらにセレスティアルカンパニーを発展させていった。

 そうして、セレスティアルカンパニーは日本最大の企業となっているが、ライバル会社がないわけじゃない。「インフィニットカンパニー」という、同じくネットワークセキュリティを扱う会社があり、お互いに相手の会社が管理しているネットワークに干渉できないため、それによる問題なども起こっている状態だ。

 それだけでなく、近頃は一部のハッカー集団が独自にネットワークを構築し、それを使ったサイバー犯罪が時々起こっている。今後、それらの問題をどういった形で解決していくかが、セレスティアルカンパニーの課題になっている。

 また、インターネットは休日など関係なく、毎日大勢の人が利用している。そのため、セレスティアルカンパニーは休日がなく、交代制で常に誰かが出勤している状態だ。日曜の今日も例外でなく、多くの社員が出勤していた。

「皆さん、いつも休日までありがとうございます。僕も頑張るので、皆さんも頑張りましょう!」

 そんな声をかけながら、各部署を回っているのは、社長の息子として副社長の地位を与えられているだけでなく、次期社長候補とも言われている宮川みやがわひかるだ。

 親から子へと社長を継いでいくという方法には、賛否両論あるものだ。しかし、このセレスティアルカンパニーにおいては、批判の声がほとんど上がっていない。それは、社長や副社長という大きな立場に置かれたからこそ、他の人より努力するべきだという教訓のようなものがあるからだ。

 光は二十五歳で、本来ならまだ若手といえる年齢だ。それが、社長の息子として副社長のポジションを与えられ、普通ならそれに甘えてしまうところだ。しかし、光は副社長になったからこそと奮起し、会社全体を理解することに努めた。

 それをかなえるうえで、光にはある障害がある。それは、以前交通事故にあってしまい、その影響で車椅子生活を余儀なくされていることだ。

 出勤することも、各部署を回ることも、他の人よりどうしても大変になってしまう。しかし、光が弱音を吐くことは一切なく、時には周りから心配されても笑顔で大丈夫だと返すほどだ。

 今日も、本来なら出勤しなくていいはずなのに、こうして出勤して、いつもどおり各部署を挨拶しながら回っているのも光らしく、そうしたことから、光は多くの社員から信頼されている。

 光は各部署を回り終えると、自分のために用意された副社長室に入った。

「光、お疲れ様」

 そこには妻であり、秘書でもあるひとみがいた。

「みんなに会って疲れることなんてないよ。それより、何か変わったことはないかな?」

 何の問題もなく、常に使えるものがインターネットであるべきだ。しかし、時には通信障害といった問題が発生する。そうした問題の中には、未然に防げるものも多く存在し、それを見つけるコツは、何か普段と違うことがないか確認することだ。

「直近ではないけど、先々月の15日にあった通信障害の件で、少し気になる報告があったの」

「気になる報告?」

「あの通信障害、無線基地局でエラーが発生したのが原因だったでしょ? その周辺の監視カメラ映像の中に、ちょっと不審な動きをする人がいたの」

 瞳はそう言いながら、ある映像を表示させた。

 そこには、フルフェイスヘルメットを被り、レーシングスーツを着た人物の姿があった。随分と大きな体格だと思いつつ見ていると、その人物はポケットから何かを取り出し、それを操作する様子が映っていた。その直後、映像が乱れ、そこで終わってしまった。

「どう思う?」

「EB――電磁波爆弾かもしれないね」

 光は少しでも情報を得ようと、何度も映像を見返した。

「そのEBって何なの?」

「強力な電磁波を発生させることで、近くの電子機器に異常を起こさせるそうだ。実際、電磁波による電子機器の異常というのは確認されていて、公にされていないものの、兵器化されているみたいだよ」

 そう言いつつ、光の中には納得できない部分があった。

「ただ、仕組みを考えた時、こんな携帯サイズのEBがあるのかって疑問はあるね。一応、近くにあったEBをこれで起動したって解釈もできそうだけど……こいつの持っているのが、EBそのものって可能性も十分あるかな」

「そんなことできるの?」

「この世に不可能なことなんてないんだよ。可能性の一つとして、考慮していいんじゃないかな」

 それから、光は当時周辺で起こったことについて調べた。すると、気になる情報が出てきた。

「当時、周辺で殺人事件が発生しているね。被害者は……元自衛隊の男性、看護師の女性、それと女子高生って、変な組み合わせだね」

「確かにそうね」

「殺害現場は元自衛隊の男性宅で、凶器は銃みたいだよ」

「じゃあ、その元自衛隊の人が標的にされて、それに他の二人は巻き込まれたってこと?」

「まあ、変な組み合わせだってことは変わらないけどね。何か共通の趣味を通じて知り合って、一緒にいるところだったとか、その可能性も……いや、ないみたいだね」

 事件の詳細を追う中で、光は次々と妙な点を見つけてしまった。

「この事件、標的は元自衛隊の男性じゃなくて、この女子高生だったのかもしれないよ」

「どういうこと?」

「先々月の10日、この女子高生の両親が殺害されて、その時からこの女子高生は行方不明だったそうだよ。それで15日、遺体となって見つかったということみたいだね。そういえば……一年ぐらい前から似たような事件があったような気がするよ」

 光は思い当たる事件を一覧化すると、それを瞳に見せた。

「高校生を標的にしただろう事件で、その家族や身近な人が殺されたケースが一年ぐらい前から結構あるんだよ。それは一緒にいて巻き込まれたケースもあれば、今回のように別の日、別の場所で殺されたといったケースも多くて、妙だと思っていたんだよ」

「確かに、何か調べてみれば共通点が見つかりそうね」

「瞳、みんなに調べてもらうよう、お願いしてくれないかな?」

「わかった、お願いできそうなところにお願いしてくるよ」

 多くの社員と接する機会があるものの、光が直接指示を出すことは少なく、いつもこうして瞳を中継している。それは、誰に何をさせるべきかという判断において、瞳の方が正しい判断ができるからだ。

 しかし、それで光は人任せにするというわけじゃない。

「僕も調べられる範囲で調べるよ」

 光は、人に指示を出すより、自ら行動することで力を発揮できると思っている。そのため、監視カメラに映った不審者、及び妙な殺人事件について、すぐに調べ始めた。

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