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TOD  作者: ナナシノススム
試合開始
53/273

試合開始 23

 孝太と千佳は、どうしていいかわからず、美優の家があった場所から動けないでいた。

 そんな時、圭吾から連絡があり、孝太達は美優の家で爆発があったことをとにかく伝えようと思った。しかし、自分達も状況を整理できていないため、上手く言葉にすることができなかった。伝えたいことがあるのに、それを伝えることができない。それは、大きな焦りを生み、ますます上手く言葉にできなくなっていった。

 それは、千佳も同じようで、とにかく大変なことが起きているとしか伝えなかった。そうして、孝太は無駄に時間が過ぎてしまっているように感じ、さらに焦りを持ってしまった。このままではいけないと思っているのに、伝えたいことを伝えることがここまで難しいのかと心が折れそうだった。

「光だよ。孝太君と、千佳ちゃんもいるのかな? 落ち着いて、何があったか話してほしい。僕達が力になるよ。だから、ゆっくり話して」

 しかし、そんな光の言葉で、孝太達は少しだけ気持ちを落ち着かせることができた気がした。そして、孝太は何を伝えるべきか、整理することができた。

「実は、美優の家で爆発があったみたいなんです。一応、家の人……美優の祖父母とかはいなかったんですけど、どこに行ったのかはわからないんです。だから、無事なのかどうか……」

「ペットの犬もどうなったかわからないんです! もしかして……そんなの絶対嫌だ!」

 千佳も話に加わったが、千佳は孝太と違い、まだ整理が着かず、動揺している様子だった。

「落ち着いて。家にいなかったことは事実だし、今も美優ちゃんの家族が無事だと信じてほしい」

「でも、もしかしたらどこかへ連れ去られてしまった可能性もありますよね!?」

「美優ちゃんがターゲットに選ばれたことと、何か関係があるとは思うけど、わざわざ美優ちゃんの家族を連れ去るなんてことするかな? 精々、美優ちゃんを狙って家へ行ったけど、誰もいなくて、ただ精神的に追い込もうと、家を爆破した。そんなところじゃないかな?」

 光が簡単にそう言ったが、孝太は妙に納得できるところがあった。

「今のは雑なシナリオだけど、美優ちゃんの家族に何かあったと考えるのは絶対早計だよ。楽観的かもしれないけど、もしかしたらどこかで匿ってもらっている可能性だってあるし、悲観的になったらダメだよ? それに、当然僕達が美優ちゃんの家族の行方を捜すから、任せてほしい」

 光の言葉は頼もしいもので、孝太は先ほどよりも気持ちが落ち着いていった。それは、千佳も同じようで、いつの間にか穏やかな表情になっていた。

「二人とも、落ち着いたかな?」

「はい、まだ不安はありますけど……」

「光さん、絶対に美優の家族を見つけてください!」

「うん、わかったよ。それで落ち着いて早々悪いんだけど、美優ちゃんを助けるため、二人に協力してもらいたいことがあるんだ。お願いしていいかな?」

 それは不意な提案だったものの、孝太はすぐに答えを出すことができた。そして、それは千佳も同じどころか、むしろ自分よりも早く答えを出したようだった。

「はい、協力します!」

「僕も協力します。何か僕達にできることがあるなら、それをしたいと思ってました」

 自分達にもできることがある。それは、孝太にとって何よりも嬉しいことだった。

「それじゃあ、早速だけど、ケラケラと名乗る女について、その女らしき人物が監視カメラに映っていたんだよ。映像を共有するから、彼女で間違いないか、確認してもらえないかな?」

 その直後、スマホの方に映像が送られてきて、孝太は千佳と一緒に映像を確認した。

「はい、こいつです! 間違いないです!」

「ありがとう。それじゃあ、ライトの方に、この女と……一応、共有しておくよ。フルフェイスヘルメットを被った、恐らく男性がいて、そいつはオフェンスの常連みたいだよ。ケラケラとこいつは、要警戒で、見かけたらすぐに報告してほしい」

「わかりました」

「ただ、深追いだけはしちゃダメだからね。孝太君も千佳ちゃんも、まずは自分自身の安全を第一にしてほしい」

 その言葉は、どこか翔のことを思い出させた。翔は、命を懸けるということに過剰なほど否定的だった。あの時は、翔の考えを理解できなかったが、あの言葉は、孝太を含む、みんなに死んでほしくないという思いから出た言葉なんだろうと今更感じた。

「……はい、そうですね。翔も、光さんと同じ考えを持ってるみたいでした。美優と翔のためにも、僕達にできることはしたいですけど、まず自分の安全を第一にします」

「私も孝太と同じです! 命大事にですよね!」

「うん、ありがとう。僕はセレスティアルカンパニーの副社長として、TODのことを全力で調べるよ。まだまだ調べたいことはあるし、今日から泊まり込みする予定だしね」

 それは、光が無茶をすると言っているように聞こえて、自分達に言ったことと真逆じゃないかと孝太は感じた。

「おい、無茶をするなと言った光が、無茶をするつもりか?」

 そんな孝太の思いを、そのまま圭吾が伝えた。そんな圭吾の言葉に対して、光の笑い声が聞こえた。

「大丈夫、無茶はしないよ。それに、圭吾達ライトにも協力してもらって、都度情報は共有するよ。孝太君と千佳ちゃんもライトに入ったそうだし、今後よろしくね」

 光の心配をする必要はないのだろう。理由はわからないものの、孝太はそんな確信を持った。

「はい、よろしくお願いします!」

「私も、よろしくお願いします!」

 いつの間にか、孝太は先ほどまで持っていた焦りのようなものを一切持っていなかった。それは、確実に光のおかげだと感じた。

「光、俺達ライトは何をすればいい? 指示を出してくれ」

「うん、そうだね。丁度、圭吾達に何を指示するか考えていたところなんだ。孝太君と千佳ちゃんもよく聞いてほしい。まず、周りで不審なことがあれば、都度報告してほしい。それが、TODに関係あるかどうかわからなくても、とにかく報告してほしい。僕はそのすべてを整理して、何が起こっているか、何をすればいいか、みんなが理解できるシナリオを作るよ」

 その言葉に、孝太は色々と思うところがあった。

 この世界には、他の人とは違う特別な人、いわゆる「天才」と呼ばれる人がいる。そんな「天才」に孝太は既に出会っている。それは、サッカーの試合で一度も勝つことができなかった、緋山春来だ。そして、これまで自分が出会った「天才」は緋山春来だけだった。しかし、今通話している宮川光は、間違いなく「天才」なんだろうと感じた。

「時には、そんなことできないと思うこともあるかもしれない。でも、この世に不可能なことなんてないんだよ。僕達の力で、TODをどうにかしよう。そのために、瞳、圭吾、孝太君、千佳ちゃん、力を貸してほしい」

 光の言葉は、全部頼もしいものだ。孝太は、改めてそう感じた。

「僕達は何でもします!」

「私も、何かできることをします!」

 孝太達がそう言うと、光の笑い声が返ってきた。それは、こんな状況を楽しんでいるようでもあり、そんな姿勢を孝太も見習うべきなんだろうと感じた。

「早速、美優ちゃんの家で爆発があったという件、恐らく意図的なものだろうから、不審な人物を目撃していないか、近隣の人に聞きたいね。お願いできるかな?」

「はい! 僕、美優と家が近いので、近所の人から話を聞けると思います」

「それじゃあ、孝太君達にお願いするよ」

 そして、自分達がするべきことを光は示してくれた。そのことが、孝太は何よりも嬉しかった。

「ライトの方も動く。孝太達には伝えてなかったが、これまでも不審な事件が色々あったんだ。その件について、目撃者を捜して詳細を調べてみる。何かわかれば、すぐ報告するぞ」

「うん、圭吾もよろしく。さっき、様々な情報をデータベース化して、共有できるようにしたよ。ライトのメンバーにアクセス権を与えたから、みんな確認してもらえるかな?」

 勢いよくキーボードを叩く音が聞こえたかと思うと、孝太と千佳のスマホに、それぞれ通知が来たことを知らせるアラームが鳴った。確認すると、サイトのURLが届いていて、それを開くと、TODに関する情報がまとめられたサイトに繋がった。それだけでなく、そこはこちらから自由に投稿できる情報提供のフォームなどもあった。

「これを使って、TODの情報をお互いに共有しよう。ライトへの指示は、圭吾に任せるよ」

「ああ、任せておけ。じゃあ、俺はもう行くぞ。さっき言ったとおり、孝太と千佳は近隣の人から話を聞け。応援が必要なら、人をやるから言ってくれ」

 光だけでなく、ライトのリーダーである圭吾の言葉も頼もしいものだった。

「はい、ありがとうございます」

「それじゃあ、さっきも言ったけど、みんな自分の安全は確保したうえで、情報を集めてほしい。僕も僕で、さらに情報を集めるよ。それじゃあ、何度も言うけど、孝太君も千佳ちゃんもよろしくね。こっちは通話を切るよ」

「通話してるのは俺だぞ? まあ、俺も同じ気持ちだ。孝太、千佳、頼んだぞ」

「……はい、わかりました。こちらも任せてください」

 セレスティアルカンパニーの副社長である宮川光。ここ周辺で最大規模の不良グループ、ライトのリーダーである今井圭吾。この二人が協力してくれる。そんな状況で、不安になる理由がないと、孝太は強く思った。

「じゃあ、通話を切る。何かあれば、何でもいいから伝えてくれ。俺達は仲間だ」

「はい、本当にありがとうございます」

 そうして、通話が切れたものの、孝太は色々な思いがあり、それを整理するのが大変だった。

「私達、超ラッキーじゃん! こんな心強い人達がいるんだし、絶対どうにかなるね!」

 しかし、千佳がそんなことを言って、孝太は笑った。

「ああ、僕もそう思うよ」

 今、ここに千佳がいてくれて良かった。そんなことを改めて思いつつ、孝太は自分達のするべきことをしようと強く決心した。

「ケラケラか、このフルフェイスメットの奴を近くで見てねえか、聞いてくか」

「うん、まずはそうだね! 早速やろうか! あ、すいません! 聞きたいことがあるんですけど……」

 孝太が具体的にどうしようか考える前に、千佳は近くにいた人に声をかけた。ここは孝太の近所のため、本来なら孝太が色々と聞くべきだ。しかし、千佳が気さくに話しかけ、そんな千佳に何の警戒もすることなく答える人を見て、孝太は千佳に任せようと思った。

「千佳、この調子で色んな人に話を聞こう。僕は上手く質問できなくて……千佳に色々と聞いてもらうことになるけど、僕もサポートするから、ドンドン質問してよ」

「うん、そういうことなら、わかったよ!」

 千佳は単純で、次から次へと様々な人に質問をしていった。その様子を見て、孝太は千佳の魅力にまた気付きつつ、そういった気持ちは全部終わった後に伝えようと胸に仕舞った。

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