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TOD  作者: ナナシノススム
ハーフタイム
163/272

ハーフタイム 28

 次の日、春来は今まで以上に、春翔と一緒にいようと意識するようにした。といっても、家が隣で、学校でも同じクラスのため、何も意識しなくても、ずっと春翔と一緒だった。むしろ、春翔と一緒にいようと意識したことで、いつも春翔と一緒だったということを、改めて認識する形になった。

「あの番組、ひど過ぎるよ!」

 春翔は、番組の内容が事実と違うといったことを強く言っていた。ただ、ペットショップに行ったことがない人の方が多く、春翔の思いは上手く伝わっていないように感じた。そのため、春来は別の形で、ペットショップのことを伝えようと考えた。

「この前、あのペットショップに来てくれたよね? 番組は見たかな?」

 まず、同じクラスにいる、ペットショップに来てくれた人に対して、そんな質問を春来はした。それに対する反応は、番組を見たか見ていないかで変わった。

「うん、見たよ! でも、あの店が悪いみたいに言ってて、何かイラついた!」

「僕もひどいと思ったよ。あの店、すごくいい店だし、あんな悪いことをしている店じゃないよね?」

「うん、絶対にそんなことないよ!」

 番組を見ている人とは、そんな会話をした。そうしていると、周りにいる人も興味を持ち、何があったのかと質問してきた。それに対して、春来は何があったか、なるべく詳しく説明した。

「何か、番組で紹介されたの?」

「うん、テレビで……」

 また、ペットショップに行ったことはあるものの、番組を見ていない人に対しては、どんな紹介だったのかという説明を詳しく話した。これに関しても、周りにいる人が興味を持ってくれたようで、話を聞いてくれた。

「何それ!? あそこ、すごくいい店じゃん!」

 そして、番組を見ていないものの、ペットショップに行ったことがある人の意見というのも、周りに伝えることができた。

 そうしていると、他のクラスでペットショップに行ったことがある人も様々な意見を言うようになり、ペットショップのことが噂になるのと同じか、それ以上の速度で、ペットショップのことで事実と異なる内容がテレビで紹介されたといった噂が学校中に広まっていった。

 しかし、身近なところでは、それでわかってくれる人が大勢いたものの、SNSの方は違った。

 まず、ペットショップへの批判が多くある、いわゆる炎上状態だというのは、一目瞭然だった。さらに、そのことをニュースなどで取り上げられてしまい、ますます炎上していってしまった。

 そうした状況の中、ペットショップには毎日行くようにした。というより、春翔を止めることができず、春来も一緒に行くことになった形だ。

 ペットショップの方は、番組が放送された直後から、ずっと休みになっていた。これは、批判しにくる人が多いことが理由だった。

「春翔ちゃん、春来君、今日も来てくれてありがとう」

 そんな中でも、店長は笑顔で春来達を迎えてくれた。

「春来君の言うことを聞くべきだったね。でも、この子達のため、私は頑張るよ!」

 あんな報道をされても、店長は前向きにそんなことを言っていた。しかし、その表情は疲れ切っているように見えた。

 休んでいる間、店長はほとんど一人で動物達の世話をしている。それだけでなく、批判する電話が数え切れないほど来て、その対応も店長一人でやっていた。

 そのため、春来と春翔は、少しでも店長の助けになれればと、動物達の相手をするようにしていた。ただ、動物達も何か感じているのか、どこか元気がないように見えた。

 また、近所の人や、他の生徒など、心配して来てくれる人達もいた。ただ、それ以上に、批判目的や、ひやかし目的で来る人があまりにも多かった。

「テレビ見てねえのかよ?」

「こんな店に来るなんて、正気かよ?」

「何で、こんなとこに子供がいるんだ?」

「子供まで騙してるのか?」

 そして、そうした人達は、店長だけでなく、春来達を含め、ここに来る人達に対しても意見してきた。そうしたことが何度かあると、自然とここに来る人は少なくなっていき、わずか数日で、春来と春翔しか来なくなってしまった。

 そんな状態で迎えた休日。休日でも、春翔がペットショップへ行きたいと言ったため、春来も一緒に行くことにした。

 そして、そこには、見知らぬ人がいた。

「春翔ちゃんと春来君だよね? お姉ちゃんから聞いてるよ」

 その人は、店長の妹だった。

「心配して来てくれたんだよ」

「そりゃ来るよ。SNSの話もしたかったからさ」

 店長の話だと、SNSは妹がやっているとのことだった。それを踏まえて、春来は伝えたいことがあった。

「SNSの方、少し投稿を止めた方がいいんじゃないかな?」

「何で? ちゃんと事実を伝えるなら、早い方がいいじゃん」

「そうだけど、今は何か投稿しても、すぐに批判のコメントが来ているし、逆効果なんじゃないかな?」

「うん、ホントむかつくよね。この『マキ』とか『アカ』とか『クラゲ』とか、毎回すぐゴチャゴチャ言ってきて、ホント邪魔だよ」

 ペットショップのアカウントから何か投稿するたび、いくつか同じアカウントから批判があることを、春来も把握していた。

「こういうのがあるって知ってたけど、実際にやられると、ホントむかつくよ。匿名だからって好き放題言ってきてさ」

「こういった人達は、何を言っても絶対に批判してくるよ。だから、少し投稿を止めて、この人達が飽きるのを待った方がいいんじゃないかな?」

「そんなの、こっちが負けたみたいじゃん!」

 店長の妹は、どうにかして事実を伝えたいと強く思っているようで、投稿を止める気はないようだった。そういった様子は、どこか春翔と似ている部分もあり、春来はどう言えばいいだろうかと悩んでしまった。

「さっきも言ったけど、春来君は転生者だし、ちゃんと聞いた方がいいんじゃない?」

「お姉ちゃん、現実とアニメは違うから!」

「でも、そういうのがあるって夢見るのはいいでしょ?」

「もういい大人なんだから、いい加減にしてよ!」

 そういったやり取りは、一見するとケンカしているように感じたものの、二人の表情を見て、違うと気付いた。というのも、店長の表情が笑顔で、疲れや悩みを感じさせないものだったからだ。そして、春来は、二人が仲の良い姉妹なのだろうと感じた。

 しかし、そこで電話が鳴り、店長の表情が曇った。

「お姉ちゃん、もう電話に出ない方がいいんじゃない?」

「うん……でも、もしかしたら、この子達を飼いたいって人かもしれないし、出るよ」

 店長が批判の電話を何度も受け続けているのは、その中に動物達のことを思ってくれる人がいると信じているからだ。こんな状況でも、自分より動物達のことを心配する店長を見ていると、体調を崩さないだろうかと心配になった。ただ、そうした心配は、当然ながら妹の方が感じているようで、不安げな表情を見せた。

「お姉ちゃん、昔から動物が好きで、よく捨て犬とか捨て猫を拾ってきては、お母さん達に怒られてたんだよね。それでもめげないで、動物達のために何かできないかって頑張って、それでこの店ができたのに……あんな風に紹介されて、ホントに悔しい」

 店長が電話している隙を狙ったかのように、そんな弱音に近いことを妹は言った。

「私がSNSに投稿するたび、逆効果になってるってわかってる。でも、このまま何もしないで黙ってるのも嫌。春来君は、こういうの詳しいんだよね? どうしたらいいと思う?」

「……ごめん、僕はただの子供だし、どうすればいいかなんてわからないよ」

「そんなことないよ! 春来なら……」

 春翔がフォローするように口を挟んできたものの、すぐ言葉に詰まってしまった。そんな春翔に、春来は笑顔を向けた。

「気を使ってくれて、ありがとう。でも、僕にできることなんて、少ししかないってことはわかっているから、気にしないでよ」

「そうじゃないんだけど……」

 春翔は、何か言いたいことがある様子なのに、その先は何も言わなかった。春来は、何で言ってくれないのだろうかと疑問を持ちつつ、春翔の言葉を待った。

 そうしていると、店長が困った様子でやってきた。

「春来君、少しいい? 何か、春来君と話したいって人が電話してきたんだけど……」

「僕と?」

 春来は意味がわからず、聞き返した。

「やっぱり、変だよね。電話、切っちゃうよ」

「いや、待って! 出てみるよ!」

 電話の相手は、自分がここにいることを知っている。そのうえで、自分と話したいと要求している。そんな異常な事態が起こっていることに、春来は何かを感じて、受けるべきだと判断した。

 とはいえ、電話の相手が誰かわからない以上、恐る恐るといった感じで、春来は電話に出た。

「もしもし?」

「緋山春来君かしら?」

 その声は女性で、電話越しとはいえ、聞き覚えのない声だった。

「うん、そうだけど……?」

「まあ、警戒するわよね。でも、春来君に話すのが早いと思ったのよ。父親が作家で、マスメディアの問題について、小学生とは思えないほどの知識がある。そんな春来君に話すのが、一番だと思ってね」

 相手は、自分のことを詳しく知っている。しかも、そのことをはっきりとした形で示してきた。そうしたことを受け、春来は、ある疑問を持った。

「もしかして、ビーさんの知り合いかな?」

「ビーって誰かしら? そんな人知らないわ」

 相手は、そんな風に即答した。その瞬間、相手がビーを知っているのだろうといった確信を春来は持った。

 ビーという呼び名は、本人が名前を名乗りたくないといった理由で付けたものだ。しかも、アルファベットのBから取っているため、そもそもそれが誰かの呼び名だと認識するのも難しいものだ。

 それにもかかわらず、相手はビーという人物を知らないと即答した。それは、ビーという人物を知りながら、知らないふりをしていると示すものだった。

「私は、最近記者の仕事を始めた新人よ。それで、面白いネタがあったから、その取材をしたいだけよ」

「面白いって、こっちは大変なのに……」

「動物達のことを考えて、必死に頑張っている小さなペットショップを潰すため、マスメディアやSNSを使って、何者かが炎上騒動を起こした。こんな面白いネタ、そうそうないわよ?」

 相手は、マスメディアの報道や、SNSに寄せられた批判について、事実と異なることを認識しているようだった。それどころか、春来よりも深く、事実を知っている雰囲気だった。

「私はただの新人記者で、いいネタを探していたところだったのよ。だから、是非その店の取材をさせてもらえないかしら? すぐ行くから、春来君から店の人を説得してほしいわ」

「え、僕が?」

「それじゃあ、春来君、よろしくね。ああ、私ったら、自分の名前を名乗っていなかったわ。これじゃあ、記者失格ね」

 春来は状況を整理できないまま、完全に相手のペースになっていて、ドンドンと進んでいく話についていくしかなかった。

「私の名前は、篠田灯よ」

「しのだ……あかりさん?」

「篠田でも、灯でも、好きな方で呼んでくれていいわ。それじゃあ、すぐ行くから、それまでに店の人を説得してね」

「あ、待ってよ!」

 そうして止めたにもかかわらず、電話は切れてしまった。

 春来は、少しの間だけ呆然としてしまった後、電話を切った。

「春来、誰だったの?」

「どう言えばいいか、難しいんだけど……」

 そう言いつつ、春来は篠田灯と名乗った女性と、もっと話したいと感じていた。そのため、どう言うべきかは、すぐに決まった。

「この後、篠田灯さんって記者が来るみたいで、詳しいことはよくわからないけど……何か助けになってくれるみたいだよ」

 そんなことしか言えず、これでは何も伝わらないだろうと春来は感じた。しかし、春翔と店長の反応は違った。

「春来がそう言うなら、そうなんだよね!」

「春来君に任せるよ」

 二人は、心から喜んでいるような様子で、そんな風に言った。

 一方、店長の妹だけは違った。

「いや、怪しくない?」

「うん、僕も怪しいとは思うんだけど……大丈夫だと思う」

 結局、上手く説明できなかったものの、今は何もできない最悪の状況だ。

「まあ、話を聞くだけならいっか」

 そうしたこともあり、店長の妹も最終的に納得してくれた。

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