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TOD  作者: ナナシノススム
試合開始
59/273

試合開始 29

 孝太と千佳は夕食を食べ終えた後も、しばらくの間、話をしていた。

「千佳ちゃん、もし良かったら、今度一緒に料理してみない?」

「え、いいんですか? でも、私、料理下手ですよ?」

「大丈夫、食べるのは私達だし、練習と思っていいから」

 その中で、千佳は孝太の母親とすっかり仲良くなっていた。

「いや、練習って、大丈夫かよ?」

「食べられる物にはするから、大丈夫!」

「全然大丈夫な気がしねえよ」

 ここに来るまで、千佳は緊張すると言っていたが、もうすっかり普段どおりになっていた。そのため、自然と孝太も普段どおりの受け答えになっていた。

「ところで……いつ報告してくれるの?」

「ん?」

 そこで、不意にそんな質問を母親からされて、孝太は固まった。

「いや、報告って?」

「別に隠したいなら、それでもいいわ。でも、全然隠す気ないじゃない」

 母親が何を言っているのか、孝太はまったく理解できなかった。一方、千佳は顔を真っ赤にして、何か慌てている様子だった。

「あの、違うんです! まだ、そういうことではなくて……」

 そんな千佳の様子を見て、孝太も母親が何を言っているのか、ようやく理解した。

「ああ、別に付き合い始めたとか、そんな報告はねえよ」

「そうなの? ごめんなさい、勘違いしたわ」

「はい、私が告白して、今は保留してもらっているところで……」

「ちょっと待ちなさい。孝太、どういうこと?」

 母親が怒っている様子で威圧してきて、孝太は困ってしまった。そして、どう答えようかと悩んでいると、父親がため息をついた。

「二人の問題だ。そっとしておいてあげなさい。それに、孝太はちゃんと考えているから、安心しろ」

「……そういうことならいいわ」

 父親がどこまで察しているのかわからないものの、フォローしてもらう形になり、孝太としては助かった。

「そういえば、言い忘れていたけど、明日学校が休みだって、さっき連絡があったわ。何があったの?」

「ああ、何か色々あって……さっき言ったとおり、危険なことには深入りしねえようにするから、大丈夫だよ」

 不良達が襲撃してきて、さらには教師が一人自殺した。そんなことがあったため、休みになるのは当然だと感じた。

「もしかして、美優ちゃんの家で爆発があった件も関係があるの?」

「まあ、関係ねえわけじゃねえけど……」

 そこで、孝太はこれまで起こったことを頭の中で整理した。そして、いくつか思うところがあったものの、ここでは言わずに、後で圭吾や光に報告しようと思った。

「とにかく、何度も言うけど、大丈夫だよ」

「それならいいけど……」

 母親はまだ心配している様子だった。ただ、それは自分のことを大切に思っているからだと理解しているため、孝太はどこか嬉しくなった。

「あ、もうこんな時間なので、そろそろ私は帰りますね。本当にご馳走様でした」

「あら? 明日は学校が休みだし、泊まっていってもいいのよ?」

「え!?」

「今日、両親は家にいるの? 何か危険なことが起こっているようだし、一人になるようなら、是非泊まっていきなさいよ」

「えっと……今夜は両親二人とも夜勤でいないんですけど、そんなの悪いです」

 千佳は突然の申し出で、困っている様子だった。ただ、孝太も母親と同じ考えだった。

「僕も、今日は一人にならねえ方がいいと思う。別に、前にもみんなで泊まったんだし、いいじゃねえか」

「あの時は、みんな一緒のお泊まり会だったけど、私一人だけというのは……」

「千佳のことが心配なんだ。だから、今は一人になるな」

「……うん、わかった。それじゃあ、すいません。お言葉に甘えて泊めていただいてもいいですか?」

 千佳の言葉に、孝太の両親は笑顔を向けた。

「ええ、歓迎するわ。というか、孝太、何でそれで千佳ちゃんと付き合わないのよ?」

「いや、えっと……」

「まったく、二人の問題だと言っただろ? だから、二人に任せよう」

 また父親がフォローしてくれて、孝太としては感謝しかなかった。

「何か足りない物があるなら、近くに遅くまでやっているスーパーがあるから、そこに行くといい」

「わかりました。それじゃあ、色々と欲しい物があるし、孝太、一緒に行ってくれない?」

「ああ、わかった。じゃあ、早い方がいいし、早速行くか」

「うん、そうだね。それじゃあ、行ってきます」

「ええ、わかったわ。二人とも気を付け……さすがにこの時間、制服だとまずいんじゃない? サイズが合うかわからないけど、ジャージがあるから、貸すわよ?」

「あ、そうですね。すいません、お借りします」

「僕も着替えてくる」

 そうして、孝太と千佳はそれぞれ着替えると、深夜も営業しているスーパーに向かった。そこは、多くの種類の商品を揃えていて、着替えや歯ブラシといった、一泊するのに必要な物を揃えるのは簡単だった。

 そうして、千佳が早々に買い物を終えると、孝太達は店を出た。

 それから家を目指す途中で、孝太は足を止めると、スマホを出した。

「千佳、圭吾さん達に連絡してえことがあって、少しいいか?」

「うん、大丈夫だよ」

 そんな許可をもらった後、孝太は圭吾に連絡した。

「圭吾だ。どうした?」

「すいません、ちょっと気になったことがあって、光さんにも話したいんですけど……」

「だったら、グループ通話にする。ちょっと待ってろ」

 それから少しして、光も通話に参加した。

「どうしたのかな?」

「光さんもすいません。さっき気付いたんですけど、今日、ダークが学校を襲撃したことって、TODと関係ありますかね?」

 先ほど、両親も含めて話をしていた時、孝太はそんな疑問を持った。そして、このことが何か大きな手掛かりになるのではないかと、何の根拠もなく思っていた。

「うん、僕とラン君も同じ疑問を持っていて、それについても調べているよ」

「そうだったんですか? だったら、わざわざ連絡する必要なかったですね」

「そんなことないよ。僕とラン君、それだけでなく美優ちゃんも疑問を持っている様子だったんだ。そこに、孝太君も疑問を持っているという事実が加わった。これだけの人が疑問を持つということは、やっぱり何かおかしいと考えるきっかけになる。だから、孝太君の報告は嬉しいよ」

 無駄な報告かと思ったのに、そこまで言われて、孝太は上手く返事ができなくなってしまった。それは単なる褒め上手とは違う、様々なことを考えさせられる言葉だった。

「これからダークに接触する。それで何かわかることもあるだろう」

「ちょっと、圭吾!」

「ダークに接触するって、どういうことですか!?」

 孝太が反応するよりも早く、千佳は食いつくような様子で大きな声を上げた。

「ダークに関しては、私達も怒ってて、だから協力できることがあるなら、協力したいです!」

「僕も千佳と同じ考えです。何か、できることはないですか?」

 千佳と孝太がそんな言葉をぶつけると、光のため息が聞こえた。

「ほら、こうなるから、黙っていてほしかったんだけど……」

「すまない。口が滑った」

「まあ、圭吾がこうなのは昔からだしね。簡単に説明するけど、これまではダークから一方的な連絡が来るだけで、こっちからダークに連絡する手段はろくになかったんだよね。この辺の仕組みは専門的な話になるからしないけど、ついさっきラン君からダークへの連絡手段を見つけたと報告があったんだよ。それについて詳細を調べてみたら、ダークに参加したい人を募集していることがわかったんだ。だから、そこに応募すれば、ダークから何かしらかの接触があると思って、今は具体的にどうしようか考えていたところなんだよ」

 光の話は理解できない部分もあったが、おおよそのことは理解できた。そのうえで、孝太は一つの提案をすることにした。

「だったら、僕がダークに参加したいと応募したら、いいんじゃないですか? 僕は今日ライトに入ったばかりですし、何度かダークと会ってるものの、警戒はされにくいと思うんです」

「やっぱり、そう言うよね。ただ、ラン君は孝太君達が今回の件にかかわることを避けたいみたいなんだよ。だから、黙っているつもりだったんだけど……」

「危険があることは知ってます! ただ、僕には……僕と千佳には覚悟があります! 美優と翔のため、自分のできることをしたいんです!」

「私も孝太と同じ気持ちです!」

 孝太達がそんな言葉を伝えると、また光のため息が聞こえた。

「光、すまない。伝えるべきじゃなかったな」

「もう今更だよ。まあ、そういうことなら……ラン君達にも、その思いを伝えてもらおうか」

 光が唐突にそんなことを言って、孝太は意味がわからなかった。

「ラン君から、また連絡したいとメッセージが来たから、この通話に参加してもらおうか。孝太君達は、ラン君達に話したいこと、いっぱいあると思うしね」

「二人と話せるんですか?」

「すごい! 絶対話したいです!」

「それじゃあ、少しだけ待っていてね。一応、簡単に状況を説明したうえで、通話に参加させるよ」

 それから、孝太と千佳は通話を繋いだまま、しばらくの間待った。実際は、1分もないぐらい短い時間だったのかもしれない。ただ、孝太達にとっては、とても長い時間に感じた。

 翔達と別れてから、間接的に無事を確認できたものの、本当に無事なのかといった不安はずっとあった。そんな不安が解消される瞬間を、孝太達はずっと望んでいた。そして、その望みは果たされようとしていた。

「渋々といった感じだけど、承諾してくれたよ。それじゃあ、通話に参加させるよ?」

「はい、お願いします!」

 それから少しして、近くで車が走っているような音が加わり、それが翔のスマホを通して聞こえているものだと気付いた。

「もしもし、翔です。聞こえていますか?」

 今日の昼に聞いた声なのに、孝太はどこか懐かしい気分になった。

「翔! 美優! 二人とも無事なんだよね!?」

「千佳か? こっちは大丈夫だ」

「うん、私も翔も無事だよ」

「ホントに良かったー!」

 こういった時、孝太は何を話そうかと少し考えてしまう癖がある。ただ、千佳はそんな自分と違い、伝えたいことをそのまま素直に伝えていた。その様子を見て、孝太は大きく息を吸った。

「孝太だ! 美優と翔が無事で嬉しい!」

 こんな時間に大きな声を出して、近所迷惑なんてことも気になりつつ、孝太は自分の思いをとにかく伝えた。

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