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TOD  作者: ナナシノススム
ハーフタイム
191/272

ハーフタイム 56

 全校朝礼が終わった後、春来達は先生から怒られたものの、校長先生が色々と言ってくれたのか、そこまで強くは怒られずに済んだ。

 それより、異学年交流を実現しようといった声が高まっただけでなく、春翔のことも話題になった。それは、生徒会長を目指す春翔にとって、大きなことだった。

 ただ、想定していなかったこととして、春来も同じように、話題になったようで、これまで以上に様々な人から話しかけられるようになった。

「何で、僕まで話題になっているのかな?」

「そりゃそうだろ。てか、何で自覚してねえんだよ?」

「え?」

「生徒会長に啖呵切った時、マジですごかったからな。それこそ、人でも殺すんじゃねえかってぐらい、怖かったって」

 そんな風に隆から言われたものの、春来は上手く理解できなかった。

 それから、少しずつではあるものの、着実に異学年交流は実現していった。

 まず、昼食後の休み時間だけ、どの学年の生徒も入れる教室ができた。それは、一年生をはじめとした下級生が利用しやすい、一階の空き教室を利用することになった。

 また、具体的に何をするかは、掲示委員会や放送委員会、さらには生徒会の一部が中心になり、決めていくことになった。

 そうして、初めての異学年交流が実施されようとする中で、春来は少しでも人が集まるよう、誘導しようかと考えた。ただ、春翔から言われたことなどを思い返して、そうした誘導をすることなく、自然の流れに任せることにした。

 それだけでなく、異学年交流を通して、具体的に何をしたいかといった思いが、春来の中にはなかった。そのことを自覚すると、あまり上級生ばかり集まってもしょうがないとも考えて、春来は参加を控えた。ただ、その結果は調べるようにしていた……というより、自然と知ることになった。

 初めての異学年交流では、各学年から多くの生徒が集まったようだ。その人数はあまりにも多く、教室に入り切れないほどだったらしい。

 その結果を受けて、次の異学年交流は、体育館を利用することになった。その際、隆をはじめとして、体育委員会が体育館の貸し出しを要請したそうだ。

 そうして、体育館に集まったところで、それぞれ何をしたいかといった意見を求めたそうだ。その後、掲示委員会だけでなく、放送委員会の方でも取材を実施する形で、異学年交流に関する意見を集めていった。

 そこには、ちょっとした遊びをしたいといった意見から、ただ色々な話を聞きたいといったもの。さらには、勉強を教えてもらいたいなんて意見などが、特に多くあった。

 そうした意見を集計すると、生徒会の方へ要望という形で、報告した。それから、先生の方へも意見を通すことができたようで、その結果、異学年交流に利用される教室が増えた。

 そして、いつどの教室で何を実施するか、生徒新聞や朝の放送で伝えることで、それぞれ希望する者同士が分かれて集まれるようにした。

 そのおかげで、教室に入れない生徒が出ることがほとんどなくなっただけでなく、それぞれの形で異学年交流は実現していった。

 時には、サッカーをやりたいといった要望があり、その際は春来も参加した。

 春来は、なるべく多くの人がボールに触れられるよう、いつも以上にパスを回すようにした。ただ、自分がボールをキープしている時に、ボールを奪いに来る人がいた場合は、本気で相手をするように意識した。それは、春翔や隆も同じようだった。

「お兄ちゃん達、強い!」

「ホント、全然勝てないよ!」

 ただ、下級生からそんな風に言われて、春来はさすがに手加減するべきだろうかと不安になった。とはいえ、そんな不安は笑顔の春翔を見て、すぐに消えた。

「うん、私達、強いんだよ! これからもハンデなしでいくからね!」

「俺達が勝てるのは今だけかもしれねえからな。追い抜かれねえように、こっちも手が抜けねえよ」

 春翔と隆は、そんな調子で、下級生を相手にしても、容赦がないといった感じだった。

「次は負けないから!」

「ねえ、さっきのどうやったの? 教えて!」

 ただ、下級生の反応も見て、これが正しいのだろうと春来は感じた。

 こうした交流は、評判が良かったようで、その後も続いただけでなく、参加する人も多くなっていった。さらには、放課後でも集まるようになり、それは春来達が下級生の時に経験したことを、上級生として経験する形になっていた。

 そして、春来はこれまで先輩などから習ったことを、下級生に教えた。その際、特に身体が小さくてもできることを中心に教えていった。

 そうして人に教えていると、新たな気付きがあるもので、春来は自然と知識を深めるだけでなく、技術も高めていった。また、自分自身の変化に気付くきっかけにもなった。

 それは、ある日のクラブ活動の時だ。

「春来君と隆君は、もっと普段から姿勢を気にした方がいいと思う」

 きっかけは、そんな先輩の助言から始まった。

「えっと、何でですか?」

「二人とも、成長期を迎えて、身長が伸びているんだけど、こうした時期って、目線をそのまま維持したいって心理が働いて、姿勢が悪くなりやすいの」

 身長が伸びていることは、何となく自覚していた。ただ、それによってどうなるかまで、春来は理解できていなかった。

「最近、下級生を相手にすることが多いでしょ? それもあって、自然と姿勢を低くする癖ができちゃってるんだと思う。だから、今のうちに意識して直した方がいいよ」

「でも、姿勢の低い人を相手にする時、俺は苦戦するので、それでこっちも姿勢を低くしたりして、どうにか対抗しようとしてるんですけど……どうするのがいいんですか?」

 隆は、困った様子で、そんな疑問を先輩に伝えた。それに対して、むしろ先輩の方が疑問を持っているかのような反応を見せた。

「それは、前から春来君と春翔ちゃんを相手にしている、隆君の方がわかるはずだよ?」

「いや、春来と春翔を相手にする時は、とにかく自分が動きやすい姿勢でいねえと、すぐにボールを奪われるから、そうしてるだけですけど?」

「それでいいんだよ」

 先輩からそんな風に言われたものの、隆は意味がわかっていないようだった。

「どういうことですか?」

「身長の差がある人を相手にするって、小さい人も、大きい人も、どっちもやりづらいんだよ。そんな時、何ができるか考えた結果、相手の目線に合わせようと姿勢を変えるのは、一つの方法としていいことだよ」

「はい、だから、俺もそうしてるんですけど?」

「それ、身長の低い人は、できないことだって、わかっている?」

 そう言われて、隆は戸惑っている様子だった。

「いや……確かに、目線を合わせるとか、俺の方からやってますし、そもそもサッカーをやってる時に、身長の低い人が背伸びをするなんて、無理だと思います」

「うん、そうだよ。さっきも言ったけど、身長の差がある人を相手にするって、どっちもやりづらいんだよ。ただ、サッカーは、地面にあるボールを足でコントロールするスポーツだし、むしろ小柄な方が有利なんじゃないかって考える人もいるみたい。そうした意識から、隆君みたいに身長の高い人が、相手に目線を合わせるために、姿勢を低くすることって結構多いんだよね」

 そこまで言われて、隆は気付いたようだった。

「つまり……俺は身長が高いことを活かした方がいいってことですか?」

 そんな隆の答えを受けて、先輩は笑顔を返した。

「どのスポーツでも、体格が大きいとか、身長が高いって、絶対有利になる要素だと、私は思う」

「でも、さっき言った通り、俺は苦戦してるんですけど?」

「それは……春来君に聞いてみようか。春来君は、ずっと自分より身長が高い人を相手にしていたわけだけど、どうしていたかな?」

 そんな風に質問されて、春来は少しだけ考えた。

「僕は身長が低いことをずっと気にしていたから、身長が高い人を相手にどうすればいいか、常に考えていました。同時に、そうしたことを考える必要があるってだけで、不利だと感じていました。ただ、先輩や、他の上級生から様々なことを教えてもらって、今はそこまで不利じゃないかもしれないと感じています」

「春来君は、そういう考えなんだね。じゃあ、隆君に質問するけど、身長が低い人を相手に、どうすればいいかを常に考えているかな?」

 先輩がそんな風に質問すると、隆は困ったような表情を見せた。

「いや、普通は身体の大きさを活用して、リーチの差もあるし、それだけで勝てるから……多分、春来ほどは考えてないです」

「うん、普通はそうなんだよ。その結果、色々なことを考えたかどうかって差で、身長の有利不利を引っくり返すことができる。最近、春来君が下級生に助言していることは、そういったことだよね?」

「えっと……先輩の言う通りです。隆みたいに身長が高ければ、こういったこともできるのにって思いながら、隆がしていないことをすることで、ずっと差を縮めようと考えていましたし、その方法を下級生に教えています」

「春来君は頭で考えるから、そういったことができるんだろうね。それによって、下級生が色々なことを覚えているのも、春来君だからできたことだよ」

 そう言った後、先輩は隆の方へ視線を移した。

「これまでは、そこまで身長の差がなかったから、気付けないこともあったと思う。特に、サッカーを覚えたばかりの子って、予想外のことを当たり前のようにするし、それで翻弄されることも多いだろうね。だからこそ、改めて身長の差がある人を相手にする時、どうすればいいかってことを考えるべきだと思う」

「えっと……わかりました」

「これについては、春来君と一緒に考えたり、春翔ちゃんに相手をしてもらったり、そうするのが一番じゃないかな」

 この先輩の助言をきっかけに、春来と隆は、身長や体格の差を意識するようになった。

 特に、春来はドンドンと身長が伸び、背の順で並ぶ時、段々後ろの方へ並ぶようになっていった。そうしたこともあり、普段の生活から、自分の身長が高くなっていることを意識するようにした。

 春来にそんな変化がある一方、異学年交流はさらに様々なことが行われるようになり、ついにはホームルームの授業を、他の学年と一緒にやるといったことも実現した。

 それは、運動会で同じ群になるクラス同士で行われたため、運動会の準備が始まる前から、多少なりともお互いに知り合うことができる、いい機会になった。それだけでなく、各学年の競技について、誰がどの競技を選択するのがいいかといったアドバイスもできた。

 そうしたこともあってか、この年の運動会は、これまでと違って接戦となり、最後は数点差で優勝が決まるといった、白熱したものになった。

 また、文化祭では、これまで学年ごとに劇をやったり、合唱をやったり、クラスの展示をしたりと、それぞれの学年で全然違うことをやるため、交流などはなかった。ただ、この年は異学年交流の一環として、一部ではあるものの、他の学年のクラスと合同で展示物を作るなど、これまでにないことがあった。

 こうしたことは、積極的に異学年交流に参加していない春来でも、多く経験できた。

 一方、春翔の方は、様々な集まりに参加して、積極的に多くの人とかかわるようにしていた。その結果、春翔は学校中の人に知られ、それこそ一番の有名人といった感じになっていた。

 そうした日々は想像以上に早く過ぎていき、あっという間に生徒会選挙が近づいてきた。そのため、掲示委員会の集会では、選挙について、どういったことを伝えるべきかという話になった。

「個人的に、応援したい人はいるけど、掲示委員会としては、平等に伝えたいよね」

「候補者は四人みたいだな」

「今度、全校朝礼で、掲示委員会から話をすることになってるから、そこで色々とどういったことを伝えたいかとか、言いたいね」

「あと、何を聞きたいか、意見が欲しいってことも伝えたいな」

 委員長と副委員長が、そんな風に話している中、春来はある考えを持っていた。

「はっきり言います。平等というのは、難しいというか……無理だと思います」

 その言葉に、みんなは驚いたような表情を見せた。

「どういうこと?」

「前に『記者の仕事は、自分の伝えたいことを伝える。この一言だけで全部』と言いましたけど、誰を当選させたいかという思いがある以上、どうしても偏った情報になります。そして、どういった情報を伝えたかだけで、誰が当選するかは決まります」

「いや、さすがにそこまでは……」

「これは、テレビや新聞の報道がわかりやすいんじゃないですか? インターネットなどがあっても、大手のマスメディアが誘導すれば、簡単に当選者を決めることができます。方法としては、他の候補者の情報をあまり出さないとか、出したとしても、どうでもいい情報を出すだけにします。その後、当選させたい候補者の情報だけ詳しく出すだけでなく、『こんな人に当選してほしい』なんて感想を誰かが言うなどして、誘導するんです」

 そういったことを見た覚えがあるようで、みんなは複雑な表情になった。

「この学校では、僕達がマスメディアなので、誰か当選させたい人がいるなら、僕達が誘導することで、その人を当選させることができます。というより、さっき言った通り、無意識のうちにそうした誘導をすることになると思います」

「それは嫌だよ。そうしないようにする方法はないの?」

 委員長がそんな風に言っただけでなく、みんなも同じ考えのようだった。それを受けて、春来は自分の考えを伝えることにした。

「これから、僕達は四つのグループに分かれて、勝負をしませんか?」

「え?」

「方法としては、グループごとに応援する候補者を変えるんです。そして、各候補者について、それぞれでポスターを作るなどして宣伝しましょう。勝敗は単純で、応援する候補者が当選したグループが勝ちで……勝った場合、何があるかとかは、みんなで決めませんか?」

 突拍子もない提案だと思われる可能性があり、不安だったものの、みんなは笑顔を向けてくれた。

「それ、面白そう!」

「確かに、それなら色々な候補者の情報を出せそうだな」

「それぞれのグループで偏った意見を出せばいいってことだね! いいじゃん!」

 同じクラスの女子なども加わり、春来の提案にみんな乗り気だった。

「それじゃあ、そのやり方でやってみようか。早速グループを分けるよ」

「先に、グループのリーダーを決めないか? さすがに、今回は委員長と副委員長が同じグループってのは不公平だろ」

 副委員長の提案はその通りで、春来も同じ考えだった。すると、同じクラスの女子が手を上げた。

「じゃあ、後の一人は、私がリーダーをやります!」

 他に希望者もいなかったため、その立候補はすぐに受け入れられた。そうして、四人のリーダーが決まった後は、学年ごとにクジを引く形で、グループ分けをした。

「それじゃあ、応援する候補者は……これもクジで決めるのがいいよね?」

「あ、待ってください。僕が応援する候補者……春翔以外にしてくれませんか?」

 春来がそんな風に言うと、委員長などは驚いた様子を見せた。

「えっと、どうして?」

「みんな、知っていると思いますけど、僕は春翔とずっと一緒にいるので、絶対にみんなより偏った情報を出してしまいます。春翔も、そうしたことを望まないので、今回は他の候補者を応援したいです」

 そうした春来の思いを察してくれたようで、委員長は笑顔を見せた。

「だったら、まず、藤谷ちゃん以外の三人の候補者から、緋山君にクジを引いてもらうよ。その後、私達がクジを引くようにしようか」

 その提案を春来だけでなく、みんなも受けてくれた。

 それから、四枚の紙を用意して、それぞれに候補者の名前を書いた後、春翔の名前が書かれた紙以外の三枚を、袋の中に入れた。そして、先に春来が引いた後、春翔の名前が書かれた紙を袋の中に加えたうえで、他の三人が順にそれを引いていった。

 その結果、春来が応援する候補者は、今の生徒会長が応援している、これまでなら次の生徒会長になることがほとんど決まっている人――東阪とうさか結莉ゆりになった。

 一方、春翔を応援するのは、同じクラスの女子をリーダーとするグループに決まった。

「じゃあ、今度の全校朝礼で、今日決まったことを話そうか」

「四人のリーダー、それぞれで話すのがいいだろうな。急だけど、何を話すか全校朝礼までに考えよう」

 そういった形で、この日の集会は終わった。

 その後、春来は春翔に委員会であったことを伝えた。今更ながら、春翔を応援しないことになることを伝えて、怒らないかと心配になったが、春翔は笑顔だった。

「春来が相手でも、私は負けないよ!」

 それは、強がりなどでなく、本音だと、はっきりわかった。だからこそ、春来も笑顔を返した。

「それじゃあ、お互い全力でね」

「うん、私もハンデなしでいくから!」

 そうして、春来達はそれぞれ応援する候補者のことを調べつつ、全校朝礼のある日が近づいてきた。

 そんな時、生徒新聞などを掲示している掲示板に、あるポスターが貼り出された。

 それは、掲示委員会の春来が、恋人の春翔を生徒会長にしようとしているといった、春来と春翔を非難する内容だった。

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