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TOD  作者: ナナシノススム
試合開始
56/273

試合開始 26

 美優は運転する翔を邪魔しないよう、後部座席から伺うように眺めていた。

 翔の運転は上手なもので、その点は安心できたが、何故運転できるのかという疑問は大きくなった。それは、翔がいったい何者なのかという疑問に変わり始めていた。

 TODで大切な人を失ってから、何かしらか努力していたこと。それは、情報を集めたり、格闘技を覚えたり、不良グループに入ったことがそうなのだろう。車の運転もその過程で覚えたのかもしれない。そのおかげで、美優は今もこうして生きられている。そのことには、感謝しかない。

 しかし、そうして美優は翔のことをこれまで以上に知り、これまで以上にわからなくなった。それは、まるで自分と翔がまったく異なる、それこそ別の世界の人だと言われているようで、複雑な気分だった。

 ふと、美優は窓の外に目をやった。そこには、見慣れない景色があり、今更ながら、どこへ向かっているのだろうかと疑問を持った。

「翔、どこに行くつもりなの?」

「いや、今はむしろ離れている」

「え?」

「色々と動いてくれている、圭吾さん達と連絡したいんだ。だが、こちらの位置を特定されるかもしれないから、一旦目的地から離れているところだ」

 翔はそう言った後、何やら考えごとをしている様子だった。

「そろそろいいかもしれないな。美優、これから圭吾さんを経由して、セレスティアルカンパニーの副社長、宮川光さんに連絡しようと思っている。だが、もしも、宮川光さんやセレスティアルカンパニーが敵側だった場合、危険になるが、それでもいいか? もしかしたら、こちらの位置を特定されるだけでなく、今後追跡される可能性もある」

「わざわざ確認しなくていいよ。私は翔に任せるから」

 美優の言葉に、翔は少しだけ戸惑った様子を見せた後、どこか呆れたように笑った。

「俺を信用するなって、何度言ったらわかるんだ?」

「私は翔のことが大好きだから、いつだって翔を信用するって、何度も言ったらわかってくれるかな?」

「……わかった、ありがとう。どこかで車を止めてから、圭吾さんに連絡する」

 勘違いかもしれないが、どこか翔が嬉しそうに見えて、美優は胸が熱くなった。

 そして、翔は車をコンビニの駐車場に止めた。

「先に夕飯を買おう。車で移動しながら食べることになるから、おにぎりやパンを選んだ方がいい」

「うん、わかった」

 車を降りると、美優は翔と一緒にコンビニに入り、翔の言うとおり、おにぎりとパンを選んだ。おにぎりやパンは誰でも食べるものの、人によって好みが分かれるものだ。そのため、自分の食べる物を選びながら、翔が何を選ぶか、横目で確認した。

 翔が選んだおにぎりは鮭とおかかで、それとクリームの入った菓子パンも選んでいた。一方、美優が選んだおにぎりは梅とツナマヨ、それとパンはコロッケパンを選んでしまい、味の好みが翔と違うようだと自覚した。

「俺が会計する」

「あ、えっと……」

「金のことは気にするな」

「いや、そうじゃなくて……」

「どうした?」

「……ううん、何でもない」

 味の好みが翔と一緒だとアピールするため、同じ物に変えようかと思ったが、そんなことをしている場合じゃないと、美優はやめておいた。思えば、自分がTODのターゲットとして命の危険があるにもかかわらず、こんな考えを持てるのは、本当に翔のことが好きなんだと自覚させられた。

「それじゃあ、戻ろう」

「うん」

 コンビニから出ると、美優は先ほどと違い、助手席に座った。

「それじゃあ、圭吾さんに連絡する。さっき言ったとおり、むしろ危険な状況になる可能性もあるから……」

「さっき言ったとおり、翔に任せるよ」

 美優がそう言うと、翔は笑った。

「わかった。それじゃあ、連絡してみる」

 翔がスマホを操作する様子を、美優はただ眺めていた。それから少しして、向こうから通話させたようで、通知音が聞こえた。そこで、翔は改めて迷っているような様子を見せた後、またスマホを操作した。そうして通話を繋いだようで、通知音が止んだ。

「圭吾さん、聞こえていますか?」

「ああ、聞こえてるぞ。ランは大丈夫なのか?」

「こちらの事情は後で話します。宮川光さんとも話せますか?」

「ああ、俺から連絡したら、光も是非話したいと言ってた。早速通話に参加させるぞ」

「はい、よろしくお願いします」

 スピーカーにしているようで、翔達の会話は、美優も聞くことができ、話に参加することもできるようだった。ただ、参加するにしても何を話していいかわからず、美優は黙っていた。

「うん、繋がったね。ラン君……いや、堂崎翔君と呼ぶべきかな? 僕は宮川光だよ」

「初めまして、翔です。呼び方はランでもいいですよ」

「じゃあ、ラン君と呼ぶよ。僕のことは光でいいからね」

「わかりました。光さん、よろしくお願いします」

「うん、こちらこそよろしく」

 そこで、翔がこちらに視線を送ってきたため、美優は少しだけ慌ててしまった。

「あ、えっと……」

「今、美優と一緒にいるんです。美優、自己紹介ぐらいはするか?」

「あ、うん。えっと、水野美優です」

「美優ちゃん、大変なことに巻き込まれて、不安かもしれないけど、僕達が力になるから、それで不安な気持ちが薄れてくれたら嬉しいかな」

「俺も同じだ。美優……と呼べばいいか? 俺達ライトも美優とランの味方だ。何でも頼ってくれ」

「……はい、ありがとうございます」

 頼もし過ぎる言葉に、むしろ美優は戸惑ってしまった。

「とりあえず、こちらの状況を説明します。といっても、改めて考えると変な行動を取っていますが……今はディフェンスからも離れて、美優と二人で移動しているところです」

「えっと……どういうことかな?」

「すいません、順に説明しますね」

 翔は、冴木が用意した潜伏先を離れ、車で移動中であることなどを簡単に説明した。

「単なる嫌な予感で、こんな行動を取るなんて、やっぱりおかしいですよね?」

「いや、聞いた時は驚いたけど、そうした理由があるなら、ラン君の判断は正しいのかもしれないね」

「……どういうことですか?」

 光の言葉が意外だったようで、翔は驚いた様子で聞き返した。

「ラン君が堂崎家の人間として、ダークに襲撃された。その後、偶然ラン君と同じクラスの美優ちゃんがターゲットに選ばれた。そして、偶然二人の担任教師の須野原がオフェンスで、美優ちゃんの命を狙った。それだけでなく、偶然可唯君がディフェンスで一緒に……これはさっきまで一緒に行動していたってことだね」

 これまで何が起こっているか十分考えたつもりだったが、光の話を聞いて、しっかり整理できていなかったように感じた。というのも、こうして整理した形で状況を説明された時、美優は何ともいえない、妙な感覚を持った。それは、恐らく翔の持った嫌な予感に近いもののような気がした。

「はっきりとした違和感を覚えるのは、僕だけかな?」

「いえ、言われてみれば、確かに変ですね……」

「ラン君の言う、嫌な予感というのは、こうした違和感を覚える状況に対してかもしれないね。何というか、出来の悪いシナリオに誘導されているような、そんな感覚を僕も持っているし、そこから一旦外れたのは、いい判断だったように僕は感じるよ」

「ただ、本当にそうなのか……」

「私も、こう言われてみて変だと感じたし、翔の判断に任せて良かったと思っているよ!」

 翔が迷いを持っている様子だったため、美優は強い口調でそう伝えた。そんな美優に対して、翔は気を使うような様子で、軽く笑った。

「だが、今の状況でオフェンスに襲撃されたら、俺だけで対処しないといけない。それは危険な状況じゃないか?」

「私は翔と一緒ならそれでいい!」

「いや、だから……」

「ごめん、二人でイチャイチャするのは、話が終わった後でいいかな?」

 光の指摘を受け、美優は顔が熱くなった。

「ごめんなさい! 別に私達はまだ……」

「ううん、美優ちゃんがいつ殺されるかわからないという不安で、追い詰められているかと思っていたから、こんなやり取りを聞けて、むしろ安心したよ」

 先ほども感じたことだが、光の言うとおりだった。美優は自分の命に危険があると聞かされ、不安しかなかったはずなのに、今はそこまで大きな不安を持っていなかった。そして、その理由は、すぐ近くに翔がいてくれるおかげだと改めて感じた。

「それじゃあ、話すべきことを話そうか。今、僕達はTODそのものを潰せないかと思って、行動しているよ。これは、ラン君の希望どおりかな?」

「はい、本当は美優が巻き込まれる前にできることをしたかったんですけど……自分はセレスティアルカンパニーに近付くため、ライトに入りました。圭吾さん、こんな理由ですいません」

「謝る必要なんてないぞ。むしろ、もっと早く言ってほしかった」

「すいません、その……」

「だから謝らなくていいぞ。ランが人を信用してないことは知ってる。その理由を聞くつもりもない。ただ、俺達ライトは協力する。それだけは知っててくれ」

 圭吾の言葉を聞き、翔は胸に手を当てた後、どこか嬉しそうな表情を見せた。

「はい、ありがとうございます」

「それと、一つ伝えてないことがあったんだ。二人とも落ち着いて聞いてほしい。孝太達から報告があって、美優の家で爆発があったらしい」

「え?」

 美優は何を言われたのか、理解することができなかった。

「ただ、家に家族などはいなかったそうだ。今、美優の祖父母やペットの犬がどこへ行ったか、調べてもらっているところだ」

「え、お祖母ちゃんにお祖父ちゃんに……ミューも?」

「美優、落ち着け! 美優の家族は、冴木さんが安全な場所に匿ってくれていると言っていただろ? だから、無事だ!」

 美優は完全に混乱してしまっていたが、翔の言葉を聞き、今の状況を少しずつ理解していった。

「うん、みんな安全な場所にいるって言っていたもんね?」

「ああ、だから安心しろ。圭吾さん、そういうわけで、美優の家族は無事です」

「それなら良かった。孝太達にも伝えておく。既に伝えたが、孝太と千佳が少しでも力になりたいと、ライトに入って、今は美優の家で爆発があった件を色々と調べてもらってる」

「……その件なんですけど、孝太達をあまり巻き込みたくないんです。どんな危険があるかわからなくて……それは圭吾さんと光さんも同じです。それで万が一のことがあれば、美優は自分を責めると思うんです。だから、少なくとも命の危険がないようにしてほしいです」

 翔は命を懸けるということを強く否定していて、何よりもみんなの安全を考えている様子だ。ただ、それとは反対に、翔自身は自らの安全をそこまで考えていないように感じて、美優は心配だった。

「僕もラン君と同じ気持ちで、深追いしないようにと伝えたよ。孝太君達を巻き込みたくないという気持ちもわかるし、だからこそ僕や圭吾はいつでも連絡できるようにしたよ。だから、そのうえで孝太君達がラン君と美優ちゃんのために動くことは、容認してほしいかな」

「……わかりました」

 どこか納得いかない様子だったが、翔はそう返した。

 それから、それぞれの方針として、今後どうするかという話になった。

「直接聞きたいことや確認してもらいたいことがあるから、合流したいところだけど、それは可唯君に予測されそうだね」

「はい、自分もそう思ったので、今はむしろ離れているところです」

「それじゃあ、様子を見て、一旦合流するのは諦めるよ」

 そこで、翔は少しだけ迷った様子を見せた後、口を開いた。

「ダークの協力……協力してくれないなら、監視をしたいです」

「それは俺も同感だが、難しいぞ?」

「鉄也達には本当に手を焼いているんだよね。ろくな連絡手段もないし……」

「連絡手段はあります」

 翔の言葉が意外だったようで、少しの間、沈黙が続いた。

「どういうことだ?」

「ダークゴーというサイトは知っていますか?」

「ああ、ダークが運営している検索サイトだよね? 検索サイトのふりをした、ダークの宣伝サイトだと僕は思っているけどね」

「そのサイトで、『ダークゴー』と検索してみてください」

「ああ、ちょっと待ってね」

 そこで、キーボードを叩く音が聞こえた後、驚いた様子で息を吐く音が聞こえた。

「これは……」

「遊びのつもりなのか、それでダークに連絡するフォームが出ます。実際に見てくれるかわかりませんが、これを利用すれば、どうにか接触できるんじゃないですか?」

「おい、俺はそういうのが苦手なんだ。何がどうなってるんだ?」

 圭吾と一緒で、美優も翔と光が何を話しているのか、理解できなかった。ただ、それを理解するより、翔と光に任せようと思い、何も言わないでおいた。

「圭吾には、後で説明するよ。そうだね、これを使って、ダークに接触できないか考えてみるよ。少しだけ時間をもらえるかな?」

「はい、お願いします。こっちは今コンビニの駐車場で、少し不審に思われ始めたので、一旦切って移動します」

「うん、じゃあ、また後でね」

 それで通話が切れたようで、翔はスマホを操作した後、また車のエンジンをかけ、その場を後にした。

 美優は状況を整理するのに必死で、何が起こっているのか、全部を理解することはできなかった。しかし、翔だけでなく、様々な人が行動してくれているということだけ理解すると、ただその人達に感謝したいと強く思った。

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