表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TOD  作者: ナナシノススム
ウォーミングアップ
2/263

ウォーミングアップ 01

  加減するなんて相手に失礼だし、いつだってハンデなしでやるべきだよ



7月8日(日)


 この日、城灰じょうはい高校サッカー部は他校との練習試合を行っていた。

 そろそろ前半が終わるかというところで、試合は2-0で城灰高校が勝っている。この2点を入れたエースストライカー、堂崎どうざきしょうは、足首を回しながら手をブラブラとさせていた。

 翔は最近サッカー部に入った二年生だ。体育の授業でサッカーをやった後、ある人物の熱烈な勧誘によってサッカー部に入らされ、今日の練習試合に初のレギュラーとして選ばれた形だ。

 ここまで2点を獲得したことで、既に翔は十分活躍したといえる。しかし、翔はこれで満足していなかった。

 今、ボールは翔と同じ城灰高校二年生、高畑たかはた孝太こうたがキープしている。孝太は翔をサッカー部に勧誘した張本人だ。

 翔と孝太は同じクラスなものの、そこまで話す機会はなかった。というより、翔は二年生になると同時に城灰高校へ転校してきたが、これまで他の生徒とほとんど話さないようにしていた。

 そんなある日、体育の授業でサッカーをやった後、翔は孝太からサッカー部に入ってほしいと強くお願いされた。それは、あまりにもしつこく繰り返され、結果的に翔が折れる形でサッカー部に入った。

 エースストライカーとしてフォワードを任されている翔と違い、孝太のポジションはミッドフィルダーで、チームのキャプテンとして司令塔と呼ばれる存在でもある。チームの指揮を執るだけでなく、試合そのものをコントロールする実力を持ち、中学生の頃から孝太はサッカー界で有名だった。

 翔を勧誘して入部させた後、すぐにレギュラー入りさせるという、半ばわがままな要求を通してしまえたのも、孝太への信頼があることを表していた。

 また、孝太の活躍は一般の人にも知れ渡っている。それは、ただの練習試合でも、生徒だけでなく、近所に住む大人達まで応援に来るほどの人気で、今日も大勢の人が声援を送っている。それほど、孝太は周りから期待された選手であり、実際にそれだけ期待されるほどの実力を持っている。それは、半年ほど前にあった冬の大会で、初めて城灰高校を全国大会まで進めたという、結果としても現れていた。

 孝太は相手選手を引き付けつつ、ボールをキープし続けた。それは、翔をマークする相手選手の数を少しでも減らすためのものだ。そのことを理解して、翔は周りにいた相手選手が自分から注意を外したと感じると、地面を強く蹴る準備をした。

「孝太!」

「おう!」

 翔の声を受けて、孝太はロングパスを出した。

 翔は自分をマークしていた相手選手を置いていくほどの速度で走ると、ボールの落下点に向かっていった。そして、ボールが地面に着く瞬間、スライディングするように足を伸ばした。

 ボールは翔の足先に触れ、少しだけ宙に浮いた。その間に翔は立ち上がると、そのままドリブルを始めた。

 翔の周りには、相手選手だけでなく、味方もいない。ただ一人きりでゴールを目指し、ゴール前でシュートを放った。

 そのシュートは、相手チームのゴールネットを揺らし、城灰高校に3点目が入った。同時に、周りから大きな歓声が上がった。

 今日、応援に来ている人達は、孝太の活躍を期待してきた人がほとんどだ。だからこそ、翔の活躍が予想外なのか、驚きの声が混じりつつ、練習試合とは思えないほど、大きな歓声が響いていた。

「翔、練習試合なんだから、少し加減してもいいって」

 大歓声を受けているところで、孝太が翔にそんな言葉をかけた。ただ、翔は孝太と別のことを考えていた。

「いや、加減なんてしない。悪いが、ハンデなしでいかせてもらう」

「……まあ、それならいいけど」

 孝太はまだ何か言いたげな様子だったが、諦めたようにポジションに戻っていった。

 それから数分後、城灰高校リードのまま、3―0で前半が終了した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ