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TOD  作者: ナナシノススム
試合開始
48/273

試合開始 18

 冴木に案内された部屋は、ホテルの一室のようで、ベッドだけでなく、洗面台やシャワー室まであった。それだけでなく、パソコンが置かれた机もあり、冴木はそれを起動すると簡単に操作した。

「よし、問題ないな。この建物の周囲、さらには廊下の至る所に監視カメラがあって、その映像をこれで確認できる。これは補助のようなものだが、それでも何かあった時、お互いに状況を共有するのに役立つ」

「補助ということは、メインは別にあるのか?」

「ああ、詳細な操作は奥にある管理室で行う。そこではいざという時、シャッターを下ろしたり、部屋をロックしたりして遮断できるようになっている。だが、管理室の操作を君達に任せることはないから、それは気にするな」

 政治家や企業の重役を匿うための場所と聞いていたが、ここまでの設備があると思っていなかったため、翔は多少の驚きがあった。一方、美優は翔以上に驚いた様子で、部屋の中を見回していた。

「何かあればすぐに連絡する。あと、翔の言うとおり、ここが襲撃される危険がもしかしたらあるかもしれない。そんな状況で美優に何もするなよ?」

「えっと、何もしないので安心してください」

 理由はわからないものの、冴木が怒っている様子だったため、翔は思わず敬語になった。

「シャワーなどは好きに使え。バスローブもあるから、寝るならそれを使うといい。それと美優、必ず俺が美優を……ディフェンスとして美優を守る。だから、安心しろ」

 それだけ言い残すと、冴木は部屋を出ていった。そうして美優と二人きりになったところで、翔は思わず深いため息が出た。そんな翔を見て、美優は笑った。

「冴木さん、翔が大嫌いみたいだね。でも、それは翔の態度が良くなかったからだと思うよ?」

「いや、俺だってわかっている。だが、それだけじゃないような……」

「どういうこと?」

「いや、何でもない。とにかく、もっと何かできるんじゃないかと思って……そのせいで美優を不安にさせたなら、悪かった」

「ううん、翔もありがとう。私のために色々考えてくれていることもわかるよ。でも……仲間って言い方は変かな? もっと他の人のことを信用してほしいよ」

 美優の言うとおりで、翔は何も言い返せなかった。そして、美優がターゲットに選ばれたことで、冷静でいられなくなっている自分のことを改めて見つめ直した。

「美優はこんな状況なのに、俺の心配までしてくれてありがとう。それと、俺も冴木さんと同じだ。絶対に美優を守る。だから安心してくれ」

「……うん、ありがとう」

 美優は笑顔でそう返した。

「ああ、こんな話をする予定じゃなかったんだ。美優は休んでくれ」

「うん、そうだね。汗もかいちゃったし、シャワーを浴びてくるよ」

「ああ、わかった」

「じゃあ、行ってくるね」

 美優はそう言ったものの、何だか顔を赤くして、その場から動かなかった。

「美優?」

「ごめん、こんな状況で言うことじゃないんだけど、何だか翔とホテルに来た気分で、すごく緊張する」

 そんな美優の言葉に、翔は思わず笑ってしまった。

「さっき冴木さんにも怒られただろ? とにかく、今は体を休めてほしい」

「ごめん、そうだよね」

 美優はどこか納得のいかない表情だったが、シャワー室の方へ行った。それを見送ると、翔はスマホを使って、先ほど信之から教えてもらったダークゴーを早速使ってみた。

 ダークゴーは、一般的な検索サイトと同じように見えたが、試しに「TOD」と検索してみると、これまで見つけることができなかったTODに関する情報がすぐに見つかった。

 それから、翔はセレスティアルカンパニーとインフィニットカンパニーについて調べた。その際、「疑惑」といったキーワードも追加して検索したところ、インフィニットカンパニーに関連した疑惑が色々と見つかった。

 その中で翔が注目したのは、麻薬の密売をしているのではないかという疑惑についてだ。というのも、密売したとされる麻薬の中に「デーモンメーカー」と呼ばれるものがあったからだ。それは、美優を襲ったケラケラと名乗る女性が言っていたものと同じ名前なだけでなく、一時的に筋力を強化するという点も同じで、同一の薬のように翔は感じた。

 実は、このデーモンメーカーを使用したと思われる事件はこれまでにも起こっていて、あるところではコンビニ強盗を行った者が未開封の缶をいくつも握り潰したり、商品の入った棚を投げ飛ばしたりしたそうだ。その後、強盗犯は食品だけでなく、あらゆる商品を口の中に入れ、窒息死したらしい。

 また、ある会社ではOLの女性が自らに嫌がらせをしていた同僚達に、椅子や机を振り回したり、投げつけたりした後、自殺した事件が起こった。この事件では三人の人が亡くなったらしい。また、目撃者の証言では、とても女性の力で行えるとは思えないような行動を犯人の女性はしたそうだ。

 これらの事件は都市伝説や陰謀論といった扱いを受け、一般的なニュースなどでは報道されなかったらしい。少なくとも、翔は今までこんな事件があったことすら知らなかった。

 信弘に教えてもらったダークゴーを使い始めたばかりだが、自分の知らなかった情報が次々と見つかり、翔は上手く表現できない驚きを感じていた。それは、これまでわからなかったことが簡単にわかる驚きと、こんな簡単にわかることがこれまでわからなかった驚きが混ざっていたからだ。

 その時、シャワーを浴び終えた美優がバスローブ姿で出てきた。美優の顔は真っ赤で、それはシャワーを浴びたことだけが理由じゃない様子だった。

「冴木さんと約束したとおり、何もしないからな」

「え、私ってそんなに魅力ないの?」

「そうじゃなくて……こんな状況だからだと思うが、さっきから美優は変な発言ばかりしているからな」

「え?」

 それから、美優はさらに顔を赤くした。

「ごめん! そういう意味じゃなくて……私、翔を困らせているかな!?」

「いや、別に困ってはいない。むしろ、困らせているのは俺の方だ……。それより、休める時に休んでおけ。俺も汗をかいたから、シャワーを浴びてくる」

 美優が落ち着かない様子だったため、翔はシャワーを浴びることにした。ただ、ホテルのような場所で、美優と同じように翔もシャワーを浴びるという行動を選択したことが、はたして美優を落ち着かせる選択だったのだろうかと、シャワーを浴びながら疑問を持った。

 ただ、その疑問は杞憂だったようで、シャワーを浴び終えて戻ると、美優はベッドでスヤスヤと眠っていた。そんな美優の寝顔を見て、改めて昨晩ほとんど寝られなかったのだろうと翔は感じた。

 美優が寝たのであれば、翔は冴木達のところへ戻り、またTODについて詳しく聞こうかと考えた。しかし、美優が目を覚ました時、自分がいないと不安に思うかもしれないと考え直し、近くに会った椅子に座ると、またダークゴーを使った情報収集を再開した。

 そうして調べていく中で、翔は不良グループ「ダーク」について検索してみた。すると、ライトという悪行を繰り返す不良グループを潰すことが目的といった情報が多く出てきた。

 信弘から検索サイトはスポンサーなどの意向に沿わないサイトを検索結果に出さないと言われたものの、どこか半信半疑だった。その話も踏まえ、このダークゴーを運営しているのは、ダークで間違いないだろうと翔は感じた。

 とはいえ、ダークは典型的な不良グループで、世間一般とは異なる考えを持っている。そのため、そんなダークが運営しているだろうダークゴーの方が、TODなど普通調べられないことを調べるのに、適しているのだろうと翔は感じた。

 それを利用して、翔は武器の使い方を調べた。まず、自分に与えられた警棒の有効な使い方を調べた後、銃やナイフを持った相手の対処など、今後相手にする可能性があるオフェンスの武器を想像しながら、一つ一つシミュレーションしていった。

 そうして、現在考えられる範囲で、翔はあらゆるオフェンスの対処を頭の中にインプットした。

 とはいえ、そうして調べる過程でも、ダークの宣伝を見かけることが時々あり、まるでダークにみんな来てほしいと訴えているようにも見えた。考えてみれば、ダークゴーという名前も、「ダーク」と「行く」という二つの言葉をくっつけたものだ。

 そう思ったところで、翔は何となく「ダークゴー」と検索してみた。すると、単なる検索結果とは異なる内容が表示されたため、多少の驚きを感じつつ、詳細を読み進めていった。

 そこでふと、翔は急に眠気を感じた。こんな状況で寝るのは良くない。そう考えたものの、すぐ近くにはベッドでスヤスヤと眠る美優がいる。それを見て、翔は椅子に座ったまま、目を閉じた。

 それから、少しずつ意識が薄れていくのを止めることなく、翔は眠りに就いた。

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