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TOD  作者: ナナシノススム
試合開始
33/273

試合開始 03

 孝太は千佳と大助と一緒に登校していた。美優と翔と一緒に登校しなかったのは、千佳の提案によるもので、予定どおりだった。

「美優と翔、今頃上手くやってるかな?」

「こんなことして、後で怒られても知らねえよ?」

「孝太と大助も共犯だよ」

「僕もですか?」

「大助だって、美優と翔を二人きりにした方がいいと思ったでしょ?」

「いえ、別に……」

「そうだよね! そう思うに決まってるよね!」

「はあ……」

 いつもどおり、大助を巻き込んでいる千佳の笑顔。それが、何だかいつもと違って見えて、孝太は少しだけ戸惑っていた。昨夜、千佳に告白された。ただそれだけで、ここまで意識してしまっている自分に対して、孝太は単純だなと感じた。

「孝太?」

「しょうがねえ。みんなで美優達に怒られるか」

「うん、だよね!」

 そして、意識しているにもかかわらず、いつもと同じように千佳と話せること。きっと、付き合うことになったとしても、これは変わらないのだろう。それは孝太にとって、楽しい以外の何ものでもなかった。

「あと、昨日みたいに翔が不良に襲われること、またあるかもしれないじゃん?」

「確かに、このまま何もねえってことは、なさそうだよな」

「だから、これ!」

 千佳はバッグから電気カミソリのようなものを取り出した。

「何だよ、それ?」

「これ、昔ママが護身用に買ったみたいなんだけど、見て!」

 そう言うと、千佳はスイッチを入れた。すると、バチバチと音を立てながら、先の方がピカピカと光った。

「スタンガンっていうんだって!」

「いや、普通に怖いから止めてくれよ!」

「別に、電気ショックを与えるだけだよ?」

「電気ショックって何だよ!? そんなの食らいたくねえから、一旦止めてくれ!」

 そこまでお願いして、ようやく千佳は止めてくれた。

「孝太がそこまで怖がってくれるってことは、不良が来ても効果ありそうだね」

「それ、持ってて大丈夫なのかよ? 銃刀法違反とかで捕まるんじゃね?」

「大丈夫だよ。護身用だから」

 護身というのは、自らの身を守るという意味だ。しかし、千佳の持つスタンガンは、自らの身を守る以上の力を持っているようにしか見えなかった。

「千佳と、千佳にそれを与えた親、どちらにも恐怖を感じるよ」

「何それ? そこまで恐怖心を与えられるなんて、不良にも効果てきめんってこと?」

「おう、もうそれでいいよ」

 千佳はいつも明るくポジティブな性格で、それは周りまで明るくしてしまうほどだ。思えば、自分はどちらかというと、ネガティブに考えてしまうことが多いかもしれない。孝太はふとそんなことを感じて、千佳を見習おうと思った。

 今、美優と翔は少しずつでも変わろうとしている。美優は孝太以上にネガティブに物事を考えてしまう性格だ。でも、最近は翔と仲良くなろうと必死に頑張っている。今頃、翔と二人で登校しながら、何を話そうかと必死に考えているかもしれない。

 迷惑そうにしているものの、翔も変わろうとしてくれている。相変わらず、美優も心配しているとおり、何か隠しているというか、不安にさせることもある。それは、サッカーをするうえでも表れていて、とにかくガムシャラなプレイは、怪我をしないかと心配させる……実際、昨日は練習でお互い怪我をしてしまった。そういった危うさを翔は持っている。

 ただ、ずっと人を避けていた翔が、サッカー部に入ってくれただけでなく、昨日は夕食にも付き合ってくれた。美優のことも真剣に考えてくれているようで、それは翔自身が良い方向に変わろうとしているように感じている。

 それなら、自分も変わろう。そんな思いを孝太は持った。

「千佳、大助、今日もサッカー部の練習が終わった後、美優と翔も誘って、みんなでどっか行かね? 昨日みたいに夕食は行くとして、その前にどっか……久しぶりにカラオケとか行かねえか?」

 こうして誘うのも、どこへ行くか決めるのも、いつも千佳がやっている。それを、今日は孝太から提案してみた。

「いや、でも、ほとんど僕と千佳しか歌わねえ感じになりそうだし、別のとこに……」

「ううん、いいんじゃない? カラオケなら食事だってできるし、みんな楽しめるよ! 大助もそう思うよね?」

「僕は歌わないですけど、構わないですよ」

「ほら、大丈夫! じゃあ、今日はみんなでカラオケだね!」

 変わろうと思ったのに、結局また千佳が決めてくれた。孝太はそんな風に思っていた。そんな孝太に対して、千佳は満面の笑顔を向けた。

「孝太がどっか行きたいなんて言ってくれて嬉しい! 絶対、美優と翔も誘おうね!」

 その時、孝太は自分が千佳にどんな思いを持っているのか、はっきりと自覚した。ただ、それを言うのはまだ早いと考え、伝えたい思いを胸に仕舞った。

「孝太君と千佳さん、二人で行ってもいいんじゃないですか?」

 不意に大助からそんなことを言われた。そして、孝太と千佳はお互いに顔を見合わせると、顔を赤くしてしまった。

「変な気、使わないでよ! 私はみんなと……」

「そうだ! 僕達は別に……」

 孝太と千佳は、上手く言葉にすることができなくなってしまった。そうして、特に何も言えないまま、学校に着いた。

「えっと、気を取り直して、美優と翔は一緒に来ると思うから、様子を見ながら、少しからかってみようよ!」

 気持ちを切り替えた様子で、千佳はそんなことを言った。

「いや、それはやり過ぎじゃね?」

「美優と翔は、周りで盛り上げないと何もなさそうなんだもん。大丈夫! ちゃんと空気は読むから!」

 まだ多少の心配もありつつ、千佳がそう言うと、何故か任せていいと孝太は思えた。

 そうして、教室に入ると、まだ美優と翔はいなかった。そのため少し待ったものの、登校時間が迫ってきても、二人は来なかった。

「美優達、遅刻なのかな?」

「事故とかじゃねえといいんだけど……」

 そんな心配をしていると、美優と翔が駆け込むように教室に入ってきた。すると、すかさず千佳が二人に近付いた。

「二人きりの登校、楽しめた?」

「千佳!」

「でも、ギリギリだったね?」

「俺が遅れたんだ。美優、悪かった」

「ううん、間に合ったし、大丈夫だよ」

「それより……」

 美優と翔を見て、千佳は思うところがあったようだ。それは、孝太も同じだった。そのため、孝太は笑いながら美優達に近付いた。

「手を繋いで登校なんて、随分と進展してね?」

 孝太がそう言うと、美優と翔は今更気付いた様子で、慌てて手を離した。

「あ、違うの! 遅刻しそうだったから、翔が引っ張ってくれて!」

「というか、あからさまに俺と美優を二人きりにしようとするな! 不自然過ぎるし、困らせるな!」

 慌てた様子の美優と翔を見て、孝太と千佳は笑ってしまった。

「ちゃんと進展してて良かった」

「そうだ。翔、今日の放課後もサッカー部の練習、付き合ってくれよ。それと、それが終わったらみんなでカラオケに行かね?」

「いや、俺は……」

「断る理由、僕と千佳が全部潰すよ?」

「うん、だから観念して、私達とカラオケに行くよ!」

 千佳と一緒に、翔を無理やり誘うような形を取ったところで、孝太は翔が怒らないかと今更心配になった。

「何だか、孝太まで面倒な奴になっているな」

「悪い、翔が嫌なら……」

「別に嫌じゃない。カラオケなんてほとんど行ったことがないが、付き合ってもいい」

 翔がそんな風に言ってくれると思わず、孝太は驚いてしまった。

「じゃあ、今日はみんなでカラオケだね!」

「ごめん、私、カラオケ苦手なんだけど……」

「美優、空気読んでよ! それに、翔がいるなら、どこでもいいでしょ?」

「確かにそうだけど……」

 そんなことを話していると、担任の須野原先生が教室に来た。

「みんな、朝のホームルームを始めるよ」

 須野原先生にそう言われ、孝太達は慌てて席に着いた。

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