ハーフタイム 65
春来達は、小学六年生になった。ただ、クラス替えはなく、クラブも変わらずサッカークラブを選択した。
変わったことといえば、先輩達がいないこと。そして、春来が生徒会に入ったことだ。
春来は、クラスで委員会を決める際、真っ先に生徒会に入ることを希望した。そして、他に希望者もいなかったため、あっさりと生徒会に入ることができた。
そうして、生徒会で行われる最初の集会にて、春来は自己紹介をした。
「緋山春来です。昨年度は、掲示委員会の副委員長を務めていて、生徒会選挙では東阪結莉の応援をしました。また、幼馴染の藤谷春翔が生徒会長になったこともあり、春翔と結莉の活動を手伝いたいと思い、生徒会に入りました。今後、生徒会は、異学年交流の充実化や、スマホの所持の許可、さらには近隣のイベントへの参加など、全校生徒の協力が必要なものに取り組んでいくかと思います。なので、僕は広報として、生徒会の活動を全校生徒に都度伝えて、協力をお願いしていきたいです。みんな、よろしくお願いします」
去年、掲示委員会の副委員長として、春来は様々な活動をしてきた。特に、他のクラスを回って取材などをしたり、全校朝礼で話をしたり、人の前に立つことも多かった。そのため、他の人は全員、春来のことを既に知っているようで、笑顔で迎えてくれた。
それから、他の人も挨拶を終えると、早速本題に入ることになった。
「さっき、軽く春来が言ったけど、私達が生徒会として、今年度進めていきたいことを順に話していくね。一つは、私が以前から実現したいと言っていた異学年交流で、これは現状でも実現できているけど、もっともっと充実させたいと思っているの。というのも、これまでは生徒会の一部だけが、異学年交流の実施に協力するといった形だったでしょ? それを改善していきたいの」
異学年交流に関しては、前の生徒会長をはじめ、結莉なども反対の立場にいたため、生徒会として本格的に実施するといった形にはできなかった。そのことを挙げたうえで、今後は生徒会として、異学年交流を実施していきたいと春翔は提案した。
「ええ、私はいいと思うわ。みんなはどうかしら?」
「僕も賛成だよ」
「私も賛成です」
そして、結莉を含め、反対する者は誰もいなかったため、その提案はすぐに採用された。
「みんな、ありがとう。ただ、生徒会として実施していくうえで、何かしらか問題が起こるかもしれないから……この辺りは、春来や結莉ちゃんに聞くのが一番かな?」
「まあ、これからは生徒会が仕切りますとか、そんな印象を持たれると、参加しづらくなる人がいるかもしれないね」
「私もそう思うわ。だから、最初のうちは、あくまで生徒会としてサポートするといった形でいいんじゃないかしら?」
「といっても、春翔は元々異学年交流に参加していたことがみんなに支持されて、生徒会長になれたと考えている人は多いはずだよ。だから、生徒会長になったからといって、それを極端に変える必要はないと思うし、春翔のしたいことをするのを、みんなも望んでいるんじゃないかな?」
「確かにそうね。だったら、異学年交流で、生徒会の活動を説明したり、それこそ体験といった形で手伝ってもらったり、そういったことをするのがいいかもしれないわね」
「そうしたことを進めていけば、他のことでも色々と協力してもらえるようになると思うし、僕は賛成だよ」
それからも、春来と結莉は話し合い、生徒会として異学年交流にどう参加していくのがいいか、意見を出していった。
「春来、結莉ちゃん、色々な意見をありがとう。その……とりあえず、私のしたいようにすればいいのかな?」
ただ、最終的な結論は、とても単純なものだった。
「うん、色々と考えてみたけど、春翔はあまり難しいことを考えないで、とにかくしたいようにすればいいんじゃないかな?」
「みんなから支持されている、春翔の好きにするのが、私も一番だと思うわ」
「それでいいなら、いいんだけど……まあ、頑張ってみるね」
どこか納得いかない様子だったものの、春翔もそう言ってくれたため、異学年交流に関する話は、これでまとまった。
「次は、学校でスマホの所持を許可してもらいたいって話だけど……これは、結莉ちゃんから話すのがいいよね?」
「私は、選挙で負けたのに、この公約を進めてもいいのかしら?」
「私もスマホの所持を許可してもらいたいって思っているの。だから、一緒に実現したいよ」
「それじゃあ……私が考えていることを伝えるわ。まず、スマホを持つ前に、ルールを作って、それを徹底してもらうようにしたいわ。これは単純なもので、学校では常にマナーモードにする。授業中に使用してはいけない。これだけで、十分だと思うわ。まあ、これはどのスマホを持たせるかによって、変わる話なんだけど……」
それから、結莉はスマホそのものの問題について話をした。それは、以前、春来と一緒に話したもので、セレスティアルカンパニーが提携するスマホを選択するべきだといったことを強く伝えた。
「ただ、スマホを持っているかいないかで、グループが分かれてしまうことは、絶対に避けたいわ。機能を制限すれば安く済むと言っても、家の事情とかで、スマホを持てない人はどうしても出てしまうと思うの。それをどうすればいいのか、悩んでいるところよ」
「それなんだけど……私はスマホを持たないってことで、みんな納得しないかな?」
春翔がそんな風に言うと、結莉は意味がわからないといった感じの表情になった。
「何を言っているのかしら?」
「ああ、ごめん。えっと、春来はパソコンとか使えて、結莉ちゃんも使えるみたいだけど、私はあまり……というより、全然使えないのね」
春翔の言う通り、春来は家にパソコンがあるため、幼い頃から触れることが多かった。そして、いつも春来と一緒にいる春翔も、自然とパソコンに触れることはあった。しかし、春翔はパソコンを使うのが苦手なようで、いつからか春来が使うのを近くで見ているだけになった。
「でも、私が何か調べたいことがある時、春来が代わりに調べてくれて、私は困っていないの。だから、スマホの所持を許可してもらいたいとは思っているけど、私は持たなくてもいいかなって思っていて……ごめん、今の話と全然関係ないよね」
「いいえ、助かる意見だわ。スマホを持っている人が、スマホを持っていない人に使い方などを教えてほしい。調べたいことがあった時、この人にお願いすれば、すぐにスマホで調べてくれる。そういった感じで、スマホを持っている人と持っていない人が、それをきっかけにコミュニケーションを取れるように進めてみたいわ」
「あと、セレスティアルカンパニーが提供しているサービスを利用すれば、教育用にスマホを無料で貸し出してくれるそうだよ。それを共用のスマホにするとかして、スマホを持っていないことに劣等感を持たないようにしたいね」
「まあ、スマホに限らず、自分が持っていない物を持っている人に嫉妬するというのは、当然のことだし、完全になくすことはできないと思うけど、生徒会として、こうしてほしいと伝えることは大事でしょうね」
「あとは、保護者の協力を得られるかだね」
「それは、PTAの方に直接意見を出すから大丈夫よ。昨年度の生徒会長のおかげで、PTAに意見を出せるようにしてもらっているのよ」
「それなら、問題なさそうだね。その時は、僕も広報として一緒に参加するよ」
「ええ、春来が一緒なら、心強いわ」
そうした形で、スマホの所持を許可させるという件についても、ある程度の話がまとまった。
「あとは、近隣のイベントへの参加だけど、春来にお願いして、そうしたイベントのスケジュールをまとめてもらったの。まずは、これを見てもらっていいかな?」
そう言うと、春翔は近隣のイベントを一覧化したものをみんなに配った。これは、春来がインターネットを利用して、まとめたものだ。
「こうしたイベントって、ボランティアを募集しているのが多いんだけど、このボランティアに参加するのは、本当に自由で、私達でも参加できるみたい。それで、私は単にイベントに参加するだけじゃなくて、ボランティアとして参加してみたいと思っているの」
「いいと思うわ。でも、一応この学校の生徒会として、ボランティアに参加する場合、学校の許可を得るべきでしょうね。まあ、校長先生に直接言えば、すぐに許可してくれると思うわ」
校長先生は、異学年交流などもすぐに実現してくれた。そのため、手段の一つとして、校長先生に直接話を通すという結莉の考えは、確かにいいものだった。
「それじゃあ、イベントの告知などは僕がやるよ。ただ、一人だとできることに限界もあるし、協力してくれる人がいると……」
「だったら、俺が協力します! 緋山先輩とは、サッカークラブでも一緒なので、いいですよね?」
「待って! 私も協力したいです」
そういった形で、多くの後輩達から協力の申し出が来て、春来は戸惑ってしまった。
「えっと……全員は無理だから、君と君に協力してもらうよ。お願いできるかな?」
「はい、よろしくお願いします!」
「私も、よろしくお願いします!」
そうして、春来は二人の後輩に協力をお願いしたうえで、二人も広報として、活動してもらうことにした。
「広報だけでなく、他の人も何かしらか役職を持って、私達をサポートしてほしいわ。まあ、お願いしたいのは、これから中心になって動くことになる、春翔と私のサポートね。これも希望でいいわ」
そうして、それぞれの希望を聞きつつ、全員に役割を持たせた。これは、この場の思い付きで決めたことでなく、春来達の間で、事前に決めていたことだ。というのも、これまでの生徒会は、生徒会長と副会長以外は補佐といった形で、特に役割を持っていなかったため、責任感などを持つこともなく、ただいるだけといった人が多かった。しかし、こうして役割を与えることで、多少なりとも責任感を持ってくれることを期待して、このような形にした。
そうして始まった、新しい生徒会の活動は、思いのほか順調に進んでいった。
まず、異学年交流は、こちらの予想通り、元々春翔が積極的に参加していたこともあり、生徒会がサポートするといったことを、簡単に受け入れてもらえた。むしろ、異学年交流にこれまであまり参加していなかった結莉などが気軽に参加するきっかけにもなり、これまで以上に、様々な異学年交流の時間が増えていった。
そのタイミングで、スマホに関する説明会のようなものを、異学年交流の一環として、結莉と春来は行った。それには多くの人が参加して、それこそ教室に入り切れないほどだった。
それは、スマホを持ちたいと思う人が多くいることを表していた。それを受け、奈々をはじめとした、掲示委員会にアンケートの実施をお願いした。内容は、スマホの所持を許可してほしいか、ほしくないかといったものだ。
その結果、スマホの所持を許可してほしいといった意見が圧倒的に多かった。とはいえ、そんな結果になるのは、当然だった。
「許可してほしいか、ほしくないかなら、許可してほしいを選ぶに決まっているわよね」
「どちらでもないって選択肢を増やしたら、変わっていたかもね。あと、許可したからといって、所持を強制されることはないって、しっかり伝えたのも良かっただろうね」
結莉と春来にとって、こうした誘導は得意なものだ。そして、これは多くの生徒が希望していると示すうえで、活用できるものだった。
その後は、PTAの集会に参加するなどして、保護者の理解を得た。この際も、結莉と春来が中心になって動き、保護者には単に協力してもらうだけでなく、むしろ強く協力したいと思わせるところまで、話を進めることができた。
そうして、夏休みを迎える少し前ぐらいのタイミングで、スマホの所持を許可してもらうことができた。これは、長期休みの前に、それぞれの連絡手段を得ることができたということで、タイミングとしては、とてもいいものだった。
「そんな訳で、買ってもらったわ」
そして、許可してもらった次の日、結莉は早速スマホを学校に持ってきた。
「いや、さすがに早くないかな?」
「うん、実は少し前に両親を説得して、買ってもらったのよ。それで……春来はパソコンを使っているし、当然メールアドレスもあるわよね? だから……えっと……私と連絡先、交換しなさいよ。しないと、みんなにあることないこと言い触らすわ」
「何で脅迫されているのかわからないけど……それじゃあ、普段使っているアドレスを教えておくよ」
「ありがとう。嬉しいわ」
結莉は、本当に喜んでいる様子で、それだけスマホの所持を許可してもらえたことが嬉しいのだろうと感じた。
その後も、結莉は多くの人と連絡先を交換するだけでなく、スマホの使い方の説明や、スマホを持っていない人へのケアなどを続けていった。
そして、春来がスマホを持った後は、改めて結莉と連絡先を交換した。そのおかげで、休み時間にもちょっとした打ち合わせが簡単にできるようになり、様々な活動を進めるうえで、スマホは役立つものになっていった。
また、各イベントの参加については、まず校長先生に話を通して、生徒会としてボランティアなどに参加することを許可してもらった。その後、後輩の広報に協力してもらう形で、生徒会として参加するイベントを都度告知するようにした。
その際、掲示委員会にお願いして、掲示板などにそのことを伝えるポスターを貼らせてもらったり、放送委員会の方には朝の放送などでそのことを話してもらったりなど、様々な形で全校生徒に周知させていった。
それは、大きな効果があり、フリーマーケットやジャガイモ掘り、スポーツ大会に祭りなど、そうしたイベントに同じ学校の生徒が頻繁に参加するようになった。中には、ボランティアを手伝ってくれる人もいて、そうした人達は、こういった形で近隣にかかわることを喜んでいる様子だった。
また、こうした活動は、学校が変わっても、何かしらかのかかわりを持ちたいという、結莉の願いを叶えるものでもあった。
「みんな、頑張っているみたいね」
「生徒会長! 来てくれたんですか!?」
「もう生徒会長じゃないよ」
祭りに参加した際、昨年度の生徒会長が来てくれて、挨拶することができた。特に結莉などは大変喜んだ様子だった。
「みんな、久しぶりだね!」
「元気そうで良かった」
それだけでなく、委員長や副委員長をはじめとした、掲示委員会の先輩達も会いに来てくれた。
「緋山君、随分と活躍してるみたいだね」
「そんなことないですよ?」
「いや、小学生とは思えない、しっかりした子だとか、親達の間でも噂になってる。相変わらず、自覚してないのか?」
「それに、スポーツ大会でも大活躍だったって聞いたよ? サッカーだけじゃなくて、野球とかドッジボールとか、何でもできちゃうんだね」
「いや、本当にそんなことないです。普通に参加しただけですよ」
「……緋山君、変わらないね」
そんな風に言われたものの、春来は上手く理解できなかった。
「あの、連絡先を交換してくれませんか?」
また、先輩に会うたび、結莉はそんなお願いをした。こうしたイベントで先輩と会えるのは、多くの人と連絡先を交換したいと思っている結莉にとって、願ったり叶ったりのようだった。
そうした、近隣のイベントに参加するという活動は、大きな話題を呼び、地方紙という、各地方でローカル的に発行している新聞で紹介されるほどだった。その結果、学校そのものが注目されたからか、ボロボロだった机や椅子は、ドンドンと新しいものに交換されていった。
こうした動きについて、春翔をはじめとして、ほとんどの人は喜んだ。ただ、マスメディアの問題などを知る春来や結莉は複雑な気持ちだった。特に結莉は、親戚がこの地域の議員をやっているとのことで、春来が知らない事情なども知っているようだった。
「まあ、記事の内容も悪くないし、利用できたと思うことにするわ」
「うん、僕もそうするよ」
ただ、そうした形で、二人は自分を納得させた。
時間の流れを速く感じる。そんな体験は、これまでもあった。ただ、それは数日とか、一週間とか、長くても一ヶ月程度だった。しかし、春来にとって、六年生の一年間は、とにかくあっという間に過ぎていった。
それは、様々な活動を行い、様々な変化があったことが理由だった。生徒会として実現したかった、異学年交流の充実化、スマホの所持の許可、近隣のイベントへの参加。全部、達成することができた。
その後、来年度の生徒会長などを決める生徒会選挙では、春来達があまり関与しないようにした。とはいえ、生徒会の後輩達は、積極的に生徒会の活動に参加して、それは全校生徒とそれぞれがかかわることになっていた。そのため、立候補した候補者全員を当選させたいといった意見が多く、誰が当選するだろうかといったところで、大きく盛り上がった。
そして、結果は、春来と一緒に広報をしていた後輩二人が、生徒会長と副会長を務めることになった。これは、広報として、多くの人と接する機会が多かったことが理由だろうと春来は思った。
そうして、あっという間に季節は過ぎていき、卒業を意識しなければならない時期を迎えた。




