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TOD  作者: ナナシノススム
ハーフタイム
184/272

ハーフタイム 49

 通学路を守るように伝えたポスターも、貼り出されてすぐに反響があった。そのことは、雑用としてポスターの貼り替えをしている際、委員長から話があって春来も知った。

「通学路を守らない人が減っただけでなく、誰が守ってないかも特定できて、ちゃんと先生から個別に注意したみたいだよ」

 完成したポスターは、先日の集会で話した通り、「先生が不定期に見張るといった話がある」という内容を最も大きい文字で伝えつつ、追加で「関係ないなんて思わないで、みんなで通学路を守ろう」という内容もそれなりに大きな文字で入れた。

 そして、その内容に興味を持った人向けに、何故通学路を守らないといけないかといった内容は、小さな文字で詳しく書いた。これは、直す前のポスターにも書かれていた内容で、興味を持った人なら、きっと読んでくれるだろうといった考えで入れることになった。

 それは、いい結果を生んだようで、通学路を守らないことを悪いと解釈する人が増え、中には注意する人や、先生に報告してくれる人もいたようだ。そうして、通学路を守らない人は、恐らくいなくなっただろうとのことだった。

「一時的なもので、また通学路を守らない人が出るかもしれませんけど……」

「その時は、また放送してもらうとかすれば、いいんじゃないかな?」

 サッカークラブの先輩を中心に、放送委員会の方でも話を進めてくれたようで、掲示委員会が作った生徒新聞やポスターの内容を放送でも伝えてくれるようになった。

「最初は、せっかく掲示委員会で作ったものを横取りされるみたいで嫌だったけど、こんなに効果があるなら、確かにお願いして正解だったね」

 放送委員会の方で放送するといった話が出た時、掲示委員会の許可を得るべきだといった話も当然出たそうで、ある日の休み時間に、春来は呼び出された。

 そこには、放送委員会と掲示委員会、それぞれの委員長と副委員長、それから春来の知り合いだからという理由で来た先輩がいた。そして、放送委員会の委員長から、放送する許可がほしいとお願いがあった。このような形になったのは、次の集会まで待てないといった考えからだったそうで、許可が取れ次第、すぐにでも放送したいとのことだった。

 ただ、掲示委員会の委員長は乗り気でなく、当初は断ろうとしていた。それに対して、春来達が説得して、無理やり納得させる形になった。そのため、実際に放送があるまで、上手くいかないんじゃないかと思っていたようだ。

「でも、放送があった後、生徒新聞やポスターを見たって人がさらに増えて、驚いたよ」

「新聞とテレビの関係もそうですけど、色々な方法で伝えるって、極一部の人だけでなく、多くの人が同じように考えているかのように錯覚させることができるので、有効なんです。前にも見たことがあるとか、前にも聞いたことがあるとか、そんな風に感じることって、普段ないですか? そうした時って、初めて知った時よりも、そのことを覚えやすいんです」

「確かに、言われてみればそうかも」

「まあ、新聞やテレビの場合、色々な新聞で見たとか、色々なチャンネルで見たとか、そういったこともあるので、より覚えやすくなっていると思います。ただ、情報元はどこかと辿ってみると、大体同じなんです。なので、実際は極一部が言っているだけの情報ってことになるんですけど、様々な人がそう言っているかのように多くの人は感じてしまうんです」

「この前も思ったけど、それって何かずるくない?」

 こうしたマスメディアの問題について話すのは、これまであまりしてこなかったことだ。ただ、掲示委員会に入ったことで、春来はこうした話をする機会が多くなっていた。

「緋山君、将来は記者とかになれそうだね」

「ああ、えっと……記者になるつもりはなくて……」

「サッカーも上手だもんね」

「僕がサッカーをしていること、よく知っていますね」

「知ってるに決まってるじゃん。何かすごくサッカーの上手い子がいるって感じで、ずっと前から有名だったよ?」

「それは、春翔と隆のことですよね? 僕は、そんな噂になるほどじゃないので……」

「そこまで謙遜すると、逆に印象悪いよ? というか、褒められた時は素直に喜んでよ」

「えっと……じゃあ、ありがとうございます」

 そう言いつつも、春来は複雑な気持ちだった。

 その後、委員会の集会は、掲示委員会と放送委員会の合同で行われることも時々あった。そうして、特に遠足について、何を伝えるかを決めたうえで、それぞれの形でそれを伝えていった。

 その結果、遠足は各学年ともに楽しい内容になったそうだ。特に一年生と六年生は、事前に話したいことなどをお互い考えたことで、様々な話ができたそうだ。こうした話は、委員会やクラブ活動などで、多くの人から話を聞くことができ、そのたびに春来は嬉しくなった。

 同時に、春来の中にある正体のわからない不安は、ドンドンと大きくなっていった。そして、その正体が何なのかも、少しずつわかってきた。

 別のクラスになったとはいえ、春翔と一緒の時間――近くにいる時間は、誰よりも多くあった。しかし、近くにいるのに、どこか遠く感じることがあった。そして、春来の中で、そう感じることが少しずつ増えていっているような気がしていた。

「春翔、生徒会の方は、どんな感じなのかな?」

「前も言ったけど、五年生は補佐って感じで、生徒会長や副会長を手伝うのが中心だし、特に何もないよ」

 生徒会は、生徒会長と副会長が中心のようで、他の人が何か意見を出すことすら難しいのかもしれない。春翔の雰囲気から、春来はそんな風に感じた。そのため、こうして話そうと思っても、いつもすぐに話を終わらせていた。それどころか、そもそも話題に出すことすら避けるようになりつつあった。

「僕の方は、どうにか副委員長も続けられているし……」

「そうなんだ」

 そして、春来の方から掲示委員会のことを話そうとしても、春翔は興味がないかのような反応をするだけだった。そのため、春来も掲示委員会の話をほとんどできないでいた。

 元々、マスメディアに関する話をしようとすると、春翔は興味がないというより、むしろ不機嫌になっていた。そのため、春来は自然とマスメディアに関する話をしないようになった。それと似たような雰囲気を、委員会に関する話でも感じていた。

 今、掲示委員会の活動について、様々な人が春来を評価してくれていることは、自覚していた。しかし、春翔だけは、生徒新聞やポスターなどについて、何の感想も言ってくることがなく、それが春来の中で不安になっていた。それこそ、自分は何か間違ったことをしているんじゃないかと、そんな風に思ってしまいそうだった。

 ただ、春翔とそんな形で距離を感じるようになった一方、掲示委員会の活動は、順調に進んでいった。

「この前の遠足、私も楽しかったし、みんなもそんな風に思ってるみたいなんだよね。それで……これは、私個人がしたいことなんだけど、取材を……取材の真似事みたいなことをしてみたいんだよね」

 委員長が「真似事」という単語を付け加えたのは、何かしらかの不安を持っているからだろう。そんな風に春来は感じた。

「上手く言える自信がないんだけど……この前の遠足で、一年生の子と色々と話ができて、私はすごく楽しかったの。でも、相手はどうだったのかなって思って……遠足の感想を聞きたいんだけど、個人的に聞くのは良くないと思うし……」

「個人的に聞きたくないから、掲示委員会の活動として、聞きたいってことか? それは、さすがにダメだろ。委員長だからって、好き放題できるわけじゃないからな」

「違う違う! いや、そうなんだけど……みんなも気になるでしょ!? だから、みんなで取材しよう!」

「いや、強引に進めるなよ!」

 委員長と副委員長のやり取りは、まるで漫才のようで、みんなが笑った。

 そうした光景を見つつ、春来は思うところがあった。そして、勇気を出して、それを伝えることにした。

「僕は、低学年の頃から、上級生の人と一緒にサッカーをやって、いい経験をさせてもらったと思っています。ただ、そうした経験をしている人は、あまりいないということを最近知って、色々と複雑な気持ちになりました」

 春来は、これまでの経験から、そんな意見を出した。

「それに、クラブ活動が始まるまで、僕も下級生とかかわる機会は、ほとんどありませんでした。これは、今もあまり変わっていなくて、一年生から三年生の人とかかわるのは、運動会とか、文化祭ぐらいしかないですよね?」

「確かにそうだな。それに、クラブ活動も委員会活動も、一部の人としか会わないし、運動会とかも、特定のクラスの人としか一緒にならないよな」

「はい、そうです。だから、他の学年の人に取材するというのは、いい機会になると思います。ただ、取材するとしたら、恐らく休み時間とかですることになると思うので、今度こそ負担が増えますよね?」

「やりたい人だけやるってことでもいいよ。誰もやりたくないなら、私だけでやるし……」

「委員長とはいえ、それはさすがに許されないんじゃないですか?」

「俺もそう思う。ちゃんと、みんなの意見を聞いて、掲示委員会としてどうするかって決めるべきだろ」

 春来達がそんな風に言うと、委員長は困っているような様子を見せた。そうした委員長の様子を見ながら、春来は春翔のことを思い出していた。

 春翔は、もっと他の学年の人と仲良くなれる学校にしたいという願いを持っている。今、委員長が言っていることは、そんな春翔の願いと似ていた。そう考えたうえで、春来は結論を出した。

「僕個人の意見を言います。僕も、他の学年の人に取材したいです。それだけでなく、自分の経験を伝えたいです。僕は、春翔……えっと、幼馴染とか……」

 春翔のことを知らない人がいるだろうと思い、春来は幼馴染と言い換えた。

「周りの人のおかげで、上級生とかかわる機会がずっと前からあって、本当にいい経験だったと思っています。えっと……だから、僕は委員長の提案、いいと思います」

 上手くまとめることはできなかったものの、春来は自分の思いをどうにか言葉にして、みんなに伝えた。

 その直後、同じクラスの女子が手を上げた。

「私もやりたいです!」

 それをきっかけに、他の人も含め、全員が手を上げた。

「僕もやりたいです」

「私もやります」

 そうして、何人かは反対すると思っていたのに、全員が賛成の意思を示した。それも、周りに合わせているというより、それぞれの意思で賛成しているように見えた。

「みんな、いいの?」

「まあ、委員長がこれだけやりたいと言ったら、みんなもやりたいと思うよな」

 副委員長の言う通りで、委員長は強い意志を持ったうえで、自分のやりたいことを伝えた。それにより、全員の気持ちを変えたように感じた。少なくとも、春来は委員長によって、決心することができた。

「それじゃあ、誰がどの学年を取材するか、分担しようか!」

「取材は、複数人でやるのがいいと思います。一人だと考えが偏ることがありますし、何を聞いていいか不安になることもあるはずです。だから、複数人で取材するようにしませんか?」

 これは、以前ペットショップの問題で、春翔達が取材した時のことをヒントに思い付いたことだった。当時、春来は一歩引いて見るだけだったため、一人でなく、複数人で取材することの利点を強く感じた。そうした経験を踏まえて、春来からどうしたいかを伝えた。

「だったら、同じクラスの人達で一緒に取材をするのがいいかな?」

「まあ、それがわかりやすいな。ただ、それだと副委員長の俺と、委員長の二人で取材することになるけど、いいのか?」

「え、嫌なの?」

「そういう訳じゃないけど、取材される方が困りそうだし、ここは適当にクジとかでも……」

「実際に取材してみて、問題があったら変えればいいんじゃないですか? だから、まずは同じクラスの人と一緒に取材をするという形で、いいと思います!」

 同じクラスの女子がそんな風に言ったのを受け、他の人も同じ考えのようだった。ただ、春来はその考えに対して、ある提案を追加することにした。

「同じクラスでなく、運動会で同じ組になる人達で分けませんか? 六年生と一年生は、一緒に遠足へ行ったクラスと、運動会も一緒の組になりますよね? だったら、そこに五年生の僕達を加えるという形で、一緒に取材しませんか?」

「確かに、それがいいね! そういうことなら、学年で分けるんじゃなくて、それぞれ運動会で同じ組になるクラスへ取材に行くようにしようか」

「いい案だけど、それだと、緋山も俺達と一緒に取材することにならないか? さすがに、委員長と副委員長、勢揃いは良くないだろ?」

「ああ、確かに……」

「いや、むしろ良くないですか? 委員長と副委員長、勢揃いの最強チームに、みんなは勝てるかーみたいなの、みんな燃えるんじゃない?」

 同じクラスの女子が出した提案は、滅茶苦茶なものだった。それにもかかわらず、他の人は乗り気になって、そのまま話がまとまってしまった。

 そうして、誰と一緒に取材するかだけでなく、どのクラスの取材へ行くかといったところまで話が進み、今度はどういった形で取材するかという話になった。ただ、これについて、春来は既に案があった。

「特定の誰かを取材するというより、直接教室へ行って、そこにいる全員に質問するという形でいいんじゃないですか? それで、簡単な話だけ聞いたうえで、もっと詳しい話をしたい人は、個別に話してほしいと伝えるんです。生徒新聞やポスターもそうですけど、あくまで興味を持ってもらうきっかけにできれば、それでいいと思うんです」

 そうした春来の案はすぐに受け入れられた。そして、今回はあくまで遠足の感想を聞くだけにしようといった形で話がまとまった。

 そのタイミングで、それまで何か言いたそうにしつつも黙っていた先生が口を開いた。

「ごめん、話がここまでまとまったところで言うのも悪いんだけど、さすがに委員会活動の範囲を超えているというか……」

「はい、僕もそう思います。なので、僕達は自由時間である休み時間に、好きなことをやるだけですよ」

 春来は落ち着いた様子で、そう答えた。それに対して、先生は戸惑っている様子だった。

「えっと……」

「元々、委員会活動として、こうした取材をしようとは話していませんでしたよ? ただ、お互いにこうした取材をしたいという話になって、意見を出し合っただけです。それで、みんな自由に休み時間を使って、自由に取材をしようかといった話になっただけです。この時、掲示委員会の者だといった自己紹介をしたり、後で取材した結果どうなったか報告し合ったり、全部委員会活動でなく、個人の自由としてやっていいことですよね?」

 春来は、あらかじめ先生から反対されることを予測して、どう反論するかを考えていた。それは、はっきり言って屁理屈であり、むしろ暴論でもあった。

 しかし、話がまとまっている今の状況において、取材することに賛成しているみんなは味方であり、それに反対する先生は敵だった。

「そうだよ! 私達は個人の自由で取材するだけだから!」

「別に、悪いことはしてないよな?」

「私達は、休み時間に何をしても、いいんですよね?」

 そんな風にみんなが意見を出して、先生は困っている様子だった。

 ただ、春来は自分達より、先生の方が正しいのだろうと感じていた。それでも、こうした形にしたのは、ちょっとした意地のようなものがあったからだ。

 この時、春来がこんな強引なことを進めた理由は、春翔が掲示委員会の活動について、ほとんど何も言ってくれないからだ。だから、春来は意地になって、掲示委員会として、学校中で話題になりそうな活動ができないかと考えていた。そんな時、委員長から取材をしたいという話が出て、それを利用した形だった。

 そんな不純な動機がありつつ、春来の希望通り、掲示委員会は、休み時間を利用して取材することが決まった。

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