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TOD  作者: ナナシノススム
試合開始
58/273

試合開始 28

 セーギは一人残された後、管理室で監視カメラの映像を確認するだけの作業を淡々とこなしていた。それは暇なもので、自然と考え事をしていた。そして次第に、これまでの人生を思い返す時間になっていった。

 幼い頃、戦隊ものの特撮を見た時、セーギの将来の夢はヒーローになることに決まった。そして、悪と戦う正義の組織に入るにはどうすればいいかと、真剣に考えた。

 小学生の頃、ヒーローなんてものはフィクションで、実際にそんなものなどいないと同級生から言われ、大喧嘩になった。その時、ヒーローを否定する相手が悪の手先じゃないかと思い、セーギは本気で殴りかかり、大怪我を追わせてしまった。

 その後、両親も、学校の教師も、セーギを悪者にして、精神に異常があるのではないかと病院へ連れて行かれるようにまでなってしまった。そして、納得できる説明を一切聞かされることなく、セーギは病気だと診断され、全寮制の学校へ転校させられた。全寮制といっても、それはその場所に閉じ込めるための口実で、セーギにとっては監獄のように感じられた。

 しかし、ヒーローを目指したにもかかわらず、こんなところに入れられたという状況でも、セーギは挫けなかった。というのも、多くのヒーローは幼い頃に大きな挫折を経験していると知っていたからだ。中には悪の仕業で、そうした状況に陥られたヒーローもいて、自分がそうなのかもしれないとすら思っていた。

 そして、セーギは悪の組織から抜け出すため、従順なふりをした。人に合わせることは、別に苦手でもなかったため、気付けば模範生徒のような扱いになり、早々にその学校を離れることができた。

 その後もセーギは周りにいる両親や教師、他の生徒を悪と思いながら、とにかく合わせることに努めた。その結果、中学生の時は生徒会長になり、気付けば人気者といえるような状態になっていた。

 そのまま、高校も偏差値の高い進学校に入り、大学も有名な国立大学に入った。就職先も、様々な推薦を受ける中、一流企業と世間一般から呼ばれる会社を選んだ。そうして、働き始めてすぐ、セーギは何か違うと気付いた。

 結局、自分は悪に従い続けているだけだ。それは、勤めた会社も同じで、どれだけ誤りがあっても上の者に従えばいいという、どう考えても間違っているとしか思えない方針に全員が従っていた。それについて意見すると、セーギは全員から変人扱いされた。それにより、ここも変わらないと気付いた。

 そうして、この国、この世界の大多数の人が誤った行動を当然のようにしているという現実を知ると、セーギは、この世界そのものが悪に染まってしまっていると感じた。ただ、それを知ったうえで、自分に何ができるかというと、何もなかった。

 結局、お金の問題などもあり、セーギは悪と思いながら、それに従う生活を続けないといけなかった。そんな状況をどうにかして変えたい。そう思った時、世間一般から悪とされている犯罪者を退治することで、評価を得られれば、少しずつ世界そのものを変えることができるのではないか。そう考えて、様々な事件について調べるようになった。そうして調べた結果、犯人が捕まっていないどころか、犯人不明の事件が多く存在することを知った。

 それから少しして、高校生が殺害された事件を調べた時、TODの存在を知った。

 ランダムに選ばれた高校生の生死で勝敗が決まるゲーム。それに参加するオフェンスなど、全員悪だ。そう強く思うと、セーギはディフェンスとしてTODへの参加希望を送った。そして、今度こそ自分は本当のヒーローになると、戦隊もののコスチュームを用意し、今回のTODにディフェンスとして参加した。

 あまり関係ないかもしれないが、ディフェンスが五人というのも、セーギが見ていた戦隊ものの特撮に出てくるヒーローと同じ人数で、どこか運命のように感じた。それは、自分が憧れたヒーローと同じように、信頼できる仲間を見つけられるのではないかという期待を生んだ。

 しかし、今のところ自分に対する周りの態度は冷たいもので、ここも他と変わりないのかもしれないと感じ始めていた。ただ、どこか自分と同じように他の人とは違うという点で、翔や可唯に共感できる部分があり、この二人とはわかり合えるかもしれないといった気持ちも持っていた。それは、初めて持つもので、セーギにとっては大きな意味を持っていた。

 確かに、翔や可唯については不明な点が多く、不審に思える部分もある。ただ、少なくとも翔が美優のことを本気で守ろうとしていることは確かだと感じた。そのため、一緒に行きたいと言った翔を受け入れることにセーギは強く賛成した。

 それだけでなく、翔が美優を連れて、ここを離れたことについても、セーギは否定的な考えを持っていなかった。翔がそうした行動を取ったのは、美優を守るためにそうする必要があると判断したからだろう。それは、あまりにも意外な行動で、冴木などは翔に対して強い怒りを持っているようだった。

 しかし、本当に正しいことをした時、周りの人は理解できずに否定的な考えを持ち、時には怒りを向けてくる。それは、セーギがこれまで何度も経験してきたものだ。

 そうした経験からも、翔が取った行動を否定する気にならず、むしろ正しいとセーギは考えた。そして、そこから翔がここを離れた理由を改めて考えてみた。その結果、この場所が危険だと判断したのだろうと推測した。

 実際のところ、可唯がここのシステムを自分のスマホから操作できるようにしていた。恐らく、それはここにいたからできたことで、外部から来る者――オフェンスなどが同じことをするのは難しいのだろう。ただ、それとは別の方法で、ここのセキュリティを破る者がいる可能性を翔は考えたのかもしれない。そうして、ここが危険だと判断した結果、美優と一緒に離れる選択をした。実際のところは翔に聞かないとわからないものの、セーギの中で、この推測は当たっているように感じた。

 そのうえで、セーギはここに残る選択をした。今の状況で、ここが危険ということは、ここにオフェンス――悪が来る可能性があるという意味だと判断した。それなら、ここに残ることで、やってきた悪を退治できる機会を与えられるかもしれない。そんな期待を強く持った。

 セーギの考えたことは、何の根拠もない、直感に近いものも多く含まれている。そして、これまでこうした他の人と違った感覚を数え切れないほど、否定され続けてきた。それを今、何かしらかの形で変えられるのではないか。そんな風にもセーギは考えていた。

 その時、不意にアラーム音のようなものが鳴り始めた。その音は、何者かが来たことを知らせるものだと、冴木から教えられていた。そのため、セーギは監視カメラの映像を切り替えながら、誰が来たのかを確認した。

 翔達か、冴木達が戻ってきたなんてことはほとんどないと思っていた。誰かが迷い込んできたという可能性も低いだろう。そうなると、やってきた者は悪に間違いない。そんなセーギの推測どおり、監視カメラに映ったのは、昼間見たフルフェイスヘルメットを被った人物――冴木達から悪魔と呼ばれる人物だった。

 悪魔が、どうやってここを知ったのかはわからない。ただ、セーギはそんなことを考えるより、この悪魔を退治することだけを考えていた。それこそ、わざと出入り口のシャッターを開けて、悪魔を中に入れてしまおうかという案すら考えるほどだった。

 その時、悪魔は何かを取り出し、それを操作し始めた。次の瞬間、ノイズが走ると、監視カメラの映像が消えてしまった。

「何だ!?」

 色々と操作してみたものの、映像が回復することはなかった。それを確認すると、ここのシステムが何かしらかの理由で機能しなくなったのかもしれないと判断した。それは、外部からの侵入を防ぐことができないという意味でもあり、悪魔が中に入ってきていてもおかしくない状況だ。そこまで考えたところで、セーギは、いつも持ち歩いているナイフを手に取った。

 鞘に入った両刃のダガーナイフ。ある日、悪を見つけ出そうと、薄暗い細道を中心に見回りをしていた時、セーギはこのナイフを見つけた。このナイフは誰かが捨てたのか、道のど真ん中に置かれていて、運命に導かれるようにセーギの目を引いた。

 鞘から抜くと、ナイフは所々錆びていたが、セーギは家に持ち帰った。元々、このナイフは実用的なものでなく、デザインを重視した、いわゆる飾りのようなものとして作られたのだろうとすぐに気付いた。ただ、それがヒーローの持つ武器として適しているように見え、必死に研いだ後、聖なるナイフと名付けた。

 これまで、このナイフを使用する機会などなかった。しかし、今こそ、このナイフを使う時だと判断すると、セーギは深呼吸をしてから管理室を出た。

 悪魔はどこまで来ているのか。そもそも入ってきているのか。それすらわからなかったが、セーギは警戒しながら廊下を進んだ。そして、曲がり角の手前で足を止めると、覗くようにその先を確認した。

「来たな……」

 廊下の先に、悪魔の姿を確認し、セーギは思わずそう呟いた。そして、改めてナイフを強く握った。

 それから、ゆっくり近付いてくる足音に耳を澄ませ、ある程度の距離まで近付いてきたところで廊下に出た。

「私は正義の味方、セーギだ! 貴様を……」

 次の瞬間、悪魔はセーギの話を聞くことなく、右手に持った銃を向けると、容赦なく引き金を引いた。その銃弾が腹部に当たり、セーギはナイフを落とすと後ろに下がった。そのまま壁にぶつかると、膝から崩れ落ち、壁に寄りかかるように座る形になった。

 自分は悪を倒すヒーローだ。改めてセーギはそう考えると、この状況からでも悪魔を倒そうと、とにかく落としたナイフを探した。しかし、ナイフはいつの間にか悪魔の左手にあった。そして、悪魔はナイフを逆手の形で右手に持ち替えると、こちらに近付いてきた。

「待て!」

 セーギの静止を聞くことなく、悪魔はナイフを持った右手を勢いよく振り下ろした。

 その刃は、セーギの頭蓋骨を貫通し、そのまま脳にまで達した。そうして、ヒーローになる夢を果たすことなく、セーギの命は尽きた。

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