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TOD  作者: ナナシノススム
試合開始
55/273

試合開始 25

 冴木はセーギから報告を受けた後、急いで管理室に戻った。

「いったい、どういうことだ!?」

「私も何が起こったかわからない! 二人が車に乗って行ってしまったんだ!」

 監視カメラの映像を確認すると、シャッターが開いていて、ワゴン車がなくなっていた。冴木はスマホを取り出すと、リビングにいるであろう篠田に連絡を取った。

「篠田、そこに信弘はいるか?」

「ええ、いるわ」

「だったら、信弘と一緒に管理室まで来い」

「夕食はもうできているし、リビングでいいじゃない」

「翔と美優がワゴン車に乗って出ていったようだ」

 冴木の言葉が理解できていないようで、篠田は少しの間黙っていた。

「……それは、どういうことかしら?」

「それを説明する。だから早く来てくれ」

「わかったわ。少し待っていて」

 篠田との連絡を切った後、冴木は可唯に目をやった。可唯は慌てた様子もなく、何やらスマホを操作していた。その様子が気になりつつ、それよりも確認するべきことがあると、頭を切り替えた。

「状況を整理する。シャッターの開閉は、ここから操作できると説明したな? 何故、止めなかった?」

「すまない! ここの操作は覚えたばかりで戸惑ってしまった! 一生の不覚だ!」

「……説明不足だった俺も悪かった。だが、可唯は何をしていたんだ?」

 そう聞きつつ、相変わらずスマホを操作している可唯を見て、セーギに任せっきりにしていたのだろうと冴木は感じた。

「そないなことより、シャッターはそのまんまでええの?」

 可唯は質問に答えることなく、そんなことを言ってきた。ただ、冴木は可唯の言うとおりだと感じた。恐らく、翔達が戻ってくることはない。仮に戻ってくるとしても、監視システムが反応するなどして、すぐ確認できる。それを踏まえると、シャッターを開けたままにするべきでないという結論が出た。

「わかった。閉めておく」

「わいが閉めるさかい、何もせんでええで」

 可唯はそう言うと、スマホを操作した。その直後、監視カメラを通して、シャッターが閉じていくのを確認できた。

「何をした?」

「さあ、何をしたんやろな?」

 その時、管理室のドアが開き、篠田と信弘が入ってきた。

「来たわよ。どういう状況なのかしら?」

「……俺も状況を整理しているところだ」

 冴木はため息をついた後、とにかく今起こっていることを篠田達に説明しようと、頭を整理した。

「さっきも言ったが、翔と美優がワゴン車に乗って出ていった。シャッターの開閉は、ここでも操作できるようになっているが、俺の説明不足で、セーギは上手く操作できなかったそうだ」

「本当に申し訳ない! 一生の不覚だ!」

「それより、可唯がここのシステムに触れることなく、今、恐らくそのスマホでシャッターを閉めた。何をしたのかと、何故そんなことができるのに翔達を止めなかったのか、両方聞かせてくれ」

 冴木の質問を受け、可唯は笑みを浮かべた。

「先に言うとくさかい、ここのセキュリティは万全やないで? せやから、何かあった時に身の安全を確保しとうて、ここのシステムをいつでも使えるようにしたんや」

「万全じゃないというのは、どういうことだ?」

「そんなん、わいが操作できとるんやから、説明せんでもわかるやろ?」

 可唯の言うとおりだが、冴木はさすがに納得できなかった。

「どうやって、ここのシステムを使えるようにしたか説明しろ」

「そないなもん、説明してもしゃあないで? ここのシステムに欠陥がある。それが答えや」

「……そういうことならいい。それじゃあ、翔が外に出ようとしていたことは監視カメラを見るなどしてわかったはずだ。何故、すぐにシャッターを閉めなかった?」

「別にここが安全なわけやないんやで? そのことにランも気付いたんやろ。せやから、ランがここを出る選択をしたんなら、そうさせただけや」

 何も間違ったことをしていないといった様子の可唯を前に、冴木は自らが持つ知識だと対抗できそうにないと判断した。そして、今考えるべきことは、翔と美優を追うことだと改めて頭を切り替えた。

「とにかく、二人を追おう。ここが安全でないとしても、二人きりでいるのは危険だ」

「私も同感よ。むしろ、そういう事情があるなら、相談してほしかったわ」

「しゃあないやろ。ランは誰も信用しとらんみたいやで。わいも信用されてへんしね」

 可唯の言葉に思うところがありつつ、翔が人を信用していないことは重々承知しているため、冴木は何も言えなかった。

「それより、二人がどこに行くのか、見当も付かない。可唯、何か心当たりはないか?」

「知っとっても、わいは正直に言わんかもしれんで? ランは、わいの友人やからな」

「友人なら、今すぐ助けに行こうと思わないのか?」

「友人やから、自由にさせればええとも思うで?」

「命の危険があるんだ! こんな状況でふざけたことを言うな!」

 大人として、どうにか気持ちを抑えていたが、ついに抑え切れなくなり、冴木は大きな声で叫んだ。しかし、それだけ強い言葉をぶつけても、可唯の様子は変わらなかった。

「そないに怒らんといてや。わいは情報通やから、ランの行動は予想できるで。せやけど、捕まえるんは大変やろな」

「それは、どういう意味だ?」

「ランはTODを潰すんが目的やろ? せやけど、そんなん一人じゃ無理やから、協力者を集めるしか方法がないねん。そんで協力を頼むんは、ライトとセレスティアルカンパニーや。そこはもう進んどるみたいで、TODに関連しそうな情報を報告せいって知らせが、わいのとこにも来とるで」

「そこまでわかっているなら、いくらでも捕まえようがあるんじゃないか?」

「甘いで? ランは何かしらかの理由でわいらから逃げたんやろ。ほんで、オフェンスのことも考えなあかんし、とにかく特定の場所で止まるのを避けるはずや」

 そう言いながらも、可唯は余裕がある様子だった。

「せやから、待ち伏せしようや」

「待ち伏せ?」

「ランはセレスティアルカンパニーの宮川光と接触するんが目的やったようや。今、ライトを経由して協力を得られたようやけど、直接会いたいはずやねん。せやから、セレスティアルカンパニーを張ればええんちゃうの? 聞いた話やと、光はセレスティアルカンパニーに泊まり込むみたいやし、そこを張るのが一番やろ」

 冴木は可唯を信用していいのかどうか、冷静に頭を整理させながら、慎重に考えた。翔も可唯を信用していないと可唯本人から聞いているだけでなく、冴木も信用できないと感じている。しかし、当てもなく捜して、二人が見つかるとは思えない。そのため、信用できないものの、可唯に頼るしかないと判断した。

「わかった、セレスティアルカンパニーに向かおう。だが、今から行って、二人に追いつけるのか?」

「ランは人を信用せんから、向かう前に信用できるか確認するはずや。せやから、追いつくどころか、追い抜くのも簡単やろ」

「だったら、早速移動しよう」

「待って。移動って、私が借りた車でするってことかしら?」

 篠田は少しだけ動揺した様子で、そんな質問をしてきた。

「ああ、それしかないだろ」

「でも、私が借りたのは乗用車だし、五人で乗るのは窮屈じゃないかしら? その……冴木の言うとおり、もっと大きい車を借りるべきだったわ」

 今日、篠田と合流した時、篠田の借りた車について、冴木は文句を言ってしまった。それをまた蒸し返され、若干戸惑ってしまった。

「いや、それは俺の説明が悪かったと言っただろ?」

「ううん、こういうことになる可能性があると、気付くべきだったわ」

「今はそんな話をしている場合じゃない。とにかく……」

「何や? 二人はそんな関係やったんかいな?」

 からかうような可唯の言葉で、冴木はむしろ気持ちを落ち着かせることができた。

「そんなんじゃない。勘違いするな」

「せやろな。一番大切なんは、美優ちゃんやもんね」

 しかし、まるで自分の心を見透かしているかのような可唯の目を見て、冴木は戸惑った。そのうえで、可唯が何か察したかもしれないと思いつつ、自らの心を隠した。

「ここを完全に空けるのも良くないだろう。誰か、ここに残ってくれないか? そうすれば、車の問題もなくなる」

「そういうことなら、私が残ろう! 私がここを守るから、安心してくれ!」

 そう名乗り出たのは、セーギだった。

「セーギ、そんな恰好で疲れていそうだし、単に休みたいだけじゃないかしら?」

「そんなことない! ヒーローというものは、普段動くことなく、ピンチな時にこそ動くものなんだ!」

「今、ピンチなように感じるけど?」

 篠田の言葉に、セーギは上手く答えられないようで、一瞬固まった。しかし、すぐに突然ポーズを決めた。

「ここに残りたい者は他にいないだろう!? だから、私が残る!」

「……本当に残りたい者は、他にいないか?」

 冴木の質問に対して、篠田と可唯がどんな答えを返すかは、あらかじめわかっていた。問題は、信弘の返事だったが、信弘は少しだけ悩んだ様子を見せた後、答えを出したようで、口を開いた。

「僕も冴木さん達と一緒に行きたいです」

「じゃあ、セーギをここに残して、他は美優と翔を捜す。それでいいな?」

「ええ、いいわ」

「わいもええで」

 それから、冴木はセーギに顔を向けた。

「可唯がやったとおり、ここのセキュリティは万全じゃないかもしれない。いざという時のため、武器を……」

「大丈夫だ! 私には、この聖なるナイフがある!」

 そう言うと、セーギは鞘に入ったナイフを取り出し、それを鞘から抜いた。それは、両刃のナイフ――ダガーナイフのようだったが、キレイな装飾などが入っていて、実戦で使用することより、飾ることを目的にしているように感じた。

「たとえ、悪が現れても、私はこの聖なるナイフがあるから大丈夫だ!」

「いや、銃も持っていた方が……」

「大丈夫だ! 私を信じてほしい!」

 明らかに危険なように感じたが、説得しても無駄だと思い、冴木は諦めた。そもそも、可唯がシャッターを閉める操作をスマホからしたが、それは自分と一緒に行動し、自分の操作を盗み見たからこそ、できたことだといった解釈もできる。

 そのため、楽観的かもしれないと思いつつ、当初の考えと変わらず、ここが襲撃されることはないだろうと冴木は判断した。

「それじゃあ、すぐに出るから、みんな準備してくれ。セーギ、ここを頼んだ」

 そうして、冴木達はセーギをこの場に残すと、セレスティアルカンパニーを目指して、移動を開始した。

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