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TOD  作者: ナナシノススム
ハーフタイム
189/272

ハーフタイム 54

 全校朝礼がある朝。春来は、いつもよりも早い時間に家を出た。

 このことは、昨日、夕飯を食べ終わった後、春翔にも伝えていて、当初は春翔も一緒に行きたいと言っていた。ただ、春来はそれを断ると、代わりにやってもらいたいことを説明したうえで、一人で学校に向かった。

 そして、学校に着くと、春来は空き教室に向かった。そこには、掲示委員会と、先輩を含む放送委員会の人が集まっていた。

 それだけでなく、隆やサッカークラブの人、さらには見慣れない人など、他にも多くの人が来ていた。

「何で、隆がいるのかな?」

「てか、何で俺に声をかけねえんだよ?」

「今日、会って話せばいいと思ったから……でも、確かにもっと早く伝えれば良かったね」

「まあ、俺達は大したこと、できねえけどな。とにかく、協力するからな」

「ありがとう。協力してくれる人は、一人でも多い方がいいから、本当に助かるよ。でも、色々と先生とかから言われる可能性もあるし、大丈夫かな?」

「俺も体育委員で副委員長をやってるし、春来とか春翔がしようとしてること、こっちでも何かできねえかと、昨日みんなで話したんだよ。その話をしようとしたら、春来は先に帰ってるし、何か面倒なことになってるって話はあるし、それで俺も協力することにしたんだ」

 隆は、同じクラスの女子などから、これまでの事情を聞いたそうで、おおよその状況は理解しているようだった。

 そのうえで、サッカークラブや、体育委員会の人達に声をかけてくれたようで、全員ではないものの、多くの人が集まってくれた。

「まあ、みんなに状況を説明したのは、私だけどね!」

 そんな風に言ったのは、同じクラスの女子だった。

「確かにそうだけど、わざわざ言わなくていいだろ」

「ちゃんと私の活躍だって、アピールしないとね」

 そんな二人のやり取りを見て、春来はふと感じたことがあった。

「二人って、元々知り合いか何かだったのかな?」

「ああ、言ってなかったけど、家が近所なんだよ」

「じゃあ、幼馴染ってことかな?」

「別に、春来と春翔ほど、かかわりがあった訳じゃねえし、幼馴染って感じじゃねえけどな」

「クラスもずっと別々だったしね。お互い、とりあえず知ってるってぐらいの仲だよね」

 隆達の意外な関係を知り、春来はそういう関係もあるのかと、少し驚いた。

「ほら、時間もないし、無駄話はそれぐらいにして、ちゃんと話すよ!」

 そこで、掲示委員会の委員長がそんな風に切り出したため、春来は頭を下げた。

「すいません。僕は先に帰ったので、あの後どうなったか聞かせてください」

 それから、委員長と副委員長を中心に、昨日春来が帰った後の話があった。

 まず、放送委員会の人に取材して、協力してくれそうな人を探してもらった結果は、既に多くの人が集まっていることから、上手くいったようだ。何より、取材をした相手である、放送委員会の人達が集まってくれたことは、心強かった。

「協力してくれそうな人を教えてもらおうとしたんだけど、そしたら、みんなも協力すると言ってくれて、良かったよ」

 春来は、あくまで協力してくれそうな人を探すため、放送委員会の人に取材してほしいといったお願いしかしなかった。ただ、その結果、こうして放送委員会の人が協力してくれることは、春来の予想通りだった。

 これまで、放送委員会は自らの意思で、掲示委員会の活動を後押しするような形で協力してくれた。そんな人達に、協力をお願いするのは、何か違うと考え、協力してくれそうな人を探してほしいといった、遠回しなお願いをした。また、そうした方が放送委員会だけでなく、他にも協力してくれる人が集まるだろうと予想していた。結果、その予想通りになった形だ。

「あと、生徒会のうち、生徒会長の意見に反対しそうな人にも取材したよ」

「緋山の言う通り、事前に誰を取材すればいいか、ちゃんと調べた。ただ、その結果は、ちょっと予定より悪かったんだ」

 また、春来は生徒会の人への取材もお願いしていた。ただ、そちらの方は、想定よりも悪い結果になっているようだった。

「知ってるかもしれないけど、生徒会長になる奴は、基本的に前の生徒会長に応援されてた奴だ。当然、今の生徒会長もそうだ。それで、その生徒会長が次の生徒会長にしたいと思ってる五年がいる」

 生徒会長にみんなが逆らわない理由の一つとして、単に怖いからというだけでなく、このことも関係していることは、春来も把握していた。

「それと、生徒会長に気に入られようとしてる五年が他に二人。元々、生徒会長を応援してた六年が一人。生徒会長を入れた、この五人が、異学年交流に反対するだろうってことになった。だから、この五人には取材してない」

 ただ、十人いる生徒会のうち、半数の五人が生徒会長の意見になってしまっているというのは、想定外だった。

「孤立しているように見えたんですけど、思ったより多いですね」

「でも、反対に、副会長などを含めた他の五人は、生徒会長が怖くて、嫌々ながら従ってるって感じみたいだよ。藤谷ちゃんも、そうでしょ?」

「まあ、生徒会長を怖がってるってのは、さっき言った五人も同じだけどな」

「とりあえず、藤谷ちゃん以外の四人に対しては取材して、生徒会長の言いなりになっている現状をどう思ってるかとか、それをどう変えたいかって取材をしたよ」

「これまでで、相当不満が溜まってるんだろうな。みんな、生徒会長の意見に反対してくれそうな雰囲気だった。まあ、さっき言った通り、半数しかいなかったってのが、どうなるかだな」

 そんな話を聞きながら、春来はどうするべきかと頭を働かせた。

「やっぱり、問題か?」

「いえ……誰か、朝礼が始まるまでの間に、追加で取材をしてくれませんか? 取材の相手は、生徒会の五年生で、どうすれば生徒会長になれると思っているか? といった内容にしてください。その後、全校生徒の票が必要という話に誘導した後、全校生徒の意見と生徒会長の意見が違った時は、どうした方がいいのか? と質問してみてください。それで誘導できなかったら、しょうがないです」

 春来は昨日の取材で足りなかった部分の補完として、追加の取材をお願いした。

「だったら、同じクラスの僕がやるよ」

「じゃあ、こっちは私がやるね」

「うん、お願いします」

 そんな話をしていると、教室に入ってきた者がいた。それは、掲示委員会の先生だった。

「みんな、おはよう。こんなに集まったんだね」

「おはようございます。先生、それでどうなりました?」

 そんな質問をすると、先生は複雑な表情を見せた。

「とりあえず、話は聞いてもらえたよ。だから、今日の状況次第で、どうにかなるかもしれないけど、僕にはわからないよ」

「それだけでも十分です。ありがとうございます」

 そして、春来は前に出ると、みんなに顔を向けた。

「それじゃあ、改めて、今日の全校朝礼で何をするか、説明します。簡単に言えば、全校生徒の多くが同じ意見を持っているかのように、誘導します」

 春来の策は、今日の全校朝礼で、異学年交流に賛成する人が多く、反対する人は生徒会長を含めても少ないと思わせることだ。

「基本的には、委員長達に頑張ってもらうことになります。方法としては、全校朝礼で生徒会長が話している途中で、朝礼台に上がってもらって、こちらの意見を伝えてもらいます」

「生徒会長からマイクを奪えばいいんだよね? そんなことしたら、生徒会長は激怒するだろうね」

「奪い返そうと、向こうは必死になるだろうが、こっちも必死にそれを守る」

「そうでもして伝えたいことがあるといった印象を持たせるため、本当に必死になってください。まあ、実際大変だと思うので、わざわざこんなこと言う必要、ないかもしれませんけど……」

 今日の全校朝礼で、こちらが発言する機会を得ること。それが、まず一番にしたいことだ。

「それで、委員長達に異学年交流について、話してもらいます。一応、どういったことを言えばいいかは説明しましたけど……」

「大丈夫。昨日、しっかり練習したから」

「任せておけ。緋山の言った通りにする」

 委員長と副委員長は、自信に満ちた様子だった。それを見て、春来は安心した。

「それから、生徒会長だけでなく、生徒会として、他の人はどんな意見を持っているか、質問してもらいます。それで、生徒会としても異学年交流に賛成している人が多いと示してもらいましょう」

「うん、わかったよ」

「そうして、意見がこちらに傾いたところで、僕達も賛成していると声を上げましょう」

 無関心な人が多い中、声を上げる人がいれば、何となくといった形で賛同する人は一定数いる。その性質を利用して、あたかもみんなが賛成しているかのように演出できれば、こちらとしては成功だ。

「ああ、俺達で大きな声を出してやろう」

「何か、お祭りみたいでワクワクするね」

 これから大きなことをしようとしている状況で、隆や同じクラスの女子を中心に、みんなは気持ちが高揚しているようだった。それは、いい状況だと春来は感じた。

 そうこうしていると、朝のホームルームが始まる時間が近付いてきた。そのため、春来はここで話を切り上げることにした。

「みんなが遅れて教室に行くと、不審に思われる可能性があります。なので、そろそろ教室へ行きましょう」

「うん、そうだね」

「さっき言った、追加の取材の件、よろしくお願いします」

「うん、わかったよ」

「私達は、改めて何を伝えるか、しっかりまとめておくね」

 最後に、それぞれがそんな風に話したところで、解散することになった。ただ、みんなが空き教室を出ていく中、春来はしばらくそのまま待機して、人が少なくなるのを待った。

「春来、行かねえのかよ?」

「うん、そろそろ行こうかな」

「うん、いい頃かもね」

 それから、隆達と一緒に空き教室を出た。ただ、少し歩いて、周りに他の人がいなくなったところで、春来は足を止めると、振り返った。そこには、春来を追いかけてきた、先輩がいた。

「春来君、こっちは準備できているよ」

「はい、ありがとうございます」

「伝言を伝えたのは、私だからね!」

「うん、わかっているよ。ありがとう」

 昨日、先輩の方へは、同じクラスの女子を通じて、別のお願いをしていた。そちらも上手くいっているようで、春来は安心した。

「おい、まだ他に何かやるつもりなのか?」

「僕は何もしないよ」

 春来は含みを持たせつつ、そんなことを言った。

「そのことなんだけど……」

 ただ、先輩は複雑な表情で、切り出した。

「生徒会長は、手強いよ? 多分、このままだと上手くいかないと思う」

 先輩が何を言っているのか、春来は理解できなかった。ただ、そんな不安にさせるようなことを言いつつ、先輩は笑顔を見せた。

「だから、春翔ちゃんに、一言だけでも声をかけてあげて」

「いや、もう伝えたいことは、全部伝えましたけど……」

「それじゃあ、足りないと思う。だから、お願いね」

 先輩からそこまで言われて、春来は頷いた。

「わかりました」

 そんな先輩とのやり取りを見て、隆は不思議そうな表情を見せた。

「いや、マジで何をする気なんだよ?」

「だから、僕は何もしないよ」

 ただ、春来はそう言って、また誤魔化した。

「それじゃあ、後で行きますね」

「うん、待っているよ」

 そうして、春来は先輩と別れると、隆達と一緒に教室へ向かった。

 教室に着いてから少しすると、朝のホームルームが始まり、いつも通り出席などを取った。その後、全校朝礼のため、全校生徒は校庭に集まることになった。

 そこで、春来は動くことにした。

「先生、僕はトイレに寄っていきます」

 春来はそう伝えると、校庭に行くこともなければ、トイレに行くこともなく、学校の裏門を目指した。

 そして、裏門で待っていた、先輩と春翔を見つけた。

「春翔、おはよう」

「うん……春来、おはよう」

 どこか元気がない様子の春翔を見て、春来は心配になった。

「大丈夫かな? まさか、本当に体調を崩しちゃったのかな?」

「ううん、大丈夫。本当の私は、体調万全だよ。嘘の私は、体調を崩しているけどね」

 この日、春翔は体調不良で休むと、親を通じて学校に連絡してもらっている。そのうえで、なるべく他の人に見つからないよう、少し遅れて来てもらうだけでなく、ほとんどの生徒が使わない裏門から入ってもらった。

「ただ……春来に朝会えないこと、ほとんどないから、何だか不安になっちゃったんだよね」

 そう言うと、春翔は笑顔を見せた。

「だから、春来に会えて嬉しい。春来、ありがとう。私は大丈夫だよ」

 そんな春翔の笑顔を見て、春来は安心した。

「それじゃあ、僕は戻るね。僕は見ていることしかできないと思うけど、春翔なら大丈夫だよ。春翔の伝えたいことを、みんなに伝えてよ」

「うん、ありがとう。でも……ちょっと待って」

 そう言うと、春翔は春来のすぐ目の前まで歩み寄ってきた。

「春翔?」

「少しだけ、このままでいさせて」

 春翔が真っ直ぐ春来の目を見てきたため、春来も同じように、春翔の目を真っ直ぐ見た。

 それは、これまで何度かあったことなのに、どこか違和感のようなものを春来は覚えた。ただ、その違和感の正体は、わからなかった。

「春来、ありがとう。私は、伝えたいことを伝えるよ」

 そう言うと、春翔は満面の笑顔を見せた。それを見て、春来は改めて安心した。

「それじゃあ、僕はそろそろ行かないといけないから、行くね」

 そうして、離れようとしたところで、先輩が春来の腕を掴んだ。

「待って。春来君、裏方に徹するつもりみたいだけど……多分、そうならないと思う」

「え?」

「でも、きっと春来君達なら、大丈夫だよ。だから、したいことを全力でしてね」

 先輩が何を言っているのか、春来は理解できなかった。ただ、先輩の強い目を見て、自然と頷いていた。

「はい、わかりました」

 そうして、春来はその場を離れると、校庭へ向かった。

 校庭では、既に各クラス背の順で並んでいた。そのため、春来はいつもと同じように、列の前の方に入ろうとした。

「春来、さすがにもっと後ろでいいんじゃね?」

 そんな春来に声をかけたのは、隆だった。ただ、そんなことを言われた理由が、春来にはわからなかった。

「え、何でかな?」

「いや、何でって……まあ、今度でいいか」

 隆から気になることを言われつつ、そのまま春来は列の前の方に入った。

 そして、少しすると、校長先生が朝礼台に上がり、全校朝礼が始まった。

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