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TOD  作者: ナナシノススム
ウォーミングアップ
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ウォーミングアップ 03

 もうすぐ後半が始まるタイミングで、簡単に作戦会議のようなものをやったが、孝太と翔に任せるといった、雑な作戦を立てただけで終わった。

「いつもこんな適当なのか?」

「いや、今日は翔の活躍にみんな期待してんだよ。まあ、前半で十分すぎるほど活躍したし、後半は抑えていいんじゃね?」

「さっき言っただろ? 加減なんてしない。ハンデなしでいかせてもらう」

「それならいいけど、練習試合で怪我するとかはやめてくれよ」

 サッカー部に入ってくれたものの、翔は孝太を含め、誰かと仲良くする気が一切ないようで、いつもぶっきらぼうな返事をするだけだ。そうした翔の態度について、孝太は半ば諦めている状態だ。

「そういえば……美優と知り合いなのかよ?」

「知り合いも何も、同じクラスだろ」

「そうじゃなくて……もういいや」

 もう後半が始まるし、変に追及するのは諦めて、孝太は試合に集中した。しかし、すぐ別のことに考えがいってしまった。

 美優とは幼い頃から家が近く、兄妹のように一緒にいることが多かったため、お互いのことをよく知っている。美優は人付き合いがそこまで得意でなく、自分から誰かに話しかけることはほとんどない。それなのに、さっきは美優の方から翔に話しかけていた。それだけでなく、その時に美優が見せた表情は、孝太の知らないものだった。

「孝太!」

 その声で我に返った時には、既にボールが奪われていた。

 全員、孝太がボールをキープして、前線まで運んでくれると信じていたようで、ディフェンスに回れる者はほとんどいなかった。そして、そのまま相手のカウンターを受けて、シュートを決められてしまった。

「孝太、どうしたんだ?」

「ごめん、ちょっと油断したよ」

 改めて、孝太は試合に集中しようと首を振った。しかし、頭に浮かんでくるのは美優のことだった。

 美優のことを意識するようになったきっかけを、孝太はあまり覚えていない。それに、はっきりと好きだといった自覚もなく、何となく自分は美優のことを好きなのかもしれないと思うぐらいだった。

 ただ、これまで美優と一緒にいることが当たり前で、それはずっと続くだろうと孝太は思っていた。それこそ、何かのきっかけでお互いのことを意識して、恋人になって、結婚することになるかもしれないとか、そんな未来を勝手に思い浮かべていた。

 しかし、さっきの美優の表情を見て、そんな未来は恐らく来ないのだろうと孝太は感じた。どれだけ長くいても、美優にとっての孝太は、ただの幼馴染であり、それ以上になることはない。そんな考えを、確信に近い形で孝太は持っていた。

 そこまで頭の中を整理したところで、孝太は美優のことが本当に好きだったんだと自覚してしまった。

 そんなことを考えながらだと、当然プレイも雑になり、またボールを奪われてしまった。ディフェンスに回れる人はいないし、このまま2点目を取られてしまう。そう思った瞬間、孝太は目の前の光景が信じられなかった。

 エースストライカーとして、フォワードを任されている翔が、ゴール前まで下がってディフェンスに入っていた。翔は相手からボールを奪うと、ふわふわと山なりのパスを前に出した。しかし、それは誰かへのパスでなく、相手を置いていくほどの速度で走ると、翔自身がボールに追いついてドリブルを始めた。

 その時、翔が横を通り過ぎていったが、孝太は動けなかった。

 前に相手が立ち塞がると、翔は一瞬のうちに止まり、フェイントを使って抜けていった。途中、複数人に囲まれた時も、真横へ鋭く曲がり、誰も追いつけない状況を作りながら、あっという間にゴール前まで行ってしまった。

 そして、翔は誰にもパスを出すことなく、味方ゴールから相手ゴールまで一人で行ってしまうと、そのままシュートを決めた。

 翔は加減せずに、ハンデなしでやると言っていた。それは、体育の授業でサッカーをやった時も同じで、明らかに経験者の動きを翔は見せた。しかし、練習試合とはいえ、相手も強豪校の一つなのに、ここまで圧倒的な差を見せつけるプレイをするとは思っていなかった。

 孝太は何も言えないまま、翔を見ていた。すると、翔はゆっくりこちらに近付いてきた。

「孝太が集中してくれないと、これを繰り返すことになる。はっきり言って疲れるから、しっかりしてほしい」

 翔をサッカー部に誘ったのは、孝太だ。翔は嫌々といった雰囲気だったし、入部してくれた時は本当に喜んだ。それなのに、今は自分が役立たずで、翔に無理をさせてしまっている。そのことを自覚すると、孝太は首を振った。

 美優のことについて、頭から完全に消すことはできない。そのうえで、孝太は受け入れることにした。

「ごめん、ここからは任せてくれ」

「わかった。任せる」

 孝太が何を悩んでいるのか、翔は気にしている様子もなかった。それについても思うところがありつつ、孝太は少しでも試合に集中しようと、また首を振った。

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