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TOD  作者: ナナシノススム
試合開始
57/273

試合開始 27

 孝太と千佳は美優の家で爆発があった件について、近隣の人に話を聞いていった。

 そして、有力な情報を手に入れた。

「本当にこの人を見たんですか?」

「ヘルメットを被っていたから、顔は見えなかったけど、大きな体格だったし、間違いないと思うよ。この服も同じだったしね」

「ありがとうございます!」

 フルフェイスヘルメットを被った人物を目撃した人が何人かいて、孝太はそのことをすぐ圭吾と光に報告した。

「それじゃあ、美優ちゃんの家を爆破したのは、こいつの仕業かもね」

「やっぱり、そうですよね……」

「そうだ、さっきランから連絡があったぞ」

「本当ですか!? 二人は無事なんですか!?」

「ああ、無事だから安心しろ。今の行動に関しては、色々と思うところがあるが……」

「まあ、ラン君達は大丈夫だから、安心してよ」

 何か圭吾が話そうとしたのを光が遮ったような、妙な違和感を覚えつつも、孝太達は、翔と美優が無事という事実をとにかく喜んだ。

「それと、美優ちゃんの祖父母とペットだけど、ディフェンスの人が安全な場所に匿ってくれたようだよ。みんな無事みたいだから、安心して」

「そうなんですか!? それなら良かったです!」

 美優の家族も無事とわかり、少しずつだが、不安要素や心配なことが解決していくのは、純粋に嬉しかった。とはいえ、まだ解決しないといけないことは山積みのため、安心はできなかった。

「それじゃあ、また何かあったら報告してもらえるかな?」

「はい、わかりました!」

 そうして電話を切ったところで、午後8時を過ぎていることに気付いた。思えば、お腹も空いてきた。

「もうこんな時間だし、今日は解散するか」

「え、孝太と一緒に夕食行こうと思ってたんだけど?」

 千佳の言葉が想定外だったため、孝太は少しだけ固まってしまった。

「さっき、今日は夕食いらないって連絡しちゃったし……てか、察してよ」

「いや、だったら言ってくれよ。じゃあ、家に連絡するから、ちょっと待って」

 恐らく、もう夕食はできているだろう。そう思いつつ、孝太は母親に電話をかけた。

「孝太、いつになったら帰ってくるの?」

「ごめん、急なんだけど、これから千佳と夕食を食べに行こうと思ってて……」

「もう、夕食作っちゃったわよ?」

「ごめん、もっと早く言えば良かったんだけど……」

「それなら、うちで千佳ちゃんも食べていかない? 今夜はカレーで、明日も食べられるようにたくさん作ったから、誘ってみなさいよ」

「ああ、ちょっと待って。千佳、何か母さんが家で食べないかって誘ってきたんだけど、どうする?」

「え!?」

 孝太の提案に、千佳は驚いた様子を見せた。

「どうしよう……何て挨拶すればいいかな?」

「いや、挨拶って、ただ夕食を食べるだけだろ」

「そうだけど……」

「それで、どうするんだ?」

 千佳はしばらく悩んでいるようだったが、どこか決心した様子で頷いた。

「うん、それじゃあ、ご馳走になるよ!」

「いや、何でそんなつらい決断をしたみてえになってんだよ?」

「だってー」

「まあ、わかった。母さん、千佳も家で食べるそうだから、今から帰るよ」

「わかった、用意しておくわね」

 電話を切り、孝太は千佳と一緒に家の方へ向かった。しかし、家が近付くにつれ、千佳の足取りが段々と重くなっていった。

「千佳、どうしたんだよ?」

「だって、緊張するよ! 行儀が悪いとか、礼儀がなってないとか思われて、『こんな女に孝太は渡せない!』なんて言われたらどうしよう!?」

「いや、結婚の挨拶じゃねえんだし、これまでだって母さんとかと会ったことあるじゃねえか」

「その時は、美優とか大助も一緒だったけど、今日は私だけでしょ? ああ、嫌われたら、どうしよう……いや! ここでしっかりやれば、むしろ『孝太のことをお願いします』なんて言われるかもしれないし、頑張るね!」

 千佳が一人で盛り上がっていたが、孝太はあえて触れないことにした。ただ、千佳は相変わらずポジティブで、またどこか元気付けられているような気分になった。

 そうして、孝太は千佳を連れて家に着いた。

「ただいま」

「お邪魔します」

「千佳ちゃん、いらっしゃい。丁度温まったし、早速食べて」

「はい、ご馳走になります。あ、でも、先に洗面台を借りてもいいですか?」

「そうね。手洗いとうがいが先よね。孝太もちゃんとやりなさいよ?」

「言われなくてもやるよ」

 孝太と千佳は手洗いとうがいを済ませると、リビングに向かった。そこには既に椅子に座った父親がいた。

「孝太、今日は遅かったな。千佳ちゃんもこんばんは」

「ただいま」

「お邪魔します。急に来ただけでなく、夕食までご馳走してもらえるなんて……何だかすいません」

「別に、大した料理じゃないから気にすんな」

「ちょっと、作ったのは私よ? 大した料理じゃないなんて、よく言えたわね」

「いや、そういう意味じゃ……」

 孝太から見て、父親は少し強面で、幼い頃からかっこいいなんて思うことも多いが、母親にだけは弱いということも知っている。そのため、孝太にとって、この世で最も強いのは母親なんじゃないかと思っている。

「私、カレーは好物なんです。だから、ご馳走してもらえて嬉しいです」

「そんな風に言ってくれると嬉しいよ。じゃあ、早速食べようか」

「あ、運ぶの手伝いますよ。というか、ご馳走になるので、手伝わせてください!」

 千佳はそう言うと、母親と一緒になって、カレーライスや食器などを運んでいた。その様子を見つつ、孝太は椅子に座ると、父親と一緒に夕食が始まるのを待った。

 テーブルにはカレーライスにサラダ、それからスプーンと箸、取り皿が四人分並べられた。それから、母親と千佳も椅子に座り、それぞれ両手を合わせた。

「それじゃあ……」

『いただきます』

「あ、いただきます」

 特に意識していなかったものの、孝太と両親はいつもどおり、自然と声を合わせた。そんな孝太達に対して、千佳は慌てた様子で声を合わせた。

「ごめんなさい、合わなかったです」

「ううん、気にしないで。でも、せっかくだから、もう一回やる?」

「あ、是非!」

「それじゃあ……」

『いただきます!』

 今度は千佳も声を合わせることができた。そのことを千佳はとても喜んでいる様子だった。

 それから、それぞれ夕食を食べ始めた。千佳はカレーライスを口に運ぶと、嬉しそうに笑った。

「美味しいです!」

「千佳ちゃんはお世辞が上手ね。別に、ただ市販のルーを使っているだけよ?」

「それが美味しいんです。それに、こうして家族で夕食を食べること、私の家ではあまりなくて……だから、本当に嬉しいです」

「どういうことだよ?」

 意外なことを言われ、孝太は反射的に聞き返した。それに対して、千佳は少しだけ困ったような表情を見せた。

「言ってなかったんだけど……私の両親、どちらも共働きだし、夜勤とかもあるから、あまり一緒にご飯を食べたりできないんだよね。結構、一人で食べることも多いし……って、暗い話になって、すいません!」

 千佳は慌てた様子でそう言った。それに対して、孝太はどう言っていいかわからず、上手く返すことができなかった。

「その……こういう、家族で一緒に食べる食卓って言えばいいんですかね? そういうの、憧れていたので、今日は本当にありがとうございます」

「……家庭の事情は、人それぞれだからね。うちはこうしてみんなで食べるようにしているけど、世間一般だと、珍しいかもしれないわね」

 母親の言葉で、孝太は家族に恵まれた、幸せ者なんだろうと改めて感じた。美優から両親がいないという悩みを打ち明けられた時も、自分は幸せ者なんだろうと感じた。ただ、その時は美優と比べたうえでの感覚だった。しかし、千佳の話を聞いて、自分が一般的な人と比べても珍しい、幸せ者なんだろうと今更ながら自覚した。

「あ、変な気を使わせてたら、すいません。こうして食事を一緒にすることは、ほとんどないんですけど、その代わりに私は自分のことを全部両親に話すようにしているんです。学校であったことも、遊びに行った時にあったことも、今夜ご馳走になったことも話すつもりです。だから、私は大丈夫なので、心配しないでください」

 千佳はいつもポジティブで、悩みなどないんだろうと勝手に思っていた。しかし、実際は悩みがあってもポジティブに捉えるようにしているだけのようだ。そうしたことを知り、孝太は今更ながら千佳のことが心配になった。

「千佳、夕食が一人になる時は、いつでも言ってくれ。どっか遊びに行くなら、いくらでも付き合う」

「ちょっと、孝太まで変な気を使わないでよ。別に、今までもそうしてたし、これからもそうするよ」

 どこかへ遊びに行く時、千佳が率先して提案してくれるのは、一人になりたくないという気持ちの表れなのかもしれない。そんなことを感じたが、孝太は言わないでおいた。

「千佳ちゃん、また夕食を食べに、うちに来てもいいからね」

「え、それは……」

「私の料理が口に合わないなら、断っていいよ?」

「そんなことないです! すごく美味しくて、だから、また来たいです!」

「じゃあ、待っているわね」

「えっと……それじゃあ、甘えさせてもらいます。また、来ますね」

 機転を利かせた母親に誘導される形で、千佳は申し訳なさそうに頭を下げた。

「ところで、美優ちゃんの家で爆発があった件、何か調べているみたいだけど、大丈夫なの?」

 不意にそんな質問をされ、孝太は答えに困った。

「その……」

「世の中、普通に生きるだけでも大変だ。事故にあったり、病気になったり、どんな理由で死ぬかわからない。ただ、近付くと危険なものってのは、大抵わかるものだ」

 普段、あまり話さない父親がそんなことを話し始めて、孝太は真剣に聞いた。

「孝太も千佳ちゃんも、それを知ったうえで、調べているのか? こういった言い方は大げさに聞こえるかもしれないが、覚悟はあるのか?」

「僕は、美優と翔のために、できることをしたい。覚悟もできてる」

「私も危険だってわかってます! でも、孝太と一緒で、できることをしたいんです!」

 父親の質問に対して、孝太達は反射的にそう答えた。その様子に、父親はどこか嬉しそうな表情を見せ、反対に母親は不安げな表情を見せた。

「母さん、安心しろ。孝太も千佳ちゃんも、信用できる人を見つけたんだろう。今後、友人も含め、信用できる人と一緒にいろ。そうしていれば、少なくとも命の危険はないはずだ。それで、命の危険があるとすれば、それは信用する相手を誤った時だけだ。だから、誰を信用するかだけを二人は考えろ」

「そうやって人に騙されたのは父さんでしょ? そんなアドバイスを二人にしていいの?」

「俺は信用するべき相手を誤っただけだ。そんな間違いを孝太と千佳ちゃんにしてほしくない。だから、こう話しているんだ。二人には、誰を信用するべきか、改めて考える機会にしてほしい」

 父親の言葉は、どこか孝太の胸に響いた。そして、それは千佳も同じだったようだ。

「大丈夫です! すごく信頼できる、頼もしい味方もいますし、何より私がそばにいれば、孝太を危険になんてしません!」

「いや、それは逆だろ。僕が千佳を危険にしないからな。それと父さんも母さんも安心して。僕も千佳も、信用できる人としか行動しないようにするから」

 そう伝えると、父親だけでなく、母親もどこか安心したような表情を見せた。

 これまでも、翔や光から命の危険があることは避けるように言われていた。それに加えて、両親からも同じような言葉を受け、孝太はそうした心配を向けてくれた人のためにも、命を危険に晒すようなことはしないと心に決めた。

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