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TOD  作者: ナナシノススム
ハーフタイム
182/272

ハーフタイム 47

 数日後、春来達は、それぞれ自分の希望する委員会を選択した。

「春翔、生徒会に入れたんだね」

「春来も掲示委員会に入れたみたいで、良かったね」

「俺も希望通り、体育委員会に入れた」

 希望者が多かった場合、抽選などで別の委員会になってしまう生徒もいる中、春来達は全員、希望する委員会に入ることができた。

「私、今から生徒会長になってやりたいこととかを考えてみたんだけど、もっとみんなが他の学年の人と仲良くなれる学校にしたい」

 先日、先輩も含めて話した後、春翔は生徒会長になりたいという気持ちをさらに強く持ったようで、具体的に何をしたいかといったことを考えるようになった。

「確かに、俺達はサッカーをやってるから、結構先輩と一緒になること多かったけど、他はほとんどそういったことねえもんな」

「僕達も、後輩とはクラブ活動が始まるまで、ほとんど交流とかなかったね」

「生徒会で、何かイベントを考えるってこともできるみたいだし、私はそういった形で変えていきたい」

 春翔の強い思いは、はっきりと伝わった。それを受けて、春来も心に決めていたことを、より強くした。

「春翔の思いが伝わるよう、僕も掲示委員会で頑張るよ」

「うん、お互いに全力で頑張ろうね」

「俺は体育委員だけど、俺だって全力で頑張るからな」

 最後に、そんなことを言った後、春来達はそれぞれ、初めてとなる委員会の集会へ向かった。

 まず、最初にあったのは、改めてこの委員会でどういったことをやるかといった説明だった。その説明によると、春来の選択した掲示委員会は、先生が用意してくれた掲示物を貼る代わり、古い掲示物をはがすという作業を交代してやるのが、中心の作業になるそうだった。それは、いってしまえば、誰でもできる雑用といった感じだった。

 ただ、月に一回、掲示板に貼る生徒新聞を作成するのも大事な仕事とのことで、全員に去年の生徒新聞が配られた。これは、生徒新聞がどういったものか、改めて確認してもらう目的があったようだった。

「こういった感じで、去年のがあるから、これを基に作るんだけど……てか、基本的にこのままでいい部分がほとんどで、一部だけ変えるだけだよ」

 生徒新聞ということもあり、いつもある程度決まったレイアウトをそのまま使いながら、一部の記事だけ変えればいいといった、そんなことしかしていない。そのことについて、誰も何も疑問を持っていない。そんな状況になっていることを、春来は知った。

 この時、いつもの春来だったら、何も言わないつもりだった。しかし、春翔と一緒に全力で頑張ると約束した春来としては、黙っていられなかった。

「ごめんなさい。この内容で何を伝えたいのか、僕はわからないです」

 そんな発言をすると、特に先輩達が不機嫌そうに表情を歪ませた。

「どういうことだよ?」

「反対に質問します。今回の生徒新聞で、一番伝えたいことは何ですか?」

「それは……」

 春来の質問に対して、答えられる人は、誰もいなかった。それもそのはずで、単に決まったレイアウトを使って作っただけの物を、説明できる訳がなかった。

「今回、一番伝えるべきことは、もうすぐある遠足に関する情報だと思います。一応、確認なんですけど、一年生と六年生は、今年も一緒に行きますよね?」

 下級生と上級生の交流といった形で、一年生の時、六年生と一緒に何かするイベントが、いくつかあった。その最初が、近々ある遠足で、他の学年は日を分けたり、場所を変えたりする中、一年生と六年生は同じ日に同じ場所へ行くことになっている。そのことを思い出しながら、春来は言いたいことがあった。

「僕も一年生の時、六年生の人と一緒に遠足へ行ったことは覚えていますけど、何があったか、ほとんど記憶に残っていません。生徒新聞として、色々な所に掲示するなら、まず遠足のことを……特に一年生や六年生に向けて伝えるのが一番じゃないですか?」

 そんな風に伝えたものの、他の人には、自分の意図が伝わらないかもしれない。そもそも、自分の言っていることが間違っているかもしれない。そんな不安が春来の中にはあった。それでも、これが伝えるべきことだと思い、全力で伝えた。

「……確かに、そうだと思います」

 すると、同じクラスの女子がそんな風に発言した。それをきっかけに、他の人も様々な反応を見せた。

「遠足のことを伝えるなら、これだとわかりづらいよね」

「てか、何かゴチャゴチャしてて、意味わからないんだけど」

「他に書いてあるのは……クラブとか委員会の紹介って、今必要かな?」

「そもそも、生徒新聞って、全然見たことなかったけど、こうしてみると何かおかしいね」

 こうした意見を出すのは、これまで生徒新聞の作成にかかわっていない、五年生が中心だった。ただ、六年生の中にも、今の生徒新聞に疑問を持っている人がいるようで、思い思いに意見を伝えていた。

「みんなの話はわかったけど、じゃあ、どうすればいいのかな?」

 多くの人の意見を受けて、そんな風に返したのは、去年も掲示委員会に入り、副委員長を務めたという女子の先輩だった。

 みんな、今の生徒新聞について、良くない部分があるという指摘はできていた。ただ、どうすればいいかはわからないようで、すぐに黙ってしまった。

 そんな中、春来だけは違った。

「今の生徒新聞って、文字の大きさをほとんど同じにしていますよね? そうではなくて、特に伝えたいことを大きな文字にするといいんじゃないですか? それで、まず興味を持ってもらった後、細かい文字で、詳細を伝えるという方が、伝えたいことを伝えることができると思います」

 それは、マスメディアが出している新聞などで、普通に行われていることだ。ただ、そちらでは、妙に不安を煽る見出しと、集中して読んでもわからない詳細といった印象しか、春来は持っていなかった。とはいえ、人に興味を持たせ、情報を伝えるということだけ考えれば、新聞のレイアウトは、参考になる部分が多くあった。

「まず、遠足の日時や行き先が、学年によって違うということを、ほとんどの人は知らないと思います。なので、各学年ごとに遠足の楽しみ方みたいなものを伝えるのはどうですか? 特に入学したばかりの一年生には、学校のことを知ってもらう機会になると思います。なので、例えば、一緒に行く六年生に聞きたいことを事前に考えてもらうとか、そうしたことを伝えるのはどうですか?」

 普通に考えれば、そうしたことは先生が生徒に言えば済むことだ。ただ、春来はそうしたことを言われた記憶が一切ない。もし、言われていたら、何を質問しただろうか。そんなことを思いつつ、先生が言わないなら、自分達で伝えようと思い、そんな提案をした。

「そういうことなら、六年生の方でも、一年生に何を話したいか、考えるように促すのがいいかもね。正直言って、一年生と遠足に行くとだけ言われて、何をしていいかわからないもん」

「言われてみればそうだな。てか、それを生徒新聞で伝えるって難しいな」

 気付けば、六年生の人達も、生徒新聞で何を伝えたいかと考え始めてくれた。そうした様子を見て、春来は席を立った。

「すいません、黒板を借りてもいいですか?」

 それから、春来は黒板に、簡単なレイアウトのようなものを書いた。

「簡単に考えただけですけど、今は新学期で、みんな何かしらか新しい環境にいます。そのことを伝えたうえで、遠足で交流を深めてほしいといったことを伝えるのはどうですか? そのためには……」

 春来は、頭の中にあるイメージを黒板に書いていった。

「生徒新聞で、全部を伝える必要はありません。あくまで、きっかけになればいいと思うんです。入学したばかりの一年生にとっては、とにかく楽しそうなもの。他の学年の人にとっては……特にクラス替えがあった学年では、新しい環境で交流を増やすもの。六年生にとっては、新しく入った一年生と交流を持てるもの。今度の遠足を、そんな風に思える内容にするのは、どうでしょうか?」

 そう言いながら、春来は一番上に大きく見出しを書いた後、どの部分でどんな内容を書けばいいかといったことを簡潔にまとめた。

「一枚で、できる限り伝えようと思ったら、こんな感じになるんじゃないでしょうか?」

 生徒新聞は、掲示板に貼るという都合上、一枚で完結しないといけない。そのことを考慮したうえで、春来はなるべく簡潔にすることを意識した。

「うん、その方がいいと思う!」

「私も賛成だよ」

「確かに、この方がみんなに見てもらえそうだな」

 春来の考えた案は、他の人にも好評だった。

「具体的に、どんなことを書けばいいかは、僕だけだとわからないので、皆さんの意見をもらえませんか?」

「だったら、伝えることも多い、六年生と一年生の部分は、私達六年生で考えようよ。他を五年生のみんなで考えてもらっていい?」

「僕はいいですけど……」

「私も、それでいいです!」

 そうして、その後は六年生と五年生に分かれ、各学年の遠足について、どう書けばみんなが楽しみにするかといったことを考えながら、具体的な文章を書いていった。

「それを伝えたいなら、こう表現した方がいいかな」

 その際、春来はみんなの伝えたいことを整理しつつ、それを伝えるためにはどんな言葉や表現を使えばいいかを考え、都度意見を出した。また、最終的なまとめとして、六年生の人達が作ったものと併せるところでも、同じように意見を出した。

 そうして、ほとんど最初から作り直したような形だったにもかかわらず、今回の生徒新聞は、あっという間に完成した。

「すごく良くなったと思います!」

「これなら、みんな見てくれるな」

「何か、すごく楽しかったよ」

 春来は、自分の意見を多く言ってしまい、それで本当に良かったのだろうかといった、疑問と不安を持ったままだった。ただ、他の人は、みんな嬉しそうな様子だった。

「じゃあ、後はこれをコピーして、掲示板に貼るよ! あ、古いのは、はがしてね」

 それから、職員室でコピー機を借り、生徒新聞を何枚かコピーした後、それぞれ分担しつつ、校内にある複数の掲示板に貼ってあった生徒新聞を、新しいものに変えていった。

「うん、すごく良くなったと思う!」

 貼り替えた際、そんな感想を言う人もいた。実際、春来も掲示板に貼られた生徒新聞を見て、前よりも人の目を引くものになったと感じた。

 それから、春来達は、集会に戻った。

 生徒新聞を作っていたため、もう今日の集会が終わる時間が近付いていた。そんなタイミングで、先生はどこか焦っているような様子だった。

「えっと、話が盛り上がっていて、言えなかったんだけど……今日のうちに委員長と副委員長を決めないといけないんだよね。立候補でも推薦でもいいんだけど、六年生で委員長と副委員長を一人ずつ。五年生からも副委員長を一人、決めてもらっていいかい?」

 先生は、自分の意見を言うのが苦手なようで、ずっと生徒達の様子を見ているだけだった。ただ、今日中に委員長と副委員長を決めないといけないそうで、残されたわずかな時間で決めてほしいとのことだった。

「私、委員長に立候補します」

 そう言ったのは、去年、副委員長を務めたという女子の先輩だった。そのまま、他の立候補者がいなかったため、特に多数決を取ることなく、その先輩が委員長に決まった。

「みんな、ありがとう。じゃあ、六年生の副委員長はどうする?」

 なったばかりの委員長が仕切る形で、そんな質問をしたものの、特に手を上げる人はいなかった。

 そんな状態が少しの間だけ続いた後、男子の先輩が手を上げた。

「誰もいないなら、俺がやるよ。それでいいか?」

「とのことだけど、みんないいかな?」

 これに対して反対する人は誰もいなかったため、六年生の副委員長もこれで決まった。

「後は、五年生の副委員長だけど……」

「はい!」

 五年生の話になった途端、同じクラスの女子が手を上げた。それは立候補と思いきや、違うものだった。

「私は、緋山君に副委員長をやってもらいたいです!」

「……え?」

 不意に話を振られて、春来は何を言われたのか、しばらく理解できなかった。

「推薦ってことだね。確かに、今回の生徒新聞があれだけ良くなったのは、緋山君のおかげだし、やってもらえると私も嬉しいかな」

「俺もいいと思う」

「話もまとめてくれるし、絶対に向いてるよ」

 全員から、副委員長をやってほしいといった意見を言われたものの、そんなことできる訳ないといった考えしか、春来は持っていなかった。ただ、ここまで言われて、断るというのも、何か違う気がした。

 そして、これまで様々な人に言われた言葉や、春翔と一緒に全力で頑張ると約束したこと。そうしたことを理由に、春来は何を選択するか決めた。

「僕でいいなら……挑戦してみます」

 そう言うと、周りから大きな拍手をもらった。それに対して、春来はどんな反応をすればいいかわからず、ただただ困ってしまった。

 そうして、掲示委員会の集会は、予定よりも少し遅れて終わった。そのため、ほとんどの生徒は既に帰り、春来が教室に戻った時にいたのは、春翔と隆だけだった。

「春来、遅かったね」

「そっちは、どんな感じだったんだ?」

 春翔と隆の二人だけでいるのを見て、春来はどこか胸に違和感を覚えたものの、その理由はわからなかった。

「緋山君、すごかったよ! だから、私が推薦して、副委員長になってもらったよ!」

 そうして、戸惑っている春来よりも先に、春来を推薦した女子が嬉しそうに何があったかを伝えた。

「おう、すげえじゃねえか。俺も副委員長になったし、どっちも頑張らねえとな」

 隆も、嬉しそうにそんなことを言った。一方、春翔だけは、浮かない表情だった。ただ、それもそのはずだろうと春来は感じた。

「春来が副委員長なんて……そんなことできるの?」

「うん、僕もそう思うけど、推薦されて……無理だったら、他の人に代わってもらうし……」

 春翔と一緒に全力で頑張るといった約束をしていなかったら、春来は絶対に副委員長になることなく、断っていた。そのことを自覚しているため、春翔の言葉を否定できなかった。

「そんなことない! 緋山君なら、絶対にできる!」

 そんな中、春来を推薦した女子は、強い口調でそう言い切った。それに対して、春翔は不機嫌な様子を見せた。

「私の方が、春来と一緒にいるもん。だから、春来のことは私の方がわかるもん」

「私よりも緋山君のことをわかってるなら、もうわかってるはずだよ? 緋山君はすごいよ」

 急にそんな言い争いが始まり、どうしようかと困っていると、見回りをしていたらしい先生が教室に入ってきた。

「もう下校時間だ。早く帰りなさい」

 そんな風に言われ、何の話もまとまらないまま、春来達は教室を後にした。そして、隆達とは帰り道が違うこともあり、すぐ春翔と二人きりになった。

「春翔の方は、どうだったのかな?」

「うん……まあ、五年生は補佐って感じで、生徒会長や副会長を手伝うのが中心みたいだよ」

「僕はさっき言った通り、副委員長になって……自信はないけど、できるところまでは頑張ってみるよ。春翔と一緒に全力で頑張るって約束したからね」

 春来がそんな風に言ってから少しして、春翔は足を止めた。

「春翔?」

「春来、少しだけ真っ直ぐ立ってもらっていい?」

「え、どうしてかな?」

「いいから」

 春翔に言われるまま、春来はその場で足を止め、真っ直ぐ立った。すると、春翔は春来のすぐ目の前まで歩み寄ってきた。

 春来達は、お互い見つめ合うように相手の目を見た。その際、春翔は少しだけ上目遣いだった。

「春来……ううん、何でもない」

 結局、何をしたかったのか説明しないまま、春翔は歩き出した。ただ、すぐに足を止めると、春来の方へ振り返った。

「春来は、今のままでいいと思うよ。だから、頑張らないで」

「え?」

 何故、春翔がそんな風に言うのか、春来にはわからなかった。

 そして、その後、春来達はお互いに何も言えないまま、家に帰った。

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